もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第364話 「あぁ今年も夏が来た」

「えー、そろそろ夏休みが始まるわけだが…この時点で既に受験の準備は始まっていると言ってもいい。くれぐれも問題など起こさないように…」

 

夏の熱気に包まれる教室の中で、ブルースターハイスクール、通称「青高」の女教師が、担任を持つクラスメイトの前で話をする。

そして、黒板の下に置かれているチョークを手に取り、ある一点へ向けて構える。

 

「特にお前だ!サザンカァ!!」

 

しかし、それを投げつけようとした寸前でサザンカの席である最前席窓際には誰もいなかった。

 

「おいカズラ、サザンカはどうした!?」

 

「ちょ、なんで俺に聞くんですか!」

 

カズラは思わずそう叫んだ。

 

「他の奴らはアイツをビビッて何も話さんからな。後で会ったら私のところへ来いと伝えておけ」

 

「…はい」

 

 

 

 

「あれ、サザンカ。こんなとこで何してんの?」

 

そのころ、近所を散歩していたシロナはいつもの公園のジャングルジムの上にサザンカが座っているのを発見して声をかけた。

 

「…よぉ」

 

「よぉって…こんな暑い日にそんな場所にいたら熱中症になっちゃうよ!」

 

「ならねぇよ。おい、ほらよ」

 

サザンカはそう言うと、小さな箱のようなものをシロナへ投げ渡した。それを受け取って見たシロナは、それが煙草の箱であると気付く。

 

「これって…」

 

「昨日は悪かったな…川に叩き落したやつ、その銘柄であってるか?」

 

シロナはつい昨日のことを思い返す。

煙草を吸い始めたシロナは、購入したばかりの煙草を一箱そのまま川へ落としてしまったのだ。その原因は、火を付けようとしていたシロナのもとへ運悪く喧嘩中のサザンカがぶつかった所為である。

 

「あー、昨日のアレ?別に気にしてないよ!ていうか、アンタまさかこれ自分で買ったの?」

 

「どうだかな。とにかく昨日の事はそれで忘れろ」

 

「えへへ、さんきゅ」

 

そう言いながらシロナは煙草を一本取り出し、火を付ける。フー、と一息で煙を吐き出すと、改めてサザンカに話しかける。

 

「ていうか、何してんの?」

 

「ちょっと考え事してんだ…。こないだ、過去のフリーザと戦った時にようやく母親の顔が知れたし…遠目でわかんなかったが親父の姿も確認できた。それはいいんだが…あれから思うんだよな、アタシって一体、なんなんだろな…ってよ」

 

肩を落として背中を丸めながらも空を見上げてそう言ったサザンカに雲の影が落ち、それを見たシロナはサザンカの抱き始めた悩みの片鱗を見た。

 

「姉貴は…まあ色々あったんだろ、子供のころから…そこまで強くなった理由もわかる。でもよ、アタシには何もねぇだろ。ただあの両親から生まれたってだけで…ここまで異常なほど頑丈な馬鹿力になると思うか?」

 

サザンカの言う通り、シロナは幼少期より何度も激戦の中に身を投じそのたびに死ぬほどのダメージを受け続けたことで今ほどの戦闘力を手に入れるに至ったが、サザンカにはそのような経験が一切なかった。生まれた直後からこれほどの戦闘力に成るべくして成ったともいえる。

シロナもそれは感じていた。確かにサザンカの強さには謎も多い。自らの意思に関係なくしての超サイヤ人3への覚醒などもその一端だろう。

しかし…

 

「なーに黄昏たこと言ってんのよ!」

 

そんなことは関係ない。シロナにとってはたったひとりの血の繋がった家族なのだ。

シロナはひとっとびでジャングルジムの上へ登ると、妹の背中から抱き着いて口の端を引っ張った。

 

「へ、へめぇなにひやがる…!」

 

「サザンカはサザンカでしょ!それに変わりはない!」

 

「…くくっ、そうかよ…姉貴が言うなら間違いねぇ」

 

サザンカは小さく笑ってシロナの方を見た。シロナはサザンカの深紅の瞳をのぞき込み、サザンカもシロナの黒い瞳を見つめ返す。

 

「あ、それとなんだけど…明日から私も学校行くから」

 

「は?」

 

 

 

 

「えー、諸君…今日から教育実習生としてこのクラスでお前たちと一緒に過ごすことになる、シロナ君だ」

 

「はーい、シロナと言います!よろしくお願いしまーす」

 

