三人が気が付くと、今までいた部屋とは全く別の見知らぬ場所に立たされていた。
赤と黄が混ざり合ったような不気味な色の雲が広がり、大理石でできた不安定な形状の建造物がそこら中から突き出している。
三人はそんな建造物の一角にいた。
「ここは一体どこなんだろう…」
「さっぱり分かんねぇな」
「ああ…」
だが、この一帯にはただならぬ悪い気配が漂っていることはなんとなくわかる。
その時、遠くの方で凄まじい爆発が起こった。トランクスがその方を見ると、そこにはドーム状の爆発に混じって赤黒い暗黒のオーラが煙のように噴き上がっていた。
「嫌な気だ…行こう!」
トランクスは体から白いオーラを噴きながら空へ舞い上がる。
「ちょっ…おーい!アタシは空を飛ぶなんてできねーぞ!」
それを見たサザンカが拳を振り回しながら空に上がったトランクスに叫ぶ。確かに、仮面のサイヤ人と戦った時もサザンカは単純な脚力で跳躍していたに過ぎない。
「ああ、超サイヤ人になれるんなら、きっとすぐにコツがつかめるはずだよ!」
トランクスは笑顔でそれだけ言った。
「なんだよそれ!」
サザンカは苛立ちながらも、あの時超サイヤ人に変身した時のように全身に気を行き渡らせる。
「良い調子だ!要は気のコントロールなんだ、頑張って!」
「うるせぇ…黙ってろ…!」
サザンカは目の前の一点を見つめながらギリギリと歯を食いしばる。体内に満ち、そして体外へ発散されようとするエネルギーを膜のように全身に薄く纏い、外側にのみ風のように動かして浮力を発するようにコントロールする。
ふわ…
「おおっ、飛べた!」
そのままサザンカの体は宙に浮かび上がり、トランクスと同じ高さまで飛び上がった。そのまま自由自在に空中を飛び回り、自分が舞空術を会得したことを実感する。
「お、おーい!何が何だか…どうやればそんな事ができるんだ!?」
下からカズラの悲痛な声が聞こえてくる。
「まあ…彼はすぐには無理か…」
「どうするんだよ?アイツ、ケンカは多少できるが普通の人間だぜ」
「うーん…ここに残していくわけにはいかないしなぁ。しょうがない、今回は一緒に連れて行こう」
トランクスは一旦下まで降りると、カズラの腕を自分の肩に回し、そのまま彼と共にサザンカのとこへ戻って来た。
「ほ、ほんとに空飛んでる…」
「よし、急ごうか」
一行は爆発が起こった方へ向けて移動を開始する。
そんな中、サザンカが言った。
「…あの訳の分からん声に誘われるままこんな場所へ来ちまったわけだけどよ…もしこの先で出会ったヤツがアタシらより何倍もデカかったり、強そうだったら…アタシは逃げるぜ」
「なんでだよ?仮面のサイヤ人の時はあんなにマジになってただろ」
と、カズラが言い返す。
「仕方がないだろうね…確かに、得体の知れない敵がいた場合は手を出さないのが得策だ」
「おい、アレなんだ…?」
「なんて奴だ…あれほどの攻撃を喰らっても死なねぇとは…!」
カカロットは冷や汗をかきながら後ろへ一歩下がる。ガーリックは黄色い白目を剥き、歯をむき出した表情でゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。胸にはまった、赤黒い不気味なドラゴンボールのような物体を中心として、赤い血管のような筋が肌の上に走っている。
「なぜ…私は…神に…」
それに加え、うわごとのように訳の分からない言葉をつぶやいている。
「ふん…それならばもっと攻撃を加えるまでだ!」
ウスターは戦くカカロットを尻目に、真っ先に飛び出した。
「ウスター!ソイツはさっきとは比べ物にならないほどの気を持ってるわ!」
霊夢がそう忠告するも、ウスターは止まらずに、異様な気を醸し出すガーリック目がけて飛び蹴りを繰り出した。
しかし、ガーリックはウスターの蹴りを片手で掴んで受け止めた。
「なにっ!?」
ガーリックはウスターを真上に投げ飛ばすと、手の平を上に向け、そこから魔力の波動を放出した。それはウスターに近づくにつれて波紋状に大きくなっていき、逃げる場も隙も与えずにウスターに直撃した。
「ぐうお…ッ!」
全身が小刻みに震え、自由が利かない。激震の魔力をモロに浴びたウスターは硬直してしまう。ガーリックは両手を掲げ、胸に埋め込まれたドラゴンボール由来の赤黒いエネルギーをそこに込め、ウスターに向かってそれを投げつける。
