もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第332話 「それは月の王たらん」

「ちょっと待てコラァ!!」

 

月夜見王を追い詰めたサザンカが最後の一撃を見舞おうとした瞬間、突如乱入してきたアザミのパンチがサザンカの顔面を打ち、不意を突かれたのも相まってサザンカは吹っ飛ばされ、地面を転がった。

 

「テ、テメェ何しやがんだ!」

 

サザンカは起き上がり、そう怒鳴る。その様子を見ている月夜見王は状況が読めずに唖然としながら立ち尽くすだけだ。

 

「うるせぇ!なぁ月夜見王とやら!」

 

「…な、何だ?」

 

サザンカを一蹴し、話しかけてきたアザミに対し月夜見王は我に返って返事をする。

 

「あっちの方でアンタの娘…嫦娥と八意さんが待ってる!そんなバカ女ほっといて早く行ってやれよ」

 

「何だと?嫦娥がいつの間に…」

 

「だが話を聞く限り散々な騒ぎを起こしたアンタに好きにさせてやる訳にはいかねぇよなあ、落とし前ってもんを付けなきゃならねぇ。そこでだ、このオレと”走り”で勝負して、俺より先に娘の元へたどり着いて見せな」

 

アザミはそう言いながら今にも走り出す構えを取った。

 

「オイオイ、お前何言ってんだ」

 

サザンカが突っ込む。

 

「オレは車やバイクに乗るのが好きだが、自分の足で走るってのも大好きなんだぜ」

 

そして遠くを指差し、その方向へ走り出してしまった。ポカンとしていた月夜見王だが、ようやくアザミの言っていたことを飲み込むと彼もまた走り出す。

 

「ふん、地上人如きがこのわしに敵うものか!」

 

月夜見王は一瞬でアザミに追いついた。

 

「おっ、やるな!だったら俺も本気で行くぜ!」

 

アザミは速度のギアを上げ、再び月夜見王と距離を離す。それに驚く月夜見王もさらに速度を上げてアザミに追いつき、ふたりは並走する。

 

(負けない!わしは負けない!負けたらまた…)

 

「わしの愚か者が、あまりにも流されっぱなしだろう!色んな奴らに振り回されて…」

 

「その意気だぜおっさん!」

 

ふたりはしばらく拮抗した走りを見せる。と、ここで月夜見王は何かおかしい事に気付く。月の民である自分が全力で駆けているというのに、ただの地上人であるはずのこの大きな女は自分に食らいついて来ながら全くペースを落とさない。

 

「貴様…何故地上人の癖にわしに喰らいついてこれる…?さっきのあの小娘を殴り飛ばした時にも思ったが…並の地上人では到底成せぬ芸当だろう…」

 

「あー…まあ色々あってな…」

 

 

───

 

オレ、小さいころはすっげぇ気が小さくてよ…ナリだけデカくて太ってたし、いつもトロかったから「トロミ」って言われて揶揄われてて、女子男子問わずいっつも大量のカバン持たされてぶたれたりしてた。同じクラスだったサザンカは昔も変わらずあんな調子だったから喋ったこともなかったな。

 

そんなある日、捨て猫をクラスのみんなが拾ってよ…学校に内緒で飼ってて、家に帰っても面白くなかったオレは特にかわいがってた。でもよ、いつだったか…オレがいつもみたいに猫がいる場所に行ったらそこには…猫がピクリとも動かずにぐったりしてた。

側にはこっちを見て笑ってるクラスの男子共…そいつらは特にオレをいじめてた奴らで、高校生のアニキと一緒に面白半分で犬をけしかけてたんだ。

オレが小っちゃくなった猫を抱いて泣いていると、ひとりがオレの頭を蹴った。その時、何かが切れる音がした。

 

オレは無我夢中でタメの奴らに掴みかかって全員ぶん殴った。でも高校生には敵わずに蹴り飛ばされた瞬間…そいつの連れていた犬が突然空高くすっ飛んでいった。

サザンカだった。ヤツは犬をブン投げて高校生の足を掴んで壁に叩きつけた。

 

「犬もテメェも殺すぞ」

 

サザンカはそう言いうと、血だらけになった男子共も高校生は逃げていった。

 

あとでそのことは学校にバレたんだけど、オレは特に何も言われなかった。サザンカが「アタシが全部やった」って言ったらしい。

でもその代わり、陰険ないじめがよ…。

 

「知ってる?トロミって理由もなくすぐにキレるんだって~」

「こわ~」

 

オレは、オレを遠ざけていくクラスの奴らを見てた。

でもそんな時…

 

「ジャマなんだよトロミが!」

 

サザンカが突然オレの机を蹴り飛ばしてそう言った。驚いたオレは尻餅をついて…

 

「サザンカ…」

 

「テメェの頭蹴って、猫も殺すぞコラァ!」

 

