もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第341話 「乗りたい風にゃ遅れるな!」

「やめておいた方がいいわよ。アンタせっかく成績良いんだから、きちんとした大学へ行くべきよ」

 

「そうかなぁ…」

 

オレンジシティという都会の街に存在するオレンジスターハイスクールという学校に通う女生徒であるスイレンは、受験シーズン前最後である進路希望調査を紙を広げて両親と相談していた。

 

「父さんもそう思う。何度も言うように、俺は満足に勉強をやってこなかったからなぁ…今でもちゃんとある程度はやっておけばよかったなって考えるよ」

 

「まあ最終的に決めるのはアンタだから無理強いはいないけど…まだ提出までは時間があるから、よく考えなさいね」

 

「うん…」

 

 

「うーん、迷うなぁ…」

 

私はだいぶ悩んでいた。まあ同じ学年のほとんどの生徒が悩んでいることだとは思うし、ほかの人に比べれば悩みの度合いが小さいかもだけど、とにかく悩んでいる。

確かに、お母さんとお父さんの言う通り、大学へ行ってもっと勉強することも大事だと思う。学力をつけるということは人生を豊かにすることである、って偉い人が言ってるのを聞いた事あるし。

でも、私には夢がある。小学生のころから将来の夢の欄に書き続けてきたことだ。もちろんそれになるには、このハイスクール卒業後に大学ではなく専門学校に行く必要がある。そう、私は大学へ行くか、夢の為に専門学校へ行こうか迷っているのだ。

 

「まあまあ、スイレンってばちょっと悩み過ぎじゃな~い?」

 

「あ、メギ…」

 

この子は私の友達のメギ。

 

「もうちょっと気楽に考えてもいいと思うよ!まだ決定するってわけじゃないんだし」

 

「うーん、まあそうだよね…」

 

「あ、じゃあさじゃあさ、この間掲示板で見つけた神社があるんだけど…ちょっと行ってみない?」

 

「神社?」

 

「そうそう、この間スマホで地図眺めてたら偶然見つけてね?調べても特に詳しいことは出てこなかったんだけど、写真だとかなり廃れてたし…きっと、神様も久々のお参りに喜んで、御利益をくれるはずだよ」

 

「そうだね、今度行ってみよっか」

 

「けってーい!」

 

「ところで、なんていう名前の神社?」

 

「うーんと、ちょっと難しい字だったから多分だけど…『ハクレイ神社』…だったかな?」

 

聞いた事もない神社だった。私も場所を調べてみたら、かなり離れた地区まで何度もバスを乗り継いでいかなきゃたどり着けないような田舎町にあった。

そして、このハクレイ神社であんなことが待ち受けているなんて、思ってもいなかった…。

 

「あ、見てアレ…」

 

メギが突然廊下の窓の外を指差し、私もそちらに目を向ける。窓の外にはグラウンドがあり、ちょうどここから全体が見渡せるのだが、そのグラウンドの隅の方で何やら騒ぎが起こっていた。

 

「うわ~見てアレ…ウチの不良と他校の不良がケンカしてるよ~」

 

「ホントね…」

 

評判の悪いウチの生徒5人が、他校の不良生徒…もしかして女子?と殴り合ってる。といっても、女子の方が一方的に打ちのめしてるだけなんだけど…。女子のほうは丈の短い黒いセーラー服に、足首までかかる長いスカートを履いていて、いわゆるスケバンみたいだ。

女子なのに男子相手に余裕そうだったのは正直すごいと思ったけど、ああやって何でも暴力に訴える人って好きじゃない。

 

 

 

 

 

「さぁ、ついたかな?」

 

休みの日、メギと一緒に例の神社がある町までバスでやってきた。私たちを降ろしたバスはまた次のバス停へと向かっていく。きっと、もうこの町にはバス停がなさそうなので次の街まで行くだろうか。

とりあえず、神社があるという丘のふもとまで歩いてきた。丘…というよりも、Y字に分かれた2本の道路の間にある、小山というような感じだった。Y字の中央に、おそらく参道へと続く道がある。本当に山を切って歩けるスペースを確保しただけのようだが、この道はおそらくこの小山をぐるっと周りながら頂上へと伸びているのだろう。

 

