「妾は”謎かけの魔人”ウラーナ。ここを通りたくば妾の出す謎かけに答えよ」
突然目の前に現れたのは、門と同じくらいの大きさ持つ巨大な女だった。煽情的なベリーダンサーのような衣装と金色の装飾を身に纏い、顔は薄い色のフェイスベールに隠されていて見えないが、ウェーブのかかった薄青色の髪が独りでに揺れている。
「ふん、誰がそんなくだらない勝負を受けるものですか!やっぱり壁を飛び越えて行った方がよかったのね」
時の界王神はそう言って宙へ浮かび、壁の上を目がけて飛んでいく。
が、途中でまるで空間に見えない膜が張られているようにそれ以上先へ進めない地点があった。それにぶつかった時の界王神は頭を打ち、その場に落ちる。
「いったー!?どうなってんの…!」
「妾の話を最後まで聞け…!よいか、ここは魔人であり魔導士でもある妾が作った結界領域じゃ!妾の出す20の謎かけに答え、全部で15問正解しなければこの先へ進むことは絶対に出来ん!」
ウラーナはサラガドラの傘下に下った暗黒魔界の魔導士である。彼女の魔力は、自身が元々クイズが好きだった事もあって固有の結界を張り特殊な領域を作り出すことができた。
「なら、あなたを倒したらどう!?」
頭にたんこぶを作って涙目になった時の界王神は怒りに任せてヤケクソ気味に黄色いエネルギー波を放ち、ウラーナへぶつけた。
「…無駄よ」
しかし、ウラーナはそれを受けても全くビクともせず、何のダメージも負っていなかった。それどころが、ウラーナが煙を払うために放った覇気の波動が時の界王神に当たり、彼女を大きく吹っ飛ばした。
「だ、大丈夫ですか!?」
それをコナギが受け止める。
「アイツ、アブラやチーチンなんかとは比べ物にならないくらい強いわ…」
「当たり前だ。妾はかつてメチカブラと肩を並べた古の魔導士であるぞ?結界など使わなくともお前たち如き一瞬で消し去れるわ!妾は謎かけを楽しみたいからわざわざお前たちにも勝てる可能性のある勝負を提案したまで。それに比べ、アブラとチーチンは愚かだった!大した実力も持たぬくせに中途半端な魔法で戦おうとするからな!弱いのだからバビディのように魔術を覚え魔力を鍛えればよかったろうに」
ウラーナは言い終わると、立ち上がって腕を組み、改めてカズラたちに向き直る。
「さて、どうする?といっても、お前たちはこの勝負を受けるしかないがのう…」
「もし不正解だったらどうなるんだ?」
「くっくっく…さぁ、どうなるんじゃろうな?だが安心せい、正解すればいい話なのだ…約束は守ろう。この結界の制約で、妾がそのルールを破った時、妾自身は消滅してしまうからの」
「わかった…その勝負、受けるわ!」
「グッド!では細かいルールの説明じゃ!ひとりずつ前に進み出て答えよ!問題に正解した後に限り交代が可能!ひとりで続けて何問解いても構わぬが、最低ひとり一問は答えてもらう!それさえ守れば順番が何巡しても構わぬ」
「じゃあ俺から行く!」
と、カズラが自信満々な様子で前に進み出た。
「大丈夫、俺とコナギでまずは少しだけ問題を答えて、残りは神様である時の界王神さんに任せる…で、どうでしょう?」
「そうですね…」
「ええ、わかったわ」
コナギと時の界王神もそれに了承する。
「一番手はお前か、小僧!ではゆくぞ、第一問!」
ついに謎かけの魔人との戦いが始まった。
