シロナの猛攻を受けたパストは、ロードローラーの爆発によって宙へ打ち上げられた。全身から血を流したまま落下し、地面へぶつかる寸前、その頭をシロナに掴まれて止まった。
「ぐ…ぶげっ」
「ウラアッ!!」
そして、最後の渾身の一発を頬へ叩き込み、ついに意識を手放したパストが勢いよく地面と水平に吹っ飛んでいき、ゴミのたまり場のど真ん中へ激突し、その中に埋もれてしまった。
「フ…フー…」
そのままシロナは拳を引っ込める。が、ボコボコに痛めつけられたサザンカの姿が脳裏をよぎり、その瞬間、再び怒りが込み上げ、顔を覆っていた青い結晶の兜がさらに高度を増す。
「フー…!!」
そして衝動に突き動かされるがまま、パストへ完全なトドメを刺そうと歩き出す。背中からは、脊椎でできた鞭のような形状の細長い霊尾が6本突き出し、シロナは四つん這いになり、その霊尾を前へ向けて構える。
「おい…待て…!」
が、そのサザンカの声を聴いたシロナはハッと我に返った。その瞬間、首の後ろの襟を掴まれて持ち上げられるように立たされる。
「サザンカ…?離してよ…!私、あなたをそこまで痛めつけたアイツを許せない…!」
「いいから一旦落ち着けよ!アタシだってここまでやられて、代わりにお前がアイツをぶっ殺したところで気なんて晴れねぇよ」
そう言われたシロナは徐々に冷静になって怒りを鎮め、背中の霊尾、顔を覆う結晶が消えていく。
「アイツはアタシがぶっ殺す!だからお前はこれ以上手を出すな。といっても、アタシも今は無理だけどな」
「…わかった、サザンカがそう言うなら…」
そう言ったシロナは完全に落ち着きを取り戻し、黒髪になって通常の姿へ戻る。
「何が、アタシがぶっ殺すだ…このマヌケがァ~…!!」
しかし、大ダメージを受けて気を失ったはずのパストは既に意識を取り戻し、よろよろと壁を伝うようにしてその場から逃走を図ろうとしていた。そして次の瞬間、凄まじい重圧が周囲を覆い尽くす。
「ハアアッ…!!出す暇もなかったけど…これが私の本当の力だ」
青黒い邪気を放つパストの眼は黒く染まり、赤い小さな瞳が灯っている。その戦闘力の上り幅やこの絶大なプレッシャーは、この間ライが見せたような気迫とそっくりだった。
「でも、今回は私の負けでいいわ。自分の魔術に胡坐をかいてさっさとケリを付けなかったのが敗因。シロナ…といったかしら…アンタの存在は想定外だった…あのバカな弟は何も言っていなかった、完全な調査不足ね…。でも次は無いと思いなさい…次に会った時は、サザンカとシロナ!アンタらふたりをあの世へ送ってやるわ…」
「ああ、お互い元気になってまた会おうぜ、ぶっ殺してやるから」
「私だってまだ許してないから、次も滅茶苦茶に殴らせてもらうわ」
サザンカとシロナの言葉を聞いたパストは、彼女らを睨みつけるとゆっくりとその場から消えていった。
「…ってかサザンカ、怪我は大丈夫!?」
シロナはサザンカの顔を触りながら心配そうにそう言った。が、サザンカはそれを振り払ってそっぽを向く。
「べ、別にこれくらい大したことねぇよ!もう痛くねぇし!」
「じゃあさっきまでは痛かったの!?具体的にどういうふうに!?」
「だーッ、もういいからアタシに触るな!」
「って、あー!あそこで伸びてるのってサザンカの友達じゃない!」
そこで忘れられていたカズラも発見され、幸いにも命に別状はない事が分かった。
「よし、あの子を連れて私についてきてくれない?神様のところで治してもらうから」
シロナはそう思い立つと、地球の神であるピッコロが住む神殿を目指してすぐに夜空へ向けて飛び立った。サザンカは言われた通り、カズラを担いでシロナの後を追う。
(カズラ…あの時、アタシを庇おうとした…ってことだよな?まさかコイツも…)
道中でそう考えをめぐらすも、顔が紅潮するとさっきの痛みがぶり返してきたのでそれ以上は考えようにする。他にも…
(…姉貴も、私がやられてんの見てあんなに怒ったって事なんだよな…)
サザンカがシロナを嫌う理由はいろいろあるが、主なものはつい最近まで自分の事が眼中にないかのように思えていたからだ。自分が幼いころも姉が遠いところで暮らしているというのは知っていたが、一度も会いに来たことは無かった。幻想郷という異世界から出てからも、いくらでも機会があったはずなのに、だ。
