もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第336話 「眠れ宿痾よ目覚めは遠く!」

紅蓮にリベンジを果たすべく再び現れたサザンカは、鋭い目つきでじっと紅蓮を睨みつける。対する紅蓮は直立したまま、仏頂面で視線を返すだけだ。

 

「リベンジいいか?」

 

そう言うサザンカは、全身から白いオーラを放っている以外は普段と大した変化はなく、超サイヤ人にも変身していない。

 

「…バカが」

 

次の瞬間、最初に仕掛けたのはサザンカだった。前のめりに上体を倒しながら一気に紅蓮へ駆け寄り、腕を後へ引いて拳を振りかぶる。しかし、既にその段階で紅蓮はサザンカの顔を手の平で押し、はじき返す。

後ろへ飛ばされるも地面を蹴って再び飛び出し、再び紅蓮の目の前へ迫る…と見せかけ、サイドへ回って腹這いになると同時に足払いを繰り出し、紅蓮の脛に靴の踵をぶつける。

鈍い音が地面を震わすほどに響くが紅蓮は身じろぎひとつや顔色を変える事すらせず、サザンカの腹へ足の甲をくっつけ、「蹴り飛ばす」のではなく、まるで邪魔な布団を退かすかのように「押しやった」。

 

「何しやがんだコラァ!!」

 

サザンカは額に青筋を浮かばせ、怒鳴りながら殴りかかる。

紅蓮は思った…サザンカはいくら腕っぷしが強く多大な戦闘力を持っていても、戦闘の素人である。怒ることによって攻撃のリズムが乱れ、無駄な力みが入ったことで逆に精度が落ちている、と。怒りの中にあっても的確な判断力を保つのには訓練が必要である。

また、自分にとっては威力が低くとも有効な攻撃であったサザンカの最初の二撃とは異なり、この攻撃は捌いてやる価値もないと判断した紅蓮は、霊尾の一本をもたげ、ググッと力を込め、サザンカの顔面を打ち砕こうと構える。

 

シュパァ…

 

しかし、紅蓮は驚いた。思わず体が反応して避けることができたが、サザンカのパンチが自身の顔に当たる数ミリ横に突き抜けていった。拳圧による風が髪をなびかせ、紅蓮は霊尾の一本でサザンカを地面に叩き付ける。

 

「チッ…!」

 

サザンカは超サイヤ人に変身しており、紅蓮の反撃を耐えると同時に立ち上がり、顎へ向けてアッパーを繰り出す。紅蓮も容易にそれをはじき返すと、合計5本の霊尾を持ち上げた。

 

ドゥン!!

 

次の瞬間、紅蓮を中心に球状に発生した衝撃波がサザンカを巻き込んだ。地面に小さいが深いクレーターが形成され、その波動と地面とに挟まれたサザンカは口から血を吐きだし、背中を圧迫する衝撃によって体が悲鳴を上げるのを感じた。

 

(なんだ…ッ…!?)

 

紅蓮は放射状に展開した霊尾すべてを地面に叩き付けることで衝撃波を生成していたのだ。だが、この攻撃はこれで終わりではなかった。

地面を叩いた際に生じた振動は、地中に埋まっていた岩石を隆起させ、それに突き上げられたサザンカが宙を舞う。空中で回転して体勢を整え、そのまま急降下すると同時に飛び蹴りを繰り出す。が、容易く霊尾の一本に弾かれてしまう。

 

「まだまだァ!!」

 

サザンカは持てる気をすべて解放し、超サイヤ人2へ変身すると、間髪入れずに大振りな拳の一撃を叩き込む。紅蓮は霊尾でそれを防ごうとするも、サザンカは寸前で攻撃を放った腕を入れ替え、反対の腕で霊尾の間をすり抜けて紅蓮の顔面へ命中させた。

 

「…無駄だ」

 

紅蓮は微塵もダメージを受けることなく、サザンカの腹へ霊尾の一撃を当てて吹っ飛ばす。サザンカは続けて連続で猛攻を繰り出し、それをいなす紅蓮との攻防が繰り広げられる。

 

「大丈夫!?こっちに来てましょう」

 

霊夢は木の影で腰を抜かしていた怨霊の少年の腕を引っ張り、少し離れた場所まで連れて行く。

 

(そうだ…貴様がいくら足掻こうとも、この私には勝てない。何故なら、この私は妖怪を絶滅させなければならないからだ…あの子の人生が最低だったと認めさせないために…)

 

 

 

─────…

 

300年前

 

 

「山の妖怪共の動きが活発だ。何か鎮める方法は無いか、博麗の巫女殿」

 