「何だとォ…!?」

 

それからだ。ヤツとオレがケンカばっかするようになったのは。それからオレはまだ元気だった親父に空手と柔道習って強くなった。

ヤツはオレを荒っぽく引きずり立ててくれやがったんだ。

 

───

 

 

「まあそんなこんなで、あんなバケモノみてぇな女と毎日のように殴り合ってんだ…こっちだってバケモノ染みてくるのも当たり前だよなぁ」

 

「なるほどな…あの小娘や貴様のように肉体と精神共に屈強で高潔な地上人も存在するらしい…」

 

アザミの話を聞き終えた月夜見王は穏やかな顔でそう呟いた。胸にはまった暗黒ドラゴンボールを中心に上半身全体に及んでいた暗黒の瘴気の浸食は徐々に小さくなり、赤黒い筋も薄くなっていく。

 

「それにしても、あの小娘はサザンカというのか。あの者の拳は、わしによく効いた…まるで骨の髄から揺さぶられるようだった。しかし、きっかけはサザンカでも…わしを真に正気付かせたのは貴様だ。名は何という?」

 

「オレはアザミってんだ」

 

その時、月夜見王の胸から暗黒ドラゴンボールがポロリとはずれ、地面を転がった。月夜見王はそれに気付くことなく、アザミと共に幻想郷の草原を走り続ける。

 

「しかしそれはそれだ!わしは嫦娥を救うために、絶対に八意を手に入れなければならん!」

 

「ああ、オレだって走り屋だ!足の勝負だって負けねぇぜ!」

 

速度を上げる月夜見王をアザミが追い越し、それをさらに月夜見王が追い越し、アザミがまた追い抜き返し…。そんなこんなで競争を続け、遠くに聖輦船の残骸が見えてきた。聖輦船の甲板上に先にたどり着いたのは…

 

「よし、わしの勝ちだ…!?」

 

息を切らし、足を止めた月夜見王の目の前には、八意永琳本人が立っていた。

 

「八意…!」

 

「月夜見王、話は全て嫦娥から聞いたわ。最初からそう言ってくれれば協力もしたのに」

 

微笑みながらそう言った永琳に対し、月夜見王も思わず疲れたような笑みを浮かべて言った。

 

「そうか…」

 

「父上!」

 

そこへ蟇蛙の姿をした嫦娥が現れ、父親の姿を見て嬉しそうに飛びついた。それに気付いた月夜見王も最愛の娘を胸に抱きしめ、幻想郷に訪れた朝の陽射しに照らされながら戦いを終結させたのだった。

 

「あの、アタシは?」

 

月夜見王に寄生していた暗黒ドラゴンボールを拾ったサザンカは、遅れて戻って来てからポツンとそう呟いた。

その時、トランクスとサザンカ、そしてアザミの体の周りに光の粒が舞い始める。

 

「この時代のドラゴンボールは回収したから、ドギドギが元の世界へ戻してくれるんだ」

 

三人の体は徐々に薄くなり、消えようとしている。

 

「ちょっと待って!」

 

と、そこへ霊夢が駆け寄り、サザンカに声をかける。

 

「やっぱりアナタはガーリックの時に会った人よね!?なんでいつも私たちを助けてくれるの?どうして…」

 

──アナタはカカロットに似ているの?

そう聞こうとしたが、何故か言葉に詰まり、思うように声が出ない。

 

「…また、いつか会えるかしら?」

 

言葉を変え、最後にそう尋ねると…

 

「…ソイツぁ勘弁だ。ごくろーさん」

 

サザンカは口ではそう言ったが、その微笑みはまるで木漏れ日のように暖かかった。

そして、トランクスたちは元居た時代へ帰還するのだった。

 

 

その日の昼過ぎ。

カカロットが二星龍に頼んだ願いによって生き返った幻想郷の住民たちは、月の客との戦いに勝利したのだと知り、喜んだ。しかし、博麗神社の境内にて、そこには幻想郷の賢者たちが揃い、それに加えて霊夢に永琳と輝夜、さらに月夜見王と嫦娥の姿までもがあった。

そして、霊夢の前に置かれた一星球からは見事な黄金の龍、一星龍が飛び出し、静かにたたずんでいる。

 

「…霊夢よ」

 

シュネックは重々しく口を開く。

 

「確かに、わしはお主に最高の一星球を使わせてやると言った。しかし、今言った事は真か?願い事は月の都の完全復活である、とは」

 

さらに、彼の隣に居たガーリックも前に進み出る。かつて宮殿での戦いで霊夢たちに敗北したガーリックも、今回の月の客との戦いで活躍していた。

 

「私は認めんぞ。今回の事件を引き起こした首魁であるその月夜見という男が何故ここにいる?」

 