なのに3年ほど前から急に頻繁に会いに来るようになって、余計な世話を口うるさく焼いてくる。サザンカ自身は自覚していないが、きっと実の姉への接し方が今さら分からないのだろう。
ふたりの間に張っていた巨大な氷塊が、少しずつ溶けようとしていた…。
「あれ、オレ…もしかして忘れられてる?」
遅れてトランクスが現場へ戻って来た時には、既にそこには誰もいなかったという。
…
──昔、とある辺境の惑星へ送り込まれたサイヤ人の幼子たちがいた。過酷な環境の中で、やがて彼らは成長していったが、それでもその惑星の住民を殲滅するには戦闘力も人数もまだ足りなかった。
彼らは多数の子供を作った。十数人にも数を増やしたサイヤ人達はいよいよ惑星の住民へ攻撃を開始したが、それでもまだ住民たちに対しては劣勢を強いられた。ガキは大勢死に、残った親世代たちも追い込まれてくるとガキを殺してでも生き延びようとした。
だがガキ達も抵抗した。まだ何も知らないガキたちが、唯一の心のよりどころでもあった家族と、兄弟たちと、殺し合ったのだ。
やがて、痺れを切らした惑星ベジータの精鋭のサイヤ人達がその惑星をたった一晩で制圧した。その時に回収されたサイヤ人のガキのひとりが、この俺…ターレスだった。
俺は年の近いサイヤ人が集まったチームに入れられ、訓練も実戦にも参加したが、どう頑張っても他に後れを取り、いつもボロボロにされるのでいつしかそれが嫌になって戦いから逃げるようになった。
「下級戦士のガキがこんなとこで何してやがる」
「…なんだテメェこそ」
バーダックというその男は、俺のオヤジと顔が似ていたので警戒した。
「顔が似ているだァ?さあな、知らねぇよ。もしかしたら遠いどこかで血が繋がってんのかもしれねぇな」
弱いサイヤ人は飛ばされた星でたくさんの子供を作るわりに大勢が死ぬので、それが何代か続けば下級戦士の顔のタイプは少なくなる。
「そういえば腹が減ったな。来いよ下級戦士の坊主、俺が奢ってやる」
それから、俺はバーダックと訓練をしたり任務に就くことが増えた。だがバーダックのこなす仕事は俺にとっては到底こなすことができないので、よく逃げたり卑怯な手を使ったため俺自身の戦闘力は対して伸びなかった。
「お前はプライドが無いから危険な目に遭わない、だから生き残れる。それに頭もいくらかキレるようだ、何も無理して戦いにいく必要はねぇよ」
バーダックから言われた言葉だった。
同時に、俺は思い出す。
「いいかい、アンタはここから出るんじゃないよ!」
あの惑星に居た頃。
「なんでだよ、どうするつもりなんだよ!?」
一番面倒を見てくれていた姉が、俺をうち捨てられた宇宙船の中に閉じ込めながら言った。
「もうすぐ大人たちがここへ来て私たちを殺しに来る。だから私たちもアイツらを殺す!…子供が親を殺す、それがサイヤ人だってアイツらが言ってたから」
「だったら親も子供を殺すだろう!」
「…ターレス、アンタは生き残りなさい。ここで暮らしたって良い、サイヤ人として生きてもいい、怖いなら逃げたっていい!でも、私たちがここで生きていたって事だけは忘れないで」
「チシャ…!!」
その後の事はよく覚えていない。気が付けば生き残ったのは俺を含めたガキが数名、その中に姉の姿は無かった。
「何だ今のは…思い出したくもない、昔の事か…」
ターレスは、誰もいない暗闇の中で気が付いた。それにしても、ここはどこだ?今までいたナメック星ではないな…?
そう思っていると、目の前の景色が変わった。
「これは…!」
その光景は、かつてターレスが子供のころに目撃した、あの辺境の惑星におけるサイヤ人同士の殺し合いの様子だった。追い込まれた大人のサイヤ人たちは生き延びるために同属の数を減らそうとし、子供のサイヤ人を次々と殺害していく。しかし、子供たちもやられっぱなしではなく、策を巡らせて反抗し、同じくらいの数の大人を逆に殺し返す。
──子供が親を殺す、それがサイヤ人だが逆もまた然り…我が子を殺めるのもサイヤ人だ!
