第392話 「雪降る夜の出会い」
カズラ、中学三年生、冬。
「さむっ…」
オレはネックウォーマーの中に口元をうずめ、車止めポールの上に腰かけた。陽はほとんど沈み、真冬の夜の暗さが空を覆いつくす。
今日はクリスマス。一部のクラスメイトが浮かれたり、街もそれなりのムードになっていて、オレもそんな気に当られて浮かれているひとりだ。何を隠そう、オレは今隣のクラスの女の子と待ち合わせをしているからだ。
中二の時、廊下でたまたま話をして、なんでかは分からないけど憧れて…それから何度も会話して、彼女の好みだっていうから髪も金髪に染めて、なんやかんやあって今日、ここでイルミネーションを見る約束を取り付けた。なんとしても、今日、この場でオレの想いを伝えるためだ。
なのに、なんでこんな時間になっても来てくれないんだろう。
「へーっぶし!」
約束の時間から2時間は過ぎてる。
…何が悪かったんだろうか?もしかしたら、今までの事は全部オレの妄想で、ほんとは約束なんてしていなくて…
「うわっ、ほんとにいるし!」
「あっ…!?」
あの子の声が聞こえて振り返るオレだが、そこにはあの子のほかに全く知らない男の姿があった。多分高校生…の不良だった。やたらあの子と距離が近く、髪も金髪。
「…誰だよそいつは…」
オレは乾いた口を小さく動かして呟いた。
「は?お前こそ誰だよ」
相手の高校生がオレを睨みながらそう言い返してくる。
「ねぇ聞いてよ~、アイツ毎日学校で話しかけてきてキモかったんだけど~」
「あぁ、アイツがお前がいつも言ってるやつか。おい、あんま調子乗るんじゃねぇぞ」
「いや、オレは別に…」
「なんか文句あんのか?だったらここでタイマン張ってやるよ」
「やめてよ、アンタとやったらボコボコにされちゃうよ~」
…なんだコイツ…今までのオレとの会話…全部キモいと思ってたのかよ…じゃあ、ひとりで浮かれてたオレが…やっぱしバカみたいじゃん…。
そう考えるとだんだんムカついてきて、なんかもういろいろとどうでもよくなってきた。
「やってやるよタコ野郎!!」
…
「…惨めだ」
やっぱり駄目だった。挑むもボコボコにされた俺は顔を腫らし、鼻血を流しながら仰向けに倒れ込んでいた。アイツらが去ってから何十分か経っただろうか。
気付けば、しんしんと雪が降り始め、灰色の夜空に白い点が散りばめられていた。顔に当たる雪粒の冷たさがとても染みて、オレは重い体を起こして立ち上がる。
「明日からどうしよう…」
こんな惨めな思いをしたオレが明日また学校に行って、いつも通り振舞える自信はない。すぐに今日の事も噂になって…
「帰るか」
夜遅い時間になってようやくオレは家へ帰ろうとコンクリートの階段を降り、下の道路へ降りていく。
「…お」
「あ」
降り終えた時、下を見ていたオレは自転車を押している通行人とぶつかりそうになってしまった。慌てて顔を上げて謝ろうとしたとき、そこにいたのがサザンカだった。
「お前は…サザンカ」
サザンカといえば、学校でも有名な不良女子生徒。凶暴で傍若無人、ケンカの腕は圧倒的で誰が何人相手だろうと負け知らず、実家があのカプセルコーポレーションというのは噂として広まっており、この時のオレを含めてサザンカとまともに会話したことのあるヤツはいなかったと思う。
「ん…同じクラスの…名前なんだっけ?」
「カズラだよ」
「…そういえばそんな名前のヤツいた気がする」
サザンカもどこかで暇でも潰していた帰りらしく、制服とマフラーを着たままだった。オレとサザンカは帰る方向が同じだったため、オレがサザンカの後ろをついていく形で歩いていた。
「…お前は…どうしたんだ?その顔」
いくらか時間がたった時、サザンカが振り返ることなくオレにそう声をかけた。
「ああ、まあ…色々あって…」
「…話せよ、穏やかじゃないんだろ」
オレはサザンカにさっき誰と何があったかを放してしまった。その際もサザンカは振り返ることも、何か感情を示すことも無く、「ああ」と相槌を打つだけだった。
「…そうか」
「おう…それだけのことだ…こんな話されても困るだろ」
「…別に。アタシは…買い物の用事を忘れてたから戻る」
「そうか?気をつけろよ」
サザンカは来た道を引き返していった。
オレもその日はすぐに帰宅し、出来事をサザンカに打ち明けたことで気持ちもちょっと晴れたのでゆっくり休んだ。
翌朝、登校すると校門前に人だかりができていた。オレは何事かと思ってチラっと向こう側を覗き見ると、そこには校門横の鉄柵に例のあの子と昨日の高校生がボコボコにのされた状態で縛りつけられていたのだ。
「な、なんだありゃ…」
と困惑していると、横をサザンカが素通りしていった。この騒ぎに少しも反応せず、昇降口の方へと歩いていく。
オレは後を追いかけ、追いつくと声をかけた。
「なあ、もしかしてアレってお前が…」
