もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第344話 「瘴気を祓いし黄金の刃!」

「さァ、どうする?どうやって私をマジでシメるんですかァ──?」

 

パストはサザンカに顔を近づけ、挑発の言葉を投げた。今、このパストという女とカズラは魔術で”生命のリンク”をされ、パストとカズラは感覚を共有されてしまっており、サザンカは迂闊にパストに手を出せないのだ。

サザンカは冷や汗をかきながら、目だけはパストを睨みつける。

 

「どうするんだって聞いてるんだよこのタコ!」

 

次の瞬間、パストはサザンカの顔面に平手打ちを喰らわした。サザンカは顔だけ叩かれた方向へ向いてしまい、口の端からわずかに血を流しながら顔をもとの位置に戻す。

 

「生意気な目つきね…まあいいでしょう、せっかくアナタをトランクスから引き離して、こんな一方的にやれる展開を作れたんだし、少し付き合ってもらおうかしら」

 

パストはついて来いと合図をしてサザンカに背中を向け、そのまま通りの方へ向かって歩いていく。

 

「サザンカ…大丈夫か?」

 

カズラが小声でサザンカに声をかける。

 

「ああ…必ず何とかするから、お前はアイツを荒立てないよう静かにしてろ」

 

「私に内緒でヒソヒソ喋ってんじゃないわよ」

 

次の瞬間、パストは思い切りサザンカの顔面を蹴り上げた。サザンカは再び口から血を流しながらよろめいて倒れ込む。

 

「黙ってついてきた方が身のためよ」

 

「くっ…」

 

 

 

──────────

 

 

 

「ねえトランクスさん…もしかして、暗黒ドラゴンボールに寄生されてるのって目の前の…」

 

「ああ…この”大猿たち”だろう…!」

 

過去のナメック星へ降り立ったシロナとトランクスの目の前には、赤黒い瘴気を発し、戦闘ジャケットを纏った三体の大猿が佇み、怒気を含んだ表情でこちらを見下ろしていた。

一体は、他二対と比べて大柄な体格を持った大猿で、もう一体は長い頭髪…いや、鬣を後ろへなびかせており、最後の一体はこれといって特筆する特徴はないが、一際強力な瘴気を纏っており、顎の先には二つ星の暗黒ドラゴンボールが埋め込まれている。

 

「ゴアアアアアッ!!」

 

大猿たちは吠えながら唸り、シロナとトランクスにじりじりと近寄る。よく見れば、おそらく寄生されているのは真ん中の大猿だけ…ほかの大柄と長髪の大猿は、真ん中の大猿からあふれ出た瘴気を浴びて同じように暴走しているだけのようだ。

 

「ウオオオオッ!!」

 

次の瞬間、大柄の大猿が上を見上げたかと思うと、その後にこちらへ向き直った拍子に特大のエネルギー砲を口から発射し、地面に立っていたシロナとトランクスへ向けて容赦なく叩きこむ。

 

「おっと!」

 

しかし、ふたりは両サイドへ飛んで躱し、シロナはそのまま空を飛びつつ大柄な大猿へ接近する。

 

「それじゃあ、俺の相手はこっちか」

 

トランクスは長髪の大猿と目が合い、大猿は腕を振り下ろす。トランクスは飛行速度を上げてそれを避け、外れた腕は地面に叩きつけられ、凄まじい衝撃と岩盤の破片が巻き上がる。

 

「グオッ!」

 

シロナが相手取る大柄な大猿は、尚も続けて口からエネルギー砲を吐き出し続ける。

 

「アナタそれだけしかやってこないの?」

 

そう言いつつ、シロナは右手から数発のエネルギー弾を放ち、大猿の顔へ直撃する。すると大猿は顔をしかめ、シロナの言葉を聞いてか聞かずか、エネルギー砲を打ち止めて剛腕によるパンチを繰り出してきた。

大きさの割にかなりの速度で迫る拳であったが、歴戦の戦士でもあるシロナの前では特に脅威とはならない。シロナは拳に両手を置いて跳び箱を飛ぶように上へ跳ね、そのまま大猿の腕の上を高速で走り抜け、顔へ向かってぐんぐん近づく。