「ぐあアアアアアアアア!!」
ウスターはそれを受け、肉体が縦に引っ張られ捻じれるような強い衝撃を受け、思わず叫び声を上げた。そのままぶつけられたエネルギーごと、ウスターは弾き飛ばされ、遠く離れた場所に聳えていた塔に激突した。
「ウスター!くっ…」
ウスターの無事を確認する前に、カカロットは自身に迫っていたガーリックの一撃を捌くことを余儀なくされる。腕を顔の横に差し出して一撃を防ぐが、あまりの威力の前に腕がミシミシと悲鳴を上げ、カカロットの体が地面と水平方向に吹っ飛ばされる。
ガーリックは吹っ飛ぶカカロットの横を並走して追い越し、さらに上空へ向けて蹴り上げる。ガーリックは足場の大理石の通路を破壊するほどのパワーで跳躍すると、一瞬でカカロットに追いつき、今度は肘打ちを喰らわせてカカロットを眼下に広がる宮殿に叩き落とす。宮殿はすさまじい音を立てながら崩壊し、容易にカカロットを呑み込んでしまった。
「カカロット───!!」
霊夢がカカロットの名を叫ぶ。
「ハッ!?」
しかし、その直後には自分の背後にガーリックの気配を感じ、動きを止めた。ゆっくりと振り返ると、そこには苦悶に歪んだような表情で腕を振り上げているガーリックがいた。
そのまま振り下ろされる腕は霊夢の顔面を打ち、霊夢は下へ吹っ飛ばされる。ガーリックはそれを追いかけて片腕で掴み、もう片手で殴打を加える。
「ぐああッ…!」
その後、ガーリックは霊夢と共に大理石の塔に向かっていき、そのまま激突した。頭から血を流す霊夢が瓦礫と共に宙を舞い、床の上に転がる。
ガーリックはその前に降り立ち、両手を上にあげ、そこに邪悪なオーラを溜める。霊夢は霞んでいく意識の中、もう駄目だと思い目を伏せる。
…が、いつまでたっても何も起こらず、霊夢はゆっくりと目を開けた。
「おいテメェ」
そこで霊夢は目の前の光景を見て、一気に目が覚めた。
「カカロット…?」
一瞬、カカロットが復帰してガーリックの顔面に拳を深くめり込ませているのかと思った。だが、それはカカロットではなく、見知らぬ黒髪の少女だった。歳は自分と同じくらいだろうか…。
ガーリックは後ろへよろめき、顔を押さえながら膝をついた。
「おもしれぇケンカ、してんじゃねぇか」
サザンカは霊夢の前に立ち、ガーリックに対して仁王立ちで構える。
「サザンカちゃん、いつの間に…」
痛めつけられる霊夢を見るや、気付けばいなくなっていたサザンカが既にガーリックに一撃を加えていたことに驚きを隠せないトランクス。
「それに、大きい敵からは逃げると言ってたのに」
「トランクスさん、大丈夫ですよ…」
カズラは中学生時代のサザンカを思い出す。
──あれは中学3年のころ、下校途中に高校生に絡まれていた自分を見つけたサザンカがケンカを始めた時の事だった。
『いてて、何だコイツ中坊の…しかも女子のくせに…!』
サザンカは高校生の不良の首を背後から締め上げながら、周りの他の不良を体当たりで次々にぶっ飛ばしていく。首を絞めていた不良を投げ飛ばすと、その一団は慌てて逃げていく。
『サザンカ…ありがとう…その、男なのに情けないよな』
と、カズラが殴られたせいによる鼻血を拭いながら言うと、奪い返したお金をカズラのポケットに突っ込みながら言った。
『ああ…男なのに情けないその風体、二度と見たくないね』
────
「アイツはいつも本当の事は言わないっすから」
「おもしろいケンカって…アンタ何者よ?」
霊夢はサザンカにそう尋ねた。
「誰だっていいだろ。それより、アンタはどっか行ってろよ、たぶん邪魔になるぜ」
「何ですって?」
ガーリックはゆっくりと起き上がり、ぐるりとその顔をサザンカに向ける。狂気のこもった目線を見て、サザンカは霊夢を背後に隠すようにして前に立った。
「キサマ…まさかこんな弱いパンチでこの私を倒そうとしたのではあるまいな?」
理性を失ったように見えたガーリックだが、なんとしっかりと言葉を発した。一瞬面食らったサザンカだが、すぐにいつもの調子で言い返す。
「お前を倒す?笑わせんなよオイ、そんな大層なことやってやるかよ。アタシは騒がしいデカブツを黙らせに来ただけだぜ」