かつて自分がカカロットに対して言った言葉が脳裏をよぎる。
ターレスは自分でも意識しないまま、足がすくみ、顔中と背中から嫌な汗が吹き出し続けていた。思い出したくもない昔の事、つまり一種のトラウマ。
ドサッ…
その時、ターレスの足元に何か大きなものが転がってきた。恐る恐る目線を下へ向け、それが何なのか確かめる。
「う…ウワアアアアアアア!?」
それは姉、チシャの遺体だった。かち割られた頭から飛び出す血と脳漿、変な方向へ折れ曲がった足。それは星から脱出する際、一瞬だけ遠目で見てしまった姉の成れ果てそのものだった。
ターレスはたまらずその場から駆け出し、全力で走り続ける。しかし、いつの間にか体は子供のころへと戻っており、すぐに息が切れ、おまけに足もうまく動かない。
「なんで逃げるの?ターレス」
ぴったり耳元で囁くかのように、姉の声が聞こえる。手首を掴まれ、後ろへ引っ張られるも、ターレスは懸命に走り続ける。だが、後ろから押し寄せる死んだサイヤ人たちの亡骸が次々とターレスの体を掴み、奈落へと引きずり込もうとする。
その瞬間、恐怖が限界に達したターレスの体に亀裂が走る。暗黒二星球はその隙を逃さず、彼の体内へ入り込んで寄生してしまった。
「…はははっ、なんという力だ。これならば、俺はなんでもできる!最強のサイヤ人の座を得ることも、あのフリーザだって粉々に砕き殺せるぞォ!!」
──お前はプライドが無いからどんな手を使ってでも生き延びて強くなることができる…だから俺が死んだら代わりにフリーザをぶっ殺せ…!
──俺は…サイヤ人の行く末を見てみてぇ。見事フリーザを討ち取るのか、それとも返り討ちで本当に死滅か…。だがもちろん負けるつもりはねぇ…
──でも、その惨劇があったから…今私たちは平和に暮らせている
「…!?」
だが、脳裏によみがえるのは、亡き戦友バーダック、カカロット、そして先ほど出会ったサイヤ人らしき少女らの言葉だった。
「…生きてさえいれば、いくらでもチャンスが来る。今までもそうやって生きてきた…自分じゃどうにもできないことばかりだったな…。逃げることは生き延びるための最善の手段のひとつだ…でも、逃げるだけじゃ、ダメなんだよなぁ。逃げてから、どうするかを決めなきゃならねぇ。そうか…わかったぞ」
バーダック、カカロット、シロナ、3人からの言葉がターレスを自力で正気付かせた。いや、それよりも、ターレスは気付いたのだろう。あのシロナというサイヤ人が、自分らがこれまで戦った末に勝ち取った「未来」の産物だということを。
…
「はっ」
ターレスは仰向けで大の字の姿勢で寝た状態で目を覚ました。上半身の戦闘服が破れて破損し、かなり肉体もダメージを受けているが、何とか無事に生きている。
「確か俺は大猿になって…そのままフリーザに殺されたはずじゃ…?」
「おーい、ターレス!!」
ターレスが自分にあったことを考えていると、遠くから呼び声が聞こえた。ナッパとラディッツが手を振りながらこちらへ飛んできていた。
「お前らも生きていたか」
「ああ、なんでかわからねぇがな。それよりも…」
「それよりも、さっきあそこでフリーザの野郎が無様に気を失ってるのを見たんだよ!トドメを刺すなら今しかねぇ」
だが、ターレスは上を向いて大声で笑った。
「はっはっはっはっは!そうか、あのフリーザが伸びてやがるか!だが、俺たちがここで無理してヤツを倒す必要はねぇな」
「な、なに?なんでだ!?」
「ここで無理にヤツに深追いする必要はねぇ。俺たちだって死んではいないがヤツを殺しきれるほどの力は残ってねぇだろ、途中で目を覚まされたら今度こそおしまいだ。せっかく命拾いしたんだ、俺たちも逃げようぜ」
「逃げるだって?馬鹿な…俺たちは…!」
「馬鹿野郎、サイヤ人ってのは後がなくなるとすぐに誇りだ意地だ、って無謀な戦いに臨みやがる。頭を冷やすんだ、一回逃げて距離をとって、そこから次にどうすりゃいいか考えればいい。幸いにもカカロットどもは無事に逃げたようだ、俺たちもアイツにもっと賭ける価値はあるぜ」
ナッパとラディッツはターレスの言い分に言葉も出ず、黙って驚いている。
「ギニュー特選隊が乗ってきたポッドがあるはずだ、それを使ってとっととおさらばしようぜ」
ターレスは気付いた。結局、バーダックが託した未来、そしてカカロットが見てみたいと言ったサイヤ人の行く末は、存外悪いものではない、と。だから生きることにした。サイヤ人の行く末とは、つまり自分の行く末でもあるからだ。
【現在公開可能な情報】
暗黒一星球 博麗紅蓮
暗黒二星球 ターレス
暗黒三星球 月夜見王
暗黒四星球 ?
暗黒五星球 ?
暗黒六星球 禍虎
暗黒七星球 ガーリック