「これは…紫よ」
「ええ、なにかおかしいですわ…」
シュネックと紫が、様子がおかしいレイムを見て警戒する。
レイムは弱ったように項垂れ、その全身に走っていたヒビ割れがさらに大きく広がっていく。
「やった!レイムが砕けるぞ!」
妖怪たちはそれをレイムの最期だと悟り、トドメを刺そうと一斉に接近してゆく。その時、レイムの目がギラリと光った。
次の瞬間、レイムの体に入ったヒビの隙間から青紫色の閃光が漏れ出したかと思えば、レイムの体は内側から弾けるようにして粉々に爆散した。
その際に飛散した強力な邪気の波動が近くに居た妖怪たちを跡形もなく消し飛ばし、結界の外側に居たがその気を吸い込んでしまった者たちも喉を押さえて苦しみ出す。
「ぐえ…!」
「これはまさか…『毒気』か!」
レイムは自らの体を毒素に変化させ、それを一気に放って圧縮結界の中を充満させた。妖怪にとっても猛毒であるそれに誰も近付くことができず、せっかくレイムを閉じ込めた結界には誰も踏み入れなくなってしまう。
「結界内に残っていた者たちは助からなかったか」
シュネックが無念そうにつぶやいた。
「紫様、大変です…シロナとスカーが中に取り残されたままです!」
八雲藍が現れ、紫にそう言った。
「何ですって!?」
一方、圧縮結界の中。充満する毒気の中で、シロナとスカーは前を向いて静かにたたずんでいた。
目の前の濃い毒気の中で、巨大な獣のような影が蠢いている。その一部が両目のようにカッと見開き、ふたりを睨みつけた。
「くくく、やはり無事か…だがそうでなくては面白くないわ」
レイムの声だが、今までとどこか様子が違う。前までとは比べ物にならない程の吹きつけるような威圧感と不吉な気が込められているように聞こえた。
「スカー、大丈夫?」
「もちろん。それより、逆にパワーが満ち満ちてきやがる…これが俗に言う『タイマン』ってやつだからな!」
「私もよ。さァ、レイムをぶっ倒してやりましょう!」
それに対し、周りに誰もおらず、正面から正々堂々ぶつかり合えるこの状況になったことでシロナとスカーの気合はかつてないほどに満ち、まさに「ふたりでひとりの戦士」となった彼女らの戦闘力はただ足しただけではなく、その何倍にも膨れ上がっているかのようだった。
しかし、毒気の中から姿を現したレイムは、異常な変貌を遂げていた。鮫のように鼻先の尖ったシャープな形状の頭部は金色の毛に覆われて、その首から下は巨大な四足獣の如き容貌で、青白く発光する体毛に覆われている。その身体は数十メートルに及ぶほど巨大で、その腰から伸びる9本の尾も体長の倍ほどの長さとなっている。
そして何よりもふたりを驚かせたのは、どす黒い感情が滲み出たかのような毒々しい”目”である。これはレイムの頃と変わらぬが、体の巨大化に伴って眼も大きくなっているためにより一層不気味さを引き立てている。
「お前たちは思っているな…大きくなった、ならば的が大きくなりスピードも落ちているだろう、とな。くくく…私はお前たちを直接滅殺するためにこの真の姿へと”戻った”のだ。私の全ての力を見せた上でね…」
レイムは巨大な体をくねらせ、9本の霊尾を広げて見せる。そのうちの5本は破壊されてボロボロになっているが、残る3本は未だに健在だった。さらにその中の2本は見る見るうちに形を変えていく。
「私の尾の一本はサクヤ、二本目はサナエ、三本目はイナバ、四本目はヨウムの魂を捕らえて使役し、五本目はマリサやハーレクインを支配し、六本目はハクレイどもの塊だった。そして見るがいい…これが七本目と八本目だ!!」
レイムが掲げた尾の一本は青く透き通ったダイヤモンドのような結晶で構成された尾に変化し、もう一本は稲妻のようなオーラを纏う尾となる。
スカーは咄嗟に特大の雷を放ってレイムを狙う。しかしレイムは盾のように稲妻の尾を掲げると、そこに当たった雷は打ち消されてしまう。
「やっぱあの尻尾には電気は効かないのか…!」
シロナも超サイヤ人の状態で拳を硬質化させ、それを思いきり振り抜いてパンチを浴びせる。だが結晶の尾はさらに強度が高く、全くビクともせずに受け止められてしまった。
「く、くそぉ…!」
次の瞬間、レイムは結晶の尾を振るい、シロナの真正面から思い切り叩きつけた。今までのレイムとはまるで別物のような威力を誇る一撃を受けたシロナは全身から血を流しながら地面へ向けてぶっ飛ばされた。
「シロナァ!!」
「お前もだ!」
シロナに心配の声をかけるスカーだが、それに気を取られていたうちに既に背後にはレイムの操る稲妻の尾が迫っていた。