「『二輪あるとバラバラになっちゃう花はなーんだ』?」
「え?」
「それって…なぞなぞじゃない!それもすごい簡単な!」
難しい謎かけを想像していたコナギと時の界王神が驚いて声を上げる。
「だから言っただろう。さぁ、答えは!?」
「バラの花だ、簡単すぎる!」
「正解だ!」
「よっしゃ!」
「第2問!『いま、なんじ?』」
が、続いて問われたなぞなぞを聞いたとたん、カズラの余裕の笑みは固まった。
「は…?今何時って…そんなこと言われたって時計はねぇしここはずっと昼間だし…時間なんて…」
「気を付けて!これはなぞなぞだから…」
「回答者以外の発言はならん!」
すぐにピンときたコナギがヒントを教えようとするも、それはウラーナに遮られる。カズラはしばらく考え込み、もう一度問いかけを思い返す。確かに、これはなぞなぞである以上ただの質問をされるわけがない。
「いまなんじ…って、わかった!答えは『二文字』だろ!?」
「正解だ」
「よし、続けてどんと来い!」
「ちょっとスト~~~ップ!!」
意気揚々と腕を回しながら次の問題に行こうとするカズラだが、見ていて余りに危なっかしいと思ったのか時の界王神が慌てて止めに入った。
「次はわたしが出るわ!」
「時の界王神さん…!」
「大丈夫、こっからわたしが12問連続で正解して、残り1問分は譲ってあげるわ」
「よかろう。ではゆくぞ、『3億6000万年前に地球で生まれたとされる最初の両生類はなーんだ』?」
カズラとコナギはさっぱり見当もつかずに首をかしげるが、時の界王神は全く動じない。
「『イクチオステガ』よ」
「正解!次、『闘争化石として発見されたヴェロキラプトルが組み合っていた恐竜はなーんだ』?」
「『プロトケラトプス』!」
「『走り回るのに座りっぱなしの人はなーんだ』?」
「『運転手』よ!」
「『ピッコロ大魔王が在位についたのは地球の単位でいつ』?」
「『エイジ753、5月9日』!」
「『別々の種類の生き物が同じ環境で進化すると姿形が似通る現象を何という』?」
「『収斂進化』」
「『有名バンド”Queen”のベーシストは誰』?」
「『ジョン・ディーコン』」
「『”JohnnyB.Goode”は誰の歌』?」
「『チャック・ベリー』」
「『”18-8-40BB”というコンクリートがあるとき、8という数字は何を表したものか』?」
「『スランプ』。数字が大きいほど柔らかいわ」
「『今何問目』?」
「『9問目』」
次々と即答で問題に正解していく時の界王神の様子を眺めていたカズラとコナギは関心のあまり口をあんぐりと開けていた。
「時の界王神さん、すごいな…」
「このまま正解数を稼いでください…!」
ふたりがそう言っている間にも、いくつかの問題を制していく時の界王神。
「…流石は時の界王神、やるな。現在12問正解、あと3問正解すればクリアだ…ではいくぞ」
次の問題を口にするウラーナ。
「『<いっぱい>の<い>の字を<お>に変えて言ってみよ』」
「破廉恥な事考える魔人ね、いいわ、望み通り答えてあげる!」
「あ、時の界王神さん気を付けて…!」
コナギが忠告しようとするも、既に遅かった。ノリノリだった時の界王神は、若干耳を赤くしながらも堂々と答える。
「『おっぱい』!」
「馬鹿め、正解は『おっぱお』じゃ~!!」
