もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第356話 「精神の誅罰者」

霊夢の繰り出した霊尾の槍による突きがサザロナの胸を貫いた。

 

「なんということを…」

 

ライでさえも思わず呆気にとられ、言葉が漏れてしまう。

サザロナの背中から飛び出した槍の先端が血に塗れ、傷口とサザロナの口からも血液が滴り落ちる。

だが、サザロナは動じなかった。6本すべての霊尾を封じられた形となった霊夢はただ唸りながら、黄色く変色した目でサザロナを睨み返すだけだ。

サザロナは両手を広げたまま、槍がどんどん体を通過していくのも構わずに霊夢に近付いていく。そして、広げた両手を閉じ、霊夢の体を抱きしめる。

霊夢は驚いたように目を見開き、サザロナの背中を掴んだり殴ったりして抵抗するが、何故か体が強張っており上手くいかない様子だった。

 

「いいですよサザロナさん…そのまま抑えていてください」

 

これを好機と見たライが、サザロナの背後から見える霊夢の額に狙いを定めてエネルギー弾を放とうと構える。

 

「そうはさせないぞ、ライ!」

 

だが、そこへ超サイヤ人2となったトランクスが現れ、ライの目の前に立ちふさがる。

 

「おおっと、貴方までも邪魔を…」

 

「黙って見ていろ…それが最善の行動のはずだ」

 

ライを気迫で牽制するトランクス。

邪魔をするものがいなくなったサザロナは、霊夢との念願の再開を噛み締める。

 

「一体何度…こんな日が来るのを夢見たんだろう…もう一度、お母さんに触れられる時を…」

 

そしてその目から零れ落ちる涙。

次の瞬間、サザロナの周囲に虹色の光の粒子が舞い始めたかと思うと、霊夢と彼女を包み込んで炎のように広がってゆく。

 

「でも分かってる。ここはアタシが生きてた時代の過去にあたるけど、決して地続きではない。この時代にはこの時代の歴史と時の流れがある。だから私が行うのは、この時代の人たちへのせめてもの手向け…。博麗霊夢、あなたは帰るべきところへ帰るのよ」

 

 

 

──────────

 

─────

 

 

暗黒ドラゴンボールは寄生対象の心に眠る負の感情…つまりトラウマを呼び起こして心に傷をつけ、その傷を埋めるようにして侵入し、精神にまで影響を及ぼす。

そのトラウマが当人にとって凄惨かつ強烈で非常に根深く心根に残っているほど寄生は容易となるが、稀に過去に対しての負い目や恐怖といったトラウマを全く持たない人間がいる。博麗霊夢もそのような人間だった。

霊夢へ寄生した暗黒五星球は、まず霊夢自身が抱えるトラウマを探る。だが霊夢はこれまでの人生においての大きな後悔や恐怖といったものは全て克服していた。

 

しかし、暗黒ドラゴンボールが寄生対象の心に傷をつけるために必要なものは、何も絶対的なトラウマでなければならない、という訳ではない。

例えば、鉄棒から落ちて口の中に滲む血の味、高熱を出した時の辛さ、擦りむいた膝の痛み、徒競走でビリになった時の悔しさ…そういった、誰もが一度は感じた事のある嫌な記憶さえあれば事足りるのだ。

博麗霊夢の場合も同様である。

 

彼女が4歳のころ、博麗神社の境内の裏手にある蔵を遊びがてら散策していた時。境内周辺の環境については既に知り尽くしていたつもりだったが、書物の山を移動させると現れた地下への階段の扉は、幼かった霊夢の好奇心を刺激した。

特に結界が張られていたり、何かが封じられているような場所でもなかったためただの子供でも容易に入り込めることができ、霊夢は早速階段を降りていった。突き当りにはさらに小さな扉があり、そこを開けてみるが、中は子供一人がやっと入れるくらいの空間があるだけで、他には何もなかった。

 

ガタ…

 

その時、何かが倒れる物音を聞いた霊夢は階段の上を見上げる。すると、階段の扉を見つけるために、どかした本の山が崩れ、それらが階段を駆け下りてこちらへ迫っていた。

この量の本の雪崩に巻き込まれては、幼い霊夢であれば大怪我ではすまない。霊夢は咄嗟に狭い空間へ身を納め、扉を閉めて守りに入った。

結果、霊夢は本の雪崩を防げたことに安堵した。が、すぐに愚かな行動であったと気付いた、閉めた扉の外側から崩れた本が大量に覆いかぶさり、とてもではないが自分の力では扉を開けることができなくなってしまったのだ。

 

「誰か開けてぇぇぇぇ!!」

 

霊夢にとっては、もはや何とも思っていない、既に忘れ去った昔の記憶のひとつ。しかし、暗黒ドラゴンボールにとっては、これさえあれば寄生を成功させるのに十分な材料だった。

 

バキッ ミシミシ…

 

