摩多羅隠岐奈の開催した、第二回幻想郷一武道会。予選を勝ち抜き、本戦への出場を決めたのは、カカロット、霊夢、ウスター、美鈴、スカーレット、依神女苑、明嵐、そしてガジュニアを名乗るガーリックの息子の8名。
「ルールを説明いたします。昨年同様に殺しと武器の持ち込みは禁止ですが、今回は飛行や浮遊が許されております。しかし、その状態で移動できる範囲は観客席に囲われた円の内側のみ、高度は300メートルまでと制限があります」
カカロットと霊夢は上を見上げた。おそらく、前回でウスターが紫の力を大きく上回ったために飛行を可能としていたが、今回はその点も改善されているだろう。
「ではさっそく始めます、一回戦第一試合!!選手は入場をお願いします!!」
そして今、第一試合のスカーレットと美鈴が武道館から姿を現した。湧き上がる歓声の中、ゆっくりと武舞台の上へあがり、向かい合った。
「くくく…」
スカーレットは牙を剥き出して笑い、美鈴はそれを見て闘志を燃やした。
「ヤバい奴が武道会に参戦だ!?謎の戦士、スカーレット選手!対するは前大会では惜しくも初戦敗退!その雪辱を晴らせるか、紅美鈴選手ッ!!」
「馬鹿な…スカーレットが…」
日傘を差しながら観戦にやってきていたレミリアがそう声を漏らすのが聞こえた。
「でははじめ!!!」
試合が開始された。
両者は同時に飛び出し、拳をぶつけ合った。ギリギリと力をこめるが、お互いに押し負ける様子はない。
「なるほど、お前も前よりは強くなったようね」
「当然だ…!」
美鈴は拳を離し、もう片方の腕で渾身の突きをスカーレットの腹へと浴びせた。スカーレットが目を見開き、体を震わせる。
しかし、美鈴は何も手ごたえを感じない事に驚きを隠せなかった。
そんな美鈴の顔面に、スカーレットの回し蹴りが直撃する。
「この私の体を見なさい!」
スカーレットは自らの上着を捲って腹を見せた。
「そ、それは…!」
そこには、丁度みぞおちの部分に大きな丸い風穴がポッカリと空いていた。向こう側の景色が良く見える。
「そうか、あの時の俺の不思議な手ごたえはあれだったのか!」
戦いを見ていた天龍がそう理解した。
この傷は以前のカカロットたちとの戦いのなかで、パワーアップの為にレミリアをその身に吸収しようとした際、レミリアに体内から自力で脱出された際に空けられた穴だった。
「この穴はもう塞がらないわ…レミリア達スカーレット家にかけられた呪いの所為でね…だから紅美鈴、お前から死なない程度に肉をむしって、我が傷を塞いでくれるわ」
起き上がる美鈴を見て、スカーレットは不気味に笑った。
「この私の怨念、粉々に喰らうがいい!!」
スカーレットはそう高らかに叫ぶと空高く舞い上がった。空中に魔法陣のような光の壁を作り出し、そこに足をくっつけると、勢いよく蹴って飛び出した。
「!!」
その威力を乗せた、凄まじい速度で繰り出される攻撃を見て、出場者たちも驚いた。爪を伸ばした手を振りかざし、それで美鈴に襲い掛かる。
「これで終わりだッ!!」
「…フッ」
だが、美鈴はうっすらと笑った。向かい来るスカーレットの一撃を、両腕を顔の前にかざして受け止めた。そこを中心に気が電気のようにほとばしり、スカーレットははじかれて後ろへ飛んだ。
「何ですって…!!」
「お前は勘違いしているな、この一年間、私が伸ばしたのは単なる力だけではない。気を使った戦闘の技術を更に高めていたんだ」
「ぬかしていろ!たったこれぐらいで己惚れるつもり?気を使うですって…ならばこちらは魔力だ!!」
スカーレットが空へ向けて片腕を掲げると、そこに緑色の雷のような魔力が集中していく。周囲を照らす程の光る魔力は、徐々に形を変え、巨大な斧のような形状へと変化した。
「『ライエムドアクス』だッ!!」
ジャンプして飛び跳ねると、それを美鈴へ向けて思いきり振り下ろした。しかし、美鈴は腰を低くして構えたままその場から動こうとしない。
そして、ライエムドアクスが美鈴に命中した。魔力の衝撃が周囲を襲い、会場全体が揺れているようだ。
「す、すさまじいですー!一回戦から、何という戦いを魅せてくれるのでしょうか!」
だが、美鈴はライエムドアクスが頭に命中しても、何とか耐えている。やがて美鈴は両腕をかざし、目にもとまらぬ速さで衝撃波を放った。
ライエムドアクスは跳ね返され、スカーレットの手から外れて宙を舞い、やがて消滅した。
「な、何だと…!?」
スカーレットは何が何だか理解できずに、痺れる腕を見つめた。
「何だ、美鈴の奴の雰囲気が違うぞ」
カカロットが腕を組みながらそう言った。
「ふん、その程度でいい気にならない事ね!」
スカーレットの渾身の蹴りが美鈴を襲う。が、美鈴の目がそれを捉えると、片腕で防ぎ、そのまま目にもとまらないカウンター攻撃を繰り出した。
吹っ飛ばされるスカーレットだが、すぐに態勢を立て直し、両腕の拳を前に突き出した状態で猛スピードの突進をしかける。緑色のオーラを纏いながら美鈴へ激突するが、美鈴は両腕をクロスさせて受け止めた。
「なにッ!」
「波!!」
そのまま両腕から気功波が飛び出し、スカーレットを空高く打ち上げた。
空を飛んで着地する暇もないほどのダメージに、スカーレットは無様に武舞台上へ落下した。
「ばかな…」
「1!2!3!…」
審判がカウントを取っていく。
「これが私が編み出した新たな技…その名も『接地拳』!!」
地にしっかりと付けた両足は、美鈴の操る気によって地面に吸着しており、決して大地と一体化した肉体は離れることも動くこともない。そして常に全身を海流のように流れ続ける気は、自身に降りかかる全ての攻撃を見切り防ぎ、的確な反撃を最低限の動作で与える!
