もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第317話 「果てしなき闇の彼方に」

シロナとスカー、そしてレイムは互いにぶつかり合い、その反動で後ろへ下がる。

両者の体からは互いに放った炎や電撃、エネルギー波を喰らったダメージによる煙が上がっている。スカーの身体を構成する青い電気エネルギーもところどころ綻んでいるかのように歪んでおり、シロナも回復が追い付かない程のダメージを全身に受けていた。しかしそれはレイムも同様で、9本のうち8本の尾がボロボロに破られ、その全身にも深いヒビが走っていた。

互いに満身創痍の状態で睨みあい、膠着状態が続く。

 

「よくぞ…よくぞこの私をここまで追い詰めた…!」

 

しかし、それを破ったのはレイムだった。苦し気に血反吐を吐きながらも、その目は憎々しげにふたりを捕らえて離さない。

 

「私が、シロナ…お前の事を恐れているのも、今は認めよう。以前にお前の父親に追われたときから、私は忌々しい恐怖に囚われていたようだ。だが…それがどうした…?」

 

レイムは両手の血管が浮き出るほどにビキビキと強張らせ、それを顔の前に持ってくる。

 

「この私がお前ら如きにいいようにされて…沈殿した憎悪が治まるか!?」

 

レイムを中心として、大気を揺るがすような暗黒の波動が発せられる。蜃気楼のように空気を歪め、灼熱の憤怒のオーラが周囲を包み込む。

 

「スカー、レイムが…!」

 

「ああ、気を付けろ!」

 

とんでもない攻撃を予感し、警戒するふたりだったが…

 

「この目か!?この目がお前たちに私の全てを知らせたか!?」

 

両目が飛び出さんばかりに見開く。

その直後、レイムは強張らせた手の爪を両目に突き刺したのだ。

 

「ならば目などいらないわ!!」

 

レイムの目から滝のように血があふれ出し、抉るように回しながら手を引き抜く。

 

「な…自分の目を潰した…!?」

 

凶行に走ったレイムを見て、シロナとスカーが戦慄する。これまでレイムの眼球があった双眸は真っ赤な孔が見えているだけで、まるでレイムの体内に渦巻く憎悪の炎が滲み出ているかのようだった。

 

「もうよい!お前たちの事など、もはやどうでもいい!!」

 

これまでとは比較にならない程のスピードでロケットのように前へ飛び出すレイム。縦横無尽にジグザグの軌道を描きながらシロナとスカーに接近し、すれ違いざまにその身体を切り裂いていく。ふたりは反応ができなかった。胸に深い十字の傷が刻まれ、血飛沫が噴き出す。

 

「キエエエエアアアアアア!!」

 

周囲に充満していたレイムの邪悪な気が空の上で凝固し、鋭く尖ったエネルギー弾となって戦場としていた圧縮結界全体に無数に降り注ぐ。それらは容易にシロナとスカーの体を貫き、ふたりは地面に押し付けられる。

 

「ぐは…!」

 

「ははははは…!全て破壊し尽くしてやる!」

 

レイムはそのままシロナとスカーを見下ろし、口を大きく開け、そこに青紫色の気を溜めこみ始める。まるでそこを中心としてブラックホールが発生したかのように大気が引き寄せられていくような感覚を覚え、地球そのものが悲鳴を上げているのを感じる。

 

「目が要らないと言ったのはこのことだァ!避けたければ避けるがいい…ただしどこへ逃げようと、この星ごと…いや、太陽系もろとも…いいや!それよりも多くの星が消し飛ぶぞ!!」

 

ゴアアアッ!!

 

「くたばれェッ!!」

 

次の瞬間、レイムの口からレイム自身の体よりも太い極大のエネルギー波が放たれた。

嫉妬、憎悪、憤怒、ありとあらゆる負の感情が籠ったそれは真っすぐにシロナとスカー目がけて進んでくる。

 

「クッ…ソ!!」

 

シロナは八角形の結界を張り、スカーは強力な電撃で磁場を歪めることで。同時に防御壁を展開し、レイムのエネルギー砲を間一髪で受け止める。

 

 

 

「あれを見ろ…」

 

結界の外でのハクレイたちとの戦いを終えた妖怪たちは、圧縮結界の中で繰り広げられる決戦の様子を指差してそう叫んだ。しかし、凄まじい突風と土煙、そして邪悪な波動が結界内で暴れ狂っており、加勢したくても彼らは近寄る事すらできない。

 

「…今となっては、シロナとスカーに任せる事しかできないな…!」

 

シュネックも紫も、戦いをただ眺める事しかできず、悔しげな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…!やばいわよ…もう限界…!」

 

