サラガドラはサザロナの目の前に降り立ち、ゆっくりと歩み寄る。そして、仰向けに倒れたまま動かないサザロナの頭を掴んで持ち上げ、彼女の体がだらりとぶら下がる。
「新時代の君らは幸せになる。それで十分だろ…だから安心してくたばれ」
大きな手でサザロナの胴体を掴み、頭と反対方向へ引っ張ってそのまま頸を捥ごうと力を込めるサラガドラ。サザロナの体からギシギシと嫌な音が鳴り、苦しみに呻く声を上げる。
「が…あう…!!」
バキッと大きな音が鳴り、サザロナの呼吸が止まる。サラガドラはニヤッと笑い、そのまま一気に頸を引き抜こうとする。
「サザンカ!シロナさん!」
遠くからカズラの叫び声が聞こえる。
(カズラ…?)
「俺は…ふたりとも絶対に負けねぇって信じてる!海水浴だって途中だろ…!だから…もう少し頑張ってくれ!」
(…海水浴…ああ、楽しかったなぁ。そうだよな…ここで負けたら、もう海へも行けない…だから、待ってろ…アタシがすぐに…)
パキ…
「…!?」
サラガドラは驚き、頭を後ろへ逸らす。
掴んでいるサザロナの頭部からパキパキと何かが凝固し、凍り付くような音が聞こえた。
「テメェの話は何もかも…有難迷惑なんだよ…!」
サザロナの頭部を青く透明な結晶が覆い始め、それは見る見るうちに鼻先の尖った兜のような形状を形作る。
「何だ…?君は…!!」
目は黄色く輝き、結晶と共に唇と頬も歯茎と一体化しながら硬化し、全ての歯を剥き出した口元から蒸気のような息が漏れる。
ドシャ…!
次の瞬間、突然サラガドラの顔面へサザロナの拳が命中した。しかしその威力はこれまでの超サイヤ人3のサザロナのパンチとは比べ物にならない威力で、まるで鉱物で出来たハンマーで殴られたかのようだった。
思わず両手を放し、重く響く衝撃のままに後ろへ下がってしまうサラガドラ。殴られた頬に手を当てながら顔を上げると、そこには前のめりに上体を倒して下を向いたサザロナの姿があった。両手は分厚い結晶に覆われ、光を受けて青く煌めいている。
「精神と時の部屋じゃ上手くできなかったけど…ここへ来てできるようになったみてぇだなァ…!」
顔を上げたサザロナは、今ではシロナのみが持っている肉体の硬質化の魔法による魔強化形態を超サイヤ人3の状態で併用した姿へ変化していた。
「ゥオオラアアァァッ!!」
そして一気に地面を蹴って駆け出し、残像が残るほどの速度でサラガドラへ殴りかかる。サラガドラは先ほど喰らったパンチの威力がわかっているので、慌てて腕をクロスさせて身を護る。が、サザロナのパンチはあまりにも強く、体を守ったはずの腕が消し飛ばされてしまった。
サラガドラは慌てて消し飛んだ箇所から銃を何本も生やしてそれを組み上げ、腕を再生する。さらに、再生した腕の上にも銃火器を重ね、補強する形で巨大な蟹のハサミのような腕を作り上げた。
「僕も負けねぇ!!新時代を作るまではァァ~~!!」
サラガドラは、先ほどの「撃龍・ハタタガミ」を使用するために銃火器を組み上げて巨大なレールガンを作った時のように、今度は見るからに恐ろしい巨大なザリガニのような怪物を組立て、それで自身を覆った。黒いザリガニは眼だけを赤く光らせ、サザロナを見下ろす。
サラガドラはハサミの腕を大きく引き、一気に突き出して攻撃を仕掛ける。ハサミの大きさだけでサザロナ3人分くらいの重厚さがあり、その速度もパワーも元のサラガドラよりもずっと上昇している。
しかし…
ゴシャア!
