戦争を終わらせて家族を幸福にするため、少年兵として戦争に行ったサラガドラは何とか生き残り、戦争には勝利したものの戦地で味わった無力感に支配されていた。
除隊され帰路につき、家族の待つ自宅を前にした途端、突然街ごと吹き飛ばされ、サラガドラは家族と再会することなく家族ごと息絶えてしまった。
だが彼は家族を裕福にするという夢をかなえるため、家族の魂を無理やり取り込んで蘇った。破損した肉体の部分を持ち帰った銃器類で補ったその姿は異形と成り果てたが、街を消し飛ばした張本人であるメチカブラの打倒を目指して復讐心を燃え上がらせた。
…
「時は来た」
暗黒魔界の深奥部、最もこの世の悪意が集中しているかのような場所に聳える歪な形状の古城。空は赤く、黒い雲が渦巻いている。
古城の頂上にて、およそ100年ほど前に復活を遂げた古代の大魔導士であるメチカブラはしゃがれた声で呟いた。一見、青い肌に白い髪を持つ、魔界ではありふれた姿をした老人に見えるが、彼の秘めるどす黒い精神を現すかのように眼球は漆黒に染まり、炎のように赤い瞳が映っている。
水晶のはめ込まれた杖を突き、カンッと大きな音を響かせると、古城の下いっぱいに控えた手下たちが一斉に跪く。中でもメチカブラと共に古城頂上にいる者は、手下の中でも選りすぐりの実力と、そして魔力を持つ魔人たちだった。
その中のひとり、暗黒魔界の王ダーブラの妹にして、暗黒魔界最高の科学者とも称される女、”トワ”は跪きながら静かに口を端を曲げた。
自分が作った人造人間ミラを最強の王に仕立て上げ暗黒魔界を再興する計画をトランクスや時の界王神によって阻止されたトワは次なる手段として全ての魔導士の頂点に立つメチカブラを復活させ、暗黒魔界を起点としてすべての時空を支配する計画を実行した。時空を支配するという事は、時の流れを思うがままにコントロールするということ。時の流れと共に流れゆく時のエネルギーを一か所へ集中させることにより、例えば暗黒魔界がそのエネルギーを独占できれば、暗黒魔界こそがこの宇宙で最も強大な勢力として返り咲くことができるだろう。
兄のダーブラは暗黒魔界を頂点に立たせようという気はまるでなかった。あくまで暗黒魔界はこの宇宙の最下層、宇宙中の澱みを一身に引き受ける役割であると信じて聞かなかった。だからトワは古代の大魔導士を蘇らせた。メチカブラの力を借りて兄を洗脳し味方に引き入れてもいいかもしれない。
しかし、年老いたメチカブラは全宇宙の頂点に立ったとしても全盛期の魔力がなければ面白くないと考えた。メチカブラは復活した後、どこかの時空の地球からナメック星人を呼び出し、洗脳して暗黒ドラゴンボールを作らせた。
7つの暗黒ドラゴンボールはまるでそれぞれが意思を持っているかのようで、更なる願いの力を求めて様々な時空へ飛び散ってしまった。トワは何とかしてこれを集め、メチカブラへ献上した。そしていよいよ、この場でメチカブラが暗黒ドラゴンボールに若返りを願い、全盛期の魔力を取り戻す。そうすれば、いよいよ暗黒魔界再興計画は容易く完遂されるだろう。
「暗黒ドラゴンボールよ…よくぞわしのもとへ帰ってきた。これもドギドギの導きがあったからこそだが…」
メチカブラはそう言いながら、7つ揃った暗黒ドラゴンボールを宙に浮かべた。深紅の水晶の中に、どの角度から見ても歪むことがない黒い星が埋め込まれた暗黒ドラゴンボールは、各時空へ散らばった際に吸い取ったエネルギーで満ちていた。
「出でよ!『暗黒神龍』!」
メチカブラがそう叫ぶと、暗黒ドラゴンボールは天へ向けて黒雷を放った。それは龍のようにうねり、その神の龍たる姿を顕現させた。
「このオレを呼び出したのは貴様か!?」
黒い鱗に覆われた長い体に細い腕、下半身に脚はなく先細りするように伸びた尻尾は暗黒ドラゴンボールと繋がっている。牙の並んだ口元からは青い舌をだらりと垂らし、鼻先と両目の上から尖った角が生え、首は赤い鬣に包まれている。暗黒神龍は、顕現して真っ先にメチカブラへ指を差し、ふてぶてしささえ感じる口調と態度で語り掛けた。
「そうだ!わしの願いは…」
「待ちな」
メチカブラが暗黒神龍に対し、願いを口にしようとした瞬間…何者かの言葉がそれを遮り、メチカブラも、側に控えていたトワも驚いて顔を上げた。
そこには、異形の姿をした3メートル越えの若い男が音も気配も無くいつの間にか立っていた。額から銃身が飛び出しており、両腕の肘から先の前腕が2本あり、下側から生えている腕はマシンガンとガトリングガンになっている。
「何者だ、貴様は」
メチカブラは驚きつつも、余裕あり気に笑みを浮かべながら尋ねた。
「僕はサラガドラ。そこを退きな、暗黒ドラゴンボールは僕に使わせろ」
