「私は平気だから…!また、あの時みたいに…あなたに力を貸してくれる戦士を…」
”あの時”…まだ記憶に新しい出来事だ。
邪悪な何者かによって本来あるべき歴史が改変され、これまでに起こった世界の命運を分けた戦いの勝敗が逆転し結末が変わってしまうという異変が起こった。過去にオレ自身が歴史を変えてしまうという罪を犯し、その贖罪として時の界王神様の手伝いをしていたオレはその異変の解決を依頼され、ドラゴンボールによって呼び出した仲間と共に戦った。
異変を起こした犯人は、トワという名の女科学者と、彼女が造りだした人造人間・ミラという二人組だった。トワ曰く歴史を改変する事によって生じるエネルギーをミラに与え、ミラを最強の戦士に育て上げようと画策していたようだ。
だが仲間の活躍により歴史の改変は阻止されると共に人造人間ミラは粉々に破壊され、トワはどこかへ消えた。そこで事件はひとまず解決したのだが…
「う…はっ!?」
トランクスはガバッと跳ね起き、辺りを見渡した。ここは…どこか見覚えのある一室で、自分はベッドの上に寝かされていた。体には包帯が巻かれており、顔や首には湿布やガーゼも貼られている。
「気がついたかよ?」
声がした方を見ると、そこにはサザンカとカズラが壁に寄りかかって立っていた。
「サザンカちゃんに、カズラ君…これは、君たちが?」
「姉貴とブルマがな。今はふたりして出かけてるが…。アンタの方は大したこと無さそうに見えてずいぶんな怪我だったそうじゃねーか」
サザンカがそう言った。
「ああ…でも心配ないよ、すぐに治ると思う」
「…あの仮面の男と真正面から戦ったんだろ?」
「ああ、まあね…」
トランクスがそう言った瞬間、サザンカはトランクスの肩に巻かれていた包帯を掴んで思い切り引っ張り上げた。トランクスは思わず立ち上がり、そのままサザンカの顔の目の前に引き寄せられる。
「おい、サザンカ…!」
後ろからカズラが止めようとする声が聞こえるが、サザンカは続ける。
「じゃあ知ってることを全部話すんだな。アンタの正体、そして昨日の出来事が結局何だったのか」
「…すまない、言う事はできないんだ…」
「なんで?」
「それを話すことで歴史が変わってしまうからだ。本来到達しようとする歴史の結末へたどり着かなくなる…それが将来どのような混乱を招くかわからない…」
「だけどあの仮面の野郎はまた会う事になる…とか言ってたよな?って事はもう一度、アイツが来るかもしれないって事だろ。アイツが何なのか知っていれば十分に戦える。アンタはそんな怪我して命からがら逃げてきたんだろ、次の時はアタシが協力するって言ったらどうする?」
トランクスの眉がピクリと動いた。
「…サザンカちゃんの言う通りだ。オレは君たちを巻き込んでしまった責任がある。このまま何も話さずにオレが帰るのは…無責任だと、確かにそう思うよ…。話そう…オレの事情と…敵についての心当たりを」
トランクスがそう言うと、サザンカは包帯を掴んでいた手を離した。トランクスは再びベッドに腰かけ、神妙な顔つきで口を開く。そこから語られる内容は、サザンカにも、もちろんカズラにとってもにわかに信じられない話であったが、それでも信じるしかなかった。
「オレはこの世界とは違う歴史をもつ時空から来た、地球人とサイヤ人の血を引く”タイムパトロール”の一員だ」
「なんだそれ」
「まあ、まず疑問を持つのも無理はないと思う。タイムパトロールについて説明するのは、まずこの
その後、トランクスはトキトキ都、その中の時の巣、そして時間の流れを生み出す鳥であるトキトキとその世話をし実質的に時の管理人とも呼べる時の界王神の存在について説明した。
「…そして、タイムパトロールは時の界王神様の命令の元、歴史の歪みの修繕を行う活動をしているんだ。だけど…オレの体感でつい半年くらい前の事だった。意図的に歴史の改変を目論む邪悪な二人組が現れた」
歴史の改変による事象の”ズレ”によって生じる「キリ」というエネルギーを集める女科学者のトワ、そのトワによって作られた人造人間のミラ。