サザロナの拳が、ハサミの先端と正面からカチ合ったにも関わらず、ハサミを粉々に砕いたのだ。黒い銃器の破片が飛び散り、サラガドラは反対の腕を振り下ろす。
「テメェの言う通り、人にとって夢は必要だなァ!誰でも自由に想像できる権利があって、ひとつひとつが明日へ向かう原動力になる!」
さらに、サザロナのパンチがその腕をも砕いてしまう。サラガドラは、負けじと今度は尻尾を振るって攻撃を仕掛ける。
「だけど…テメェがやろうとしてるのァ、そんな人の夢を粉々に踏みにじって自分の夢だけを叶えようってことじゃねぇのか!?」
尻尾の先端を掴んで止め、膝で蹴り上げてへし折り、千切って投げ捨てる。怯んだサラガドラに対し、顔の部分を殴って銃火器を一気に砕いて飛ばす。
「そんなんじゃあ、いつかのメチカブラと同じだなァ!?ええ!?」
サザロナはサラガドラの股下に潜り込み、その巨体を持ち上げながら一気に空高く跳躍する。
「だからそんなテメェを…アタシは許せねぇのよ!!」
持ち上げたサラガドラの巨体を下へ向け、黄金のオーラを噴射しながら降下していき、思い切り地面へと叩き付けた。地震のような凄まじい衝撃と共に、その巨体を形作っていた銃火器が喧しく飛び散り、波のように周囲へと広がり、溶けて消える。
その中心で、サラガドラ本体が地面へぶつかった反動で逆さまになりながら宙へ浮かび上がっている。サザロナはそれを見つけ出すと、持てる全力の気を拳へ込める。その気は七色の煌めく粒子となり、邪悪なものを弾き飛ばす力を得た。
「いくぜ!『スピリットパニッシャー』!!」
「いけえッ、サザロナアァ──!!」
響くカズラの応援の声。
そして、拳を一気に解き放ち、サラガドラの鳩尾へ突き刺すようにめり込ませた。
「──ッッッ!!!」
サラガドラは声にならない悲鳴とうめき声を上げながら白目を剥き、滅茶苦茶に回転しながら地面を滑っていく。うつ伏せに倒れると、フラフラと膝をつき、何とか震える足に言う事を聞かせて立ち上がろうとする。
だが、様子がおかしかった。片手で口元を押さえ、充血した目を見開いて震えている。
「ゴハッ…!!グェホ…」
次の瞬間、サラガドラは耐えきれずに黒い液体を吐き出した。それは地面へ広がり、ねっとりとした粘度でゆっくりと流動している。
サザロナが警戒していると、サラガドラはそのまま意識を失い、再びうつ伏せに倒れ込んで動かなくなった。
「…やっぱりな。さっき腹蹴られたときに思い出したんだ…パストが言ってた『吐き出させる』って表現は適切だったみたいだなァ」
サラガドラが吐き出した黒い液体は蒸発して煙になっていくが、その毒々しい色合いと量が尋常ではなかった。
「ゴオギャアアアアア!!」
分厚い金属を無理やりへし曲げたような不気味な低い音にノイズを混じらせたような叫び声をあげ、濃い紫色の煙の中に不気味な赤い双眼が覗く。そう、古の大魔導士メチカブラの魂が顕現したのだ。
だが、メチカブラの魂はサラガドラにもサザロナにも目もくれる様子なく、細くなると素早くその場を離れていく。
「どこへ行く気だ!?…まさか!」
「うりゃあああ!!」
暗黒ドラゴンボールに寄生された戦士たちは、瘴気の力を利用して暗黒兵団との激しい戦いを繰り広げていた。その場の全員を皆殺しにしろ、という単純なひとつの命令のみを遂行しようと夥しい数の兵士が溢れるように襲い掛かる。
そうしている間、時の界王神とコナギ、カズラがサラガドラの鎖に縛られたアザミやトランクスたちを順に解放していた。
「ふー、助かったぜ…」
「ありがとう…」
