「困ったな~…俺だけはぐれたの…か?」
どこかの川岸へたどり着いたカズラは、その周辺に立ち並ぶ家々の前を歩いていた。どうやらトキトキ都には普通の住民も暮らしているようだ。
「トランクスさんの言うまま川へ飛び込んで逃げたのはいいけど…流れてきた丸太に掴まったらそのままアザミたちを見失っちゃって…おーい!アザミ!グラジア!!」
呼びかけるも、やはり返事は返ってこない。
「でも、なんかヘンな感じだなぁ…」
確かに誰の声も聞こえないが、それでもこの川沿いの町には明らかに人の気配がするのだ。だが、誰一人外を出歩いている者は無く、代わりに家の中から絶えず不気味な視線を感じる。
「まあこんなところでビビっててもしょうがねぇ…家の人に何か聞いてみるかな」
カズラはそう言いながら、目についた家のドアを静かに開けた。隙間から射す光に照らされた先には、青白い肌をしている以外は普通の人間と全く変わりない家族が身を寄せ合っていた。
「あ、すいません、ちょっとお尋ねしたいんですがバビディというヤツの…」
「出て行ってくれ!」
だが、家族の父親と思われる男性がカズラに対して大声を出した。
「え?」
「困るんだよ!アンタ、別の時空から来た人間だろ?そんなのと喋ったりしたら、おれたち殺されちまうんだよ!」
「殺されるって…誰にだよ…?」
「アンタ…時の界王神様を助けに来たんだろ?だったら決まってる…『アブラ』様だよ!」
「アブラ…?」
「もういいだろ、はやく出て行ってくれ!こっちにゃ家族の命がかかってんだよ!」
「わ、わかったわかった!」
「頼む…おれたちだって困ってるんだ…」
カズラは言われるがまま、その家を後にした。が、隣の家や向かいの家の窓には相変わらずこちらを怪訝な顔で見つめる顔がいくつも浮かんでいた。
「そうか…ここの住人も異変が起こってることに気付いてるんだな」
次の瞬間、カズラの背後で、先ほど入った家が爆発を起こした。まるで黒い液体が弾けたような妙な爆発で、カズラは勢いに巻き込まれて吹っ飛ばされた。
「な、何が起こったんだ!?」
「かかかか、何が起こったんだ~だってよ!カッコ悪いなぁ、このクソザコが!このトキトキ都の空を支配する、『”魔法ドライヴァー”アブラ』様がやったに決まってんだろうがァ!」
カズラの目の前に現れたのは、紫色のドラゴンを模した不思議な形状のエアバイクのような乗り物に跨ったひとりの緑色の髪の男だった。不気味にやせ細った体のわりに腕だけは筋肉が隆起しており、黄色く濁った眼はこちらを嘗めているかのように垂れ下がり、牙の並んだ口を曲げて笑っている。
「お前…あの家族をどうしたんだ…?」
恐る恐るカズラが質問する。
「あぁ?罰を与えたんだ。それが?」
「あの家族は何もしていないぞ…!」
「喋っただけで殺すって言ってあんだよ、内容に関わらずな。オマエのせいだなぁ、クソザコ野郎がよ」
「この…クズ野郎がァ!!」
激昂したカズラは拳を振り上げ、アブラに殴りかかる。が、アブラはエアバイクごと距離を取り、右手に黒い液体の塊のようなエネルギー弾を作り出す。
「かかかか!んじゃおれの暗黒オイル玉喰らってくだばっちまえよぉ~!」
アブラが軽く投げたエネルギー弾はカズラに直撃はしなかったが、すぐ付近の地面に着弾し、黒い液体が弾けて爆発する。
「ぐあ…!」
衝撃に巻き込まれたカズラはその場で倒れ込んでしまう。
「そらよ、もう一発!」
続けて投げられる暗黒オイル玉。この軌道では今度はカズラへ直撃するだろう。
(俺じゃ、こんな程度か…情けねぇ…)
半ば諦め、起き上がることもしないカズラ。いよいよ暗黒オイル玉が目の前へ迫ってくるが…
ガキィン!!
次の瞬間、颯爽と現れたアザミが間に割って入り、太い木の枝をバット代わりにして暗黒オイル玉を撃ち帰した!