「彼らはオレと仲間たちの手によって倒され、歴史の改変は起こらなくなった。だけどつい昨日、再び事件が起こった。トワともミラとも違う二人組が時の巣にいた時の界王神様を襲撃したんだ。オレは『誰か強い戦士を連れてきて』と頼まれ、時の界王神様とトキトキに逃がしてもらった」
「その二人組のうちひとりってのが…あの仮面の男か」
「そう。ひとりはその時じゃよくわからなかったが、もうひとりはあの気の特徴や雰囲気からしてオレやサザンカちゃんと同じサイヤ人であることは間違いない。そうだな…『仮面のサイヤ人』とでも呼ぼうか」
「仮面のサイヤ人…そのまんまだな」
「ははは…正体もわからないし、他に呼びようもないからね。ところで、シロナちゃんとサザンカちゃんはサイヤ人のようだけど…両親がサイヤ人なのかい?」
「…会った事はねぇけど…父親はサイヤ人だったらしいな。母親は地球人だ…ま、どっちももう死んでるらしいけどな」
「そっか、失礼な事を聞いちゃったね。オレも同じで、父がサイヤ人、母が地球人なんだ」
オレが元居た時空じゃブルマさんが母さんだった…なんて言わない方がよさそうだ、とトランクスは思った。どうやらサザンカの母親はこっちの世界の母さんではないようだけど、混乱はなるべく起こしたくない。
「…それで、トランクスはその時の巣とやらに帰れるのか?その時の界王様にゃ『連れて来い』って言われたんだろ?」
と、サザンカが訪ねた。
「実はそれなんだけど…帰れそうにないんだ」
「なんでだよ?」
「オレが持っていた剣があったよね?あれにはトキトキの力を貸してもらって空間を斬れば時空を行き来できる”時の廊下”に通じる切れ目を創る事が出来たんだけど、仮面のサイヤ人に折られたせいでその効力を失ってしまってね…どうしたらいいかわからないんだ」
「一応折れた剣の片割れだけは見つけておいたんだけど…それだけじゃだめだよな?」
「トランクスさんのベッドの横にありますよ」
トランクスはカズラが指差した場所を見ると、そこにはトランクスの背負っていた鞘に収まった剣があった。トランクスがそれを抜いてみると、はやり刃が根元から折れて無くなっていた。
「ありがとう!でも、やっぱりこれじゃ時の廊下の入り口を作ることはできそうにないな…」
折れた片割れも、あの時に仮面のサイヤ人の胸部に刺さったまま撤退されてしまったため、取り戻すことは難しいだろう。
「”ドラゴンボール”があれば…剣を治してもらうこともできるだろうが…」
「「ドラゴンボール?」」
サザンカとカズラは同時にそう聞き返す。
「え?ああ…この時空にはそもそもドラゴンボールが無い可能性もあるのか。ドラゴンボールと言うのは、7つ集めると何でも願いを叶えることができる不思議な球の事さ」
「そんなものがあんのか…」
「オレが元居た時空ならあるんだけどなぁ…でも、そこに戻ることもできないし…」
トランクスが下を向きながらそう呟いた、その時だった。
(ドラゴンボール、あるよ)
「え?今、誰か何か言ったかい?」
「いや、何も…。でも、あたしにも聞こえた…」
「俺にも…」
その幼い少年のような声は、そこにいたトランクス、サザンカとカズラの三人にばっちりと聞こえていた。耳ではなく、心の中に直接語り掛けられているような感じだ。
「君は何者なんだ?それに、ドラゴンボールがあるって…」
(一緒に来てもらえばわかるよ。三人とも体に触れあって、今話している僕の存在を強く想って)
三人は突然の事に混乱しながらも、互いの手を取り合う。
「う…なぁカズラ…その…背中じゃだめか…?」
サザンカが顔を赤くしながら小声でカズラに言う。
「は?何言ってんだ、はやくしろよ」
カズラはこんな時に慌て始めるサザンカに疑問を持ちながら強引にその手を握る。
次の瞬間、三人の姿はその場から消え失せた。
「…あれ?今まで話し声がしてたんだけど…誰もいないわね」
丁度その直後に帰宅したブルマとシロナが部屋に入って来たが、そこには取り落とされた剣がベッドの上にあるだけだった。
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「それにしても、私たちとアンタらで一緒に戦うなんてね」