しかし、閉じ込められ、指に血が滲むほどに内側から扉を外そうと試みていた幼い霊夢へ光が差す。暗黒ドラゴンボールを通じて霊夢の精神内へ入り込んだサザロナが、素手で破壊したのだ。そのまま霊夢はサザロナに手を引かれて狭い暗闇から抜け出し、抱き抱えられる。

 

 

─────

 

──────────

 

 

「アンタは、戻ってやってちょうだい…大事な人たちが待つ場所へ」

 

虹色の炎は小さくなって消え、サザロナと霊夢の姿が現れる。霊夢の身体を侵食していた瘴気は綺麗さっぱり消え去っており、サザロナを貫いていた霊尾の槍も萎み、枝のように枯れながら霊夢の背中の中へ戻っていった。

霊夢はそのまま気を失ってサザロナの腕の中に倒れる。額にはまっていた暗黒五星球が外れ、コロンと地面を転がった。

 

「サザロナさん!胸の傷は大丈夫なんですか!?」

 

ライと気迫で押し合っているトランクスが声をかけてきた。

 

「大丈夫、アタシほとんど不死身だから」

 

サザロナの言う通り、胸を貫かれた傷は塞がりつつあった。トランクスは驚いたような顔をしつつも安堵した。

 

「なんなんだこりゃ…」

 

「ええ、一体何が起こってるんです?」

 

「さっぱりわからん…」

 

本来の歴史通り、既にこの場へ到着していた、幻想郷での戦いの療養を終えた魔人ウスター、紅美鈴、豹牙天龍ら。カカロットと霊夢の加勢に入ってフリーザと戦うつもりが、肝心のフリーザの姿が見当たらず、何故か見知らぬ女戦士が気を失っている霊夢を抱き抱えている。

 

「おーい!みんなー!」

 

と、そこへまた別の誰かがやってくる。それは、幻想郷の永遠亭でダイザーとの戦いを終え、フェニックスの力で飛行してきた蓬莱山史奈と、それにしがみ付いているのは幼き日の5歳のシロナだった。

 

「お母さん…!と、あの人は…?」

 

シロナは遠くにいる霊夢とサザロナを見てそう呟いた。

 

「…さぁ待ってる人たちが来たよ、いま返してあげるから…」

 

それを見たサザロナは、霊夢を彼女たちのもとへ届けようと飛び立とうとする。

 

(…暗黒ドラゴンボールは…?)

 

しかし、まずは先ほど転がり落ちた暗黒五星球を拾おうと足元を見るが、なんとあるはずのそれが見当たらないことに気付く。

そして脳裏によぎるのは、シロナが過去のナメック星で暗黒ドラゴンボールに寄生されたターレスと戦った時の事だった。

 

「まさか…」

 

「おい、なんだあれは…」

 

ウスターらは、サザロナよりも向こう側、崩れ去った氷と岩の瓦礫の下から靄のような赤黒い煙が湧き出していることに気付く。

正しくそれは暗黒ドラゴンボールに寄生された者が放つ瘴気。次の瞬間、瓦礫の山が内側から弾け飛び、瘴気の渦が勢い良く噴き出す。そしてそれを纏う、宇宙史上最強最悪の脅威が生まれてしまっていた。

 

「キエエエエエエッ!!」

 

甲高い叫び声を轟かせるのは、暗黒五星球に寄生されたフリーザだった。

 

「フリーザ…!」

 

サザロナも思わず、次に戦うべき驚異の名を呟いた。

 

「何だって…!?」

 

ライと気迫による鍔迫り合いを繰り広げていたトランクスも思わず振り返ってしまう。その隙にライに弾き飛ばされ、ライは高く飛んでその光景を目の当たりにする。

 

「なんと…まさか暗黒ドラゴンボールが二度目の寄生を成功させるとは…」

 

「だがあの程度なら、アタシだったら倒せる。トランクス、この人をお願い」

 

サザロナは、近くにやってきたトランクスに霊夢の身を預けると、黄金のオーラを纏いながら素早く飛び立ち、一瞬でフリーザに接近する。フリーザはサザロナに対して何の反応も示さず、恐らくはサザロナのスピードが驚異的すぎるが故に近寄られたことに気付いてないと思われる。

 

「何度だって浄化してあげる!」

 

七色の気を拳に纏い、それを振りかざして一撃で勝負を決めようとするサザロナ。見事パンチはフリーザの顔面へクリーンヒットし、勢いに負けたフリーザは背中から地面に突っ込むように倒れ込む。

 

「…!?」

 

だが次の瞬間、さらに強力な瘴気の竜巻が起こり、サザロナは吹き飛ばされてしまった。

消え去った竜巻の中心で、フリーザはゆっくりと立ち上がる。しかしその姿は寄生される前と直後の第四形態とはやや異なっており、肩や胸、脚といった箇所にメッキを貼ったように金色の光沢を放つ部分が見受けられる。

月夜見王や博麗紅蓮、ターレスと同様に、暗黒ドラゴンボールの瘴気が侵食したことにより進化を遂げたフリーザの姿があった。

 

 

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