もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第361話 「奮い立つグラジオラス! 其の壱」

「そうか…ブロリーを見つけたけど、連れて帰るのはできなかったか…」

 

暗黒五星球を巡る戦いを終えて帰還したサザンカたちは、カプセルコポレーションで待たせていたスカッシュにブロリーの事を伝えた。

2年前、ライに連れ去られたブロリーは謎の仮面によって洗脳され、ライの仲間として自分たちの前に立ち塞がった事、フュージョンしたサザロナの力をもってしても正気付かせることができなかった事。

スカッシュは残念そうに肩を落とした。

 

「ブロリーはアタシらにとっても大事な恩人だ…次に会った時は絶対に連れ戻すからよ」

 

「ライは、近々暗黒ドラゴンボールの争奪戦が起こると言っていた。そこで恐らく、ライとブロリーさん、他にも奴らの勢力が多数現れるだろう。その時が決戦の時だ…!」

 

トランクスの言葉に、シロナとサザンカは身を引き締める。

 

「オレも本気で戦う…暗黒ドラゴンボールを全て揃え、オレは時の巣へ帰るんだ…」

 

 

 

「な、なんだテメェ…!せめて何が言いやがれ…!!」

 

人気のない橋の下、コンクリートの地面の上を転がったアザミは口の端から流れる血をぬぐいながら膝をついて起き上がろうとする。

 

「…」

 

しかし、目の前の男は何も喋らず、ゆっくりとアザミに近寄り、上から見下ろす。

立ち上がったアザミは拳を振りかぶり、足を踏み込んで一撃を放った。

 

ドゴ…

 

しかし、アザミの拳が男に到達するよりも早く、男の蹴りがアザミの首へ横薙ぎの衝撃を与え、アザミは意識を手放した。

 

 

 

 

「アザミが入院してるだって…?」

 

下校しようと下駄箱から靴を出していたサザンカは、眉を潜めながらカズラへ対してそう返答した。

 

「ああ。どうやら昨日の夜にハンドブリッジの下でやられたらしいぜ」

 

「ほーん…相手は?」

 

「俺もそういう話を聞いたってだけだからわからないけど…あのアザミを病院送りにしたヤツだ、きっととんでもなく…あ、いや、でもサザンカほどでは…」

 

カズラがそう言うも、サザンカはあまり興味が無さそうな様子で靴を履き替え、外に出ていく。

 

「だから何だって感じだよ、アザミはそれくらいでへこたれるようなタマじゃねぇし…まあやった野郎も仕返しされるだろうな。それよりも、カズラ…きょ、今日は一緒に帰れるのか…?」

 

「今日は…悪い、用があるんだ」

 

「…そうか」

 

「明日なら大丈夫だ、何なら朝お前の家の前で待ってるよ」

 

「あ、ああ…わかった!」

 

そのままカズラはサザンカと別れ、ひとりで帰路につく。

サザンカが直前にああ言ったため自分も詳しく言わなかったが、カズラが用のあるというのはアザミが入院している病院へ行くことである。

案の定、病院の前にはアザミの傘下と思しき厳つい不良やレディースが何人かいたが、カズラは気にせずアザミのいる病室まで見舞いに来た。

 

「アザミ、大丈夫か?」

 

「おおカズラか!俺は全然大丈夫よォ、ちと首を捻っちまっただけで、明日にゃ出れるそうだぜ」

 

「大事じゃなくてよかったよ。それにしても、お前がやられるなんてどんな怪物相手にしたんだ?」

 

そう聞かれたアザミは周囲を見渡し、自分の仲間が誰もいないことを確認すると、小声で話し始める。

 

「サザンカには絶対に言うなよ…?」

 

「わかってるって」

 

「若い男だったぜ…身長は俺ほどじゃねぇがデカかったな…でもヒョロい。不気味なのはこっちが何聞いたって一言も口利かねぇでただ俺をぶん殴って蹴ってきやがった…まるで”ゾウ”みてぇな野郎だった」

 

 

 

 

「なんだありゃ…」

 

一方その頃、トボトボと家路についていたサザンカは通り道の公園が騒がしかったので、ふとそちらへ目を向けた。すると、そこでは青年が二人組のチンピラたちに絡まれ、砂の上で蹲っていた。

 

「オラッ!オラッ!」

 

「なんか訳あって俺らにガンつけてたのかァ?何とか言ったらどうだコラ」

 