「まあいいじゃない。コイツも反省してることだし、今は一刻も早く帰る場所を元に戻してあげないと。さあ龍神よ、破壊してしまった月の都を元に戻せるかしら?」

 

「…容易い事だ」

 

一星龍の眼光が空に昇り、弾ける。次の瞬間には、月夜見王が咄嗟に破壊してしまった月が復活を遂げていた。

 

 

「あれ…ここは?」

 

「姉さん、確か私たちって…」

 

「この不動紡馬、困惑の至りである!」

 

同時に復活した月の都では、なんと月夜見王親衛隊の三名を含めた月の客の兵士たちまでもが一斉に生き返っていた。月もろとも消滅した玉兎や都の一般市民たちも、彼らは皆不思議そうに周囲を見渡し、目をパチクリさせている。

 

 

「…よかった」

 

一方、槐安通路内にて事の成り行きを見守っていた綿月依姫と豊姫、そして稀神サグメは槐安通路の彼方に再び姿を現した満月を見て、安堵のため息を漏らすのだった。

 

 

「月の住民たちは特別サービスで蘇らせた。願いは叶えてやった…ではさらばだ」

 

一星龍は珠に吸い込まれるように消え、一星球は石になって転がった。

 

「さーて、これで一件落着!私は疲れたからどかっと眠らせてもらうわー」

 

どよめく周囲と、そして静かに敬意を込めて頭を下げている月夜見王らをあえて無視し、霊夢は神社の中へと入っていった。

 

 

…結局、あの後槐安通路に行ってみたが待たせていたはずのカカロットの姿はどこにも無かった。死んだわけじゃないと思うけど、またいつかフラッと姿を現すだろう。大方、どこかへ行って修行だ修行だって張り切っているんでしょ。

永琳は速攻で嫦娥の姿を元に戻す薬を作って飲ませた。無事に人の姿へと戻れた嫦娥は嬉しさのあまりしゃがみ込んだように見えたが、単にカエルの時の姿勢に慣れてしまっていた所為らしい。それでも月夜見王は永琳と輝夜に非礼を詫びるとともに感謝を伝え、嫦娥と共に月の都へと帰った。

 

「月夜見王!貴殿は正気であるか!?作戦のひとつも成功させることができずにおめおめと帰投し、挙句には嫦娥姫様の釈放ですと?そのような愚行は我々賢者も、民たちも黙ってはおりませぬぞ!」

 

ツキノカクを使った月の都再興も失敗し、幻想郷の浄化もできなかった月夜見王は議会の席にて賢者たちに詰め寄られる。その横には嫦娥もいた。

 

「月夜見王、如何お考えか!?」

 

「月夜見王!どう責任を取られるのだ?」

 

「月夜見王!」

 

「黙れい!!!」

 

しかし、月夜見王は仁王の如き気迫と共に雷のような怒鳴り声を轟かせる。騒いでいた賢者たちはビクッと震え、身をすくませる。

 

「盛者必衰、どんなに栄えたものでもいずれは滅びる宿命だ!我々には自慢の科学力と、そして玉兎たちからなる崇高な技術がある!それらを活用せずに何がツキノカク等と言う非道な装置を造らせた、それこそ愚行である!それに、貴様ら議会の賢者たちがわしのおらん間に嫦娥とどのような討論を交わしたのかも、密かに議事録を取っていた稀神サグメより報告を受けた!嫦娥の罪状に関しても酌量の余地があるのではないか?」

 

月夜見王は端の席に静かに座っていたサグメを見ながら言った。

賢者たちはどよめきながらも、月夜見王にハッキリと言い返すことができなかった。何せ、この王は今までのようにただ椅子に座って王という地位を与えられただけの傀儡ではなくなっていたから、それに驚いているのだ。

 

「”燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや”!わしは月の王である!このわしにあって、貴様らに無いものが何なのかを教えてやる。それは『覚悟』だ!わしには如何なことがあっても月の都と共に在り、常に一丸となって我が第二の故郷である月と共存するという『覚悟』だ!それが無い貴様らに、この月の都を任せておくことはできん」

 

「父上…」

 

嫦娥はハッキリと豪語する月夜見王を見つめ、静かに呟く。

 

「…だが、覚悟とは誰であろうとも心の持ちよう次第で得られるものであると、わしは地上で学んだ。わしと同じ覚悟を持つ者は、これからも月の王たらんこのわしについてくるがいい」

 

議場は静寂に包まれた。

しばらくしたその時、ひとりの賢者がよろよろと前に進み出て、月夜見王の目の前で跪いた。

 

「月夜見王…」

 

そして涙を流しながらそう呟くと、他の賢者たちも続々とその場で跪き、月夜見王に敬服を示す。

剽悍無比を謳う王、千古不易を謳う王、それは月の王たらん者、月夜見。彼と共に在る限り、月の都は未来永劫、滅ぶことはないだろう。

 

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