もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第388話 「ラスト・サラガドラ」

メチカブラは人間ひとりくらい握り込めてしまえるほどの大きさの両手を縦横無尽に振り回し、サザロナを狙う。さらに、その手が通過した場所には高密度に圧縮された魔力の筋が残され、サザロナの逃げ道を狭めていく。

 

「ははははは!逃げ回るほど貴様の動ける範囲は狭くなるぞ!」

 

「うるせぇ!わかってらァ!」

 

サザロナはその場で止まり、向かってくるメチカブラの手を殴って弾き返そうと拳を振るう。

しかし、拳はガス状の手をすり抜けた。

 

「えぇ!?」

 

かと思えば、次の瞬間には手は質量を持ってサザロナへぶつかり、吹っ飛ばしたのだった。サザロナは壁へ垂直に着地し、攻撃に転じようとするが、その場所へ無数の槍が飛んできたので慌てて離れた。細く鋭い針のような槍はサザロナがいた壁へ無数に突き刺さり、その箇所を剣山のような様相へ変えた。

 

「惜しいな、串刺しの肉ができるところだったのに」

 

メチカブラはヤギか竜のように見える歪んだ顔を上げ、耳元まで裂けた口を開く。そこへ魔力を充てんし、放射状のエネルギー波として放出した。

それを避けようと斜め上へ飛ぶサザロナだが、頭が何かにぶつかり、それ以上は上へ行けなかった。

 

「な、なんだ!?」

 

サザロナが見上げると、そこにはメチカブラの手が覆いかぶさるようにして広げられていた。ならば下へ、横へと逃げ場を探すサザロナだが、迫るメチカブラの両手に阻まれてその場から脱出することができない。

 

「やっべ、死───」

 

そして次の瞬間、メチカブラのエネルギー波が、彼の両手ごとサザロナを呑み込んだ。濁流の如き魔力の波はメチカブラの手を消し飛ばし、その内側のサザロナに届く。メチカブラは魔力を吐き出し終えると、自分で消した両手を再生し、煙を切り払う。

…そこには、かなり手痛いダメージを受けたサザロナが仰向けに倒れ、頭だけを横へ傾けていた。ヒビの入った結晶の兜、開いた口からは長い舌が飛び出し、地面に垂れている。全身にも無数の焼け跡や傷ができ、傍から見れば明らかに死体だと思う風体と化している。

 

「うげ…痛ってェ…」

 

ゴホッ、と咳込んで血を吐きながら、サザロナは起き上がろうと腕に力を入れる。が、やはりここへ来る前のサラガドラ戦で蓄積されたものも相まってか、指先で軽く地面を引っ搔くことしかできない。

 

「…愚かな」

 

そんなサザロナの様子を見ながら、メチカブラは心底冷め切ったように呟いた。ゆっくりと彼女へ近寄り、遥か上から射してくる光によって影が落ちる。

 

「仮にもワシの魔力をものにしたあの小僧を倒したので期待しておったが…とんだ期待はずれだったな!」

 

そう言いながら大きな手でサザロナを掴み、持ち上げながら自身の顔へ近付ける。

 

「あの小僧の言う新時代というのは、クソだ!くだらぬ価値観でくだらぬ理想を掲げ、結局は現在の己と全く関わりのない有象無象の歴史のひとつを頂点として据えるなど、愚の極みだ!しかし、このワシは違う!どんな歴史も時空も存在することを許そう。その時空に流れるエネルギーは、すべてワシが支配するのだからな」

 

もがく力もないサザロナは、ただ黄色い眼でメチカブラを睨みつけるほかない。メチカブラは余裕の笑みを崩さぬまま、次の瞬間、手に握っていたサザロナを頭から地面へ叩き付けた。凄まじい音と共に地面が凹み、肉の壁がダメージを受けて真っ赤な飛沫を噴きだす。

メチカブラはさらにもう一度、サザロナを地面に叩き付ける。あまりの衝撃によって彼女の体を掴む手が消えてしまうが、すぐに新たな手を再生させ、再び持ち上げ、叩き下ろす。

 

