もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第316話 「生命ある者へ」

「何がわかったというのだ」

 

レイムが苛立ちながらそう返す。

 

「レイム…あなたはやっぱり、私の事を怖がってるのよ」

 

「ほう!面白い事を言うな。しかし、それはお前の自意識過剰に過ぎない…私は一度、お前たちに勝利しているのだからな」

 

シロナは、永遠亭の近くでレイムと初めて戦った時、完璧に敗北し、普通なら確実に死亡するほどの攻撃を受けてしまった事を思い出す。スカーも同様に、幻想郷の空でレイムに挑むも、首から下を吹き飛ばされてしまった事を思い浮かべていた。

 

「確かに…でも、あの時の私は怒りと憎しみに我を忘れていたから…。今は私もスカーも驚くほど冷静よ。それで、私の中にいる人たちが教えてくれる…敵の動きをよく見ろ、敵の目線はどこにある、ってね。あなたの身ごなしは、私が拳に結晶を纏わせた時…それから遠ざかろうとする。あなたの目線は…いつも私の拳にあるでしょ!」

 

シロナは硬質化を集中させて板のような分厚い結晶を纏った拳を掲げて見せる。そのとたん、レイムの体がわずかに後ろへ下がったように見えたが…

 

「…たわけが、それだけの事で…」

 

だが、シロナはその事を否定しようとするレイムの言葉を途中で遮る。

 

「じゃあ、なんであなたの尻尾の一本が、私が使うのと同じ結晶で出来てるのよ!!それこそ、私の結晶が強力だってことを認めてる証じゃないの!?」

 

そう言われたレイムがたじろいだのを確認したスカーがさらに畳みかける。

 

「ははははは!違いねぇが、どうもソイツがお前に対して抱えてるのは恐怖だけじゃあねぇみたいだぜ!」

 

レイムはスカーを睨みつけている。

 

「まあ、でもコイツの根源はもっと深いところにあるんだがな。なぁレイム…お前は何でそういつも”見上げた目”をしてやがるんだよ?確かにお前は強い、最強だ!認めるしかねぇよ。でも、だったらよ…何故見下さないんだ?頂点に立つ者ってのは、そうやって下っ端を見下すもんだろ?それが、お前はずっと下から睨め上げてる」

 

【挿絵表示】

 

確かに、レイムの目つきは常に上を見上げている。自分が相手よりも高い位置にいたとしても、顎を引いて顔を傾け、頑なに相手を見下さない。

 

「スカー、それって…」

 

シロナにも心当たりがあるようだ。

 

「レイムの目はな、嫉妬の目だ!シロナのことが憎くて憎くてどうしようもない…いいや、それよりも…シロナが引き連れてくる全ての輝く存在!それが何よりも羨ましくて憎くて、そして…恐ろしいんだろォ?レイム!!」

 

己の心情を少しの狂いもなく分析され、看破されたレイムはふたりを見つめたまま何も言わない。が、それでもその全身からはどす黒い煙のようなオーラがふつふつと湧き上がっていた。

 

「その通り…その通りだァァァ!!」

 

邪悪な笑みを浮かべてそう言うレイムだが、直後にその表情は最大の憎しみをたたえたものに歪んでいく。

 

「私は憎む!!黄金の輝きを放つ者を!」

 

レイムは破壊されたものも含めた9本の尾を滅茶苦茶に振り回してふたりを攻撃する。尾の一撃を受け止めるシロナだが、すぐに間髪入れず襲い掛かる複数の尾の攻撃を捌き切れずに全身を殴打され、内臓へ届いたダメージによって口から血反吐を吐き出す。

 

「他者の愛を受けた者を!」

 

さらにスカーの電撃をものともせずに尾で殴打し、さらに結晶の尾の先端で刺突する。吹っ飛ぶスカーを尾で固定し、さらに猛攻を加える。

 

「全ての生命ある者を!!」

 

 

…何故、私は…闇に生まれ落ちた!?

 

 

私は博麗霊夢のクローン体をベースとして、幾多もの幻想郷の戦士や妖怪の細胞を組み込まれることで誕生した。だが生まれる前に何度も死にそうになり…そのたびに必死に生にしがみついて生き長らえた。

生まれた瞬間から歪だったこの私…それでも、私の元となった人間に会えば、私が生まれた理由が少しでもわかると思った。しかし、カカロットというサイヤ人に癒えぬ恐怖を与えられ、博麗霊夢には消えぬ憎しみを植え付けられた。

その時に私は気付いた…私はこの世に生まれるべきではなかったのだ、と。いやいや、それでも…他の世界ならばどうだ、並行世界に住まう者らであれば、私を受け入れてくれるのではないか。

