もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第363話 「奮い立つグラジオラス! 其の参」

「きゃはははははは!!これが悪魔との契約によって手に入れた力よ!」

 

コナギは腕を振るうと、その方向の先にいたサザンカへ向けて突風のような衝撃波が襲い掛かった。思わず両腕で顔を覆ってそれに耐えるが、背後の壁が崩壊し、瓦礫が吹き飛んでいく。

 

「なんだそれ…!」

 

カズラが後ろから声を漏らす。

 

「これが無敵の絶対的パワー!今度はもっと強いのを命中させるわ、くたばって頂戴!」

 

明らかに、”気”がコナギの左腕へ集中していく。熱気によって蜃気楼が発生しているかのように空間が揺らめく。

 

「それっ!!」

 

そして、それを一気に解き放つ。さっきよりも一層強力な衝撃が真正面からサザンカに激突し、サザンカの足が思わず浮き上がる。

 

ドン!!

 

しかし、次の瞬間にはサザンカの拳がコナギの顔面へめり込んでいた。

 

「あへ…あれぇ…?」

 

コナギはよろよろと後ろへ下がり、ソファにもたれ掛かるようにして倒れ込んでしまった。

 

「ごちゃごちゃうるせぇよ」

 

サザンカはそう言いながらフウッと息をつき、カズラの方へ向かう。

だが、起き上がったコナギがサザンカよりも先にカズラへ近寄り、その手の指先を彼の首へ突き付けた。

 

「テメェ…」

 

「動くな!さもなくばコイツの首に指突き刺すぞ…!」

 

足を止めてしまうサザンカ。さぁ、そろそろ本気を出せばあっと気付かれる間もなくコナギを叩きのめせるだろうが…さてどうしようか、と思った瞬間、後ろから微かな声が聞こえた。

 

「こ、コナちゃん…もうやめよう」

 

「グラジア…」

 

「おれ…コナちゃんに守ってもらうのはもう終わりにする…!自分のみ、身は自分でどうにかする…だから、ここ、これ以上、ッ…おれの所為で傷つかないでくれ…!」

 

「ハァ?何言ってんだテメェ」

 

しかし、コナギは心底呆れ返ったような目でグラジアを睨み、そう言った。

 

「え…?」

 

「誰がテメェの為に傷ついてるって?馬鹿言いやがれ、テメェが使えねぇ雑魚なせいであたしがこんな目にあってんだろうが!」

 

「何言ってんだ、コイツ…」

 

サザンカも困惑してそう呟いてしまう。

 

「きゃははは…テメェのツラと体のデカさならあたしの強さを示すのに最適な男だと思っていたから世話焼いていたけど…お前と喋るたびになぁ…」

 

「…!!」

 

コナギの話を聞くグラジアの目から涙の筋が流れる。

 

「何度『はやく喋れよ』って思って腹が立ったかわからねぇよ!」

 

「うわああああああ!!」

 

慟哭し、その場に膝をついてうずくまるグラジア。その様子を見たコナギは呆れたような顔をしながら侮蔑の視線を向ける。

 

「デカい図体でそんなところにいちゃ邪魔だろ…!!」

 

そして、腕を頭の上へ掲げ、気を込めるとそれを振り下ろし、風のように吹き荒れる気の刃がグラジアを襲う。それに気付いたグラジアは涙を流したまま顔を上げるが、もう既に避ける時間はない。いや、避ける余裕も気力も既に削り取られていた。

 

ガィン…!!

 

が、サザンカは難なくそれを腕ではじき返し、不敵に歯を見せて笑みを浮かべる。

 

「もう一回、ブチ飛ばす理由ができちまったなァ」

 

「はァ?ブチ飛ばす?何だそりゃあ!!今からあの世へぶっ飛んでいくのは…テメェだよサザンカァ!あたしが悪魔と契約して手に入れた力はこんなもんじゃねぇ」

 

コナギはそう言いながら背中から立ち上るオーラを激しく揺らすと、それら四本のオーラによる気の刃がそれぞれ独立して動き、鞭のように複雑にしなりながら周囲を縦横無尽に薙ぎ払う。

が、まずは脅しから、という事なのかサザンカの体スレスレの部分を通過していくばかりで、一向に充てる気配がない。それに気付いたサザンカも、特に避けようとせず黙ってコナギを睨みつける。

 

「テメェは人を切ったことがあるか!?切られたことはあるか!?撃ったことはあるか?撃たれたことはあるか?どれもねぇだろう!?だがなァ、あたしはこれから何でもやってやる!誰からも嘗められねぇ人間になるには些細な事さ!だから…」

 

荒れ狂う刃の中、コナギはその中の一本を的確にサザンカを両断しようと差し向ける。

 

「そのために死んでくれよ、サザンカァ!!」

 

もはやコナギは正気ではない。放たれた刃による一撃が、サザンカの首へ突き刺さった。

 

「邪魔!!」

 

──しかし、素早くコナギの目の前へ踏み込んで接近したサザンカの拳が彼女の顔面へ命中した。そのままサザンカはコナギの背後へ移動し、目もくれずにカズラのもとへ歩き出す。刃が刺さったはずのサザンカの首には一切の切り傷もなく、逆にコナギの振り回していた気の刃の方が砕けていた。

コナギはその場でうつ伏せに倒れ込み、たったの一撃でノックアウト、二度目の敗北を喫した。

 

「大丈夫かよ」

 

