「アンタ…どっかで見たことあるな?」
霊夢は、突然現れて月夜見王の攻撃を弾いたサザンカを見てそう言った。この黒髪の少女は見覚えがある。確か数年前、ガーリックと戦っていた時、流星のように現れて消えていった少女と同じだ。
「いや、知らねえな」
しかし、サザンカからすれば、霊夢の実力や夢想天生による姿の変化も相まってピンとこなかった。
そうしている間にも、月夜見王は余計な邪魔者の参上に苛立ち、怒りの瘴気を募らせている。
「ギィ…ギギ…!!」
そして一気にその場からサザンカへ向けて突っ込んでくる。
「悪いがこっちは早く済ませてぇんだ…最初っから全力でいかせてもらうぜ!」
サザンカは全身の気を一気に解き放ち、黄金のオーラを爆発させる。瞳は緑色に、髪も金色に染まり、超サイヤ人への変身を遂げると、こちらも月夜見王に向かって突撃し、拳を振りかぶる。そして、その胸にはめ込まれている三ツ星のドラゴンボール目がけて渾身の拳を振り下ろした。
ドゴッ…
しかし、サザンカの一撃は届かなかった。
「なん…!?」
月夜見王の放ったパンチがサザンカのパンチの速度を上回り、その体格差によるリーチの差で先に顔面へ当てられてしまったのだ。月夜見王の拳はサザンカの頬にめり込み、サザンカは反対方向へ吹っ飛ばされる。
(いっ、痛ぇ!こんなパンチ持ってる奴は初めてだ…!)
サザンカの口と鼻から垂れる血が紐のように空中に流れる。とりあえず自分も体勢を立て直し、月夜見王に対し反撃しようと血を袖で拭きながら正面に目を向ける。
その時、驚くべきことに既に月夜見王は吹っ飛ばされた自分に追いついてきていることに気付く。次の瞬間、サザンカは反応できずに腹へ膝蹴りを受け、体をくの字に曲げた。が、そのまま月夜見王の足を抱き寄せるように掴み、引き寄せるとともに反撃の頭突きを彼の顔面へ叩きつけた。
(よし、サザンカ様の頭突きをもろに喰らいやがった!)
確かに手ごたえはあった。しかし、月夜見王はそれが全く効いていないというかのようににやりと笑った。そして次の瞬間、月夜見王は全身からドーム状のオーラの爆発を起こし、サザンカを巻き込んで炸裂させた。
「サザンカちゃん、先に行ってしまうなんて!」
サザンカを探して、辺りを見渡しながら戦いの場へやってきたトランクス。その足にはアザミがぶら下がっている。
「うおおおおおい!何がどうなってんだよォ~~!?」
「た、頼むからせめて暴れないでくれないかな…?」
じたばた暴れながら騒いでるアザミを見て、トランクスは困り果てる。
とその時、トランクスはすぐ近くで巨大な爆発が起こったのを見た。
「あれは…!」
急いでその場へ駆け寄り、爆発が治まった跡へやってくる。するとそこには…
「サザンカちゃん!」
月夜見王の「月破」をもろに喰らってボロボロになったサザンカが、槐安通路の網目模様の走った下層の床に横たわっていた。頭から血を流し、仰向けのサザンカは全く動いていない。その遠くには、今の爆発を起こした張本人である月夜見王がゆっくりと歩み寄ろうとしていた。
「マジかよ…あのサザンカが…」
アザミが戦慄する。と同時に、理解した。この場所は自分にとって全く未知のやばい場所である、と。
トランクスは歯を食いしばり、アザミと共にサザンカのすぐ側に降り立った。
「君はサザンカちゃんを視てやってくれ。アイツはオレが倒す」
ある程度こちらに近づいたところで足を止めた月夜見王に対し、トランクスは応戦の構えを取る。そして全身の力を開放し、一気に超サイヤ人へ…いや、その先の境地に達した”超サイヤ人2”へと変身する。その全身には黄金のオーラに加えて弾けるようなスパークが発生し、その金髪は普通の超サイヤ人よりもさらに鋭く逆立っている。
「ふ…誰が…俺を倒す、だと…?」
その時、月夜見王はトランクスに対してそう言葉を発した。
「そうだぜ…トランクス…」
さらに背後から聞こえたその声を聞いて、トランクスは横目で後ろを見た。先ほどまで倒れていたサザンカが膝をついて立ち上がろうとしていた。
「テメェ…アタシの喧嘩相手を取るんじゃねぇよ…!」
「しかし、サザンカちゃん…ここはオレに任せてくれ…何も君だけが戦う必要はないんだ」
だが、トランクスがそう諭すも、逆にサザンカはさらに怒りを募らせて立ち上がろうとする。それを見たトランクスは、仕方がないと言った様子で続けて口を開く。
「もう君にはすがらない。たとえ君が戦おうとも、この男には勝てないだろうから」
「な、何だとォ…!」
反論しようとするサザンカ。その瞬間、月夜見王は一瞬にしてトランクスの目の前に接近し、拳を振り上げた。
「何故だかわかるかい?」
が、トランクスはそう言いながら、冷静に月夜見王の動きを読んで拳による一撃を受け流し、その顎へアッパーを喰らわせた。
「一対一の戦いの勝敗を決めるのは何だと思う?体の大きさ、戦闘力の強さ弱さじゃない」
さらに怯まず反撃を仕掛けてくる月夜見王の腕を掴んで背後に回り、肩の関節を決めたまま地面に叩きつけるトランクス。すぐさま上へ蹴りを放つ月夜見王だが、トランクスは軽くジャンプしてそれを避け、そのまま後ろへ下がる。