「小僧の企みを防いだ貴様へは感謝しよう!だが、もう貴様は不要になった…死ぬがいい!」

 

サザロナを掴む手と反対の手の指を伸ばして手刀を作り、その鋭い切っ先を向けて構える。このままその手刀を突き出せば、容易くサザロナの体は中心から縦真っ二つに裂かれるだろう。そしてメチカブラがそれだけでサザロナの死を確信するとは思えない。先ほどのサラガドラとの戦いで発揮した不死性を知っているからだ。

サザロナも決して完全な不死身ではない…再生不能なまでに肉体を損傷すれば流石に再生が追い付かず死に至る。これはシロナが持つ吸血鬼と記憶兵器の能力によるものだ。

そしていよいよ、全く動かないサザロナに対して、メチカブラの一撃が繰り出された。

 

PON!

 

しかし、メチカブラの手刀の一撃は空を突いた。真っ二つに引き裂かれたのは、サザロナ諸共消し飛ばすつもりだった反対の拳。

 

(何が起こった…?)

 

一瞬疑問に思うも、メチカブラの思考はすぐに理解した。自身の手の中で、サザロナの体が一瞬光ったと思えば、その体が分裂し、手の中から抜け出された。両側へ飛び出したサザンカとシロナ…拳を貫いて空を突く手刀。

 

「はっ…!?」

 

気付いた時には、目の前で拳を振りかぶっているサザンカとシロナ。サザロナであった時に受けたダメージはほとんど見られず、互いに超サイヤ人2の状態である。

そして、彼女らが同時に繰り出した拳が、メチカブラの顔面に深くめり込み、とてつもない衝撃が響いた。

 

 

 

 

サラガドラは腰を落としながら振り上げた腕を真下へ叩き降ろし、トランクスの脳天を殴打する。顎から地面に叩き付けられるトランクスに追撃を加えようと、ボールを蹴り上げるような動作で足を上げる。

が、トランクスはそれを躱し、サラガドラを見下ろせるほどの高さまで素早く飛び上がる。そして真上から気功波を放った。

 

「効かねぇ…!」

 

近距離から迫るそれを軽々と腕で弾くサラガドラは、後ろへ飛んで距離を取りながら右手の中に作ったエネルギー弾を投擲する。トランクスはそれを躱し、エネルギー弾は後ろへ通り抜けていく。

トランクスは半円を描くようにサラガドラの周囲を移動しながらエネルギー弾を連射するが、サラガドラも背後を取られまいと移動しながらそれらを殴って相殺する。

 

ギュン…

 

そしてその時、何の前触れもなくトランクスの後頭部へサラガドラのエネルギー弾が命中し、炸裂する。

 

「が…!」

(なんだ?いつの間に撃ったんだ…!?)

 

それは先ほどトランクスが躱したエネルギー弾が離れた場所でどこかに当たって跳ね返り、再び後ろから飛んできたものだった。それを理解したトランクスだが、今度は正面から放たれた気功波に気が付かず、それを胸へ受けて後ろへ吹っ飛んだ。

 

「くっ…」

 

口の端から血を流しながら受け身を取るが、既にサラガドラは次の攻撃へ移っていた。野球の投擲フォームのような構えで右手の中に気弾を握り込み、投げる。それは手を離れる直前に10個ほどの数に分裂し、トランクスに迫る。

トランクスは姿勢を低くしたまま屈み、前傾姿勢となって体を揺らしながらその全てを躱し、サラガドラへ接近する。

 

「なに?」

 

正直、サラガドラは今の攻撃をトランクスが避け切れるとは思っていなかった。だが、現にトランクスは異様なスピードを手に入れ、攻撃を避けながら自分の元へ迫ってくる。それはトランクスに変化が起こったという事を物語っていた。

逆立ったトランクスの金髪が縮れたパーマがかかったような質感に変わり、顔の下半分が剝き出しになった歯のようなマスクに覆われた姿となっていた。そう、トランクスは暗黒四星球の力をさらに引き出し、その瘴気の力で戦闘力を底上げしたのだ。