サザンカはそう言いながらカズラの両腕を縛っていた縄を千切り、解放する。

 

「ああ、悪いな…助かった」

 

「きっとコイツらがアザミをやった犯人なんだろうが…まあこの様子じゃこれ以上手を出す必要もねぇだろう」

 

コナギはこの通り気絶し、そのコナギに暴言を吐かれ拒絶されたグラジアも蹲ったまま震えているばかりだ。

 

「流石だなぁ、あの英雄たちの血を引き、シロナの妹である事を証明するその圧倒的な強さ」

 

だが、その時に聞こえてきた別の声を聴いて、サザンカは再び顔を強張らせる。

振り返ると、倒れて気を失っているコナギの背中に発現していた両開きの扉は未だ開き、その中から何者かの気配を感じる。

 

「私の名は摩多羅隠岐奈!見よ!聞け!語れ!秘神の真なる魔力がお前の障碍となろう!」

 

コナギの背中から姿を現したのは、かつて幻想郷の賢者として存在していた、摩多羅隠岐奈その人だった。だが、その装いは幻想郷にいたころとは打って変わり、タイトな黒いスーツとスカート、タイツを身に纏っている。

 

「誰だよ」

 

「ふっふっふ…幻想郷が無くなってから5年…楽園を卒業した者たちはこの現代において新たなる生き方を模索する必要に迫られた。まあ難しい物よな、かつて”外の世界”と呼ばれたこの地で我々が人並みに暮らすというのは」

 

隠岐奈の言う通り、5年前のレイムとの決戦によって現実世界と一体化し、事実上消滅した幻想郷に住んでいた者たちは外の世界で生きる事となった。これまでと同様に山や森の妖怪として変わらず過ごす者もいれば、社会の中に隠れ住む者もいた。

 

「だから私は独自の副業を開くことにした。このコナギという人間には、毎月2万円…おおっと、こっちじゃゼニーだったか…を支払うことを要求する代わりに私の力を貸してやった」

 

「その責任はどう取るんだ?」

 

と、サザンカが質問した。

 

「さぁ?どんな力も使う者次第だろう。お前は、金槌を購入した者がそれを使って人を殺したら、金槌を作った人間の所為にするか?コナギはこのように使った、それだけのことだろう」

 

「へぇ、そうかい」

 

そう言いながら、サザンカは何をするでもなくその場から歩き出し、蹲っているグラジアのそばへ近づいた。

 

「おい、アンタはいつまでそこで這いつくばってやがる」

 

グラジアはゆっくりと顔を上げ、サザンカを見上げる。

 

「コイツは、アンタの大事なヤツに過剰な大きさの金槌を売った。だからコイツは、あのでけぇケツを売るべきだろ」

 

サザンカは隠岐奈を指さしながらそう言った。

 

「何言ってんだ?お前…」

 

その場の全員が困惑し、カズラも思わずそう呟いた。

 

「アタシが200ゼニーでテメェのケツを買った!自分で買ったケツどうしようがアタシの勝手だろ」

 

「ふっふっふ、なるほど…私に責任を取らせるために、この場で”仕置き”をしようというんだな?甘んじて受けたいところではあるが、生憎現代に生きる私にも秘神のプライドというものがあってな…自ら尻を出すような行為を行う訳にいかん」

 

隠岐奈は戦闘の意思を見せる。

 

「ってわけだ。アイツをぶっ飛ばすのは簡単だが…あのケツ蹴るにはアタシひとりの力じゃ足りねぇからよ…ちょっと力貸せ」

 

グラジアの腕を掴んで無理やり立たせ、その手でサザンカの腕を握らせる。

 

「さぁゆくぞサザンカ!究極の絶対秘神、摩多羅隠岐奈の名において…」

 

 

 

─────

 

 

「う、ううん…あたしは一体…」

 

コナギは周りがやけに騒がしいのに気づいて目を覚ました。

 

「オラッ!オラッ!」

 

「ふっ…!フッ…!!」

 

すると目の前には、自分が契約を交わした悪魔こと摩多羅隠岐奈が四つん這いになり、そこにサザンカとグラジアが交互にケツへ蹴りを入れている場面が繰り広げられていた。

 

「あふん!ちょ、力つよ…あふん!」

 

「どうだグラジア!?お前のダチが正気失うほどの力を2万で売ったっていうコイツのでけぇケツ蹴り上げるのァ気持ちいいだろ」

 

「う、うん…!感じたことがない…快感…!」

 

「え、何のプレイ?」

 

コナギが首をかしげながら呟く。横にいたカズラが彼女の肩をポンと叩き、無言で首を振った。一心不乱に隠岐奈のケツを蹴るグラジアの姿を見ていたコナギは、いてもたっても居られなくなって立ち上がる。

 

「グラジア!ごめんねぇえ!さっき酷いこと言っちゃったけど…アレ、本当の事じゃないからあああ!!」

 

振り向いたグラジアが驚いた顔でコナギを見つめる。

 

「あたしがどうかしてたの!あたしはアンタを誰からもいじめさせないために強い力が欲しかっただけなの!だから許してぇ!」

 

「いいよ、コナちゃん。言われたときは悲しくて…お、驚いたけど…コナちゃんがそんなこと言うはずないって、おれ、知ってるから…」

 

「グラジア…」

 

「だから、一緒にやろう」

 

「え?」

 

「ヤアアアアアアアアア!!…あふん!」

 

 

…その日、サザンカとカズラは学校に遅刻した。

 

 

 

 

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