「もちろんそれが勝敗を分ける決め手となることは多い。では体の大きさも力の強さもまったく同じだった場合、何が勝敗を左右するか。それはオレは持っているが君にはないものだ」
起き上がりつつ手の平をかざし、そこから赤黒いエネルギー波を放つ月夜見王。トランクスはもう一度飛び跳ねてそれを躱し、月夜見王の目の前へ着地するとその腹を蹴りつけ、月夜見王を怯ませる。
「オレは…もう地獄のような未来を見るのはたくさんだ。そして君たちにも、絶望の未来を辿ってほしくない。それを防ぐためなら…正しい歴史を守るためなら、オレは”命を懸ける覚悟”を決める!!」
トランクスは両手を敵に向けて掲げ、その手を高速で動かして気を練り上げ、強力な光弾を発射した。
「オレにはタイムパトロールとして事態の収束のために命を懸ける覚悟がある!君に頼みごとをしている責任がある!だのに君に戦うなと言われ、隅に押しやられるこの口惜しさが…わからないのか!?」
サザンカはハッとして口を開こうとする。
光弾は月夜見王に迫っていき、寸前で顔を上げてそれに気付いた月夜見王は両手でそれを受け止める。しかし、彼の踵がずるずると後ろへ下がっていき、腕の血管が浮き出るほどにパワーを込めても押されてしまう。
そこで、月夜見王はそのままの状態で全身にエネルギーを漲らせ、ドーム状の爆発を起こす「月破」を発動しようとする。
「まずい…トランクス!それを撃たせるな!」
サザンカの言葉を聞いたトランクスは、すぐに月夜見王の頭上へ飛び上がり、その頭頂部目がけてさらにエネルギー弾を撃ち込んだ。
それが直撃した月夜見王は放とうとしていた爆発のエネルギーを制御できなくなり、それを体内で暴発させてしまう。結果、小規模の爆発が月夜見王を包み込み、トランクスの攻撃の炸裂も相まってその場が吹き飛んだ。襲い来る爆風を受けてサザンカはその場に踏ん張り、アザミも地面に手を突いて吹っ飛ばされないようにこらえる。
…まだ煙が立ち込め攻撃の余韻が残る中、トランクスは静かに降り立ち、月夜見王の姿を探す。煙が晴れてくると、そこには仰向けに倒れ込んだ月夜見王の姿があった。
「何とかなったか…」
トランクスはそう呟くと、月夜見王の胸に浮き出ている暗黒ドラゴンボールを見る。
「アンタ、やっぱ強いんだな…」
サザンカは肩を押さえて立ち上がり、トランクスに声をかける。彼女にも思う所があったのか、伏し目がちでおとなしい。
「まあ、オレにも色々あったからね…」
「な、何がなんだかよくわかんねぇけど…これで一件落着なのか?」
アザミも人知を超えた戦いの終わりを感じ、そう言った。
「月夜見王の異常なパワーアップ…前のガーリックの時も同じ感じだったが…何が起こってる?」
と、霊夢も近づいてきてサザンカたちにそう尋ねた。
「すみません。詳しい事は言えないんです…ですが、これで正しい歴史に戻ろうとする”自浄作用”が働いて、未来に与える影響は限りなく少なくなるはず。はやくドラゴンボールを回収して元の時代に戻ろう」
だが現在の歴史に存在する人物との接触はなるべく避けたいトランクスは霊夢にそう言うだけで詳しい事情を説明せず、いち早くこの場を去ろうとサザンカに促す。サザンカはドラゴンボールを回収しようとしているが…
「…いや、前の時は気付いたらドラゴンボールを持っていたんだけど、今回はそうならねぇんだなって思ってよ…」
「…まさか」
霊夢が呟く。それを聞いたトランクスも、自分の爪が甘かったと気付いて表情を強張らせた。
次の瞬間、予想通りの最悪な事が起こった。月夜見王の胸に埋め込まれているドラゴンボールが突然震え出し、同時に赤黒い瘴気を発し始めたのだ。さらに、暗黒ドラゴンボールを中心にして彼の胸を覆っていた赤黒い筋はまるで大木が根を張っているかのようにみるみる大きくなり、月夜見王の上半身を広範囲に渡って覆い隠し、その顔面をも覆い隠した。
「ウオオオオオオッ!!」
雄叫びと共に起き上がる月夜見王。赤黒い膜のようなものに包まれた上半身は変貌しており、顔の位置には裂けた口と一対の黄色い目が覗いていて、かろうじて先ほどまでの面影を残しているのは頭髪とその体格だけである。
「フハハハハハッ!素晴らしいパワーが満ち満ちておるわ!」
その外見とは裏腹に、ハッキリとした意識を取り戻した月夜見王は高らかに笑う。そしてトランクスの方に顔を向けると、不敵ににやりと笑った。次の瞬間、一陣の風と共に瘴気の尾を残しながら月夜見王はトランクスの背後へ回り、肘による一撃を後頭部へ叩きこんでいた。
「ぐあ…!」
うめき声を上げながらうつ伏せに倒れ込むトランクス。超サイヤ人化も解かれ、髪が元の薄い紫色に戻る。
「トランクス!」
サザンカがそう言った瞬間、月夜見王はサザンカの顔面をぶん殴り、吹っ飛ばした。そして辺りを見渡し、残る霊夢とアザミの方を向くも、彼女らに対しては一瞥をくれて鼻で笑うだけで何もせず、そのまま月夜見王はどこかへと飛び去ってしまった…。