もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第315話 「嵐の中に燃える命」

真の姿を開放し、体が巨大な獣のように変貌するとともに、これまでとは比べ物にならない戦闘力を発揮するレイムに全く歯が立たないシロナとスカー。しかし、シロナは豪語した。今、レイムが相手にしているのはシロナとスカーだけではなく、この幻想郷そのものであると。今までレイムが蹂躙し、滅ぼしてきた数多の幻想郷の想いを、この幻想郷は含んでいる、と。

 

「私が相手にしているのは幻想郷そのもの…だと?馬鹿め、もうすぐ消えゆくだけの儚き夢幻が、何の支えになるというのか」

 

しかし、仮にそうだとしても、レイムに勝つことはできないのが事実。レイムはその巨体通りの、いや…それ以上のパワーとスピードを併せ持った怪物のような戦闘能力を発揮している。

 

「そうだぜシロナ…ヤツには気合だけじゃどうやっても勝てねぇよ…そうだ、オイお前ら!」

 

スカーはそう言いかけたところで、自分の右腕となっている護衛軍たちに声をかける。

 

「お前ら、さっき言ってたよな…自分らを戦いに連れて行けば、私は強くなるって!じゃあ今すぐ強くしろよ、今すぐに!」

 

しかし、護衛軍たちはしばらく黙った後にゆっくりと返答した。

 

「スカー様、貴女はもう十分にお強い」

 

「あぁ!?それだけかよ!」

 

「自覚していらっしゃらないのですか?今、貴女の一部となることで貴女の事を理解できた。貴女にはある種の呪いがかけられています」

 

「呪い、だと?お前ら何を言って…」

 

「貴女を造った人間は、貴女に人間らしい振る舞いと心を持ってほしいと願った。貴女は人間らしい心を理解し、それを受け入れていくほどに力が増大していったのです」

 

「今、貴女はシロナと共に幻想郷を、そして世界を守ることを選んだ。その結果、完全体と化した貴女に、我々が手を貸せるほどの弱さはありません」

 

心当たりはあった。初めてケミカルロマンスと戦った際、彼にシロナを馬鹿にされたときに芽生えた怒りは、スカーの能力を増幅させた。クウザンとの戦いの時もそうだった。思えば、自分が今までに唐突なパワーアップをしてきた時、その際には感情の昂ぶりが付いて回っていた。

 

「人間らしい心…?」

 

しかし、自覚のないスカーは護衛軍らの言う事がイマイチよくわかっていない。見かねた護衛軍らは口元にわずかな笑みを浮かべると、スカーの意志に反して勝手に動き、3つの肉塊に分裂してしまう。

 

「何をする気だよお前ら!」

 

「スカール様に仕えるべく生み出された我ら…しかし、スカー様がスカール様とは違う存在であると気付いてからも、貴女を慕う気持ちは変わらなかった」

 

「私たちは自由な心を手にする事が出来ました。それが赴くままに、貴女の力となって砕けて見せましょう」

 

「もとより粉々になっていた我々は長く持ちませぬ…それでもここまで共に連れてきていただいたこと、感謝しまする」

 

それぞれが光り輝く3つの霊魂へ変化し、鋭くとがった槍のような形状になって真っすぐにレイムへ方向を合わせる。その時、そのうちのひとつがシロナの方を見て、そっと囁きかけてきたような気がした。

 

「シロナ、スカー様と共にこの戦いに勝つんだよ」

 

「サニー…!」

 

シロナがそう呟いた瞬間、三本の槍は一斉に前へ飛び出した。まるで彗星のような尾を引きながら、凄まじいスピードでレイムへと向かっていく。

 

「紛いモノどもが、人のいう地獄とやらに堕ちるがいい!」

 

レイムは笑いながらそう言い放ち、稲妻の尾を振るって護衛軍らを消し飛ばそうと攻撃を仕掛ける。しかし、護衛軍らはその一撃を寸でのところですり抜けるように躱すと、方向を急転換してその尾に激突し貫くようにして切断してしまう。

レイムは目を見開き、顔を歪める。千切られた巨大な稲妻の尾は下に落下し、その途中で燃えるようにして消えていった。

 

「ならばレイム、私たちはその地獄とやらでアナタが来るのを待ってるわ!」

 

