夕暮れはすっかり夜へと変わり、そんな街中の路地裏で、2時間以上にもわたるパストの暴力がサザンカに浴びせられていた。パストへの攻撃がそのままカズラへ伝達されてしまうため、迂闊に反撃することができないサザンカに対し、一方的な攻撃がひたすらにサザンカを苦しめる。
「おらよ!」
パストはサザンカの顔面を蹴り上げ、サザンカは回転しながら壁へ顔面を激突させる。さらに背中を蹴られ、サザンカはせき込みながらその場に崩れ落ちる。しかし、決して膝をつくまではいかず、よろよろと立ち上がってパストと向かい合う。
息を切らし、真っすぐに立つこともできないサザンカの顔面は面影が感じられない程に腫れあがるとともに血まみれで、顔だけでなく既に全身にくまなくダメージを負っているだろう。
「鬱陶しい、近づくな」
サザンカの頭部を殴り、膝で顔面を打ち、そのまま突き飛ばす。サザンカは力なく吹っ飛ばされ、やはり膝こそつかないものの手は地面についたまま震えている。
「あははははは!みっともねぇなァ、サザンカ!殴っちゃ戻ってきやがって、まさにサンドバックみたいだよなァ」
そう言いながら、パストはサザンカへ近寄り、髪の毛を掴んで頭を引っ張り上げ、耳元で言い放つ。
「アンタみたいな存在感だけ無駄にある大きめのカスみてぇなヤツにはお似合いの姿だぜ~、どうせ皆からも誰からも好かれる事はねぇんだ、惨めったらしく死んじまえよ」
そして、サザンカの顔面を地面に叩きつける。だが、まだサザンカは決して気を失う事もなく、立ち上がろうと腕に力を込める。
「もうやめろサザンカ…本当に死ぬぞ…!俺の事はどうでもいいから、はやく本気出してコイツに喰らわせてくれ…!!」
カズラはこれ以上見ていられなかった。サザンカが必要以上に痛めつけられる姿を見て、ひたすらに怒りを渦巻かせている。
「勝手に…言ってろ…アタシは別に、みんなから好かれなくたっていいんだよ…」
パストの手を振り払うように一気に起き上がると、パストと胸を突き合わせ、額と額が触れるまで顔を近づける。
今のサザンカの言葉を聞いたカズラは、握り過ぎて出血し真っ赤になっている拳を解き、静かに足を踏み出した。
「そうかよ、じゃあ誰からも好かれないまま逝っちまいなァ!!」
腕を振りかぶり、最後の一撃を繰り出そうとするパスト。拳を突き出し、サザンカの顔を狙う。
ドゴォ!
しかし、パストの拳が当たったのは、サザンカではなく…なんと咄嗟に両者の間に割って入ったカズラの顔面だったのだ。
「うごああああっ!!」
カズラは悲鳴を上げながら何メートルも吹っ飛び、積んであった木箱の山の中へ突っ込んだ。
「カズラ、なんてことを…!」
サザンカがそう言ったのも無理はない。普通の人間であるカズラがパストの一撃を受ければ即死してもおかしくないからだ。
「うおおおおおお!!!」
カズラは叫びながら、ひん曲がったように歪んだ顔で起き上がる。しかし、その直後に気絶し、再びその場へ倒れ込んだ。
「…ぎぃやああ…!!」
だが、同様にパストも顔面に強い衝撃を受けたかのように顔を歪ませ、その場で体勢を崩していた。そう、パストへのダメージがそのままカズラへも与えてしまうのなら、逆もまたあり得るのだ。パストは渾身の力で自分自身を殴ったのと同じ状態となり、自らが与えたダメージで苦しんでいるのだ。
「おっとっと…」
ターレスに寄生していた暗黒二星球を回収し、現代へと帰還したシロナとトランクス。ここは過去へ飛ぶ前に居た場所であるが、既に夜となっており、この場には誰もいなかった。
「サザンカちゃんはどこだろう?」
「…待って、私ちょっと行ってくる」
霊夢譲りのシロナの勘が告げている。はやくサザンカの元へ急げ、と。
「テンメェ…よくも…!」
パストは口から血を流しながらも、倒れたカズラに完全なるとどめを刺そうと近づいていく。
しかし、サザンカが後ろからパストの足を掴み、動きを止める。
「調子に乗ってんじゃねぇよアバズレがッ!もういいぜ、一発で消してやる」
パストは右手にエネルギーを込め、それをサザンカの頭上で炸裂させようと構える。これを発動されてしまえば、今度こそサザンカもろともカズラも消し飛ばされてしまうだろう。
「死ねッ!!」
「くっ…!」
「…何やってんの?」
と、そこへ誰かの声が響く。パストとサザンカが振り返ると、この路地裏に入って来たシロナがこちらを見ていた。
「なんだテメェ…見世物じゃねぇんだよ、とっとと失せろ!」
シロナはパストに暴言を吐かれるもそんなものは耳に入らず、目の前の光景を見て即時に状況を理解する。そこからは早かった。
ジャキン!