背中を何度も蹴りつけられる青年だが、徐々に顔を上げ、拳を握る手に血管の筋が浮き出し、わなわなと震えはじめる。

しかし…

 

「邪魔だコラ」

 

悠々と歩いてきたサザンカが何気ない顔でチンピラたちをまとめて蹴り飛ばした。青年は握っていた拳を解き、サザンカを見上げた。

 

「大丈夫か?」

 

青年は差し伸べられた手を取り、のそりと起き上がる。その時、サザンカはただ起き上がっただけのこの青年に対し、並ならぬ威圧感を覚え、足裏に力を込めた。

 

「あ、ああ…あ…」

 

青年は俯いたまま小さな声で何か言おうとしているが、サザンカはすぐに後ろを向き、青年に一声かけてその場を後にする。

 

「まあ、気を付けろよ」

 

青年は去っていくサザンカの後姿を眺めながら、ドキドキ…と今までに感じたことのない胸の鼓動と熱を感じ、自身の胸を服の上から押さえ込んだ。

一体どれほどの間、青年はその場で立ち尽くしていただろうか。得体のしれない感覚に支配されたままサザンカの顔を思い浮かべていると、いつの間にか夕日はすっかり沈み、夜のとばりが訪れていた。

 

「うう…クソッ、テメェ…さっきのガキは仲間か…!?」

 

「何だかわからねぇが、こんなことしといてぶっ殺さねぇ訳がねぇ…」

 

時間が経って意識を取り戻したチンピラがゆっくりと起き上がり、懐から取り出した小さいナイフを持って青年ににじり寄る。

 

バキッ!!

 

だが、青年の立ち姿が一瞬揺らいだかと思えば、彼の繰り出した拳が片方のチンピラの顔面にめり込んでおり、勢いのままに地面へ押し付けられてた。

 

「な、なんだァ!?」

 

一撃で、重症。顔面と後頭部が潰れてもおかしくないほどの殴られ方をした相方を見て、もう片方は思わず後ずさる。だが、青年はたった一歩で距離を詰めると、強烈な前蹴りでもう片方のチンピラの顔面を蹴り上げた。

 

「ぶ…げ…」

 

飛び散った血が青年の顔にかかり、右頬が赤く染まる。

 

「キ…キキ…アッヒャッヒャッヒャッヒャ…!!」

 

「おーおー、相変わらずひでぇぶちのめし方しやがる」

 

と、そこへまた別の誰かがやってくる。長い金髪に、右手に包帯を巻いて頬に湿布を貼っているその人物は、我々にとっては見覚えがあった。

 

「…コナギ…さん」

 

コナギは、1か月ほど前までサザンカの名前を騙って田舎町のハクレイ神社で迷惑行為を働いていた不良少女で、本物のサザンカにぶっ飛ばされた。その時の怪我がまだ完璧に治ってはいないようだ。

我に返った青年はコナギの方に向き、彼女の名前を呟いた。

 

「グラジア…さっきここにサザンカが来なかったか?」

 

「…?」

 

青年…グラジアは首をかしげる。

 

「そうか…まあいい。お前に頼みがある…聞いてくれるよな?」

 

グラジアは唾を飲み込むと、大きく頷いた。

コナギはポケットから一枚の写真を取り出し、それを見せる。

 

「この写真の男をあたしのところへ連れて来い。生きてりゃあ多少くらいボコっても構わない」

 

と言い終わった瞬間には、既にグラジアはコナギが持っていた写真を奪い取り、この場から消え失せていた。

 

「あははは…相変らずあたしからの頼みは断れねぇヤツだ」

 

 

 

 

(アザミはあの調子なら大丈夫そうだなぁ)

 

病院へアザミの見舞いに行った帰り道、カズラはふと立ち止まった。すっかり暗くなった町の中、羽虫の舞う街灯の下に黒い人影がじっと佇んでいる。

 

「…アンタ誰です?」

 

不気味な影、グラジアの姿を見たカズラは立ち止まってそう言った。グラジアは何か言いたそうにしながら鋭い目をカズラへ向けるが、次の瞬間、急に走り出した。

 

「うおっ!?」

 

と思えばグラジアはカズラのすぐ近くまで迫っており、大振りのパンチを放った。カズラは間一髪しゃがみ込んでそれを躱すが、間髪入れずに放たれた蹴りを受け、後方へ吹っ飛ばされる。

 

「ぐあ…!」

 

尻餅をついて倒れたカズラへ向けて、圧迫感あるオーラを放つグラジアの拳が叩きつけられた…。

 

 


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