「紹介しよう。我が子、フリーザだ」
「ほーっほっほっほっほ。よろしく」
昔の事、惑星ベジータに訪問したコルド大王が突然の引退を宣言し、息子であるフリーザを軍のトップの座に置くと伝えた日。フリーザにとって、この日は最高の日だった。
これまで父親が築いてきた全てを受け継ぎ、見るからに程度の低そうな猿民族共へ自らの生まれ持った天才的な”戦闘力”を誇示する。フリーザはこの宇宙を統べる帝王として君臨し、その栄光を欲しいがままとし全てを支配することを約束されていた。
ある男を覗いては。
「おや、クウラじゃありませんか。そんなところでどうされたんですか?」
「…フリーザ、待っていたぞ」
宇宙船の中、すれ違ったのは実の兄であるクウラだった。
カスのような兄だ。自分が生まれてから兄に対して初めて発した言葉が「ゴミクズ」だった気がする。いつでも父に殴られ蹴られ、誰からもカスのように扱われ、そのくせ気迫とプライドだけは一丁前で、何があっても努力してやり遂げようとする一番目障りで気に障るタイプの男。
「一体何年ぶりでしょうか…貴方がボクを直接呼び止めるなど。それで、何か御用でも?生憎ボクは父上から引き継いだ仕事があるので手短にお願いしますよ」
「決闘だ、フリーザ。このオレと貴様、どちらが支配者に相応しいのか…いや、そんなことなどどうでもいいな。オレと貴様…最強はどちらなのかを決めようじゃないか」
フリーザは思わず吹き出す。
「…ぷっ!あはははははは!!貴方のようなザコが、このボクと決闘!?馬鹿な事を仰る!」
クウラは黙ってフリーザの言葉を聞いている。
「まあいいでしょう…今一度、完全な上下関係というものを刻みつける必要がありそうです。ちょうどこれから通過する、あの惑星でいかがでしょう?」
「いいだろう」
結果は、フリーザの完敗。
「な、なぜ…」
「フリーザ…キサマは、己の力を過信し、驕り高ぶり続けてきた。その皺寄せが招いたのがこの結果だ」
最終形態フルパワーへと”元に戻り”、地へ伏して立ち上がる事すらできないフリーザ。尻尾は切断され、全身に殴打の跡が見られる。
目の前でフリーザを見下ろす巨体は正しくクウラ本人。肩や頭部の外殻が大きくせり出し、口元はマスク状の殻で守られている。クウラはくぐもった声でそう言うと、フリーザの頭を踏みつける。
「本来の姿でいるとエネルギーの消耗と体にかかる負担が大きいから、わざわざ退化して弱くなることでそれを抑えている…だと?クハハ…馬鹿馬鹿しいにもほどがある。分かるよなフリーザ…キサマは鍛錬を怠り続けた!一方オレは己を高め続けた!昔は全てにおいてオレはキサマに敗北していたが…これが結果と言うものなんだよ」
フリーザは才能だけは宇宙一と言えるほどだったが、それに肉体が追いついておらず、故に先祖返りすることで戦闘力を下げ、肉体の負荷を消していた。
だがクウラはその逆で、才能が無かったがゆえに通常の姿のまま鍛錬で力を伸ばし続ける事が出来た。さらにフリーザよりもプライド高く己を研鑽しようとする武人気質であったクウラは、一族の誰もが不可能としていた一個体による「進化」を体得していた。
「キ、キサマ何をしておる…!」
そこで、騒ぎを聞きつけたコルド大王が現れ、フリーザを踏みつけているクウラへ飛びかかる。
しかしクウラは尻尾の一振りでコルド大王を弾き飛ばし、コルドは弾丸の如き勢いで吹っ飛ばされ、遥か彼方の岩山へ衝突した。
再び呆気にとられるフリーザ。この当時のフリーザは幼くして父親の率いていた軍を受け継ぐほどの実力を持っていたが、それでもまだコルド大王を追い越せてはいなかった。コルドがフリーザへ軍を託したのは、”いずれフリーザが成長すれば自分を越えられる”と確信したからである。現にコルド大王のその思惑は間違いではなく、実際にフリーザは後にコルド大王を上回る戦闘力を手に入れる。
だが、クウラはそれ以上に凄まじかっただけのこと。
「クハハハ、ちょいと力を入れ過ぎたか。後でオヤジにも伝えておけ…いいか、オレはキサマらの地位を脅かそうとしたり、邪魔をしようと言う気は毛頭ない。ただオレはオレの好きに動く…邪魔はするなよ、弟よ」
フリーザにとって、生まれて初めて感じた屈辱。
クウラの言う通り、それからというもののクウラがフリーザと接触を図ろうとしたことは一度もない。だがそれがまた、勝ち逃げされたような敗北感をもたらしフリーザの臓物を煮えくり返らせた。
いつしかフリーザは屈辱のあまり無意識のうちにクウラに関する記憶を頭の奥底へ封じ込め、自分に兄などおらず、宇宙一はこの自分で、かつて自分に誇りを付けたのは父親だけだと思い込むようになった。