当時の人里の主が、博麗神社の境内にて紅蓮に問う。紅蓮は手に持っていた箒を握り締めただけでへし折り、そのままバキバキと粉々に砕く。

 

「だから何度も言っている!!私が出向けばあの程度の魑魅魍魎、数秒でバラバラに滅殺できるとな!」

 

紅蓮は怒号を響かせながら里の主を指差す。しかし、主は困ったように紅蓮をなだめようとする。

 

「こちらもそれは困ると言っておろう…。山の妖怪は執念深い…必ず報復を受ける」

 

「ふん…そうなったら私が根こそぎぶっ殺してやる」

 

「近いうちの話ではないわい、いくら紅蓮殿が優れた巫女と言っても人の身だ…寿命もある。奴らは紅蓮殿の死後、我々に牙を剥くだろう。穏便に済ませたいのだ…やむを得ない場合はここはひとつ、贄という手もある」

 

主はそう言うと、紅蓮は何も言えずにその場で考え込む。と、そこへ神社の方から虎柄の猫を抱えた男の子が駆け寄ってくる。

 

「おっ母、トラジが腹減ったって言ってる」

 

「にゃ~」

 

「…腹減ってるのはトラジじゃなくてお前だろう。じゃああっちで待っとれ」

 

紅蓮は猫を連れて戻っていく息子を見届けると、再び主と顔を合わせる。

 

「貴様ももう帰れ。贄をくれてやるというなら全て貴様が手配しろ。できるだけ反省の余地のない罪人を使う事だ」

 

「心得た。考えておこう」

 

…この時の紅蓮は思いもしなかった。この里の主は、初めから供物を捧げることで妖怪を鎮めようとしていたという事を。さらに、供物として最も適しているのが、他ならぬ紅蓮の息子であるという事を。

 

紅蓮は定期的に行う修行の一環として、天界や地獄を巡っていた。そこで己の霊力を研ぎ澄ませ、天人や亡者相手に無謀ともいえる戦いを挑み、戦闘技術も格段に高める。

そんな荒修行を終えて、紅蓮が帰った時には…既に息子の姿が消えた後だった。

 

「紅蓮殿の息子は高潔で、勇敢で、立派な御子であった…。紅蓮殿の血を引く自分が備える霊力であれば必ずや妖怪を鎮めて見せると自ら贄へと進み出て、母へいらぬ心配をかけぬよう…」

 

黙れ、どうでもいい。あれから愚かな妖怪共はちっとも落ち着いていない。無駄な事をしやがって、無意味な事をしやがって、人の子供を無意味に死なせやがって。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。

 

 

殺してやる。

 

 

「紅蓮殿、こんな場所へわしを連れてきてどうしたというのか…」

 

里のはずれにある荒れた田畑へ、紅蓮から呼び出しを受けた里の主は護衛を引き連れてその場でやって来ていた。しかし、呼びつけた紅蓮の姿がどこにもなかった。

不審に思っていると、後ろで何かが動く音がして振り返った。

 

「呼んでおいて待たせるとは何用か、紅蓮殿…!…え!?」

 

そこには、音もなく体を噛み千切られた護衛達の死体が転がっていた。その中央に、夜の闇に紛れるようにして真っ黒な馬面の妖獣が立っていた。馬面は血走った目で牙を剥きだし、口の中に護衛達の肉片を詰め込みながら主に迫り、その体を無惨に引き裂いた。

 

「ブルルルッ…」

 

馬面はその場にしゃがんで夢中で血肉を貪る。が、いつの間にか目の前に現れていた博麗紅蓮に気付き、後ろへ下がりながら唸り声を上げる。

 

「貴様ァ、殺したな?人間を目の前で殺してくれたなァ?」

 

紅蓮は腕の一振りで馬面を絶命させると、その頭部を踏みつぶし、体からにじみ出る霊力を使って焼き焦がして消滅させる。

紅蓮は直接人を殺さなかった。以前より山で幅を利かせていた件の妖怪をこの場へおびき寄せ、里の主を殺させた。

 

「不慮の事故じゃのぉ、人に仇なした以上は私が滅殺してやらんとなぁ。なあ?」

 

 

自分がいない間に息子を人柱にしたクズは妖怪に殺された、事件の中心だったその妖怪も殺した。しかし、紅蓮の気はほんのちょびっとも治まらなかった。

この幻想郷の妖怪を一匹残らずぶち殺すことなど容易い。しかし、それをやるにはチャンスが必要だし、下手に出れば賢者共が黙っていない。それともやるとするならば、他になにか大きな事件を起こしたタイミングしかない。もしも賢者共が私の事を始末しようとするのなら、開き直って何でもやってやる…。