その様子はさながら、触れることのできない爆弾!触れれば最後、痛烈なカウンターが相手を襲うのだ。
「接地拳だと…ふざけやがって!」
額に血管を浮き出させながら怒り、さらに攻撃を仕掛けるスカーレット。空中で8の字を描くように飛び回り、すれ違いざまに美鈴へ連続攻撃をぶつける。
が、美鈴の接地拳はそれらの攻撃を全て防ぎ、カウンター攻撃を繰り出している。最早美鈴は敵を見ることなく、半自動的にそれを行っているレベルにまで到達していた。
「あれならもう敵はあの女に勝てないな」
ウスターがそう呟いた。ガジュニアは相変わらず何を考えているのか分からないようなニヤニヤ顔で観戦している。
そして、明嵐はしずかにその戦いを見極めるかのように目を凝らしていた。
「何故だ…何故私の攻撃が効かない!?」
スカーレットは困惑していた。
自分の攻撃がことごとく無効化され、さらには反撃を喰らう。
「く、クッソ~~~!!」
自棄になり、もう一度美鈴へ向けて突進を仕掛けるスカーレット。
ドゴォ
しかし、美鈴は向かい来るスカーレットを、接地拳を解除し横に少し移動することで回避した。そんな…と言うかのように美鈴と目を合わせるスカーレットの胸元に腕を叩きつけ、ラリアットを食らわしそのまま場外へ向けて投げ飛ばした。
場外の観客席の壁に激突したスカーレットは、気を失い、動かなくなった。
「場外&気絶!!第一試合は紅美鈴選手の勝利!!皆さま、素晴らしい戦いに拍手を!」
おおおおおおお…
「ナイスめいりーん!!」
観客席から歓声が沸き上がった。美鈴は一度お辞儀をすると、待機室のある武道館へと戻っていく。
「凄いじゃない美鈴、とんでもなかったわよ」
霊夢が一声かける。
「いえいえ。次の試合は霊夢ですね、頑張ってください」
「ええ、もちろん」
「では、続いて第二回戦を行いたいと思います!選手の方は入場してください!!」
審判がそうマイクで叫んだ。
霊夢と、その対戦相手である明嵐が舞台上に上がった。観客席からは先ほどの試合よりも盛大な歓声が響いた。
「昨年に引き続き出場!今年も手に汗握るような戦いを魅せてください、博麗霊夢選手!!対するは…まだ幻想郷にこんな実力者が居たのか!初出場のルーキー!明嵐選手ッ!!」
二人は互いに向き合った。
明嵐は黒い髪を肩辺りまでそろえているが、前髪だけが短く切られている。面白い髪形だな…と思ってしまった霊夢だが、それはさすがに失礼と思い直す。
「見ない顔ね、でもお互い本気で戦いましょう」
「ええ、よろしくお願いします」
それを聞いた霊夢は少しだけホッとした。今まで誰とも目を合わせず、何にも喋らなかった明嵐が普通に口をきいてくれた。しかも、なかなか礼儀が正しい。
「では、試合…開始!!」
明嵐は格闘の構えを取り、霊夢も同じく構えを取り、じりじりと相手の出方をうかがっている。
「うーむ…」
「どうしたよウスター、いつにもまして神妙な顔して」
カカロットがウスターにそう言った。
「いや、あの女が少し気になるな…」
「そちらからかかってきてもいいわよ」
「え?本当ですか?」
「もちろん。どこからでもね」
「ではお言葉に甘えて…いきますよ?」
明嵐は駆け出し、霊夢に殴りかかった。が、霊夢はそれを軽く避けて見せた。
「ありゃりゃ!」
明嵐は間抜けな声を上げながら勢い余って転びそうになった。しかし、すぐに態勢を立て直し、すぐさま追撃に出た。霊夢はその攻撃を両手を使って防ぎ、明嵐も強力な突きや蹴りを繰り出していく。
「はっ!せい!!」
(やっぱり実力は並の上…なかなか動きもするどいし鍛え込んであるけれど私の敵じゃないわね)
「ふっ」
霊夢は攻撃の合間のスキを縫って、明嵐の顔面へ軽くパンチを入れた。
「がはァっ…!」
顔を上へ向けてよろよろと後ずさる明嵐。
「あ、ごめんなさい大丈夫?」
「へ、平気です。さ、続きを」
明嵐は再び霊夢へ攻撃を仕掛ける。
(…でも何度かかってきても無駄、軽く勝っちゃおうかしら)
パシィン
…次の瞬間、明嵐のパンチが霊夢の頬へ直撃した。霊夢は頬を押さえ、突然の痛みに驚いた。
「…やっと…当たりましたね」
明嵐は拳を突き出したまま、そう言って微笑んだ。