霊夢は夢想天生を解除し、目を開いて元の姿に戻る。
「いってて…あの野郎…!すぐに追いかけてぶちのめしてやる!」
月夜見王に殴られたサザンカは、真っ赤に腫れて膨らんだ左頬をさすりながら立ち上がる。側にはうつ伏せに倒れたまま気を失っているトランクス、そして霊夢の側にはアザミもいる。
「あんた、ちょっと!」
霊夢はサザンカを呼び止めた。
「月夜見王が向かったのはこの槐安通路の入口の方…!きっと、永琳を追いかけて行ったに違いないわ」
「えいりん?誰だそりゃ」
「月夜見王が異様に執着してる、私の仲間よ。月夜見王の目的の一つが、その永琳の確保だった…」
月夜見王の主な目的は、ドラゴンボールの入手、幻想郷の浄化、そして八意永琳と蓬莱山輝夜の身柄確保。ドラゴンボールは既に手に入れ月夜見王はああして若返り、幻想郷の破壊という名の浄化も既に終えている。加えて月夜見王は自分の手で自らの治める月の都を破壊し、同時にエネルギー供給装置ツキノカクも消し去られた。だからもう永琳たちを連れて行く必要はないはずなのに、異様なほどに彼女を捕らえることを目指している。
その理由を、霊夢だけは気付いていた。さっき月夜見王に触れた時にその思惑を読み取ることができたからだ。
「罪人として蟇蛙の姿にされた娘を元に戻すために永琳の力を借りたいのよ。きっと、アイツにとっては若返ることも、幻想郷を破壊することもそれほど重要じゃなかったはず…。全ては娘を戻したいがために、ここまでの騒ぎを…」
それを聞いていたアザミが立ち上がって口を開いた。
「オレはここでトランクスを見てるから、サザンカ…テメェはあの月夜見王とやらをぶっちめてこい」
「アザミ…」
「あの野郎、さっき…俺の事をゴミを見るような目で見て…鼻で笑いやがった…できる事なら俺も行って百万発ぶん殴ってやりてぇ!でも悔しいが…俺はこんなトコロじゃクソほどの役にも立たねぇって事は分かった…。死ぬほどムカつく事だが…ここはテメェに暴れてもらうしかやりようはないんだろ?」
アザミの言葉を聞いたサザンカは、にやりと笑った。
「ああ、暴れてやらぁ。気が向いたらな!」
その様子を見ていた霊夢は、サザンカの姿にカカロットの面影が重なったのを見た。
(似てる…)
そういえば、カカロットはあの場所に残してきたきりだ。もう夜明けまで数分とない…槐安通路と幻想郷の出入り口も永遠に閉じてしまうだろう。しかし…あのトランクスという戦士たちも取り残されてしまう。
(いや、月夜見王を倒せば、後でいくらでも救出の方法を探せる…!それまで待っててもらうしかない。今は一刻も早く、月夜見王を倒さなくては…!)
霊夢とサザンカはその場を後にし、月夜見王を追いかけるのだった。
一方、聖輦船に乗って槐安通路を脱出した永琳と輝夜。もう東の空には太陽が僅かに顔をのぞかせており、夜明けの到来を迎えていた。
「夜が明けた…という事は、槐安通路は永久に閉じ、戦いは終わったという事…」
永琳はそう言いながら、静かに目を閉じた。
しかし、何かが猛烈な勢いでこちらへ接近してくる気配を感じ取り、何かを察して慌てたように冷や汗をかきながら聖輦船の窓の外へ顔を向ける。ただならぬ永琳の警戒を輝夜も感じ、同じくそちらを向いた。
「ふはははははァ!!ついに見つけたぞォ、八意永琳ンン!!」
そこには赤黒い悪魔のような姿に変わり果てた月夜見王がすぐ近くにまで迫っていた。
「お前はまさか…月夜見王!?」
月夜見王は背中から黒い帯状の物体を伸ばして操り、聖輦船の窓を突き破って中の永琳を巻き取り、壁を破壊して外に引きずり出した。
「永琳!」
輝夜が手を伸ばすも届かなかった。月夜見王は帯に巻かれて拘束された永琳を肩に担ぎ、朝日をバックに輝夜の前に降り立つ。
「カグヤ・モトナルヒメか…八意の身が手に入った今、もはやキサマなど必要はない。どれ…今ここで消してくれる」
月夜見王は手の平にエネルギー弾を作り出し、それを輝夜に向けて構える。
「うそ、槐安通路の出口が…」
槐安通路と幻想郷の出入り口までたどり着いた霊夢とサザンカ。てっきり出入り口が閉じる寸前ぐらいかと思っていた霊夢は、目の前にある破壊された出入り口を見て驚いていた。何かに無理やりこじ開けられたかのように出入り口が広げられていたのだ。
「月夜見王、閉じるはずだった出口をぶっ壊すなんて」
「まあ都合がいいじゃねえか、こうしてアタシ達も通れるんだろ」
月夜見王は輝夜に最後の言葉をかける。
「カグヤ…お前は1000年前から我ら月の民にたいして迷惑をかけ続けてきたな。だがそれも今日までだ。何か言い残すことはあるか?」
「くっ…!」
そして今にもエネルギー弾を発射しようとするが、背後から急接近してきたサザンカに後ろから組みつかれ、腕が空へ向けられ、その拍子にエネルギー弾を放ってしまう。その隙に、霊夢は永琳を捕らえている月夜見王の黒い帯を切断し、彼女を開放した。
