もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第318話 「Bohemian Rhapsody」

───AA財団研究施設 Bブロック

 

施設の所有地の入り口である有刺鉄線の張り巡らされたフェンスの前で、ミル・フィーネとサタン・マークは渇いた風が吹きすさぶ荒野の先をじっと眺めていた。

揺らぐ地平線の先に、ひとつのぽつんとした影が姿を現す。影はゆっくりとこちらに歩み寄って来ており、ふたりはその様子をじっと黙って見つめている。

 

「よく…オレがこの時間にここに来るとわかったな」

 

白いスーツを纏い、帽子をかぶった男、ブラックは静かにそう言った。帽子を脱いで大きな火傷のある顔を見せ、その中の真っ黒な瞳がミルとサタンを見据える。

 

「ええ、当然ですわ…記憶兵器同士、何を企んでいるかくらいは何となく感じ取れるんですのよ」

 

「私もお前がここに来ることを感じ、先にここへ来た」

 

「なるほど…やっぱりか。実を言うとオレもお前らがここに来ると感じたからこそ、ここへ来た」

 

両陣営はそれきり口をつぐみ、じっと睨み合う。彼らは互いに理解していた…これまで共に人造人間と戦ってきた記憶兵器。しかしその役目も今となっては果たされ、これより自分たちは記憶兵器同士の戦闘を行わなければならないということを。

その時、一陣の風が吹き、枯れた草の塊が両者の間を横切った。

 

グググ… ガキン!!

 

次の瞬間、硬い物体同士がぶつかり合う音が響き渡る。と同時に、地面がクレーター上に凹んで土塊が空中に噴き上がる。

刹那の時間の中で三名は同時に記憶兵器の力を発現していた。ミルは両腕をドリルにし、サタンはペンチを模した巨大な両手に、ブラックの両腕は巨大な無骨な鎚に変化していた。

 

「ブラック、何故お前がこんな行動に出るのか理解できない…!得体の知れない男だとは思っていたが、人造人間を倒すとなれば徹底する男だった…その姿勢に尊敬もしていた…!」

 

サタンはブラックの右腕のハンマーによる一撃を両手で防ぎながらそう言った。

 

「ふ…それは我々記憶兵器こそが、人造人間スカールが作り上げた究極の人造人間であるからだ!」

 

「何ですって…?」

 

ミルがドリルでブラックの左腕のハンマーを滑らせ、その切っ先を彼の腹へ押し付けようとする。ブラックは空中へ飛んでそれを躱し、再び鎚を振り下ろす。サタンはそれを受け止め切れずに後方へ吹っ飛ばされ、そのままブラックとミルの両者は熾烈な攻防戦を繰り広げる。

 

「我々記憶兵器は、人造人間スカールとその被造物たちを破壊する事が役目だった。しかし、今やスカールもこの世から消え、生き残った配下も死んだと同然。ならば記憶兵器の残された仕事は…記憶兵器の抹殺しかあるまい」

 

ブラックの一撃がミルのドリルを破壊し、そのままミルの左肩に命中し、そのまま左腕を潰してしまう。肩から先をごっそりと失ったミルは悲鳴を上げる。

 

「きゃああああああ!!」

 

「オレはオレの…いいや、記憶兵器の使命を果たすまでだ」

 

続いて、鎚のフルスイングをミルの胴体にめり込ませ、勢いに任せてミルを弧の軌道でぶっ飛ばした。ミルは目にも止まらぬ勢いで遠く離れた場所に落下する。

 

「くっ、ミル!」

 

「心配している余裕はないはずだ、サタン」

 

ブラックはさらに鎚を振るい、サタンは両手を掲げてそれを受け止める。凄まじい衝撃による痺れがサタンの全身を駆け巡り、その両足が深く地面にめり込んでいく。

 

「人間の時の格闘の強さであればオレはお前に及ばないが…記憶兵器としての練度はこちらがはるかに上なんだよ」

 

もう片方の腕の鎚を振り上げ、その直後に思い切り地面へ叩きつける。その衝撃でとてつもない振動が発生し、周囲に巨大なクレーターが出来上がると同時に地中の岩盤が大きく隆起し、その上に居たサタンは意図せず空中へその身を放り投げられる。

飛行能力を持たないサタンは成すすべなく落下し、そこへハンマーを大きく振りかぶったブラックが待ち受ける。そして、ハンマーの一撃がサタンの顔面とそして胸部を打ち砕き、地面へ叩きつけた。

サタンはそこで大きくバウンドし、そのまま転がるようにして倒れ込んだ。

 

「他愛もない…仮にも記憶兵器とあろう者が情けない。ミルもお前も…よくもその程度でこれまで人造人間と戦ってこられたものだ」

 

ブラックは動けないサタンの目の前で、再びハンマーを振り上げる。

 

「叩き潰してやる。さらばだ、サタン!」

 

…しかし、ブラックはそこで手を止めた。

 

ギュルルルル…

 

何かが高速で回転するような高い音が遠くから近づいてくる。長年の経験が己に迫る危険を警告し、すぐさまその場から飛んで離れる。

次の瞬間、大きなミサイルのような物体が突っ込んできて地面に深く突き刺さった。

 

「まさか…」

 

さらに、自分の背後から影が刺したのに気付き、もう一度跳躍してその場から離れる。目線だけで今まで自分が居た場所を見ると、なんとその場所の地面が根こそぎ抉り取られていた。

 

「なるほど…この土壇場で、極限の力を引き出したようだな」

 

ブラックは地面に降り立つとミルとサタンの姿を見る。

ミルは両腕をドリルに変え、両膝からもドリルが飛び出している。さらに、その頭部は鋼のように硬質な盾に覆われ、目は無く歯が剥きだした容貌と化していた。サタンも同様に両手は大きなペンチプレスに変化したまま、脚部もガッシリとした黒い鎧に覆われ、その顔も黒い兜に覆われていた。