「あ、見て。きっと他にも参拝してる人がいるんだよ」

 

メギが見ている先には、ちょっとした駐車スペースがあり、そこにはえらく装飾過剰なバイクが数台停まっていた。

 

「そ、そうね…」

 

私はそれに嫌な予感を覚えつつも、メギと共に参道目指して小山を登り始めた。

登り始めると、小山を覆う林がちょうど日陰になって薄暗く感じる。

 

「ちょっと気味悪くない?」

 

私がそう言った時、上の方から降りてきた数人のグループとすれ違った。しかし、そのグループの全員が髪を金髪にしたり、逆立てたりしたガラの悪い服装と出で立ちで、ジロリと私とメギを見て去っていった。

 

「あ、あの、やっぱり参拝してる人が他にいたんだ」

 

メギも違和感を覚えたのか、少し声を震わせながらそう言った。でも、お互いに「もう帰ろう」なんて言わず、道をひたすら登り始める。日が落ち始め、夕焼けの赤い日差しが木々の隙間から射しこんでくる。

 

「アンタら、こんなとこに何しに来たんだ」

 

と、いきなり声を掛けられて私とメギはびっくりして立ち止まった。そっちに振り返ると、そこには黒いセーラー服に長いスカートを着た女の子が立ってこちらを睨んでいた。彼女も自分たちと同じか、少し下の年齢に見えるが、服装と顔つきからしてどういう立場なのかはすぐに察した。

 

「私たちは…神社に参拝に…」

 

「やめておいた方がいいぜ。自分らの身が惜しければな…ま、アンタらの事だ、好きにしな」

 

そう言うと、その女の子は林の奥の方へ消えていった。

 

「何だったの?今のヒト」

 

「さぁ…」

 

「ま、好きにしなって言ってたし、はやく上まで行こうよ」

 

こうして私とメギは再び参道を登り始めた。そして、右側にずっと続いていた岩の壁も途切れ、たどり着いたところには…普通の鳥居と、その奥に小さな社だけが建っている、広いばかりで特に何もない空間が広がっているだけだった。

あまりにも殺風景なので、思わず辺りを見渡すと、鳥居の横に看板が建てられていた。

 

「どれどれ…ほお、何年か前に震災で神社が倒壊したんだって。だから今残ってるのはアレだけ…と」

 

「じゃ、じゃあはやく戻ろうよ…何もないんだったらここにいる必要もないでしょ」

 

「そうだね」

 

そうして、私とメギが帰ろうと踵を返した時だった。後ろを向くと、そこには知らないふたりの男の人が立っていた。

 

「あ、あの…何か…?」

 

「せっかくこんな場所まで来たんだろ?だったら少し遊んでいこうぜ」

 

「いえ、私たちはこれで…」

 

「そう言うなよ、ここはだーれも来なくて、俺たちも暇してんだ」

 

その時、気付いた。どこかに身を潜めていたのか、いつの間にか私たちの周りは見知らぬ男の人たちに囲まれていた。しかも、その誰もが普通ではない。いわゆる不良という者たちだった。

 

「待ちなテメェら…」

 

だがそんな中、女性と思われるだれかの声が聞こえた。その声が響くと、周りの男たちは静まり、小さな社の方へ目を向ける。

 

「まずはこのアタシ、サザンカ様がそいつの身包み剥ぎ取ってやる。それからは好きにしろ」

 

その女性は、金髪でマスクを着けた顔に浮かべたニヤけた表情で、手に持った木刀を肩に担ぎ、足がすくんで動けない私たちに近づいてくる。

 

「スイレン…!」

 

メギが小さな声で私の名前を呼ぶ。しかし、私は喉が張り付いたように言う事が効かず、何も言えなかった。既に後ろも横も男たちに囲まれていて逃げ出すこともできそうにない。

サザンカと名乗ったその女がまずはメギの胸ぐらを掴み上げ、腰に下げていたポーチを奪い取った。メギは地面に投げ捨てられ、土の上に転がった。

 

「…なんだ、シけてやがんな~。そっちのお前はどうだ?」

 

サザンカは私の鞄も奪おうとしたので、私は思わず彼女の胸を両手で押し、突き飛ばしてしまった。彼女はどっと後ろへ尻餅をつく。

 