シロナは思わず弱音を吐いた。攻撃が地面に命中するのを防いでいる結界壁も綻び始め、その手も引き攣って震えてくる。それはスカーも同じで、無尽蔵と思われていたエネルギーもここにきて底を見せている。だがそれに対して、レイムのエネルギー砲の勢いは弱まることを知らない。

 

「くははははは!何とか受け止めたようだが、限界が近づいているようだな!目は見えずとも、手に取るようにお前たちの事がわかるわ」

 

レイムの狂気に満ちた声が轟いている。

シロナは絶望に包まれそうになる中、それでもスカーだけは不敵に笑みを浮かべていた。

 

「いいや…まだ手はあるよ」

 

「え?」

 

「よく聞けシロナ…思いっきりだ!思いっきり、背中の方向に攻撃をぶっ放せ」

 

「ちょっ…何するつもりよ…!」

 

「お前の全力の攻撃だったら、その反動の勢いでこの中をくぐってレイムのところまでぶっ飛ばせる!アイツは大口開けてやがるだろ、急所にデカいのぶち込んでやれ」

 

スカーの提案を頭の中で反芻するシロナだが、その作戦を納得することができない理由を見つけ出した。

 

「…じゃあ、私が後ろに攻撃を放ってる間、誰がアイツの攻撃を防ぐのよ」

 

「私に任せろ。こんくらいでぶっ壊れるようなタマじゃねぇよ、私は」

 

「…嘘。スカーは嘘をついてる」

 

今でもシロナとスカーのふたりで何とか防げている攻撃を、スカーひとりの力で何とかできるはずがない。しかし、そう反論されることはスカー自身も理解していたのか、バツの悪そうに悪態をつく。

 

「お前、まだそんなこと言ってんのかよ!?」

 

「だって死んじゃうじゃない!」

 

「じゃあ他の奴らがレイムにぶっ殺されてもいいのかよ!?」

 

しかし、スカーにそう言われたシロナは何も言い返せなくなって黙ってしまう。

 

「私は他の奴らなんてどーでもいいと思ってた!ドイツもコイツもただ動き回ってるだけの無価値なもんだと思ってたよ。だけど、お前とつるんでるうちに何となくよ…ああいう様なヤツに殺させるのが…悔しくなっちまった…。シロナ、お前のせいなんだよ!そんなお前が今さら私の命惜しさで、目的を忘れんじゃないよ!!」

 

シロナの目には大粒の涙が溜まっている。

 

「…今なら、あの時…ヴァンパイア王国でお前がやろうとしたこと…分かる気がする。ただ死んで消えるだけじゃない…その間際に、大好きな連中の笑顔が浮かぶ。命ってのは脆くて儚いもので…ちょっとしたことで壊れちまう。それを守れるんだったら…まあ、しょうがねぇかなぁ…って思えてくる。あの時、お前はこんな気持ちだったんだろ?」

 

そのスカーの言葉を聞いたシロナは、あふれ出す涙を止められないでいた。もう自分は枯れるほど涙を流し尽くしたと思っていた。もう泣くことはないだろうとも思っていた。しかし、スカーと過ごした日々、共に戦った思い出が、尽きていたはずの涙をどんどんと生み出していく。

 

「わかったよ…スカー。だけど、あなたにだけカッコつけさせたりなんてしない…みんなの為なら、私だって!!」

 

「よぉし、その意気だよ!」

 

シロナは両腕を広げ、その両手の平にありったけの気を込める。そして腕を胸の前で真っすぐ伸ばし、最大威力のマスタースパークを放出した。

その瞬間、スカーはスカールの左腕をレイムのエネルギー砲に対して真っすぐに掲げ、その身を以って鋭い矛となった。そしてシロナの放つマスタースパークは地面に当たり、その反動でふたりは凄まじい勢いで飛んでゆく。矛となったスカーはレイムのエネルギー砲の中心を割って進んでいき、ふたりはみるみるうちにレイムとの距離を詰めていく。

 

「シロナァ、スカァー!!死ィィィィねェェェェェェ!!」

 

怨嗟の言葉を吐き出すレイムは、ふたりが自分に近づいてきていることを察知しエネルギー砲の威力を高めていく。その中を突き進んでいくスカーの体はそれに耐えきれず、徐々に蒸発するように消えていく。スカールの左腕も、バラバラに砕けていくのが見えた。

 

 

…そうだ、今までみたいに…いこうよ、スカー

 

 

シロナはレイムと接触するまであとわずかと言ったところでマスタースパークを撃ち止めて身を翻し、硬質化を集中させた拳を思いきり前に突き出した。

決して砕ける事のない拳が、レイムの喉奥へ押し込まれる。レイムの頭部が後ろへ引っ張られ、その直後に後頭部が膨らんで炸裂し、シロナはそれによって空いた大穴から飛び出す。喉奥から後頭部を貫かれたレイムは、背後へ回ったシロナへ振り向く。しかし、既に今の一撃による余波は全身に伝わっており、体に走っていた亀裂を中心としてレイムの肉体は崩壊を始めていた。