 

「ちょーっと失礼~!」

 

そして、眉間へ一発、拳を叩きこんだ。大柄な大猿は顔をしかめ、うめき声を上げる。シロナは拳をぶつけた反動で上へ飛び、空中で回転しながら足を突き出して構え、その踵を思いきり脳天へ直撃させた。

 

「ギャアアッ…!!」

 

大柄な大猿は目を回したようによろめきながら数歩後ろへ下がり、そのまま仰向けに倒れ込み、地響きを起こしながら動かなくなった。

 

「やった!」

 

「すごいなあ、シロナさん!」

 

シロナの戦いぶりを見たトランクスも奮起し、相手にしていた長髪の大猿が振り下ろした足による攻撃を飛んで躱す。

そして全身に白いオーラを纏いながらその腹へ突進し、バランスを崩させる。

 

「ギャオ…」

 

そのまま素早く背後へ回り、腰まで届きそうなほど長い頭髪を掴み、渾身のパワーで持ち上げ、一気に地面へ向けて叩き下ろした。

長髪の大猿は起き上がろうともがくもすぐに気を失い、そのまま全身を包んでいた暗黒の瘴気は薄くなって消えていった。

 

「ま、コイツらは大したことなかったわね」

 

「確かに…でも、真に強力なのは…」

 

「やっぱりアイツよね」

 

奥の方にある岩場にしがみつき、戦いの様子を観察していた残りの大猿…逆立った頭髪にグレースケール調の戦闘服を身にまとった大猿、暗黒二星球に寄生された大猿ターレスは、飛び降りてふたりの前に着地する。

 

「ゴオアアアアアアッ!!」

 

顎の先に埋め込まれた暗黒二星球が鈍く輝き、雄たけびに乗せられた瘴気が周囲を黒く染め上げる。憎悪に歪んだ黄色い眼球がギロリと動き、シロナとトランクスを見下ろした。

 

「なーんか、すごい憎しみが籠ってる目で見てくるんだけど…」

 

シロナが尋常ではない様子の大猿ターレスを見てそう呟いたとたん、背後から別の何者かの気が迫ってきていた。

この気は感じたことがある。シロナとトランクスは同時に気づいた。今の自分たちからすれば別段強力というほどではないが、この寒気のするような邪悪な気配は覚えがある。

 

「何者かな、君たちは」

 

フリーザだった。大猿たちを一網打尽にし、ナメック星から脱出しようとする天龍や美鈴たちを追いかけるも、ブロリーの妨害を受けて失敗に終わったフリーザはこの場所へ戻ってきたのだ。

 

(面倒くさい奴が来た…が、この歴史においてフリーザがどのような動きをするのかが不明な以上、下手なことをして時空の混乱を招くのもよくないし…)

 

「アンタ邪魔!」

 

しかし次の瞬間、近寄って来たフリーザに対し、シロナは目にも止まらぬスピードで速攻のパンチを喰らわせた。

 

「あっ!」

 

驚いて唖然とするトランクスをよそに、フリーザは何が何だか分からないままぶっ飛ばされ、遠く離れた場所に会った岩山に激突し、崩れた瓦礫に上半身が埋もれるような形で痙攣しながら気を失った。

 

「よし、これでいいでしょ?」

 

「う、うん…そうだね」

 

邪魔は消えた。そして、当の大猿ターレスは牙を剥きだし、唸りながらその場で地団太を踏み、拳で胸を叩く。

 

「ギャオオオオオオオオ!!」

 

次の瞬間、いきなりその口から赤黒い瘴気を柱状のエネルギー砲として解き放った。それはシロナとトランクスのすぐ近くに着弾し、凄まじい爆発を起こす。直撃は免れたものの、その衝撃によって二人は吹っ飛ばされ、遠くの岩に激突して止まった。

 

「なるほど…さっきの二体みたいにはいかないよね…じゃあ」

 