目にもとまらぬスピードでパストとカズラの間へと移動したシロナは、腕を素早く振り上げた。
(なんだ…?今、コイツの腕が一瞬刃物に変わったような…)
シロナはやや下を向き、顔に影を落としながらゆっくりとパストに向き直る。
「なんだテメェ、やるのか?いいけどなァ、そこで伸びてる男は確実に死ぬ。ソイツと私は、私の魔術によって」
「ウラァ!」
バキッ…
繰り出されたシロナの拳が、パストの顔面へ深く突き刺さっていた。
「は、はへ…!!」
しかもその拳は、ただの拳ではない。集中させた青く透明な魔法の結晶が分厚い板のようになって拳に張り付いており、見た目通りの硬度と強度を得た拳だった。
「あのね、私の中には『普通の魔法使い』と『紅魔館の魔女』の遺志があるのよ。その程度の魔術、見えちゃったから切ったよ」
シロナにはくっきりと見えていたのだ。パストとカズラの間を結んでいた無数の魔法の糸が。その糸こそがパストの魔術の正体で、パストは自身とカズラの神経を糸でつなぐことで互いの痛みを伝達しあっていたのだ。
さらに、サザンカは先ほど覚醒したばかりの超サイヤ人2へ再び変身し、暗くて見えないがその顔からは何かが凝固するようなパキパキという音が鳴っている。
「うるへえ、ぶちひょろひて…」
シロナへ敵意を向け、飛びかかるパスト。キッと上を向いたシロナの顔は、青い結晶で出来た兜を纏い、歯をむき出した怒りの形相だった。
超サイヤ人2の状態で、さらに魔強化状態へと移行したシロナは、ハッキリと喋れなくなりながらもシロナへ反撃を喰らわせようとするパストに対し、容赦の無い怒涛の連続攻撃を浴びせた。
「ウラウラウラウラウラウラウラウラ…」
パストの顔面、腹、胸、腕、足、全身くまなく拳を打ち込まれ、反撃する暇さえ与えない。シロナが放つ連続攻撃はとてつもなく素早く、それはまるで「拳の壁」とでも言うべき規模と性質を誇る。
「ウラァ!」
そして大威力の一発を放ち、パストの体は大きく吹っ飛ばされる。
が、シロナはそれを許さない。すかさずパストの片腕を左手で掴んで動かないようにし、自身の右手によるラッシュ攻撃を顔面へ集中的に叩き込む。
「ウラウラウラウラウラウラ!!」
手を放し、マシンガンの如き超高速のパンチの連打を喰らわせる。パストの足が浮き、成す術なくひたすらに攻撃を受け続けている。
「YPAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
さらに続けて蹴りの応酬。全身を踏み砕くかのような連続の蹴りがパストを襲う。アスファルトを砕き、どんどんと広がっていくクレーター上の穴の中にパストが埋め込まれていく。
「こっ、このカス野郎がァア!!」
怒声と共に勢いよく起き上がったパストは、鼻と口から血を流しながらもシロナへ反撃を喰らわせようと拳を振り上げた。
しかし…
「い、いない…!?どこへ行った!?」
シロナの姿は忽然と消えてしまっていた。周囲を見渡すパストだったが、その時、上から降りてきた影が街灯の明かりごと自分を覆った。
ハッとして上を見上げると、目の前の光景を見たパストは唖然としながら立ち尽くした。
「ロードローラーよ!!」
そこには、大型のロードローラーを持ち上げたシロナが宙に浮かび、こちらを見下ろしていたからだ。
次の瞬間、シロナはロードローラーを思いきり叩きつけ、パストを押し潰した。地面の道路が大きく割れて陥没し、シロナは車体を真上から殴りつけることでさらに重量を繰り上げていく。
「ウラウラウラウラウラウラウラ!!!」
8トン以上もの重量を持つ車体に伸し掛かられた程度では、当然パストは大したダメージも受けないだろう。しかし、上からさらに押し付けられる、シロナが放つ超高威力の”拳の壁”による重圧の下敷きとなっていることは、パストにとっては脱出不可能な処刑場と化しているも同然だった。
「ウラアアアアアア!!」
シロナは叫び声と共に最後の一撃を振り下ろす。その衝撃でロードローラーの車体はぺしゃんこにぶっ潰れたかと思うと、中の燃料が引火して爆発を起こした。
サザンカはボロボロの状態で見ていた。結晶の鎧を頭と腕に纏い、さながら怒りという感情が具現化し悪魔のような姿となった姉が、燃え盛る爆炎の中で揺らいでいるのを。
【現在公開可能な情報】
シロナが変身する「魔強化状態」は、現時点で変身可能な最強の形態時のみ変身可能。