トランクスの驚異的なスピードはサラガドラですら満足に反応することができず、いつの間にか懐に入られていた。しかし、サラガドラの長身と前傾姿勢になっているトランクスとの高さの差が相まって、サラガドラにとっては足を振り上げて踏みつぶすのに丁度いいくらいだった。

 

「潰れて死ね」

 

トランクスの頭など軽く覆いつくせるほどの大きさの足が振り下ろされる。

が、突然サラガドラの顎へ強い衝撃が与えられると同時に視界が真上を向いた。トランクスは暗黒ドラゴンボールによって得た驚異的なスピード、その元である脚力を利用し、しゃがみ込んで一気に立ち上がりながら拳を振り上げ、サラガドラの顎を殴り上げたのだ。

すぐに目線を下へ戻し、冷静に腕を振り下ろすサラガドラ。

 

ドゴッ!

 

しかし、それよりも先にトランクスはもう一度しゃがんでから立ち上がり、サラガドラの顔面を殴る。続けて一発、もう一発、さらにもう一発。文字通り、間髪入れない猛スピードでスクワットをしつつ打撃攻撃を繰り出す。一発だけでは大したことないダメージでも、何発も連続して受けることによってサラガドラも流石に手も足も出せない。

そして渾身の力を込めた最後の一撃を繰り出し、サラガドラは歯を食いしばって顔を歪ませながら、その巨体が宙に浮かんだ。

 

ガシッ

 

だが次の瞬間、サラガドラはトランクスの両手を片手で纏めて掴んだ。

 

「テ、テメェ…!」

 

トランクスの顔へ自分の顔を近づけ、吃りながら言葉を投げる。トランクスは警戒して身構えるが、急にサラガドラの表情が変わった。

 

「なんでこんなに殴るんだよォ~~!?」

 

「は…!?」

 

「僕はただ…みんなの幸せを想って新時代を作ってやろうとしただけじゃないかよ~~!」

 

半分泣きべそをかいたような情けない表情でそう叫んだサラガドラに対し、トランクスは驚いて何も反応することができなかった。今まで尊大な態度を取り、強大な力を見せつけてきた黒幕の大男が、急に子供のように喚いた様子に恐怖すら抱いた。

いや、当然と言えば当然かもしれない。先刻、ライからサラガドラの過去について話を聞いた限り、サラガドラはこんなナリでもまだ人間で言えば少年の歳なのだ。それがたまたま戦争を生き延び、家族を殺され、復讐心の赴くままにメチカブラを殺し、今に至る。今まではなんとか鳴りを潜めていた幼い精神性が、数々の思惑の失敗と追い詰められたことにより爆発したのかもしれない。

 

「オレだって…昔、同じことを考えて…過去の歴史を変えたことがある」

 

トランクスは、言い聞かせるようにやさしく、それでも厳しさを交えた声色でそう言った。

 

「絶望の未来を変えるために…過去で死ぬはずだった人を生かして、戦わせた…。自分が無力だったが故の苦肉の決断だった。でも、オレがそうした所為で歴史が狂い…また別の危機が訪れ、結局その人は死んでしまった…」

 

サラガドラはその話に耳を傾けている。

 

「だから、お前の気持ちはよくわかる。…オレもお前も同じだ…絶望を経験し、何とかして救われる未来を作りたかった。決して地続きでなくとも、平和な未来を築けるのなら…物語を万能のペンで書き換えたくもなる。だけど、それで終わりだ。書き換えた物語が全てだと言って、一生懸命選択して結果別の結末を辿った物語を燃やすなんてことはしちゃいけないんだ!」

 

「…それでも、僕は!!諦めねェ!!」

 

反対の腕を振りかぶり、トランクスを殴りつけるサラガドラ。ミシミシとトランクスの顔面から音が鳴り、顔の下半分を覆っていたマスクが砕ける。

 

「…うおおおおおおお!!」

 

が、トランクスは叫び声をあげ、下半身を大きく後ろへ逸らし、勢いをつけると両足を使った渾身の蹴りをサラガドラの胸へ叩き付けるのだった。

 

 





【挿絵表示】

メチカブラ・コア 即興で描いたものですが大体こんな感じです。
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