 

「ギエエエエエ…莫迦な…!私は無敵の筈…私は不死身の筈…!私を憎む者がこの世に在る限り…シロナァァァアアア!!」

 

「生憎だけど…私を含めて、もうあなたを憎んでる人なんてこの世のどこにもいないのよ。なんてったって…憎しみは、何にも実らせないから」

 

シロナは自分にも言い聞かせるかのように、優しくレイムに囁きかける。

 

「さようなら…レイム」

 

レイムは巨大な体をよじりながら、朽ちるようにして末端から消滅していく。頭と手足から始まり胴体へ…その後は9本あった尻尾が1本ずつ崩れる。シロナはその様子を見ながら、エネルギーを全て使い果たして頭部のみとなってしまったスカーを胸に抱きながら、自分も浮力を失って地面に落ちていく。

その最中、レイムがこれまで一度も能力として使用しなかった9本目の尻尾だけが最後に砕けていった。

 

「レイムの…最後の尻尾…」

 

シロナが目撃した。いや、シロナ以外の全ての者も、空にまるで映画のように映し出された光景を目撃し、言葉を失った。

レイムの最期の一本は、この地に住まう人々の営み、自由に生を謳歌する動物たち、そして妖怪たちの様子を幻想郷の空に映し出していた。

その光景が消えた頃には、シロナは地面に激突し、小さなクレーターの中心で仰向けのまま空を見上げていた。

 

「…レイムは、友達が欲しかったのかな。わかんないけど…良い散り様だったね」

 

シロナはもう指一本動かす力も残されていなかった。それでも、スカーの頭だけはしっかりと胸に抱き寄せて離さなかった。

その時、自分の視界が赤い光に埋め尽くされていることに気付く。シロナは西の空を眺め、見事な夕焼けの空に感嘆する。

 

「うわぁ、すっごく綺麗な夕焼けだよ。ねぇ、スカー…見てる?」

 

抱き寄せているスカーの顔に目を向ける。

すると、スカーはまるで湖面に映る煌めく太陽のような清々しい笑みを浮かべていた。

 

「なんだぁ…ちゃんと…見てる…じゃない」

 

そこで、シロナの意識は途絶えた。

 

 

 

 

幻想郷を外界と隔てていた「博麗大結界」、そして「夢と現の境界」を圧縮して強固な結界を作った妖怪たち。その作戦は見事功を奏し、レイムを内側へ捕らえて逃がすことなく討伐に成功した。

しかし、その行為は生き物の骨格ともいえる部分を何万分の一にも縮めるような行為。骨組みを失った幻想郷は崩壊することが決定づけられていた。妖怪たちも、幻想郷の賢者たちも覚悟していた事だった。過去の象徴ともいえるレイムと決別するためには、幻想郷を捨て去らなくてはならないという事を。

レイムを倒し、その役目を終えた圧縮結界は消滅し、幻想郷は終焉を迎えると思われた。

 

──しかし、幻想郷は終わらなかった。ただ、変わっただけだった。

レイムに焼き尽くされた幻想郷の大地は、確かに見るに堪えない光景だった。木々は炭となって風に吹かれるだけで粉々に散らされ、転々と残された火は雨が降るまで完全に消えることはないだろう。人里が存在した場所には、もはや人々が棲んでいた痕跡など微塵も残っていない。

それでも、戦いを終えた喜びに浸る妖怪たちも、後戸の国からぞくぞくと出てくる人間たちも、全ての者たちが同様にある光景に目を奪われていたのだ。

 

それは、見た事もない灰色で背の高い建築物が集まり、それらが夕焼けに照らされてキラキラと光り輝いている光景だった。その向こう側には、驚くほど広大な()が広がっている。今まで、その方向には果てしなく続く闇のような森が広がるだけだった。しかし、今では馴染みのないコンクリートジャングルを見下ろすことができた。

そしてほとんどの者たちがその光景を眺めるのに夢中で、長らく不在だった巨大な龍神が空の上で腹を見せた事に気が付いていなかった。

 

 

「皆の者、大義であった!!」

 

心臓を震わせるようなシュネックの大声が聞こえた。

 

「この通り、幻想郷は今この瞬間をもって変化した!外界と隔てていた結界は消えてなくなり、”幻想郷”は”世界”とひとつになった!我々も幻想に縋るのを辞め、己の足で歩くべき時代が到来したのだ!それでは皆の者…達者でな」

 

それきり、シュネックの声は止んだ。

 

 

 

…神々の愛した幻想は幕を閉じて、彼らは大きく息をついた。僕らもいずれ別れるだろう…それぞれの行く先へ。

 




レイムとの戦闘は終わりですが、もうちっとだけ続くんじゃ。



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