かつて、ヒロイシが人為的に変身することができた「極限状態」。本来ならば、記憶兵器が文字通り極限の状況に陥った際に発動する、記憶兵器として一段階進化した姿。二人は、この場でそれを発現させたのだ。

 

「しかし…極限の状況に追い込まれているのはオレも同じ…オレの役目を果たすため、ここで負けるわけにはいかないからな。お前らを始末したら、次はシロナの番だ」

 

(…シロナ…)

 

ミルは極限状態と化した所為でトリップした時のように宙に浮かんだような朦朧とした頭の中でその言葉を繰り返し、一番根強く残っている記憶を思い出す。それは、自分が記憶兵器の仲間に入るきっかけとなる出来事だった。

もう、これ以上自分が巻きこんでしまった者が不幸になる様子を見たくはない。その想いのままに右腕のドリルを構え、ブラックに再び突撃する。ミルのドリルの回転力は以前よりはるかに上昇しており、周囲に回転による突風が巻き起こるほどだった。

だが、その攻撃はブラックの堅牢な鎚によって止められてしまう。そして次の瞬間、上から襲ってきた強い衝撃を受け、ミルは血を吐き出しながら背中からくの字に折り曲げる。ブラックのもう片腕の鎚による攻撃を受けたのだ。

 

「げ…は…!!」

 

「言ったろう…極限なのはオレも同じだと」

 

ブラックの姿もまた、ミルとサタンと同様に極限状態に変化していた。墜落する流れ星のような形状の顔面からは白い歯が覗き、その歯の隙間から蒸気のような呼吸を漏らす。

その時、サタンが巨大な両手を振り上げながらブラックに迫った。ハンマーで迎撃しようとするブラックだったが、続けざまにミルがドリルを構えて向かってきていたのに気付かず、振り下ろそうとしたハンマーを後ろへ逸らされる。

 

ガシッ

 

サタンの万力の両手がブラックの体を両腕の鎚ごと掴み、持ち上げる。本来サタンの目がある位置が光り、ギリギリと握力を込める。

初めは振りほどこうと抵抗していたブラックであるが、ゴキゴキと何かが砕ける音が響き、歯の隙間から血が流れ始める。

 

「がは…」

 

苦しげに唸るブラックを見て、サタンはそれを握ったまま地面に叩きつける。

しかし、とどめを刺そうと思って行ったその行動が間違いだったと悟る間もなく、サタンは捻りつぶされた。

 

「な…!?」

 

ミルは視界が蒼空と茶色い地面を交互に映し出す中、今何が起こったのかを思い出す。

…ブラックが地面に叩きつけられた瞬間、いや地面に触れた瞬間、地中から巨大な鉄塊が突き出したのだ。その直撃を受けたサタンは全身が砕かれたようにひしゃげ、宙を舞っている。その余波による衝撃を喰らったミルはこの通り宙へ打ち上げられている。

 

(あれはアリーズが得意としていた技…!彼女ほどの練度と才能がある記憶兵器にしかできない芸当なはずなのに…)

 

極限状態へ達したブラックの実力は、かつてのアリーズと同等か上回るほどだという事だろう。

 

「ミル、かかってこい。我々記憶兵器の役目は人造人間の殲滅だろう。つまり、スカールの被造物たる記憶兵器も殲滅の対象となる。さぁ、お互いに殺し合おう…記憶兵器の役目を果たそう」

 

ブラックは、降り注ぐサタンの鮮血を浴びながらそう言った。地面に着地したミルは、ドリルを構えながらブラックの方を向く。

 

「…私は貴方と戦います…ですが、それは決して記憶兵器の役目とやらのためではなくってよ」

 

「ほう?では何のためだというのだ…これから先、長き虚無の時間を過ごすしかない我々には、それしか残されていないはずだ」

 

「シロナのためです」

 

「シロナだと?」

 

「ええ。貴方は我々の次にシロナを始末すると言った…それだけは絶対にさせませんわ」

 

「何故だ…?あのようなガキに、それほどまでの価値があるというのか」

 

「価値…があるかどうかはわかりません…けれど、あの子は私にとっては大切な…何よりも優先する…”妹”のような存在ですわ」

 

ミルは正面にドリルを構えながら前へ駆け出し、跳躍して真っすぐにブラックへと突撃する。ブラックは静かにハンマーを振り下ろし、それを受け止めようとする。

ドリルの切っ先とブラックの滅鎚がぶつかり合う。高速回転するドリルが凄まじい火花を飛ばし、高音が周囲に響き渡る。

 

「バカな…今のオレに、砕けないものはないはずだ…!」

 

「…はああああああああ!!」

 

叫び声と共にドリルの回転率を高めていく。そのとたんブラックのハンマーが震え出し、亀裂が入る。表情こそ変わりにくいが、ブラックは信じられないというように歯を噛み締め、蒸気を吐き出す。

そして、その直後にハンマーは砕け、突き抜けたドリルがブラックの腹に突き刺さっていた。

 

「か…!」

 

ミルはそのままドリルを上に掲げ、ブラックの体が持ち上げられる。ブラックは血を吐き出しながら腕のハンマーを振り下ろそうと構えた。

しかし、ミルはもう片腕のドリルでブラックのハンマーを腕の付け根から切断する。もはやブラックの両腕に武器は残っていない。体が強張り、激痛が走る。つま先から心臓とそして脳まで突き抜ける熱い感覚。生命が脅かされ体の芯が凍り付き、平静が足元から瓦解する。忌むべき…そして懐かしい感覚…

 

 

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