「うわ、戻って来た~~!?」
跳ね返された暗黒オイル玉はアブラに当たって爆発し、彼は弾ける黒い液体に包まれる。
「ア、アザミ~~~!!」
「大丈夫だったかよカズラ、あのバカヤロウを怖がって町の人間は何も話しちゃくれねぇからな!」
アザミも恐らく少し離れた川岸へ打ち上げられ、そこからこちらへ向かいながら家を回っていたらしい。カズラは心強い助けに少し喜ぶが、それもすぐに消えた。爆発が治まると、そこには誰もいなかったからだ。
「アザミ気を付けろ!」
「あ!?」
そう呼びかけるも既に遅く、アザミが振り返った瞬間、エアバイクに乗ったアブラが勢いよく突っ込んできて車体を使ってアザミを轢き飛ばした。
アザミは数メートル吹っ飛んで地面を転がり、うつ伏せのまま気を失った。直撃はせずともそれに巻き込まれたカズラも、頭から血を流しながら気絶した。
「かかかか!ざまーみろ!…さて、コイツらどうするか…ま、ひとまずあの方の城へ連れて行って時の界王神と一緒に牢へぶち込んどくか」
その頃、さらに川の下流では、複数の荒くれ者が集まって戦いを繰り広げていた。
「ひくなァ!何をしておる!この人間たちを捕まえなければあの方に怒られるぞ!」
「しかし、チーチン様…」
頭にターバンを巻き、アラビアンチックな衣装を纏ったボスらしき男が怒鳴り、付き人の男が言葉を挟む。
目の前では手下たちがまとめて吹き飛ばされて宙を舞い、地面に叩き伏せられる。
「このゾウみてぇな地球人は一体何者ですか!?」
グラジアが一発拳を振り下ろすたびに何人もまとめて叩きのめされてゆく。蹴りを放てば人が枯れ葉のように吹き飛ぶ。一言も発さず黙って黙々と荒くれ者をねじ伏せていくグラジアを見て、チーチンと言う名のボスと付き人は焦っていた。
「チィ、おいテメェが行ってこい!」
「は、はい!」
付き人は腰の剣を抜き、グラジアに斬りかかる。が、するどく気配を察したグラジアは回し蹴りを放ち、剣を持っている手へ攻撃を加えて取り落とさせる。その隙を狙って付き人の胸ぐらを掴み上げ、一気に地面へ叩きつけてノックアウトさせた。
「やった、グラジア~~!!」
後ろでコナギが声援を送る。
「きゃ…!」
だが、次の瞬間にコナギから小さな悲鳴が上がり、グラジアは慌てて振り向く。
「へ…テメェ、それ以上動いてみろ…この女の命はねぇぜ」
チーチンはコナギの首を腕で締め上げながら短剣の先を首筋へ突き付けていた。
「コナちゃん…!!」
グラジアが一歩踏み出すも、チーチンは短剣をさらに強く押し付ける。コナギの首に傷がつき、血の筋が伝っていく。
「動くなと言ったろう!」
額に青筋を浮かべながらも、流石にその場で踏みとどまり、その際に踏み下ろした足が地盤を砕いて中へめり込んでいく。チーチンはそのパワーに驚愕した表情を浮かべるも、汗をかきながら笑う。
「ぐははは…おい、やれ」
よろよろと起き上がった手下の一人が弓矢を構えて放ち、グラジアの背中に矢が突き刺さる。
「ぐ…!」
「グラジアァ!」
コナギが彼の名前を叫ぶも、グラジアはゆっくりとその場に倒れ、巨大な建築物が倒れるかのように静かに気を失った。
「さァ、コイツらは…とりあえずあの方の城へ連れていくとするか」
チーチンはコナギを締め落とすと、気絶したふたりを抱えてその場を後にした…。
「なーんか、えれぇトコまでぶん投げられたみてぇだな」
「そうだね。ここ…建物の中?けっこう大きい建物の中に突っ込んだみたいだけど…」
大鷲に脚で投げ飛ばされたサザンカとシロナは、遠く離れたどこかにある大きな城へ激突し、その壁を突き破って中の部屋にまで転がり込んでいた。
薄暗い部屋の中でふたりは立ち上がり、目の前へ向き直りながらそっと呟いた。
「ねぇサザンカ、こんなこと思わなかった?」
「なんだよ」
「どうせ、最初に出会う敵はそこそこの強さのヤツがよかったのにって」
そう、ふたりの目の前には、テーブルの上に布越しに置かれた3つの暗黒ドラゴンボールを眺める、ひとりの青髪の長身の男がいた。男は赤いサングラスをかけ黒い大きなローブを羽織り、不思議そうにこちらへ顔を向けている。男はふたりに対して口を開く。
「あれ、君たちは確か…」
よくわかる。ライや仮面のサイヤ人、さらには暗黒ドラゴンボールに寄生されたフリーザですら遠く及ばないほどの悍ましい邪気をその身に孕んだこの男が、正しく今回の一連の事件の黒幕に違いないと。
「…アタシは全然思わないぜ」