サザンカは足を止めるも、顔はこちらへ向けずにぼそっと言った。
「あいつら、前からデカい顔して気に入らなかったんでな…いい口実になった」
「…おお」
オレはその時、何を思ったんだったか…とにかく、その言葉と姿が、何故かとてもかっこよくて…憧れたんだ。
よくあるだろう、カンフー映画とかヤンキー漫画を観終わった後にそういうのに憧れてワクワクする感覚…あんな感じだった。でもそれ以上に…オレは”何か”を強く思ったんだが…あれは何だったんだろう…。
─────
──
時空を駆ける冒険が終わってから何か月か経ち、冬の季節が訪れていた。
サザンカはとあるカフェのテラスでコーヒーを飲んでいた。横にはコナギがちょこんと座り、紅茶を啜っている。コナギはある一件でサザンカと対立したが、海水浴とトキトキ都での激闘を終えてからは親しい間柄となり、こうしてふたりで話をする機会も増えていた。
「で、話ってなんだよ?」
サザンカがそう尋ねると、コナギはカップを置き、もじもじしながら口を開いた。
「じ、実はね…前から話してた事なんだけど…」
「まさか…!」
「うん…グラジアに告白したら…いいよって言ってくれた」
「うおおおおおお!!やったじゃねぇか!」
「サザンカさんのおかげだよ。こうやって話聞いてくれて…」
「そりゃお前の頑張りのおかげだと思うぜ」
「そうかな…?それで、サザンカさんはどうなの?」
「何が?」
「カズラくんとどうなのってこと!」
「ブーッ!!な、なななんでカズラが出てくんだよ!意味わかんねぇし!」
「だって、好きなんでしょ?」
「すっすす、好きっていうか…!」
否定しようとするサザンカだが、観念したように下を向いた。
「まあ…そうだな」
「やっぱり!ふたりとも仲良さそうに見えるけど、付き合ったりとかしないの?」
「付き合っ…!いや、そうなりゃ最高だが…アタシは別に…」
「でしょ?だったら自分から関係を進めなきゃ!」
「そういうもんか…?」
コナギとの秘密の会合を終えたサザンカは商店街の歩道を歩きながら家へ向かっていた。夕暮れ時で空は赤く染まり、周りは他の学生や帰路につくサラリーマンで溢れている。
「サザンカちゃん」
とその時、サザンカは後ろから誰かに名前を呼ばれ、怪訝な顔で振り返った。そこにいたのは、黒いキャップと白いマスクをつけ、地味な緑色のジャケットを羽織った青年だった。
「やあ」
「お前は…トランクスか!?」
「久しぶりだね」
その青年は、サザンカたちにタイムパトロールの協力を求めたトランクス本人。だが、トキトキ都での一件の後で別れたはずだ。もうトランクスとしても、暗黒ドラゴンボールによる混乱を鎮めたこの時空に用はないはずだ。
「確かに久しぶりだが…なんでこんなところにいるんだよ?まさか、また何か起こったのか?」
「いや、実は母さ…いや、ブルマさんの家に忘れ物をしていたことを思い出してね」
「忘れ物?」
「ここへ初めて来たときに仮面のサイヤ人…ブロリーさんに折られた剣を置きっぱなしだったことを思い出してね、取りに来たんだ」
「そうだったのかよ。それでそんな怪しい格好してんのか?」
「ははは…オレは別の歴史にしか存在しない存在…いらぬ混乱を招くこともあるからなるべく姿は隠しておこうと思ってね」
「ふーん。アタシも帰ってる途中なんだ、一緒に行こうぜ」
「そうさせてもらうよ」
サザンカとトランクスは、時空を駆ける戦いを繰り広げていた際の思い出話をしながら自宅であるカプセルコーポレーションへ向かうのだった。
「たまたまゲットした、このスコッシュランドのチケット…」
一方、カズラは二枚の遊園地チケットを持って道を歩いていた。向かっている先はサザンカの家だ。
(オレは今までサザンカと一緒に話したり、居たりすることが多かったけど…なんでそうしたかったのかがわからなかった。きっかけは中三のころのあの出来事だったと思うけど…思い出したくもないあの時の感覚…それを恐れて、オレは自分の気持ちから目を背けているのかもしれない…これからサザンカをこの遊園地に誘って、そこでオレは自分の気持ちを確かめる!)
いよいよサザンカの家、カプセルコーポレーションが見えてきた。だんだんと足早になっていき、どんな言葉で切り出せばいいかとか、もしも断られた時はどう反応しよう、だとかがごちゃごちゃと頭の中を巡る。
「あれ?」
その時、カズラは目撃した。反対側から歩いてくるサザンカが、見知らぬ男と一緒にいるところを。なぜか思わず電柱の影へ隠れてしまい、こっそりと様子を見る。
(誰だアイツ?なんであんなに仲良さそうなんだ…?)
そのままサザンカは、帽子をかぶったその男と共に家の中へと入っていった。
何もできず、ただそれを見ていることしかできなかったカズラは、腹の中に重い石を入れられたような足取りで、下を向きながらその場を後にするのだった。