もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第371話 「少年兵サラガドラ」

サラガドラが属する暗黒魔界軍は、枝分かれするように分岐して栄えている魔界を支配下に治めるために戦争を繰り返していた。だが彼のような下々の兵士には、暗黒魔界の誰が戦争を始めて、どこをどうすれば戦争が終わるかなどは一切知らされるはずもなかった。

サラガドラは後悔していた。終わりの見えない戦いへ身を投じ、数え切れないほど敵を殺す日々に。もはや彼にとって支給されたライフル銃やマシンガン、殺した敵から奪った無数の銃火器は肌身離さず持たなければならない心の拠り所となっていた。

 

大抵の若者は自分の事を特別だと思い、何か大きなことを成し遂げられるのは自分しかいないと考える。だが、いざ戦禍へ身を投じて見て、そこで初めて自分は他の者たちと同様、大した価値もない普通の人間だと思い知らされる。

サラガドラもそうだった。運よく生き残り、運よく勝利し、初めは「自分が戦争を終わらせる」という気概に満ちていたが、自分程度では到底何も成すことなどできないと思い知った。そういうことができるのは、ごく一部の限られたとんでもなく凄い奴らだけだ。

 

除隊したサラガドラは帰路につき、生まれ故郷の寂れた街まで戻って来た。背中には、戦利品として手に入れたいくつもの銃がガチャガチャと音を立てて背負われている。当然、ボルトを抜くなどの処理はされておりあくまで観賞用にされたものだ。もうかつての友達だったアブラとチーチンはもうとっくにこの街にはいない。帰るべき場所はひとつしかなかった。

 

「…やっとだ」

 

目の前に、自宅が見える。家の前にある水の枯れた噴水や割れたベンチ、苔の生えた歩道もそのままだ。強いて言えば、ちょっとボロくなったぐらいか。

自然と足早になっていく。あのドアを開ければ、あの時と変わらない日常が戻ってくる。味の薄い芋のスープと魚の干物を食べて、薄い毛布にくるまって眠る毎日。もう妹のアルも大きくなっているだろうから流石に一緒には寝ないだろう。

 

次の瞬間、サラガドラの目の前で、自分が帰ろうとしていた家が粉々に吹き飛ばされた。

 

「は?」

 

その余波はサラガドラを巻き込み、暗黒魔界のそこらかしこへ甚大な被害を与えた。

 

──古代において絶大な魔力を誇った暗黒の魔導士メチカブラの復活。彼は欠伸代わりに視界に映った街を消し去った。息を吐くと同時に発生した超巨大な竜巻が通過し、サラガドラの故郷である街も消し去られた。

無数の瓦礫が体にぶつかり、見るに堪えない無残な姿となったサラガドラはその瓦礫の中で息絶えようとしていた。

 

(クソ…何が起きたのか、わからない…)

 

消えゆく意識の中で、サラガドラは死を実感していた。全身の感覚が無く、だが異様な寒さだけは感じる。まるで冷たい泥の中に沈んでいくようだ。

そして、少年は眠りについた。

 

 

 

「おかえり」

 

懐かしい声に起こされ、サラガドラは起き上がった。そこは故郷の街、自分が住んでいた家だった。玄関のドアを開けたまま自分は佇んでおり、両親と妹が笑顔でこちらを見ている。

 

「待っていたぞ、食べなさい」

 

父親が手を向けた先には、机の上に置かれた巨大なローストターキー。戦争に向かう前は夢にまで見ていたご馳走だ。

サラガドラは荷物を置いて席に着き、ターキーをナイフで切り分け、骨を掴んでかぶりついた。美味い。

 

「これを用意して貴方が帰るのを待っていたのよ」

 

「お兄ちゃんと一緒に食べたかったから」

 

…そうか。

僕の家族は、これを食べることができないまま死んだんだな。確かに、昔はこんなご馳走は僕の人生に全く関係のないものだと思っていた。

でも、今になって思う。戦地じゃあデカい鳥捕まえて、仲間と焼いて食べた事もある。皮肉にも戦争に行くことで美味いもの食べれた。でも、家族はこんな美味しいものを食べられないまま死ぬのかよ。食べたいとも思えない暮らしをし続けるのかよ。そんな理不尽があってたまるか…向かいのウチは普通にこれくらいのご馳走しょっちゅう食べてたんだぜ。

 

「父さん、母さん、アル…。僕はこれからもっとたくさんの美味しいものを食べて生きたい。でも、ひとりで食べてもそんなに美味しくないと思う。戦地で支給される食料も…仲間と食べると美味しく感じた。だからみんな僕についてきてほしい…僕が家族4人分の幸福を手に入れるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「厄介な者が目覚めてしまったか…魔導士メチカブラめ」