「霊夢!と…誰!?」
「サザンカってんだ、覚えとけ!」
そのまま首に腕を回して締め上げるが、月夜見王は背中に手を回して無理やりサザンカを引きはがし、聖輦船の甲板に向かって投げ飛ばし、叩きつけた。
「ここまで俺を追ってきたか。だが先ほども何もできなかった貴様が、ここへ来て何かできるとでも?」
「うるせぇな。こっちゃ、覚悟ってやつを決めるのに忙しいんだよ!」
サザンカは超サイヤ人に変身し、月夜見王に殴りかかった。月夜見王はそれを受け止めて反撃のパンチを繰り出し、両者は激しい攻防戦を繰り広げる。
「よし…」
霊夢は永琳を聖輦船の甲板上に戻す。
「あの子は誰なの?」
「さあ、わかんないけど…結構頼りになるやつよ!」
「ハアアッ!!」
月夜見王は赤黒い瘴気をエネルギー弾として手の平から放ち、サザンカは両腕を体の前で交差させてそれを受けながら月夜見王へ接近し、隙を見て素早い回し蹴りを繰り出した。月夜見王も片腕を掲げて受け止め、反撃のパンチを放つ。拳はサザンカの頬を掠って傷をつけるも躱され、サザンカはさらに体をひねって二撃目の回し蹴りを首へヒットさせた。威力による衝撃波が反対側へ突き抜け、サザンカの髪が揺れる。
「どうだ!」
が、月夜見王はサザンカの足を掴み、そのまま持ち上げて勢いよく振り下ろし、構えていた膝に背中を激突させた。
「ガハッ…!」
思わず唾を吐き出し、激しくむせる。月夜見王は肘鉄を振り下ろそうと構えるが、サザンカは間一髪で逃げだすと同時に月夜見王の顔面へ気功波を命中させた。
「おめぇら、はやく逃げろ!」
サザンカは霊夢と永琳たちにそう言った。しかし、サザンカは直後に月夜見王に後頭部を掴まれ、そのまま聖輦船の甲板に突っ込んだ。
「きゃあっ!」
霊夢たちが悲鳴を上げ、ダメージを受けた聖輦船は大きく傾き、煙を上げながら地面へ向かって落ちていく。
(まずい…中には魔理沙たちがいるのに…!)
霊夢は咄嗟に聖輦船から飛び降り、その落下する地点へ先回りし、八角形の結界を展開して受け止め、墜落を防いだ。が、月夜見王のパワーも乗っている船の勢いは止められず、結界は千切れて破られ、聖輦船は地面に滑り込むようにして不時着した。
「逃がさんぞ八意ォ!!」
月夜見王は船の中から永琳を探し出そうと、構えるが…
「うおおおおッ!!」
サザンカは月夜見王を殴り、注意を引いてその隙に彼の元から離れようとする。だが月夜見王はすぐにそれに追いつき、サザンカへ反撃のパンチをぶつけて吹っ飛ばした。
(クソ…デタラメに強えぇ…!どうやりゃあコイツとの喧嘩に勝てるんだ?)
そう考えている間にも月夜見王の追撃を腹に受け、それを皮切りに次々と猛攻を叩きこまれる。
(そうだ…さっきのトランクスの変身…あの金髪になるのは超サイヤ人っていうんだっけ…?)
サザンカはトランクスが超サイヤ人になった時の様子を思い出す。思い返せば、トランクスの超サイヤ人と自分が変身する超サイヤ人に見た目の差異のみならず明らかなパワーの違いがあることに気付く。
(同じ超サイヤ人でも、アイツの方が明らかに上だ。いわばバージョンアップしてさらに強くなった超サイヤ人…”超サイヤ人2”ってところか?アタシがそれになれれば…どうなる!?)
月夜見王の一撃を掴んで受け止めるサザンカ。
「さっきからバカスカ殴りやがって…!そんなに、あの永琳とかいう女が欲しいのか?そうまでして娘を元に戻してやりてえのかよ…?」
その言葉を聞いた月夜見王は硬直し、釣り上がっていた口が初めて歪んだ。
「当たり前だ…あの子は自分の欲の為にあの薬を飲んだわけではない。だのに月の賢者共は…」
その頃、槐安通路の中では、気を失っていたトランクスが目を覚ましていた。
「うう…」
「おお、気が付いたかアンタ!」
呻きながら目を開けたトランクスにアザミが声をかける。
「サザンカちゃんたちは!?」
「サザンカは向こうにあるって言う出口の方へ行ったぜ。逃げた月夜見王とかってヤロウを追いかけてな」
「そうか…すぐに追いかけよう」
トランクスが立ち上がってそう言った時、背後に何者かがやって来た気配を感じ、振り返った。そこには、不思議な雰囲気を漂わせた見知らぬ三人組が立っていた。ひとりは薄い桃色の髪を後ろで束ねた女性、ひとりは金髪の上に紺色の帽子をかぶった女性、そして最後に背中から片翼を生やした銀髪の女性だった。トランクスはこの三人が先ほどの月夜見王と似た気の質をしているのに気付き、身構えるが、どうやら敵意はなさそうだった。
「あなた達は…?」
「我々は月より参った使者。我が姫君、嫦娥様の頼みを聞いてくだされ」
すると、そこには茶色い蟇蛙が静かにたたずんでじっとこちらを見上げていた。
「なんだ…?このカエル…」
「初めまして、私は嫦娥と申す者です。王の元へ行くというのなら、私を連れて行ってください」
嫦娥は蟇蛙の姿でありながら人の言葉をしゃべり、トランクスとアザミにそう言った。