そして暗黒五星球はそんなフリーザの忘れようとした記憶を簡単に穿り返し、寄生を成功させたのだった。
…
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瘴気の暴風の中、立ち上がったフリーザは自身の力を感じ取るように拳を握りしめる。
瘴気に浸食された影響で、最終形態から進化を遂げた第四形態をベースとして、肩と膝、胸と頭部の外殻が黄金色に変化している。目は黄色く染まり、大きく広がった額に暗黒五星球が埋め込まれ、そこを中心に赤黒い筋が頭部全体に走っている。
「…実に素晴らしい。不死身、不老不死…そんなものはもういらない!このボクは究極の存在へと進化したんだ!!」
赤黒い瘴気と、そして煌めく黄金のオーラを放出するフリーザ。その気の大きさはこれまで寄生されてきたどの人物よりも凄まじく、先ほど寄生されていた霊夢をも大きく上回っている。
「ありえないでしょう…暗黒ドラゴンボールが二度目の寄生を成功させる事など…一体何が目的なのですか…サラガドラ…!」
一方、その様子を見ていたライは冷や汗をかきながらそう呟いた。
「クックック…このパワーがあれば最早あのクソアニキなど恐るるに足らん!それどころか全てを越えた先…!”破壊神”にすら届き得るかもしれん!!ハハハハハハ…!!」
天を仰ぎ、そう豪語するフリーザ。だが、突然その背後へ気を消したライが現れ、拳を振りかざす。
だが、全くライに気付く様子の無かったフリーザが、僅かな土煙を残してその場から消え失せてしまった。ライの拳は空を殴り、加速するために発動した黄緑色の爆発だけが子気味よく響く。
「常識的に考えて失礼だよね、音もなく後ろから攻撃なんて」
「…なっ!?」
ライの耳元でフリーザが囁き、次の瞬間、フリーザによる尻尾の一撃がライの顔面を捉えた。ライは蹴られた小石の様に勢いよく吹っ飛び、数回地面を転がった後に受け身をとって止まる。鼻血を垂らしながらも急いで立ち上がるも、既に目の前に迫っていたフリーザの膝蹴りを胸に受け、上空へ吹っ飛ばされる。
「戦いに失礼も何もありませんよ。信じられるものは自分と環境だけです」
空中から連続でエネルギー弾を乱射するライ。フリーザは指先から細かなレーザー光線を発射し、それらをひとつずつ確実に打ち消していく。
だが、それに紛れてまたしてもフリーザの背後を取ったライは、フリーザの足を払い、体勢を崩したところでヘッドロックを仕掛ける。ライの強靭な筋力の檻からはフリーザであっても簡単には抜け出せない。
ライは足元の地面の上にサッカーボールサイズの自身のエネルギーの塊を設置し、自分ごと倒れ込んでフリーザの顔面をそのエネルギーに叩きつけた。その瞬間にエネルギーは炸裂し、黄緑色と紫色の鮮やかな爆発を起こす。
ライは確実にフリーザの顔面を砕き、致命傷を与えるつもりで攻撃を繰り出し、未だフリーザの首から腕を離してはいない。しかし、背後から伸びてきたフリーザの尻尾が今度はライの首に巻きつき、締め上げた。
「ぐ…!」
思わず腕の力を緩めてしまったライから解放されたフリーザは尻尾で彼を自分の目の前に浮かばせ、その腹へ強烈なパンチを叩きこんだ
ズン、という足元から響くような低い音が鳴り、ライは苦し気に唾を吐き出す。フリーザは今の自分の力を楽しむかのように続けてライへ攻撃を繰り出す。
「そのくらいにしといてやりなよ」
が、そこへやって来たサザロナがフリーザの腕を掴んで止める。フリーザは余裕の笑みを浮かべながらサザロナの方を見る。
「おや…君もサイヤ人だね。ボクに何か?」
「時間が無いのよ、くだらない問答をする気はないぜ」
次の瞬間、フリーザの尻尾の先端が切断され、ライが解放される。フリーザは思わず後ろへ飛び、痛みに顔をしかめた。
「サザロナさん…余計な真似を…」
「だってアイツのドラゴンボールを奪うのに邪魔なんだもん、アンタ」
「何を言います、あの方のドラゴンボールを手に入れるのはこの私ですよ」
「じゃあこういう”勝負”をしない?先にアイツにトドメを刺した方がドラゴンボールをゲットできるって」
「まさか、共闘をしろと?」
「そうは言ってない。ただ、アタシがアンタを、アンタがアタシを攻撃する分のエネルギーはアイツに向けた方が効率良いでしょ」
「なるほど…それは私も同意見です。本来ならば誰かと一緒に戦うなど私のプライドが許しませんが…彼を倒すには貴女と”勝負”したほうがよさそうですね」
「よし決まり。先にゴールデントロフィー勝ち取るのはどっちかな?」