「高笑いしながらねェ!!」

 

「キサマらァァァ!!」

 

護衛軍たちは尻尾を貫いた時の勢いを殺さず、そのままレイムの脇腹へ突き刺さった。レイムは激痛に思わず顔をしかめる。

 

「ぐっ…!コイツら、尾を破壊して私を…!」

 

護衛軍たちはレイムの体内へめり込んだ状態で爆発を起こし、そこで完全に消滅してしまう。その最期は自らの使命から解放されたひとつの生命としての躍動に溢れていた。

レイムは紛いものと嘲笑った護衛軍たちが発揮して見せた決死の気概に圧倒されるが、痛みに怯む暇も恨み言を発する余裕もなかった。なぜなら、その時には既にその瞳の中に、自分へ飛びかかってくるシロナとスカーの姿が映っていたからだ。

スカーの電撃を伴う打撃がレイムの額に直撃し、すかさずレイムもエネルギー波を口から放って応戦する。だがシロナが全身からオーラを吹き出しながら突進しレイムの顎にぶつかってエネルギー波の軌道を逸らし、そのままレイムの鼻先を抱きつくように掴む。

 

「うおおおおらああああああああ!!」

 

そして額に血管の筋が浮かぶほどに力み、レイムの巨大な体をぶん回して投げ飛ばした。成すすべなくぶっ飛ぶレイムだが、空中で静止すると同時にシロナのもとへ戻り、その腕を振るって叩き落とす。

だが、その直後にスカーの落とした落雷がレイムに直撃する。レイムは残された結晶の尾を操り、シロナとスカーと真正面からぶつかり合った。

 

 

 

──後戸の国

 

「ぬう、レイムの僕共がついにここまで来たか!」

 

全ての人間たちが避難していた後戸の国にも、ついにレイムの魔の手が目と鼻の先まで迫っていた。レイムの生み出した妖獣のハクレイたちは無理に後戸の国に頭を突っ込み、虫のようにわらわらと入り込んでくる。

それを迎撃する隠岐奈やその背後の里乃や舞たちであったが、それでも手が足りずにそこそこな数のハクレイを奥へ侵入させてしまう。

 

「くっ、これ以上進ませるか!」

 

それを食い止めようと真っ先に立ちあがったのは、人里の寺子屋の教師でもある上白沢慧音であった。慧音は幻想郷が崩壊を始めた影響で発生した様々な現象の歪みを利用し、満月の夜と同等の姿と力を引き出していた。

向かってくるハクレイに頭突きを繰り出して吹っ飛ばし、次々となぎ倒してゆく。しかし、それでも複数を相手取るには慧音ひとりの実力では難しく、一発の衝撃波を受けただけで背中に深刻なダメージを負ってしまう。

 

「ぐは…!」

 

前のめりに倒れ、膝と手を地面について倒れ込む慧音。

 

「シャアアアアアア!!」

 

そこへ牙を剥いて鋭い爪の生えた腕を振り下ろそうとするハクレイが迫る。

 

ポロロン…

 

その時、どこかでピアノの鍵盤を弾く音が聞こえた気がした。いや、気のせいではない…それに、この音は聞いたことがある。

そうだ、これは…

そう思った瞬間、目の前のハクレイたちが何かに吹っ飛ばされ、蹴散らされる。

 

「…ザーボン…!」

 

上を見上げた慧音が見たものは、蹴りを放った体勢のザーボンだった。見間違いではない…あの時、自分や生徒の子供たちを守るために戦い、そして命を落としたザーボンがまたも助けてくれた。

 

 

 

「もう、アナタたちにやる飯も薬もないのよ!」

 

後戸の国の中でも、慧音が居た場所から離れた地点。そこには既に別ルートから侵入したハクレイたちが大挙して押し寄せていた。攻撃によって怪我を負った人間たちも多くおり、ここが人間たちにとっての最終防衛線といっても過言ではなかった。

そこを守るのは、永琳、輝夜、史奈をはじめとした永遠亭の面々だった。それでも、彼女らにも限界が近づいていた。

 

「妹紅ちゃん、頑張って!」

 

「ああ!」

 

史奈の体から姿を現した妹紅が果敢にハクレイへ殴りかかる。

 