 

…キレイダナァ。ナンデワタシハアアジャナイ…

 

ナンデワタシハ、ニゴッテイル…

 

しかし気が付けば、私の体は殺してきた者らの血に染まっていた。

…いや、存在だけは知っているぞ…シロナ。他のどの並行世界にもお前は存在しなかったが、元の時空の幻想郷に、お前はいるのだろう。博麗霊夢から生まれ、サイヤ人の遺伝子も持っているお前。博麗霊夢のクローンにサイヤ人の細胞を加えられた私。そう、お前と私は親子であり姉妹…何も違わない、同じなんだよ。

 

でも…

 

 

オマエトワタシ、オナジナノニナンデチガウ…?

 

 

 

 

 

「があああ!!」

 

スカーは自分に巻きついた尻尾を強引に引きちぎって切断する。

 

「スカールっていう人造人間がいたよ…!ソイツは自分の手下が人間を殺してしまった事を悔やんで、最後には自分で死を選んだ!しかも、人間の憎しみをさんざん煽って利用して、壮大な自殺と復讐をさせようとした…頼んでもねぇのにな!」

 

(スカール…そうだったんだ…)

 

シロナはこの時初めて、記憶兵器として追いかけ続けてきたスカールの末路を知った。

 

「つまりだな、お前がシロナを憎むのァ勝手だがそれに巻き込まれる何の関係もなかった連中からしたら、ただの迷惑でしかねぇんだよ…!」

 

「だまれぇぇぇぇ!!」

 

しかし怒り狂ったレイムはスカーの言う事などどうでもいいというように叫び声で遮って、結晶の尾で強力な一撃を繰り出した。

だが、結晶の尾はシロナ達に到達するまでに何らかの攻撃を受けてひび割れ、そのまま砕けた。

 

「何ィ!?」

 

「ほーら、来たぜ…お前が怖がってる、シロナの不思議な輝きの賜物がよ!!」

 

幻のように現れたのは、斧、錐、鋸、カッターナイフ。シロナの使うものではない。それらが結晶の尾を粉々に砕いて破壊したのだ。シロナは忘れもしない。これらの武器を記憶兵器として操り、自分に託して死んでいった仲間たちを。

 

「ヒロイシ、ビーデル、アリーズ、バルバルス…あの時はごめん…!私、本物のスカールを倒せなくて…!」

 

──勝つんだ、シロナ君

 

──負けたら承知しないわよ

 

──貴女の時間は貴女の物です、シロナ

 

──さぁ、やっちまいなよシロナちゃん

 

だが、彼らは決してシロナを責めることなく、その肩に手を置いて励ましの言葉を贈る。

 

「何だ…何だというのだ…!死者の亡霊如きが…!」

 

「まだまだ終わらねぇよ」

 

スカーはレイムに畳みかける。

シロナへ攻撃を仕掛けようとするレイムだが、背中にさらに強い衝撃を受けて動きを止める。シロナの背後には、さらに4人分の新たな幻が舞い降りていた。

 

「あ、ああ…みんな…」

 

──敵に惑わされるな…正義は君に味方している。

 

「須藤さん…」

 

人里で警官を務めており、シロナと共に凶悪犯を追った。

 

──お前の人生は、まだ始まったばかりだぜ…。

 

「キヨヒロ…」

 

復讐に駆られ多くの人間を不幸に陥れたが、シロナと一緒に幻想郷の危機を救った。

 

──心を閉ざした奴は暴かれたとき、脆いわ。

 

「パチュリー…」

 

シロナを自分の子供のようにかわいがり、色んなことを教え、学ばせてくれた。

そして最後に…

 

──シロナ、あの時はろくに別れの挨拶もできないで悪かったな、それでも…私はお前と暮らせて幸せだったよ。言うのが、少し遅かったがな…。

 

「魔理沙…!」

 

シロナと縁の深い八人は薄くなって消えてしまうが、それでも最後までシロナが勝つと信じ、激励の言葉を贈った。

シロナはその言葉の一言一句を噛み締め、感動であふれる涙がこぼれないように上を向く。そして、怪物のようなレイムを相手にするには清々しすぎるほどの笑顔で向き合う。

 

「もう大丈夫。さぁレイム、来なさい!」

 

「キエエェェェェエエヤァァアアアァァアァアア!!!!」

 

レイムはこの世のものとは思えない悍ましい悲鳴を響かせ、目をひび割れたように充血させて怒り狂い、シロナとスカーに飛びかかる。

シロナはレイムの繰り出した巨大な腕による攻撃をかわし、顔面を蹴りつける。よろめくレイムは尾を縦横無尽に振り回してシロナを狙う。

 

(ここに来るまで色んなことがあったけど…今の私は少しはイカしてるんじゃない?シロナ!)