シロナはスッと立ち上がり、全身に気を漲らせる。頭髪が逆立ちながら金色に染まり、瞳の色は明るい緑色へ、そして吹き出さんばかりの気は黄金に光り輝く。

 

「よし、これで大丈夫。えっと、確か聞いた話だと、トランクスさんはこの時空出身の人じゃないから、あまり歴史に介入はしたくないんだよね?」

 

「確かにそうだね。あらぬ混乱を招きたくはないし…」

 

「じゃあ私に任せて。きっと何とかするから」

 

シロナはそう言うと、ゆっくりと大猿ターレスの目の前に移動し、そこで仁王立ちをする。ターレスもシロナをじっと睨み、臨戦態勢に入る。それを見たトランクスはその場から離れ、はるか空の高くまで退避する。

トランクスは、サザンカの強さはこれまでの戦いでよく見てきたが、彼女の姉であるこのシロナという戦士が持つパワーをじっくりと目の当たりにしたことはない。

 

「…さぁ」

 

シロナはそのまま腕を前に出し、掌を上にしたまま指を曲げて手招きする。すると、それを見たターレスは拳を繰り出し、シロナを狙った。

シロナは迫りくる巨大な剛拳を見据えたまま微動だにせず、ギリギリまで引き寄せると、自身はジャンプしてそれを躱し、そのまま素早く移動して大猿ターレスの腕の下に潜り込みつつ高速で駆け上っていく。

そして、ターレスの脇の下から姿を現したシロナはそのまま顔面めがけて拳を繰り出し、殴りつけた。ターレスは顔をしかめて逸らす。しかし、すかさずシロナへ対して大口を開け、そのまま噛みつこうとする。

 

「おっと!」

 

シロナは気の推進を利用して後ろへ飛び、それを避ける。その際に一発の気功波をターレスの胸へぶつけ、さらに顎をサマーソルトで蹴り上げた。

 

「ゴアアアアアアッ!!」

 

怒り狂った大猿ターレスは雄たけびを上げ、全身の瘴気を口内へ集約させる。次の瞬間、先ほどよりもはるかに巨大なエネルギー砲をシロナへ向けて撃ち放ったのだった。

しかし、シロナは微塵も怯まない。

 

「すごいね…でも、負けてあげる理由、ないかも」

 

そう言いながら、シロナの四肢へ異変が起こる。まず、左足がぐにゃりと形を変え、脛から足先にかけてが斧を思わせる形状へ変化する。そして足が変じて出来たその斧を体から切り離し、空中へ固定し、そこへ元に戻った左足を置いて力強く踏みしめる。

そして、一気に斧を蹴り、目にもとまらぬスピードでターレスのエネルギー砲目がけて突撃していく。このままでは衝突し、シロナが吹っ飛ばされるのは必然。

が、エネルギー砲とぶつかる寸前、シロナは身を回転させながら蹴りを放った。それはただの蹴りではない、回転の威力を乗せて振るわれた右足は鋭く尖った槍のような武器へと変化しており、それはさながら穴を穿つための「錐」のようだった。錐となった足による蹴りはエネルギー砲を切り裂き、縦真っ二つに割ってしまう。シロナはすかさずその中へ入り込み、さらに右腕は「カッターナイフ」に、左腕は「鋸」に変形しており、この二本の刃をクロスさせてエネルギー砲をさらに深く切り裂きながらぐんぐんと大猿ターレスの眼前へと迫っていく。

 

「オ…!!」

 

ターレスがエネルギー砲の威力を高めれば高めるほど、刃に押し当てられる力が高まり、余計にエネルギー砲が簡単に割られていってしまう。

 

「せぇのっ!!」

 

そして、シロナの放った渾身のパンチが大猿ターレスの額にクリーンヒットし、そのまま勢いを止めることなく後方へ押し込んでいき、ターレスは後頭部から大地に倒れ込み、そのまま上半身を埋め込まれるような形で身動きが取れないような状態になる。

 

「これが…シロナさんの力か…!」

 

トランクスは感嘆した。これがサザンカの姉、いや、この時空におけるサイヤ人カカロットの血を引く戦士の強さに…!


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