「あ…お姉ちゃんが!!」

 

だが、そこで史奈が声を上げた。視線の先では、体勢を崩した輝夜がハクレイの爪による一撃を受けようとしていた。

妹紅もそれに気付き、咄嗟にそこへ向かっていく。妹紅は輝夜に迫っていたハクレイを蹴り飛ばす。

 

「妹紅…」

 

しかし次の瞬間、わっと押し寄せたハクレイの一団が一斉に妹紅に噛みついたり爪を突き立てたりして攻撃を加える。妹紅の体からは血が流れ、それに連動して史奈もダメージを受ける。

 

「くっ…!」

 

「妹紅、あなた…死なない私を庇って、そんなことしたら史奈が死んじゃうじゃない!今のあなたは完全な不死身とは違うでしょう…!!」

 

妹紅に庇われた輝夜がそう言った。

 

「うるさいよ輝夜…私は史奈の指示に従っただけだ。しかし…敵共はまるで作戦でも練ってるみたいに正確に動いてきやがるな」

 

ハクレイたちは、史奈たちを個々に引き離すように立ち回り、それでもなお他の者を助けようと大きく動いた者を集中的に狙ってくる。しかも永琳と輝夜は不死身であることを相手も理解してきており、そうではない妹紅と史奈、鈴仙などを先に沈めようとしていた。

 

「ちょっとヤバイかもな」

 

妹紅は冷や汗を流しながら史奈の方を見やる。自分は史奈の精神の具現であり、その生命は彼女に依存しており、史奈が戦闘不能になれば自分も戦えなくなってしまう。

 

キン…

 

しかしその時、何かの一閃が周囲一帯のハクレイたちを一網打尽にした。

 

「カグヤ・モトナルヒメ様ともあろうお方が、みっともないですよ」

 

「依姫!?」

 

そこに現れたのは、綿月依姫だった。腕に作った気の剣でハクレイたちを斬り伏せてゆく。

 

「八意様、あの時力になれなかった分、今こそお力添えしますよ」

 

「あなたたち…ありがとう…」

 

さらに依姫の姉である豊姫や、月の賢者のひとりである稀神サグメも加わる。永琳たちが気付いたころには援軍の活躍により、後戸の国に侵入した全てのハクレイは駆逐されていた。

 

 

 

 

「けあああああッ!!」

 

レイムは口から衝撃波を撃ち出し、シロナとスカーの動きを硬直させる。その隙に素早く接近し、前脚でふたりを掴むとそのまま分厚い氷の張った地面へ叩きつける。そして、すかさず追撃として結晶の尾を鞭のように振るって叩きつける。氷漬けの大地が砕け、地割れが遥か地平線の先まで広がっていくほどの威力が込められていた。

 

「フッ!!」

 

しかし、シロナとスカーはふたりで尾の一撃を受け止めており、頭上の氷塊を粉々に吹き飛ばして一瞬にして霊尾の下から抜け出す。口から無数のエネルギー弾を放ってそれを撃ち落とそうとするレイムだが、ふたりはそれを躱しながらレイムへ向かっていき、シロナはレイムの首元へ拳をめり込ませ、スカーはレイムの背中にスカールの左腕を槍のように突き刺し、それぞれ一撃を加えた。

 

「ぐ…あ…!」

 

苦しむ素振りを見せるレイムだが、すぐに体をよじってふたりを跳ね除ける。

シロナは両腕の拳に魔力を集中させ、硬質化の魔法を発動させ、集中させる。分厚い結晶の板で覆われた拳をシロナは振りかぶり、レイムに向かっていくと同時に鋭いパンチの連打を繰り出す。

レイムはそれを見たとたん、すぐさま身を翻して距離を取り、シロナの攻撃から避ける。シロナの拳よりも高硬度の結晶で構成されているはずの結晶の尾も使わず、ただシロナから離れたのだ。

そのレイムの行動に違和感を覚えたシロナとスカーはそのままレイムとの距離を置き、しばらくの間両者に膠着状態が訪れる。

 

「…わかった。この戦い…」

 

「ああ、もらったな」

 

シロナとスカーは突然そう呟いた。

果たして、この決戦の行方は…!?

 

 

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