 

暗黒魔界の王、ダーブラは破壊された街の惨状を眺めながらそう言った。青いスーツの上に赤と黒の模様のマントを羽織り、額からは短い一対の角、顎には髭を生やしているその姿は正しく”魔王”と呼ぶに相応しい恐ろしさと威厳を醸し出す容貌だった。

 

「メチカブラ…?そいつがこの街を…」

 

近くの瓦礫の上に座り込んでいたサラガドラは、ダーブラに対してそう呟いた。

 

「誰だ…?」

 

ダーブラが目を見開きながらそう聞き返したのも無理はない。サラガドラは破損した体を、引き寄せた銃火器で補強していた。額からは銃身が角の様に伸び、両腕の肘から先が二股に分かれ、その下側の腕はマシンガンになっている。それだけではない…明らかにサラガドラの身体からは、4人分の魂の気配を感じたからだ。

 

「…奴の古城の方角から魔力の放出が確認されていた。目覚めの挨拶代わりに街をいくつも消し飛ばすとは…暗黒魔界を戦禍に包むつもりか」

 

メチカブラの存在は魔王ダーブラでさえも持て余しているようで、悩まし気に歯を噛み締めた。

 

「少年…君は先の戦争で戦った兵士か、ご苦労だった。が、悪いことは言わない…今回の事は気の毒だが、災難に遭ったと思って諦めるんだ。できる限りの支援はしよう、この魔王ダーブラの名のもとに」

 

しかし、そんな言葉をかけられても、サラガドラの気分は何も変わらなかった。

 

「ありがとう王様」

 

…暗黒魔界が下々の魔界を支配下に納めようとする理由は、主に暗黒魔界に蔓延る魔物や魔導士を外へ出さないためでもある。彼らの中には魔界へ侵入し、そこから通じている各惑星へ脱しようと考える者もいる。だから暗黒魔界がその魔界を納めて管理してしまえば、魔物や魔導士は外の世界へ行くことができなくなるからである。

 

だがサラガドラは今更それを知ったところで何も関係はない。復讐のため、戦争の因果を断ち切るため、サラガドラはゆっくりと立ち上がった。銃を取り込むまではまだ少年の域を出ていなかったサラガドラの身体は、人間二人分ほどはあろうかという背丈をもつ細身の大男へと変貌していた。そこへ前述したとおりに銃器が組み込まれているものだからさながらサイボーグ人間が重い体を引きずって歩いているかのようだった。

 

 

 

 

サラガドラはメチカブラの古城があるらしき方角を目指してひたすらに歩いていた。銃火器の露出した体は常に激痛を伴い、血を滴らせている。正直言って意識が飛びそうだった。

それに加え、異形の魔人へ変貌したサラガドラであっても、これだけの規模に破壊をもたらしたメチカブラの相手と成り得るのかは不安がある。単身が無理なら、何かこちらの味方を増やしたいとも考えた。

 

「…ん?」

 

そんな時、サラガドラの頭上から大きな影が降りてきた。上を見上げると、そこには巨大な鷲のような鳥が羽ばたきながらこちらへ鋭い目を向けていた。

明らかにサラガドラへ敵意を見せており、次の瞬間には彼に向かって襲い掛かってきた。が、サラガドラは冷静にそれを見切り、”二本目の右腕”を掲げて魔力を圧縮した銃弾を何発か放った。

それは大鷲の足に掠り、大鷲は鳴きながら退散していった。

 

「でかい肉だ…!」

 

サラガドラはそう言いながら宙へ浮かぶと、大鷲を追いかけて空へ飛び立っていった。

やがて大鷲は荒野を抜け、一本の巨大樹へとたどり着いた。枝の分かれ目に作られた巣に降り立った大鷲に続いてサラガドラもそこへ降り立つ。そして、サラガドラは冷酷な視線を向けながら大鷲へ発砲し、射殺した。

息絶えた大鷲の身体を引っ張って運ぼうとした時、大鷲の身体の下、巣のど真ん中に大体1メートルくらいの大きな卵が転がっているのを発見した。それも全部で10個ある。

 

「鳥の卵か…?にしてもデカいな…」

 

今のサラガドラの身長であれば持ち上げるのは用意で、それを日の光に透かして見た。すると、中には明らかに幼鳥が胎動しており、時折少し動いているのがわかった。

その時、サラガドラは閃いた。

 

「くくくっ…この鳥を育てよう…!とびきり残忍に、より強くなるように改造してやる…今殺した大鷲以上のサイズに育てて…僕が最高にイかした兵器を作ってやるよ」

 

ふつふつと湧き上がるサラガドラの復讐心は劫火の如く燃え上がり、打倒メチカブラを目指してどこまでも広がっていく…。

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