 

シロナは自分に激励の言葉をかける。

一方、スカーもレイムが吐き出す火炎に稲妻をぶつけて受け止めながら、左手に持ったスカールの左腕でレイムの腹を殴り抜ける。

 

(私は…この幻想郷に来て何か変わったのか?変わったような気もするし、変わらないような気もする。だがそんなことはどうでもいい…私はスカーだ!)

 

…わかるぞ、みんなが戦ってるのが!今さらこんな奴に…負けるもんか!

 

 

 

 

「天龍、大丈夫ですか!?」

 

美鈴は目前のハクレイを一掃しながら、少し離れた場所で戦う天龍に声をかけた。天龍は順調にハクレイを倒しているように見えるが、その動きはぎこちなく、合間合間に細かなダメージを受け続けているように見えた。

 

「いいや…さっきのレイムとの戦いのダメージもろくに回復しないままじゃ無理があったな…」

 

血を吐き出し、胸を押さえる。天龍が弱っていることに気付いた美鈴は、急いで彼の元へ駆けつけその周囲のハクレイへエネルギー弾をぶつけて消し飛ばし、天龍を抱えて離れた場所まで退避する。

 

「くっ…情けない…」

 

「もう、無理はしない方がいいですよ」

 

天龍は美鈴にかけられた言葉に対して反論するかのように起き上がろうとするが、やはりレイムとの戦闘で受けたダメージが限界に達しており、もうその気力は残されていなかった。

 

「…ふふ…自分を極限まで追い込めば未知の力が発揮できるかもしれないと思っていたが、こんな限界まで戦っても…やはり俺たちは霊夢やカカロットと同じ境地に達することはできなかったな…」

 

「そうですね…やっぱり、今になって改めてあのふたりの偉大さを痛感しますよ」

 

そう話している間にも、ふたりを脅威とみなしたハクレイたちが大挙して押し寄せてくる。美鈴も少なからず消耗しており、天龍を守りながらあの数のハクレイを殲滅するのは難しいだろう。

 

「ならば、あのふたりが驚くほどの土産話を持っていってやるか」

 

「ええ、私もそうします」

 

天龍と美鈴は気力を奮い起こし、ハクレイの大群に突撃し最後の大勝負に買って出る。正直、どこまで戦えるか分からない。それでも、誰にも恥じない戦いを…

 

ヒュン… ドン!!

 

「え…!?」

 

しかしその瞬間、どこからか飛んできたエネルギー弾がハクレイたちに命中し、炸裂する。その場にいたハクレイたちの一団が消し去り、敵の大群に穴が空いたように見えた。ふたりが驚いている間にも無数の攻撃がハクレイたちを襲い、まさに破壊という言葉が意味する通りに敵の群れが崩されていく。

 

「まさか…ダイーズさん!?」

 

現れていたのは、かつて共にナメック星での戦いへ向かったターレスの一味であるクラッシャー軍団だった。ダイーズ、アモンド、カカオ、レズン、ラカセイらの魂はふたりに迫るハクレイたちの大群を次々と消し去っていく。

彼らの姿が消える頃には、既に他の場所においてもハクレイたちは全て倒されていたようだった。

 

 

 

「雑魚共が…ようやく消えたか」

 

静まり返った博麗神社の境内に、何者かのため息交じりの声が響く。

 

「全く、あの妖怪共…結界を縮めてしまったら敵の分身共が外の世界まであふれ出してしまう事に気付きもしないとは。いつも俺は…バカの尻拭いだ…」

 

人知れず決戦に参加していたウスターは、周囲に海のように溢れかえり山のように積み重なるハクレイたちの死骸の上に座り込んでいた。

しかし、その胸にはハクレイの尻尾が何本も突き刺さっており、全身から血を流していた。

 

「まったく、いつから俺は…こんなお人好しになってしまったのだろうな」

 

ウスターはそう言いながら、在りし日の戦いの日々を振り返る。幻想郷一武道会、ガーリック、月の客、そしてフリーザ軍との決戦。

それらを思い返したあと、今度は遠くで繰り広げられるシロナとレイムの戦いの方を見やる。

 

「シロナ…あの時お前には話さなかったが…面白い戦いがいろいろあったんだ。なぁ、カカロットよ、霊夢よ…面白かったよなぁ…?」

 

 

 

まだ、戦いは終わっていない。

 




リメイク前のこの話では、ウスターは誰に気づかれる事なく力尽きたことにしていましたが、今作では後の章の都合を考えて生かしておく事にしました。
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