その進路上にあった全てを破壊して突っ切り、猛進しながら超即行で刻蔵庫にまでやってきたサザロナ。
トランクス以外はサザロナのその姿を初めて目にする者であるが、それでも佇まいと雰囲気からして、素人目でもどうやったのかは定かではないが、サザンカとシロナの両方の性質を融合させた戦士だとわかる。同時に、サザンカとシロナの活躍を知る者は希望を讃えた笑みを浮かべ、何かを確信する。
「お前は…死んでいなかったのか」
サラガドラは無表情に、冷静にそう呟く。驚いているのは、後ろで壁に縫い留められ、血だまりを作っているパストも同様だった。
「なぜここにいる…?私は…まだアンタを呼んでいないはず…」
「あー?あー…別に呼ばれなくたってさ、あんなトコの壁くらい自分で壊して出てこれるんだよね。それくらい強くなっちゃったからさー」
なんと、サザロナは自力で精神と時の部屋の次元の壁を破ってここまで来たらしい。だが出てきた地点からここから遠く離れた場所だったため、大急ぎですっ飛んできたといったところか。
「そうか…」
「アタシはどうしようもないソイツらを助けに来ただけだが…ここまで来たついでだ。何か頼まれてやってもいいよ」
何を言うかと思えば、サザロナの物言いに少しカチンとして言い返そうとするパストだが、冷静に考え、今の自分ではどうやってもサラガドラには及ばないこと、無残に殺された弟の顔を想う。
「なら…頼むわ…サラガドラをブチ飛ばして!」
「気が向いたらな!」
ついに特訓を終えたサザロナの闘志がサラガドラへと向けられる。
が、当のサラガドラはまるでそれを受け流すかのように小さく笑い、腕を天へ掲げる。
「あはははは!いいぜ、流石はあのふたりの子供だ!だがなァ、生憎僕にとっては新時代を作るってことのほうが重要なんだ、だから君の相手はコイツにしてもらう」
次の瞬間、空の上から緑色の淀んだオーラが舞い降りてくる。まるで泥のように重たく伸し掛かってくる不吉なオーラはその場へ流れ出し、再び絶望に支配される。
「アイツは…まさか…」
トランクスの考えた通り、着地ざまに岩盤を砕いてその場へ現れたのは、ブロリーこと滾り爆ぜる仮面のサイヤ人だった。
「ガアアアアアアッ!!」
以前の戦いの際には顔を覆っていた仮面の右目付近以外の大部分が破損し、洗脳が解けるまであと少しといった様子であったが、今回のブロリーの様子はその時よりもおかしい。
右目付近に仮面のパーツが残っているのはそのままだが、まるで濃すぎる魔力に侵食されたかのように全身の皮膚が浅黒く変色しており、目は眼球そのものが真っ赤に染まり、髪は黒いまま鋭く逆立っている。
ブロリーは両手を地面について獣のように叫び、ぶわっと煙のような黒緑色のオーラをまき散らす。
「ハッ、ブロリーさんよ…アンタまだそんなことになってんの?」
サザロナは余裕あり気にそう言いながら超サイヤ人に変身した。すると、その際に発せられた黄金に煌めく闘気が周囲に放たれ、ブロリーの放っていた重々しいオーラを吹き飛ばした。
ブロリーは気圧され、少し後ろへ下がる。が、内から湧き上がる魔力が無理やり闘争心を引き出し、ブロリーは唸りながらサザロナへ歩み寄る。
「滾り爆ぜる仮面のサイヤ人よ、ソイツ殺せよ」
ブロリーは拳を振り上げてサザロナに襲い掛かる。サザロナはその一撃を受け止め、熾烈な肉弾戦を展開する。が、以前は超サイヤ人の状態で優勢に立てていたが、今回はそうもいかなかった。ブロリーは見た目通り、以前とは比べ物にならないほど強化されていた。恐らくはサラガドラの魔力だろうか。
「ゴガアアア!!」
雄たけびと共に放たれた拳がサザロナの頬を掠る。肥大した筋肉に覆われた腕からは想像もできないほどの速度だ。
「じゃあ、早速修行の成果…見せてやろうかなっ!!」
ズズ… バシュン!