「く…毒気が邪魔して、中の様子を探ることもできん…!」
シュネックはシロナとスカーの無事を確かめるために気を探るも、毒気の影響でそれができないでいた。だが彼らの戦いの行く末を黙って見ているわけにもいかず、結界の外に溢れかえるハクレイたちを何とかしなければならなかった。
「かあっ!!」
シュネックは目から光線を放ち、腕を振るって衝撃波を巻き起こしてハクレイを倒してゆく。しかし、その数の前には押され、攻撃をかいくぐって接近してきたハクレイに肩を噛みつかれ、体勢を崩す。
「なんの!」
それを振り払いながら果敢に攻撃を放つが、どうも老いた肉体では体力が低下しやすく、見る見るうちに消耗してハクレイたちの格好の的とされてしまう。
「万事休すか…」
だが、シュネックは死を受け入れる気でいた。遠い昔、故郷ナメック星よりこの幻想郷へ流れ着き、この地に惚れ、賢者として長年生きてきた。自分も老いた…これ以上老人は出しゃばらず、静かに人生を終えて若人に未来を託すべきだと。
シュネックは目の前に迫るハクレイの大口を見て、そっと目を閉じた。
しかし…
「な…!」
自分に群がろうとしていたハクレイたちが一匹残らず消し飛ばされる。上を見上げると、そこには忘れるはずもない、かつての友らしき者の姿が見えた。
自分と共に幻想郷の賢者のひとりであったガーリックの魂が、あの世から現れてシュネックを救ったのだ。
「我が…友よ…」
ガーリックは厳しい顔でシュネックを見やる。そして、未だ健在な敵の姿を指差すと、その姿はフッと消えてしまう。
「そうか…この地の最期を見届けるまで、私は死ぬわけにはいかないのだな」
シュネックは闘志を新たにハクレイの殲滅へと向かう。
「聖白蓮!こっちが手薄そうだったんで、ちと仲間に入れとくれよ」
「星熊勇儀さん!」
ハクレイと戦い続ける聖白蓮の元へ、勇儀がやってくる。勇儀は聖が相手取っていたハクレイたちを、自慢の怪力に物を言わせて持ち上げた巨大な岩盤で一気に叩き潰してゆく。
「なーんか、昔にもこうやって一緒に戦った事があったよな?」
「ええ…確か、あれは聖輦船の上で月の客と戦ったときでしたよね」
互いに背中を合わせる両者の傍に、さらに無数のハクレイたちがやってくる。
「どうだい、あのカカロットの娘が、世界を救えるほど強くなって戻って来たときたもんだ。あたしにとっちゃ孫みたいなもんだからな」
「ふふふ、そうですね…とても誇らしい」
ふたりは襲い来るハクレイを殴り倒し、次々にねじ伏せていく。いずれ自分たちも黄泉の国へ行ったとき、カカロット達に恥ずかしくないように、と…
「ぐはっ…!」
稲妻の尾の一撃を喰らったスカーはシロナと同じく地面まで吹っ飛ばされ、シロナに覆いかぶさるようにして倒れこんだ。そのすぐそばにレイムは降り立ち、牙の並んだ口を歪ませる。
「くだらぬ、弱い!弱すぎてくだらないわ!お前たちは本当にその程度の力で私に勝とうと思っているのか?いいや、思ってはいないでしょう、何故なら弱いからな!」
そう吐き捨てるレイム。
真の姿となったレイムの力はその巨体に見合ったもの以上に強大で、ふたりで戦う事により実力以上の戦闘力を発揮しているはずのシロナとスカーを容易く上回り、結晶と稲妻の霊尾によって成す術なく追い詰められてしまった。
「自分たちでも分かっているはずだろう…シロナ、お前が守ろうとした幻想郷はあと数十分の内に消えてなくなる!お前たちは私を倒すこともできず、守りたかった幻想郷も手放し、何も成せぬまま終わる!それはお前たちが弱者だからに他ならない!!そうと理解しながらも私に立ち向かうということは、弱い自分を認めたくないという即ちただの自己満足で戦っているにすぎないのだ。そんな哀れなお前たちに、この私が滅びの夜をもたらしてやるのだ」
「なんだと…オイ…」
その言葉に反抗しようと、スカーが立ち上がる。だが、遅れて起き上がったシロナがスカーを制する。
「自己満足か…あなたの言う通りかもしれない…」
シロナは下を向いて静かに呟く。その全身には再生が追い付かない程のダメージを受け、もうボロボロだった。しかし、その目は輝きを失ってはおらず、希望をたたえた目でレイムを睨む。
「でも…私が戦えば、他の人の分も戦えるなら…私が泣けば、他の人も涙も一緒に泣いてあげられるなら…私は戦う!!いくらでも戦ってやる!!」
「ふ…負けと分かって、まだ戦うか…」
「いいや、勝つよ!だって、あなたが戦っているのは私とスカーだけじゃないから…あなたが相手にしているのは、この幻想郷そのものだからよ!」