「さ、サザンカの姉貴!!」

 

「いてっ…クソッ!おいお前ら、アイツやっちまえ!」

 

「へい!」

 

怒ったサザンカの命令で、周りの男たちが一斉に私に群がり、肩や腕を掴んで杉の木の幹に押し付けられる。

 

「いやぁ!やめてぇ!!」

 

「スイレン!」

 

「うるせぇぞオラ、静かにしろ!」

 

私の視界がガクッと揺れ、頭の中で鈍痛が木霊する。

体も揺らされ、意識がどんどん薄れてくる。

 

(なんで…こんな事に…)

 

絶望。その二文字が頭の中に浮かび上がった…瞬間だった。

突然首の後ろを掴まれ、ひょいっと持ち上げられる。私は驚いて再び目を開け、何が起こったのか確認しようとする。すると、今まで私に暴行を加えていた男たちはその場にしゃがみ込み、顔や腹を押さえて蹲っている。

 

「一体何が…」

 

「え、あ、サザンカの姉貴がふたり!?」

 

周りでそんな声が聞こえる。恐らく私を助けてくれたであろう人の横顔を見上げると、その人はさっきここへ来る途中の参道で会った、黒いセーラー服の女の子だった。

 

「馬鹿野郎ども!ソイツはアタシの偽物だ!その偽物をぶっ潰せェ!」

 

金髪の方のサザンカがそう言うと、男たちも立ち上がって一斉に黒髪の方のサザンカに襲い掛かった。

 

「アタシの名前がこんな辺鄙なとこまで広まってるとはなぁ、売れたモンだぜ。アタシの名前だけ使ってバンカク気取りたかったんだろうが…本物のアタシに目ぇつけられちゃあお終いだな」

 

「そんなことない!みんないけぇ!」

 

偽の?サザンカがそう言い、いよいよ男たちが本物のサザンカの方に向かってくる。

 

「逃げないの…?いくら君でも、あんな大勢には…」

 

「アタシは…どっちにつけばいいかわかんねぇ時は…負け犬の方につく。アンタらは、負け犬か?」

 

その後は、とにかく凄かった。サザンカは殴りかかってくる男を殴り飛ばし、木に叩きつけ、蹴り上げて吹っ飛ばす。

…どんな暴力も、さらに大きな暴力によって簡単に駆逐される。

 

「オラよォ、ホームラン~~~!!」

 

最後に、ポンポンポンと気持ちのいいリズムで男たちが空高く打ち上げられ、消えていく。

 

「アタシはアタシが本物だって示すためにわざわざ来たんだ。乗りてぇ風に遅れたヤツはマヌケってんだ…つまり負け犬のことよ」

 

サザンカは偽のサザンカにゆっくりと近寄り、腰を抜かしているところを上から見下ろす。

 

「よォ偽物ォ…会いたかったぜ。アタシの名前使って好き勝手してくれたようだなぁ…」

 

「ご、ごめんなさ…」

 

「次ィ同じことしたらマジで殺すぞ」

 

偽のサザンカはまるでボールを投げるように投げ飛ばされ、鳥居の上に引っかかった。

 

「…ま、そういうこった。バス停までは送ってやるから、はやいとこ帰れ」

 

「あの、ありがとう…おかげで、私…」

 

「怖かった~~!」

 

メギはサザンカに抱きつき、泣きながら礼を言っている。それには流石のサザンカも困ったようだが、邪険にも扱えないので背中にメギをくっつけたままバス停までついてきてくれた。

その後、私たちは無事にオレンジシティへ帰った。

 

 

 

「お母さん、お父さん、私決めたわ。デザインの専門学校に進学する」

 

私がそう言うと、両親は少し驚いたように目を見開き、少しの間顔を見合わせて何か深く考え込み、私の方を見て口を開いた。

 

「そうか、頑張れよ。応援するからな」

 

「…ありがとう!」

 

乗りたい風にゃ遅れるな。

どうかな?私はちゃんと、風に乗ったよ…。




シロナの名前の由来は野菜のシロナからですが、サザンカたちの世代は植物の名前からとってます。

サザンカ→山茶花
カズラ→葛
アザミ→薊
スイレン→睡蓮
メギ→目木
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