時の界王神、不正解。その瞬間、なんと不正解となった彼女の尻からジェットのように物凄い勢いの炎と煙が噴き出し、体がゆっくりと浮き上がっていく。
「え!?…えぇ!?」
そして、ロケットの如き軌道を描きながら、時の界王神は空の彼方へと吹き飛ばされ、消えてしまった。
カズラとコナギは、またまた間抜けな顔で口を開けながらその様をただ見ていた。
「妾の問いに対し、解答を間違えた者はこうなる!これも私の結界領域の特性だ。次の問題から少しルールを変えよう、お前たちふたりで相談してもよい事とする。ただし、答える者は勇気を求められるだろう…」
「勇気…?」
「ではゆくぞ。『男と女が、体をぴったりくっつけて何かをしている。さて、何をしている』?ちなみに一文字目は<せ>、三文字目は<く>だ」
「はぁ!?それって…」
「おいおい…!」
「さぁどうしたのじゃ?答えて見せよ」
ふたりとも答えに察しがついた。が、決して言いたくないその答えを思い浮かべて腕を組んで空を見上げたり下を向いてつま先で地面をかいたりしてソワソワしだす。
「ねぇ…答え分かった…?」
「分かったけど…けど…俺は言いたくねぇ…!」
「なんで!?男子なんだから下ネタ好きでしょ…!?」
「俺は好きじゃない…!」
「チキッショ~~…じゃあわかった!あたしが言ってくるからそしたら交代だからね!?」
「おう…」
コナギは赤面しながらちょこちょこ歩いていき、ウラーナを見上げる。
「ちょっと耳貸して…!」
言われるがまま、その場に四つん這いになって頭を低くすると、コナギはウラーナの耳に顔を寄せて小さな声で解答した。だが、ウラーナも顔を赤くして一言呟いた。
「うっわ~…えっち!不正解!」
「せっかく答えたのに~~!!」
次の瞬間、先ほどの時の界王神同様にコナギも空高く打ち上げられてどこかへと吹き飛んでいく。
それを見送ったカズラはふと何かを閃いた。
「あっ、もしかして『せいくらべ』か?」
「正解だ!」
「…なんか…お前ムカつくな!すげぇ馬鹿にされてる気分だ…」
「ウフフフフ…!お前たちみたいな年頃の人間からかうのが一番面白いわ!これだからクイズやるのはやめられん!さて、残り2問だがまだまだ焦るでないぞ、何せまだ4回も間違えていいのじゃからな」
「じゃあ早く出題しろ…!」
「ではゆくぞ、『男がなめられると思わず立ってしまうものはなーんだ』?」
「そんなんチ…!いや、『腹』が立つ!」
「正解!残り一問正解すればお前の勝ちじゃ。『フルーツポンチを逆さにしたらどうなるか』?」
「チ…『全部こぼれる』だ!」
「ウフフフ…流石、15問正解じゃ!約束通り、妾の後ろにあるこの門を通らせてやろう、ミスター下ネタ王」
「誰が下ネタ王だ!」
ウラーナは後ろにある巨大な扉を開き、その先にある時の巣へと道を示した。カズラは不服そうな顔をしながらも門を通り抜け、布にくるんだ4つの暗黒ドラゴンボールを抱えて先へ急ごうと歩き出す。
(ちょっと待て…)
しかし、カズラは足を止め、本当に約束通り道を開けたウラーナに振り返る。
(なんか俺…ここに来てから馬鹿にされっぱなしじゃないか?アザミも、グラジアもコナギも自分で何とかして敵を倒した…そのおかげでここまで来れた…それは分かってる。でも、こんな時、サザンカならどうする…?)