トランクスはそんなサザンカの様子を見て、まずいと思った。自分の経験上、敵の怒りを煽り挑発するという行為は、時として自らの首を絞める事となりかねないと知っていたからだ。
ここで取るべき最善の行動は、自分が加勢し速やかにガーリックを無力化させることだ。
「サザンカちゃん、オレも加わるからはやくソイツを倒そう!」
トランクスはカズラを背中に乗せたまま、サザンカの元へ降りて行こうとする。
が、サザンカは手に持っていた石をトランクスの顔面の横スレスレに投げてそれを止めた。
「トランクス、テメェは来るんじゃねぇよ、すっこんでろ!」
「ええ~!?」
トランクスは思わず足を止めてしまう。
「バカな人間だのう!今の私相手に、わざわざ死ぬつもりか?」
ガーリックはサザンカをあざ笑いながらそう言うと、右腕を大きく振りかぶり、そこに邪気を集中させる。まるで大気がガーリックに向けて引き寄せられているような感覚を覚え、サザンカは踵を地面に押し付けて少し踏ん張る。
「くらえ!」
その腕を思いきり振るうと、凄まじい突風の如きエネルギー波が放たれる。それに直撃したサザンカもこれにはたまらずに吹っ飛ばされ、霊夢と共に背後にあった塔に思い切り突っ込んで激突した。ガラガラと塔の壁が崩れ、その瓦礫がサザンカを埋めてしまう。
「サザンカちゃん!」
トランクスも思わず心配の声を上げる。
ガーリックは崩れた塔を見て高らかに笑った。
「ムグハハハハハ!気分がいいぞ!得も言えぬ多幸感が精神を満たしておるわ!…でも、あの博麗の巫女も消し飛ばしてしまったか…?」
だが、サザンカと霊夢は生きていた。サザンカは霊夢を抱きながら、瓦礫の下から飛び出し、床に着地する。
「ちょっと…アンタ大丈夫?」
霊夢がそう声をかける。
「こんなの…屁でもねぇよ」
そう言うサザンカであったが、頭から流れる血が額を染めて頬を伝い、明らかに少なからずのダメージを受けているようだった。
「私の攻撃をまともに受けて生きていられるとは大したもんだ。だが、私はその博麗の巫女を始末できれば満足なのだ!その巫女を私に始末させれば、キサマだけは生きて逃がしてやろう!」
ガーリックは高らかにそう言った。
「…これはもともと、私たちが戦っていた相手だわ。あとは私が戦うから…アンタは逃げなさいよ」
霊夢はそう言ってサザンカの前に出ようとする。が、サザンカはそんな霊夢に向けて微笑みかける。
「アタシが…アイツの思い通りになると思ってんのか?そんなん、面白くねぇだろ…見てな」
「何をごちゃごちゃ言っている?もういい…ふたり纏めて消し去れば面倒な事もあるまい」
ガーリックは再度右腕を後ろへ引き、、そこに暗黒のエネルギーを込めて球体を作り始める。それは徐々に大きくなっていき、大気が激震するかのような魔力を放っている。
「アイツ、こんなパワーをどこから出しているんだ!?」
離れた場所まで突風のように吹いてくる魔力を受けて、トランクスが顔を背けながらそう言った。カズラも一緒になって顔を逸らすが、それでもサザンカを信頼するかのように彼女を見た。
「トランクスさん、大丈夫っすよ…俺は中学ん時から何度もケンカするアイツを見てますけど…サザンカは
「さァ!上でちょろちょろしている奴らごと、粉々に吹き飛べい!!」
ガーリックはそう言うと、溜めていたエネルギー球を思い切り投げ飛ばした。着弾すれば、この天界のガーリックの宮殿を丸ごと消し飛ばし、その周囲も焦土と化すだろう。
だが、サザンカはエネルギー球が投げられるのと同時に飛んだ。真っすぐに突っ込んでいくと同時に、拳を思いきり前に突き出す。その時、サザンカの髪が逆立ち、眩い金髪に染まる。黄金のオーラを全身に纏い、さらに勢いとスピードが強まった。
「まさか…」
ガーリックは急激に倍増したサザンカの気を感じ、冷や汗を流して慌てる。
直後、サザンカの拳はガーリックの放つエネルギー球のど真ん中を突き破って破壊し、そのままの勢いでガーリックの胸に直撃した。
「ぐ…ぎゃああああああ!!」
ガーリックは悲鳴を上げて体をくの字に曲げる。サザンカの拳はガーリックの胸にはまり込んでいた赤黒いドラゴンボールに当たっており、サザンカはそれに気付いた瞬間、体が意志に反して動いているかのような感覚に囚われた。
「うおっ!?」
次の瞬間には、サザンカはドラゴンボールに吸い込まれるようにして消えてしまった。