翌日、担任に言われて教室に入ってきたのはシロナだった。いつもの羽織っている黒いジャケットに下にワイシャツと紺色のスラックスを履いている。

普通の生徒たちは突然現れた教育実習生を見ても何ともないような顔で話を聞いているが、その中でサザンカとカズラだけは開いた口が塞がらないといった表情で固まっていた。

 

「昨日も言ったけどなんでお前が来るんだよ!!」

 

サザンカが立ち上がって声を荒げる。

 

「私、教師を目指してるんだ!希望科目は体育!趣味は一人旅!彼氏はいません!」

 

「シロナ君、最後の情報はいらないと思うが」

 

担任が冷静にツッコむ。

こうしてサザンカのクラスに教育実習生として加わったシロナ。

 

「なんだこれ、わかんない…」

 

シロナは授業のたびにその教科の教師について手伝ったり生徒と一緒に授業を聞いたりするが、蒸気を噴き出しそうなほど悩みまくった末に全く理解が及んでいなかった。

 

「あなた、教育実習生よね?なぜ生徒と同じ授業を受けているのかしら…」

 

教師からツッコみが入る。だが歴史と公民のような授業にだけは理解と興味を見せており、そしていよいよ体育の授業の時間がやってきた。

 

「シロナ先生も一緒にバスケ入ってくれない?」

 

「え?でも、私は…ここで見てるよ!」

 

シロナは女子生徒たちにバスケットボールに参加するよう誘われていた。シロナが誘いを拒む理由は、主に能力の違いだろう。シロナも体を動かすことは好きだ、だから体育教師を目指している。しかし、自分が少し力を入れてスポーツをしてしまえばそれについてこられる人間はまずいない事は重々理解している。

 

「入れよ。ただしアタシとは別のチームだ」

 

だが、サザンカがシロナを睨みながらそう言った。

 

「…わかった、じゃあ久々にやろうかな!」

 

 

「シロナ先生、すご過ぎ…」

 

「動きが全然見えないよ…」

 

その場で汗だくになりへたり込んだ生徒たちの前で、シロナは全く汗もかかず息も乱さずに余裕たっぷりといった様子でボールをついている。中にはバスケをやり込んでいる熟練者の生徒もいるはずだが、その誰もが全くシロナに太刀打ちができなかったのだ。

 

「へへへ、もう一回やる?」

 

「ああ、アタシがまだ立ってるだろ」

 

が、そんなシロナの前へ立ちはだかったのがサザンカだった。

 

「…手加減しないけど、いい?」

 

「上等だ」

 

その後に巻き起こったシロナとサザンカの1on1は、周囲の生徒と体育科の教師たちが度胆を抜かれるような勝負だった。

 

「なんか女子の方盛り上がってんなぁ」

 

隣のコートの男子たちも試合を止めてこちらを見ている。

1on1といっても、普通のそれとは異なり、シロナとサザンカはコートの端と端、両側のリングの下に立ち、反対側のリングへ向かって思い切りボールを投げる。

豪速で飛ぶボールを人間技とは思えない高さまでジャンプしてキャッチし、そのまま浮かんでいるうちに反対側へ投げ飛ばす。その繰り返しをたった数分の内に何百回と繰り返しており、もはや何のスポーツをしているのかすら分からない。

 

「すげぇ…」

 

「コラァァ!!やめんかアアァ!!」

 

それは体育科主任の教師がやって来て突っ込むまで続いた…。

 

 

 

…その日は期末テスト期間につき午前中のみの授業だった。カズラは人のいなくなった後者を歩き、溜めていた課題を片付けたので担任に提出しに向かっていた。

 

「おお、やっと終わらせたか」

 

受け取った担任はそれを机の上に置いた。

 

「はい、じゃあ俺は帰ります」

 

「…なぁカズラ、これは私からのただの世間話だ、答えなくてもいいが…ぶっちゃけサザンカと付き合ってるの?」

 

「え!?…いや、そんな事はありませんが」

 

「あははは、そうなのか」

 

「失礼しますよ」

 

カズラは逃げるように職員室を後にした。

が、昇降口へ向かって中庭を歩きながらカズラは考えた。

 

(俺がサザンカと付き合う?考えたことなかったが…いやいや、そもそも俺とアイツはそんな関係じゃないだろう。確かに何度も助けられた恩はあるし…でも、もし俺が誰かと付き合うとしたら…)

 

「やぁ、あっちぃね」

 

そう声を掛けられたカズラは我に返る。声がした方を見ると、そこはプールサイドで、デッキブラシを手に立っていたのは…シロナだった。

 

 

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