そう言い放ったサラガドラの言葉に、その場の誰もが一瞬静まり返った。が、次の瞬間にメチカブラは思わず吹き出し、愉快そうに大声を上げて笑った。
「くく、ははは…はっはっはっはっは…!!面白いことを抜かす小僧だ!わしの揃えた暗黒ドラゴンボールをよこせだと?やらんわバカモ…」
ひとしきり笑った後にサラガドラへ顔を向けたメチカブラだったが、なんとその直後、ライフル銃の持ち手の方を思い切り顔面に叩き付けられた。顔を大きく凹ませながら無様にぶっ飛ばされ、床の上に転がる。サラガドラは銃を発砲するのではなく、わざわざ体内から取り出した本物の銃を鈍器代わりにメチカブラを殴り飛ばしたのだ。
「じゃあ別に頼まないよ、バーカ」
さらに、サラガドラが腕の銃口をメチカブラへ向けると、発射された螺旋に回転する弾丸が額を貫き、脳天を吹っ飛ばして破壊した。
次の瞬間、戦争が始まった。メチカブラの手下の兵たちのほとんどが機械で作られた機械兵や魔力で生成された魔導兵であり、それらがいくら押し寄せたところでサラガドラが全身から生やした銃火器の一斉掃射によって全滅させることは容易かった。
さらに…
「おーおー、サラガドラのヤツえらいことやりやがってんなァ」
「ああ…だが殲滅しろとのお達しだ。やってやろうぜ」
サラガドラの味方として加わったのは子供のころの友であるアブラとチーチンだった。彼らがサラガドラと協力を結んだのだ。
アブラは暗黒オイル玉を次々と投擲して敵陣を崩し、それでも向かってくる兵士はチーチンのソードブレイカー付の短剣で次々と斬り伏せられていく。
「さあ新生魔人ブウよ~、思いっきり暴れちゃいなよ~」
さらに、魔界の魔導士バビディが一本の巻物を広げると、その中から出現した魔人ブウが暴れまわり、兵士たちを一網打尽にしてゆく。同じくサラガドラと手を組んだバビディが、彼の力を借りて不完全ではあるものの魔人ブウを蘇らせたのだ。
「ギャア────!!」
そして、極めつけは空に現れた10羽の大鷲。巨大な翼から発せられる突風には魔力が込められており、それらで兵士を吹き飛ばし、時折地上へ強襲しては鋭い爪の生えた大きな脚で兵士を掴みつぶしていく。
「あの男を殺せ!!」
量産型の兵は彼らに任せ、それでも厄介なのは、頭を吹き飛ばされたのにしばらくは行動していたメチカブラと、その配下の強力な戦士たちだった。
「負けるか!!僕はお前らを倒して、幸福になるんだよッ!!」
全身から突き出た銃火器から絶えず魔力を弾丸として圧縮しながら発射し、戦場である古城頂上を縦横無尽に飛び回るその姿は、さながら銃弾が爆撃のように拡散しまくっていたため、一部の敵からは”銃爆”と呼ばれたりもした。
戦いは5日間に渡って繰り広げられた。最後に立っていたのはサラガドラだった。しかし既に満身創痍…全身は傷だらけで、体中の銃器はほとんどが破損して使い物にならず、本人も顔の半分と左脇腹を抉られ、少しでも気を抜けばサラガドラ自身も倒れ伏してしまいそうだった。だがここまでの手傷を追いながらも死なずに立っているのは、やはり彼が取り込んだ家族分の魂の影響による不死性のおかげだろう。
が、頭に加え体の至る箇所に風穴が空けられたメチカブラは既にぴくりとも動かずに兵士たちに紛れて息絶え、その他戦士たちも完全に息の根を止められていた。しかし、科学者トワだけは積みあがった兵士の残骸の中で絶望しながら倒れたフリをしていた。
「…おい、僕の願いを叶えろ」
「やっとか!待ち草臥れたぞ」
地面に寝そべっていた暗黒神龍は起き上がり、読んでいた雑誌と咥えていた葉巻を置いてサラガドラに向き直る。この暗黒神龍にとっては、目の前で起こる戦いも殺戮も全く関心の沸かない無意味なものでしかなかったらしい。いや、その方が邪魔されないので都合がよかった。
「僕を幸福にしろ!」
「それはダメだ!」
が、暗黒神龍はサラガドラの願いに対して、顔を近づけてきっぱりと即答で答えた。
「…なんで?」
「その願いはあまりにも大きく、ぼんやりし過ぎている。オレにとって何がお前を幸福たらしめられるのかわからないのもそうだ」
「じゃあどうすればいい?僕の考えてる幸福理論を全て説明するか?」
「いや、オレは既に待ち過ぎた。だが、ひとつだけ方法を教えてやる。お前が殺した古代の魔導士…そのジジイの絶大な魔力は、魂魄と共にその肉体から離れつつある!もしお前が喰らうことができれば、お前は必ず幸福になれるほどの力が手に入るだろう」
「…つまり?」
「それをお前の肉体に入れろと言われれば、オレはそれを断らない!」
「くっくっく…なんだよ、結局叶うんじゃないか。じゃ、はやくしな」
これでやっと、僕の夢を叶え…家族を幸せにすることができる。