「ふん、勘違いするな。アイツを倒したら…次は貴様らだ」
「楽しみにしてるぜ、自称最強の魔人さんよ。…行くぞ!!」
カカロットが我先にと飛び出した。後から霊夢とウスターが追うように走り出す。カカロットはガーリックへと殴りかかるが、ガーリックはその場から素早く移動し、あたかも消えたように見えた。カカロットの背後に移動していたガーリックの巨体は腕を振り上げ、気を込めながらカカロットへ振り下ろした。だがカカロットもその場へ残像を残しながら攻撃をかわし、攻撃後の隙を見てウスターが膝蹴りを浴びせようと襲い掛かる。しかしまたしてもガーリックは消えるように攻撃を避け、ウスターの頭上から拳を叩きつける。
ウスターもそれを避けると、今度は霊夢が真横から蹴りを仕掛ける。
「はあああああ!!」
その蹴りが横腹に命中すると、ガーリックは勢いよく吹き飛んだ。その先へ移動していたカカロットが顎を蹴り上げ、舞い上がった途端にウスターが体の回転を加えた強烈な蹴りをガーリックへと浴びせた。
地面へと落下したガーリックに向かい、霊夢が上空から無数のエネルギー波を投げつける。
「ムガァ!!」
しかし、それを強引に振り払ったガーリックは両手を上にあげ、エネルギーを溜め始める。
「ちぇりゃあ!!」
それを見ると、そうはさせるかと言わんばかりにカカロットたち三人がガーリックの周囲を取り囲んだ。そして彼の周りをグルグルと回りながら、素早く攻撃を繰り出した。
ウスターの攻撃を防ぐが、背後からの霊夢の肘打ちを喰らう。今度はそれに対応しようとすれば、カカロットの蹴りが腹にめり込む。
「くああああ…!!」
三方位からの攻撃で一方的に攻撃を喰らい続けるガーリック。三人はガーリックが怯んで動きが鈍くなったのを確認すると、同時にガーリックの腹を殴り、そのままの勢いで踏ん張りながら前方へその巨体を力いっぱい押していく。するとガーリックの足が地面にわだちのような跡を作りながら後退していき、ついにはテラスのがけっぷちにまで追い込まれる。
「これでトドメだ…!」
三人は空中へジャンプすると、それぞれの片腕を中心へ集める。その中へ気を込め、エネルギーを集めていく。
紫、赤、黄色…カカロット、霊夢、ウスターのエネルギーが混ざり合い、カラフルな気功波が生成される。そしてタイミングを見計らい、それを渾身のパワーを込めて放った。
「…ぬ!?」
上を見上げるガーリック。だが、もう遅かった。受け止める間も避ける間もなく、三人の合体エネルギー波が直撃する。猛烈な気の熱と勢いに晒され、ガーリックの肉体が徐々に動かなくなっていく。
「おのれ…この私がこんなところで…!!」
光に覆われたガーリックは、手に付いた自らの血を見つめる。
その時、ガーリックは光の中を何か赤黒い物体が自分に近づいてきているのに気付いた。
「これは…ドラゴンボール…!?」
ガーリックは驚きながらも、突然目の前にやって来た七星のドラゴンボールに向かって手を伸ばす。しかしその瞬間、ドラゴンボールは赤黒い暗黒の光を放ち、ガーリックを包み込んだ。
「ぐわあああああああ!!」
ガーリックの叫び声が周囲に響き、エネルギー波は遠くの空まで伸びていき、その場で炸裂した。
「やったか…」
カカロット達はエネルギー波が消えたのを確認し、ガーリックを倒したのだと安心する。
しかし、煙が治まり始めると、そこには様子の変わったガーリックが佇んでいた。
「ム…ググ…ハハハハハ…」
小さく笑うガーリックの目は黄色く変色し、その胸の中心に赤黒い色をした不気味なドラゴンボールのような物体が埋め込まれており、そこから根を張るようにして黒い血管のような筋が肌の上に走っている。
以前よりも強大な邪気をむんむんと放ちながらこちらに歩み寄るガーリックを見て、カカロット達は信じられないとばかりに目を見開いていた。
───今、歴史が歪んだ。
本作のトランクス:ゼノは、ゼノバース本編において「トワとミラを倒したもののドミグラが未だ出現していない」状態のトランクスと考えておいてください。