サザロナの纏う黄金のオーラがより激しくバーナーのように燃え盛り、バチバチとスパークが弾ける。逆立っていた金髪がさらに鋭く逆立ち、さながら剣山のようだ。
「これが超サイヤ人2だ」
そして、叫ぼうとするブロリーの顔面へ重いパンチを命中させ、さらにもう一発。ズン、と内側から響くような音が二度鳴り渡り、ブロリーは地面に側頭部からめり込んだ。
が、ブロリーはすぐに起き上がり、サザロナの頭を掴み、もう片方の拳を叩き付けた。サザロナの鼻から血の筋が流れ、ブロリーは追撃を繰り出そうとするも、顎を思い切り蹴り上げられてその巨体が宙へ浮かび上がった。
だが、空中にて強靭な筋力で無理やり体を起こし、力を溜めての強烈なパンチを繰り出した。サザロナは咄嗟に片腕でそれをガードするが、あまりの威力を誇るブロリーのパンチが相手だった所為でその腕がへし折れ、あらぬ方向へ曲がった。
「へへっ」
しかし、すぐに距離をとったサザロナは血をぬぐい、笑みを浮かべながらブロリーを睨む。折れた腕もゆっくりと元に戻り始める。
「しかし駄目じゃ…あの者の力でも、あの禍々しいサイヤ人には勝てぬ…!」
戦いを見ていたジーメックがそう声を漏らした。それは、彼と同じナメック星人であるカタッツとスラッグも同様に思っていた。しかし、カズラやトランクス、アザミらは少しもサザロナの戦いをそのような考えで見てはいない。必ず勝つと思い込んでいる。
「いいや、勝てるさ…だってアイツは…」
「サザンカだぜ」
「シロナだぞ」
「やるな!だけど…まだまだアタシの修行の成果ってのはこんなもんじゃないよ!」
次の瞬間、その場で力んだサザロナの体がこれまで以上に眩い黄金の気を発し、逆立っていた髪が激しく揺れながら後ろへ靡く。
その緑色の眼の奥でサザンカとシロナの力の根源、大猿が雄叫びを轟かせ、それに呼応するようにサザロナは更なる姿へと変わる。
「そしてこれが、超サイヤ人3だ!」
「ほう…」
サラガドラが感心したように呟き、超サイヤ人3と化したサザロナを見定める。サザロナは精神と時の部屋での特訓により、サザンカしか変身できなかった超サイヤ人3へとなれるようになったのだ。
「ウラアアアアッ!!」
だが、ブロリーはそんなものお構いなしに両腕を振り上げ、サザロナに攻撃を仕掛ける。サザロナは不敵に笑ったままふわりとした動作で浮かび上がり、ブロリーの頭上を飛び越えながら2発の蹴りを脳天へ浴びせた。
ガクリとバランスを崩すブロリーだが、すぐに振り返ってラリアットを繰り出す。が、サザロナは上体を逸らしてそれを躱し、その丸太のような腕を片手で引っ張ってブロリーを自分側へ寄せながら、反対の手による拳を顔面へ叩き付けた。
「オラオラオラオラ…!」
続けて何発も顔面を殴り、一撃一撃のあまりの重さにその箇所から蒸気まで立ち上っている。さすがのブロリーもたまらずに鼻血を流しながら上体を後ろへ逸らし、足元がおぼつかなくなる。
さらにサマーソルトキック、そのまま身を翻しての踵落としが次々と決まり、ブロリーは成すすべなく猛攻を受け続ける。
(オ…俺は…)
──ブロリーの脳内に映るのは、様々な光景だった。自分が過去に体験した記憶に基づく光景がほとんどだが、半数近くは全くブロリーが見聞きしたことのないものだった。
荒れ野を闊歩する巨大な大猿たちの群れ。それらは次々と狩られていき命を落とす。そして視界を埋める黄金と深紅の光。
目の前に現れる見知らぬ男。
空を埋め尽くしていた黒い光たちが小さくなる。
周りの人々が手を合わせ、天へ向かって祈りを捧げている。その時、見覚えのある砂漠とボロ布を纏った少女の姿が浮かんだ。
大勢のサイヤ人に囲まれ、その中のリーダー格らしき大柄な男が自身の首を締め上げる。
そして、ここから先は自分の記憶だ。足を掴んで宙吊りにされ、刃物を胸に差し込まれる。ゴミが乱雑に捨てられる場所で自分の手を握ってくれるパラガス。視界いっぱいに熱と光が膨れ上がり、暗い宇宙空間を漂う。
自分の頭にはめられる制御装置。
フリーザに殺されていく仲間たち。そして、ブロリー自らの手で放った攻撃によって命を落とすカカロット。
ブロリーはライと遭遇した際、暗黒四星球に寄生された状態でサラガドラの元へ連れて行かれ、そこで無理やり暗黒四星球を抜かれた。本来であれば寄生した暗黒ドラゴンボールを無理に引き剥がせば死の危険も伴うが、そのショックを埋めるように仮面を被せられたのでブロリーは無事だった。
仮面による支配はサラガドラやライ、パストの命令にブロリーを強制的に従わせていたが、前の戦いでサザロナに仮面の大部分を破壊されてからはブロリーの意思が戻りつつあった。
そこへサラガドラは自身の魔力を浴びせ、再びブロリーを半壊の仮面戦士として支配下に置いた。その胸中には、暗黒ドラゴンボールによって抉り出された「自らの手で友を殺した」という自責と後悔を合わせた負の念が渦巻いていた。
(もう、嫌なんだ…自分が。いくら頼られて、それに応えようと戦い続けて、クウラ、ライチー、ベビーみたいな奴らを倒し続けて感謝されても、俺は大切な仲間をこの手で殺した男だ。残されたカカロットの子供らは俺をなんと思っているだろう)
「ヌガガアアアアアッ!!」
(やめろ!俺はお前らに感謝されたり好かれたりするような人間じゃない!もう俺の事は放っておいてくれ、好きにさせてくれ!──なのに、なんでお前の拳が当たるたびに頭の中に響いてくるんだ…?聞いたはずのないカカロットの言葉が…)
『俺の事ァ気にすんな!それよりも苦労するぜ、お前もいつかガキを持ったらそんな事考える暇もねぇくらい忙しくなるからなぁ!』
(本当にそうか?本当に俺にそんな資格があるか?)
「当たり前だろ!眠ィこと抜かしてんじゃねぇ!」
ブロリーの目の前で渾身の一撃を放とうと拳を振り上げるサザロナの姿に重なるカカロットの幻影が、一切の曇りなき笑顔で豪語する。
ズド…ン
そして、サザロナの繰り出した正拳突きがブロリーの顔面へ深くめり込み、パキパキと音を立てて、残されていた右目部分の仮面が粉々に砕け散った。