もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第333話 「猛追、鬼火を纏いし禍威!」

人が抱く感情の中で最も恐怖すべきものは”恐怖”である。

 

恐怖に支配され盲目となった人間は人柱すら信じてしまうものである。現に、この幻想郷にも、もっと昔の妖怪が跋扈していた時代にも、彼らを鎮め懲らしめてもらうために神に供物として人の子供を捧げる風習があったという。

だがそれも、今ではただの教訓となる昔話に過ぎない。今生きている子供や大人までも、実際にこの地で本当に人柱の風習があったのだ、などとは誰も思ってはいないだろう。

 

「でもそれは本当にあったことなんです…だって、僕は今まで人柱として捧げられてきた子供の怨霊なんですから…」

 

その場にはいない誰かに語り掛けるのは、みすぼらしい風貌をした少年であった。癖のある黒髪の上に手拭いを巻き、青い着物を着ているが、その足先はうっすらと透けている。

 

パキッ 

 

そして、木の幹の影に隠れた少年の耳に、何かが枝を折る音が聞こえてくる。

人に語り継がれる教訓は、当然ながら人柱についてだけではない。修羅の妄執が物の怪となりて、無念の死を遂げた哀れな魂に食らいつく。紫炎の鬼火を纏う禍威はもはや敵無し、”怒気の餓虎(がこ)”などと口伝が残る”禍虎(まがどら)”であった。

 

「ガァルルルルッ…!!」

 

まるで狼や虎を彷彿とさせる四足獣の如き容貌をしているがその大きさは一軒家ほどもあり、体格もガッシリと太く筋肉質で威圧感漂う。全体的に黒い毛並みで肩や背中に白い鬣が生え、その白い体毛が生えた部位からは鬼火のような不気味な紫炎が立ち昇っている。

少年は息を殺して禍虎が過ぎるのを待つが、禍虎は少年が隠れた木を前足で押し倒し、口外へ飛び出した牙を見せるように吠えた。

 

「ゴガアアッ!!」

 

禍虎の額には見た事の無い不思議な球が埋め込まれていた。赤黒い半透明な球体の中に6個の黒い星マークが浮かんでいる。その球は禍虎が咆哮するのに合わせて、まるで生きているかのように脈動している。

 

「うわあああ!」

 

少年は叫んで逃げ出し、禍虎はそれを追い、飛び掛かる。しかし、突然禍虎は顎を下からぶん殴られ、地面を転がった。

 

「何が『ゴガア』だコノヤロウ!!」

 

そうドスの聞いた声で怒鳴ったのはサザンカだった。サザンカが禍虎の顎へアッパーを食らわせたのだった。

体勢を立て直した禍虎は、邪魔をしてきたサザンカに対して牙をむく。

 

「おうおうおう、テメェこのアザミ様を差し置いてサザンカに噛み付こうとしてんじゃあねぇぜこのボケ猫がよォ!」

 

が、空から降っていたアザミが禍虎の頭の上に座り込むような形で伸し掛かり、禍虎は顎を地面に打ち付けるハメになる。

そしてサザンカとアザミは互いに顔を見合わせて頷くと、一斉に禍虎に襲い掛かる。アザミは禍虎の首にしがみ付きながら口の端を掴んで思い切り引っ張り上げ、サザンカは暴れる禍虎の尻尾を両手で掴んでグイグイと引きずり回す。

 

「なんかすごいことになってるねぇ!?」

 

と、そこへカズラと共にやってきたトランクスが驚きながらそう言った。

 

「珍しいっすよ、あのふたりが共通の相手と喧嘩してるの…」

 

カズラもしっちゃかめっちゃかになっているサザンカたちを見てそう呟く。

しかし次の瞬間、禍虎の体から立ち上っていた紫炎が勢いよく爆発し、ふたりはポーンと吹っ飛ばされ、その隙に禍虎は逃走していったのだった。

 

「ああっ、ドラゴンボールが逃げた!!」

 

暗黒六星球に寄生されたままどこかへ消え去った禍虎の気配は全く感じられない。人間よりも気配を断つことが上手い動物であるからこそだ。

 

「チッ、どこ行きやがった?」

 

「君は大丈夫かい?」

 

トランクスが腰を抜かしている少年に手を差し伸べた。少年はそれを握ろうとするも寸前で手を止め、それを不審に思ったトランクスが少年の体をまじまじと見ると、そこでようやく少年の足が透けていることに気づく。

 

「き、君…もしかして…」

 

「はい…僕はこの山に棲む怨霊なんです」

 