何かを決意した様子で踵を返し、再びウラーナの目の前に戻っていくカズラ。
「どうした?いまさらになって怖気付いたか?」
「クイズバトル、延長だ!今度は俺が問題を5問出す、ひとつでも間違えたらお前の敗け、全部正解したらお前の勝ちだ!」
「ほう、面白い…人間がこの妾に謎かけ勝負を挑むか!ならば妾が勝ったらお前が妾の奴隷になれ!」
「いいぜ、やってやらあ!」
「さあ問題を出して見ろ!」
「『魔人ウラーナの弱点はなーんだ』?」
「ウフフ、賢いな…だが、妾はこう答えるのだ。妾の弱点は『謎かけの問いに答えられないこと』だ、そうなった場合はお前の仲間のように私も彼方へ吹き飛んでしまうからの」
「く…。じゃあ次、『地球最小の脊椎動物はなんだ』!?」
カズラはウラーナが古の魔導士を自称していたことを思い出し、この問題を出した。この答えとなる生物は近年地球で発見された生物であり、最新の情報は知り得ていないかもしれないという期待が故だ。
「答えは『パエドフリン・アマウンシス』だ。体長は7.7ミリメートルのカエルだ」
「…正解だ」
「ウフフハハハ!どうした、もっと問題を出して見ろ!妾はなんでも知っておるぞ」
「『俺の中学生時代の担任のイャンク先生の趣味は』?」
「イャンク先生か、妾の知らなさそうなところを突いてきたか。だがな、妾はこの世の書物全てを読破しておる!お前の中学校で発行された卒業アルバムにはこう書かれている。『私はアクアリウムと筋肉トレーニングを趣味としており』とな!」
「…よく知ってるじゃねぇか…」
「当たり前だ!次はなんだ?」
「『サザンカの体重はいくつ』!?」
「逆に聞くが、お前はその答えを知っているのか?まあいい、答えは61キログラムだ!いつか本人に聞いて見ろ」
「…え?」
カズラはその答えを聞いた時、違和感を覚えた。前にふとカズラが「お前って体重いくつだ?」と聞いたときは55キロと答えていた。あの時、サザンカは噓をついた?でもそれを今確かめる術はない。ここは変な問題を出した自分の所為だ…諦めよう。
…いや、待てよ。仮にサザンカが嘘を言ってたとすれば、ウラーナが知っている事は全て実測されハッキリと記された真実だけなのではないか。サザンカの体重も、身体測定のデータとして本人に返却されている。誰かが心の中で思っていた本当の事は、知らないんじゃないか…?
「…最後の問題だ」
「よかろう、妾の奴隷よ」
「まだ決まってないだろ!…コホン、『俺が子供のころ大切にしてた”世界の甲虫大辞典特大版”の真ん中のページにいる虫はなんだ』!?」
「おお、その図鑑は妾も目を通したぞ。全328ページ、その真ん中と言えば164ページだな。ちょうどそのページはクワガタムシ編の扉絵、載っているのは『タランドゥスツヤクワガタ』だ」
「…違うぜ。そこにいるのはタランドゥスじゃない」
「何だと?それはおかしい、この通り164ページに載っている写真はタランドゥスツヤクワガタで間違いないはずだ」
ウラーナそう言いながら掌の上に実際の”世界の甲虫大辞典特大版”を取り寄せ、それのページを捲っていく。
「俺は、”俺が子供のころ大切にしてた”と言った…それは俺の持ってる本じゃない」
「…なるほど、ではお前の大切にしていた本をここへ持ってきた!」
次に、ウラーナは同じ本を再び取り寄せる。この本には、「カズラ」と子供の字で書かれた名前シールが貼られていた。
「ほうら、164ページを開いてやろう!違う虫が載っているなど、落丁本でもない限りあり得な…」
しかし、目的のページを開いたウラーナはピシリと凍り付いた。
なんと、開いたそのページにはぺしゃんこに潰れたゴキブリの死体が、パリパリになって張り付いていた。
「虫の死骸…?」
ゴキブリの体液でそのページに載っているはずのタランドゥスツヤクワガタの写真は歪み、何が何だか分からなくなっていた。その上でハッキリと紙の上にこびり付いている忌まわしいあの虫。これはカズラが小さいころ、ちょうどこのページで開きっぱなしだった本でゴキブリを叩き、そのまま本を閉じて潰したはいいもののそれ以降怖くて開けなかったものだった。
「そんな…イカサマだ…」
ウラーナの尻から炎と煙が噴き出し、彼女の体が少しずつ宙に浮かび上がっていく。
「俺は掲載されてる虫とは言っていないぞ。お前はあらゆる本を読んで何でも知っていても、人の心までは知らなかったようだな…!この勝負、完全に俺の勝ちだ!」
「うぎゃああああ」
高らかに勝利を宣言するカズラの後ろで、ウラーナはジェットの勢いによって空高く打ち上がり、彼方へと消えていった。
「ちなみにその虫は『チャバネゴキブリ』だ」
──カズラ&コナギ&時の界王神vs”謎かけの魔人”ウラーナ
勝者 カズラ(コナギ&時の界王神 リタイア)