時の界王神たちに礼を言うアザミとグラジア。
「我々も少し休んだおかげでいくらか回復したが…まだ動けそうにない」
「ああ…口惜しいが、ここで戦いの行方を見守るほかないのう」
カタッツとジーメックもそう言い、スラッグも不機嫌そうな顔で頷く。
その時、彼らの元へ向かって紫色の煙のような塊が高速で向かってくるのに気付く。
「なんだアレ…!」
「…まさか、アレって…そんな!」
時の界王神が焦りを見せる。メチカブラの魂は時の界王神の前で静止し、不気味な赤い双眼を光らせて魔力を放った。
「あ…!」
それを浴びた時の界王神はその場で脱力し、大人の姿から元の子供の姿へ戻ってへたり込んでしまう。それは隣にいたカズラとコナギも同様で、急激に体の力が抜けてその場に膝から倒れ込んだ。
「なんだこれ…」
「うう…」
「ゴギャアアアア!!」
メチカブラは再び恐ろしい唸り声を上げ、煙の体で時の界王神の全身を包み込んだ。そのまま彼女の体から時の力を吸い取ろうとしている。
「メチ…カブラ…!」
時の界王神はもがいて振り払おうとするが、何とかしてエネルギーを取り入れて安定したいメチカブラの執念はそう簡単に引き剥がせない。
「何してんだよコラァ!」
が、そこへやって来たサザロナが結晶に覆われた腕で気体のようなメチカブラの体をガッチリと掴み、引っ張る。すると、メチカブラは成す術なく時の界王神の体から引き剥がされ、空中で散った。
「ギャアアア…!!」
「大丈夫か?」
「わたしは平気…!それよりも、あのメチカブラ・コアを消滅させないと!」
「え!?」
メチカブラ…サラガドラが強力な魔力を得るために体内に取り込んだ魂。時の界王神の力の奪取を阻まれると、再び一つ処に集まり、今度は別の場所を目指して飛んでいく。
それは時を止められたブロリーの元だった。サザロナが気付いた時には、口を大きく開けたまま凍り付いたように動かないブロリーの体内へ入り込んでしまっていた。
「嘘だろ…?なんでブロリーの体の中に…」
「きっと、サラガドラがブロリーに与えた魔力を回収するためだわ…元はメチカブラのものだもの。でも、ブロリーの時間は止まっているから、力を回収するのにも時間がかかるはず。…あなた、ブロリーの体内へ直接入ってメチカブラ・コアを倒してちょうだい」
「はァ!?オイオイ、そんなこと…」
「あなたも魔法使いなんでしょ?ならできるわ!」
サザロナは無茶なこと言うなぁ、と言いたげに頭を後ろへ逸らすが、目を閉じて少し考えた後に立ち上がり、宙へ浮かぶ。
「わかったよ!やってやらァ!」
サザロナがブロリーの口の中目がけて飛んでいくと、なんと彼女の体が彼女の意思に反して細い煙状に変化し、するりとブロリーの口から体内へと入り込んでいった。恐らくは、まだメチカブラが入った直後であったため彼が開いた通り道がそのままだったのだろう。
「ここが…って、これほんとに人の体ン中か?」
何とか地面のある場所へ降り立ったサザロナ。あたりを見渡すと、その周囲は肉の壁と骨のような物体が組み合わさっているコロシアムのようになっており、その地面や壁の肉はまるで油だまりのようにどす黒い虹色の光沢を放っており、不気味でサイケデリックな異空間と化していた。天井高くには低い音で鼓動を刻む紫色の心臓が浮かんでいる。
「ここまで追ってくるとはな…大したものだ」
サザロナはその声を聴いたとたん、その方へ振り返って身構える。そこへ紫色の煙が集合していき、巨大な顔を形作り、赤い双眼が輝く。
…ブロリーの体内にて、古の大魔導士、メチカブラ・コアとの最終決戦が始まろうとしていた。