「お、怨霊!?」

 

その会話を聞いていたアザミが青ざめる。

 

「オイオイ、てっきり例の暗黒ドラゴンボールに寄生された野郎をぶっ飛ばしに来たつもりが、なんで幽霊なんかと遭遇しなきゃいけねぇんだ…!」

 

「へっ、ビビり…」

 

そう小さな声で言われて胸ぐらをつかむアザミとそれに抵抗するサザンカの静かな争いが起こるも、トランクスは困ったように腕を組む。

 

「にわかには信じられないけど…ここには不思議な種族が多く暮らしているようだからね。さっきのような怪獣もいることだし、不思議じゃない」

 

「見た感じは怨霊っぽくねぇけどなぁ」

 

「というか、それよりもあの虎を探さなくちゃいけないんじゃ?」

 

と、カズラが言った。

 

「あの、それでしたら…きっとあの”禍虎”は遠くへ行ったとしてもいずれは僕の前に現れると思います」

 

「え…それはどうして?」

 

「ここ数日、ヤツに追いかけられてわかりました。禍虎は死んだ生き物の魂を食べる獣です。それもきっと、僕みたいな怨霊になるほどの負の念がこもった魂を一度目をつけたらそう簡単にあきらめるとは思えないんです」

 

少年は続けて説明した。

 

「僕はずっと昔に怨霊になってこの山を彷徨っていました。その時のことはあまり覚えてませんが…長い悪夢を見ているような感じでした…。僕がこういう風に普通に話せるようになったのはここ1週間くらい前からです。理由は判りませんが…」

 

「不思議なこともあるもんだなぁ」

 

「とにかくいいじゃないですか、その怨霊についてればいずれあの虎野郎も来るってことでしょ?」

 

「ああ、早く来やがれ…はやくこんな幽霊とはサヨナラしてぇぜ」

 

トランクスたちはそう言いながら一息つこうとするが、サザンカは少年に近づき、その腕を掴んで引っ張り上げた。

 

「おめぇ、子供だろ?なんで死んだんだよ」

 

「えっと…ずっと昔に人柱っていって、山に生贄を捧げる風習があって…」

 

「それで死んだってか?けっ、バカかよ…怨霊になるってことはおめぇはそれに納得いってなかったんだろ?いいか、死にたくなけりゃ殺される前に殺してやるくらいの気合で行けや」

 

「おいサザンカ、それは厳しすぎるだろ。当時は本当にそういうことが信じられてて、ひとりの子供がそれに反抗できたはずもねぇ」

 

カズラはサザンカに対してそう言い、今の言い方を咎めようとする。が、サザンカはそれに取り合うことなく言葉を投げる。

 

「うるせーい。アタシらもそうだが、ガキってのはこれからいろんなことを経験して、それをまたガキに伝えていく義務があんだよ。”しょうがない”なんて理由で死なされちゃ、ダメなんだよ」

 

サザンカの顔には微かな怒りの色が見え、その胸中には姉であるシロナの顔も浮かんでいた。サザンカがシロナを嫌っている理由の一つに、「しょうがない」という理由で自分を犠牲にしようとしたことがあるからかもしれない。

また、少年もその記憶の中に生前の情景が少しだけ呼び起こされていた。当時の大人は「しょうがない事」として自分を生贄に選んでいた。しかし、サザンカの考えを聞いて少しだけ思うところがあったのか、驚いたように硬直する。

 

ゴゴゴゴ…

 

しかし、突如として響いた地鳴りと振動によってその場の全員がバランスを崩した。

 

「な、何だぁ!?」

 

「この気は…まさか、暗黒ドラゴンボールの瘴気!?」

 

トランクスがそう言った。

 

「禍虎の野郎が来たのか!」

 

「いいや、アイツとは比べ物にならねぇくらい強えぇぞ!」

 

そのとき、周囲の木を押し倒しながら彼らのすぐ近くの地面が捲れ上がり、渦のような瘴気を纏った何者かが勢いよく飛び出し、目の前に降り立つ。

突風の様に吹き付けてくる瘴気もだんだんと薄くなり、謎の人影の全貌が明らかになる。腰あたりまで伸びた白髪をなびかせ、下腹部には一つ星の暗黒一星球が埋め込まれ、そこを中心として下半身全体が赤黒く染まり、それは顔を含めた上半身にまで血管の様に走っており、背中からは赤い体毛に覆われた細長い尻尾のような器官を5本生やした、真っ裸の女だった。

 

「妖怪は(みなごろし)じゃあ」

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