紅蓮は毎日それきりを考えながら日々を過ごした。日に日に憎悪の念が滾っていき、自分でもどうにもできないほどそれに支配されようとしていた時だった。

 

「あ…私は武泰斗と申す者ですが、こんな場所に神社などあったのですね」

 

外の世界から来たその爺は武道家らしく、どうしても封印したい敵がいると言うので私が使った博麗の門外不出の封印術、「夢想封波」を教えてやった。ソイツは夢想封波を自己流に改良して習得し「魔封波」と名付けていた。私はそのままソイツを外の世界へ送り返してやると、さっそく妖怪の賢者共が迫って来た。

 

「紅蓮、門外不出の夢想封波を外の世界へ流したわね」

 

「だからどうした。何が困る。ハッ…まさか外部の人間に妖怪を封印できる術を持たれるのが怖いのか?」

 

今しかない。このどさくさに紛れて殺せる限りの妖怪を殺し尽くそう。一匹、十匹、百匹…。が、千匹まで達する直前で私は捕まり、拷問を受けた。

夢想封波を何者に教えたかについてしつこく聞かれたが私は決して口を割らず、自分の心すらも破壊して閉ざし、封印された。その間、私は想い続けた。

 

(私は諦めていないぞクソどもめ、ここから出られたら必ず殺してやるぞ。必ず、必ずだ、待っていろ)

 

私の封印は七人の賢者が揃う事で強固になっており、復活するには誰か賢者のひとりが死ぬ必要があった。だから私は300年近くもその時を待ち続けた。

だが、それほどの時が経つ頃には、私は何も気にならなくなっていた。復讐の為に妖怪を一匹残らず殺そうと思っていたのに、いざ目覚めたらその気も無くなっていた。このままでは私の人生まで無意味になってしまう。妖怪を殺すためにわざわざ体をボロボロにさせ、憎悪と狂気に身を犯してまで何百年も耐えたのに、何もする気にならない。

しかし…今、この幻想郷には妖怪以上の脅威が迫っている。死んだあの子の人生、そして私の人生に意味を与えるためには、この幻想郷も…そしてこの地に存在する妖怪共も、その脅威に屈させるわけにはいかない。

 

(立ち上がれ博麗紅蓮…300年分の憎悪と狂気で肉体が崩れかけていようとも、全力を出せば滅びるこの身でも…証明するんだ、私たちの人生は最低じゃないって)

 

 

 

─────…

 

 

「だから貴様のようなバカの相手をしている暇はない。山の中に巣食っている脅威はあの戦士たちが片付けるだろう。では私は一刻も早く貴様を倒し、証明しに行かなければならないのだ!」

 

紅蓮は再び霊尾を全て地面に叩きつけ、その衝撃波をサザンカに命中させる。サザンカは全身から血を流し、その膝が折れて地面に付こうとするもギリギリで踏ん張り、立ち上がる。

 

「なに眠ぃ事言ってやがんだテメェ!証明って誰に何を証明すんだよゴルァ!!」

 

「黙れ、口を挟むな!何も成せずにおめおめと死んでいくだけだった人生が最低ではないと、私は証明するのだ!貴様も私を倒すこともできず、何もできずにここで殺されるのだ、最低な人生だったなァ!!」

 

サザンカは飛び上がり、紅蓮の顔面へ頭突きを喰らわせた。それはやはり紅蓮には全く通じていないが、さらに言葉を被せる。

 

「バカはテメェだろ!?アタシの人生を勝手に最低とか評価してんじゃねぇ!アタシのモノサシじゃこれが最高なんだこのヤロウ!!」

 

「モノサシ…?」

 

「何をなのか知らねぇけど、テメェが最低じゃないってわざわざ証明してぇってことはテメェが自分でそう思っちまってるって事だろ!?」

 

「うるさい黙れ!!」

 

紅蓮は怒り、一瞬で宙へ飛び上がると、拳を振りかぶって狙いを定め、サザンカへ向かって真っすぐ降下する。それを見上げたサザンカがキッと紅蓮を睨んだ瞬間だった。

 

カッ… ドン!!

 

晴れているはずの空から落雷が降り、サザンカに命中した。紅蓮は思わず攻撃の動作を解除し、後ろへ飛びのく。落ちた雷はサザンカの体を球状に覆い、やがて散るように消えていく。

 

「…なんだ、その姿と…パワーは…」

 

紅蓮は唖然としながらそう呟く。その目の前には、さらなる進化を遂げたサザンカの姿があった。

 

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