「わざわざ保管しておいてくれたんですね」
トランクスは、部屋に置いたっきり忘れてしまっていた折れた剣をブルマから受け取った。こちらの時空へ現れた際、ブロリーとの戦いで折れてしまったものだ。片割れの刃の方はトキトキ都で見つかった。
「ええ、大事な物なんでしょ?柄の部分がだいぶすり減ってるのに反して刃の方はよく磨かれてる」
ブルマはその剣を見ながらそう言った。
「はい…これはオレにとって大切なものなんです。ありがとうございました…この間はお礼も言わずに出て行ってしまって申し訳ありませんでした」
「いいのよそんな事」
「ははは…それでは今度こそお別れです。さようなら」
ブルマが手を振り、サザンカがピースサインを送る目の前で、トランクスの姿は完全に消えてしまった。
「…さて、ご飯作らなきゃ」
台所の方へ降りていくブルマを見ながら、サザンカは窓際に立つ。そして、横目で外を見渡してみる。
(さっきカズラの気配があった気がしたが…気のせいか?)
翌日。カズラは学校の廊下をとぼとぼと歩いていた。
「はぁ…」
結局、カズラは遊園地のチケットをサザンカに渡すことが出来ないでいた。昨日、サザンカが自分の知らない男と仲良さそうに家へ入っていくのを目撃してしまい、すっかり意気消沈していたのだ。
(サザンカは毎度のことだが遅刻…来るのは昼ごろか?その時にでも…)
と、考え事をしていたカズラは角を曲がった拍子に誰かとぶつかりそうになってしまう。
「うおっ、カズラ…!」
「あっ、サザンカ…」
それは遅れて登校してきたサザンカだった。
「…?どうしたんだよ、元気ねぇじゃん」
「あ、いや…オレは…」
カズラはそのまま誤魔化そうと思ったが、思い切って昨日のことを聞いてみることにした。
「そうだ、サザンカ…昨日の夕方、お前のことを見かけたんだけど…」
「え、マジか?どこでだよ?」
「お前の家の前で…」
「そうだったのか、声かけてくれりゃよかったのによ」
「それで…その時にお前、誰かと一緒にいたよな?あれ、誰なんだ…?」
心臓の鼓動が大きくなり、サザンカが返答するまでの時間が異様に長く感じる。
一方、サザンカも同様に緊張して心臓が早鐘のように鳴っていた。カズラから見ればサザンカは平然としているように見えるが、やはりサザンカ自身はカズラの前だといつもの調子で話すことが出来なくなるようだ。
(誰…って、なんでそんなこと気にすんだ?はっ…まさか、やっぱりカズラはアタシに気があるんじゃ…?)
「いや、昨日って、な、何のことだか…」
(もしかして…トランクスの事か?そうか、あれが見られてたのか…じゃあカズラはトランクスを違う男と勘違いしてそんなことを聞いてきたってのか?確かにトランクスは悪い奴じゃないし仲間だと思ってるがそんなんじゃねぇよ!アタシが好きなのは…)
「昨日のアレは別に…!」
(いや、待て待て…そんなこと聞きやがって、いつまでもアタシの気持ちに気付かねぇってんなら…)
「…ああ、ちょっとした知り合いなんだが話しかけられたから…一緒にいただけだよ」
「ええ!?じゃあまさか、付き合ってたりするのか…?」
思い切ってそう問いただしてきたカズラに対し、素直に否定しようとするサザンカだが、その心に黒いものが湧き上がる。
(コナギはああ言ってたが…いつまでもアタシの気持ちに気付かねぇ罰だ)
「ああ、実はその日に付き合ってくれって言われててさ…アタシもいい返事したんだ」
「…まじか」
カズラはその場で小さく肩を落とし、どん底に叩き落とされた心を、引きずるように後ろを向いた。
「あ、ああ、マジだよ…」
「そうか…わかった。そういうことなら、悪かったな…詮索して…」
そのまま、ゆっくりとした足取りで下を向きながら、カズラは歩き去っていった。
(これで、いよいよアイツも焦ってアタシに告白してくるだろ…よし、アタシはそれを待ってりゃいいってわけだ!)
「結局、どうするかなぁ」
カズラはひとり、学校のプールサイドで黄昏ていた。水泳の授業の無いこの時期はプールの水は抜かれ、誰も来ない。水泳部も町の屋内プールを借りて練習しているようだし。
だからカズラはここへ訪れていた。手には2枚の遊園地のチケットが握られており、それを眺めながら。
(このスコッシュランドのチケット…サザンカには渡せないよな…本人に彼氏がいるってんならな…。それにしてもアイツに彼氏なんて…って、なんでオレはこんなに残念な気持ちになってんだよ、ただオレは一緒に遊びに行こうと…)
「はぁ~…」
「あれ?そんなため息ついてどうしたの?」
カズラがため息をついた瞬間、近くから声を掛けられ、顔を上げた。すると、そこにいたのはサザンカの姉であり、現在教育実習生としてクラスに出入りしているシロナだった。
「…シロナさん」
シロナは咥えていたタバコを吸い、伸びた灰が煙と共に風に吹かれて散っていく。
「お、なにそれ?もしかして遊園地のチケット?」
「これですか?そうですよ、この間偶然ゲットしたんですよ…」
「へぇ…」
シロナはそのチケットをじっと見てから、勢いよくその場に座り込んでカズラに顔を近づける。カズラはぎょっとして顔を少し後ろへ逸らす。
「ねぇ!それふたり分だよね?誰かと行くの!?」
「いや、まだ…」
「じゃあ私と一緒に行こうよ!いいよね!?」
そのままカズラの両手に自分の両手を添えて握るシロナ。カズラは至近距離でシロナの黒い瞳と見つめ合った瞬間、自分の胸の中で何かが脈動したのを感じ取った。
(あれ…?なんだこの感覚…)
「いい、ですよ…オレは…」
「ホントに!?やったー!私遊園地って行ったことないのよね」
(でも、オレは…前にもこんなことがあったような…)
喜ぶシロナの前で、カズラは同時に微かな靄のようなものが心の中にかかったのを感じた。が、笑顔を浮かべるシロナを見ると、だんだんとそれも晴れてくる。
「これ今週の休みの日のチケットですけど、予定は大丈夫っすか?」
「私は全然平気!むしろ最近暇で困ってたのよ~」
夕方、またもサザンカとコナギは喫茶店で秘密の会合を行っていた。
「ええ!?じゃあカズラくんにそんなこと言ったの?」
「ああ言ってやったぜ。アイツだってアタシの事が好きなくせに、いつまでたってもアタシの気持ちには気付きやがらねぇんだぜ、だから灸をすえてやったのよ」
「だからって、違う人と付き合ってるなんて言ったら…」
「いいんだよ、ここまで言えばアイツだったら焦ってアタシを取り返そうと動くだろ」
「そうかなぁ…?」
あっけらかんとした態度でコーヒーを飲みながらそう言うサザンカだが、コナギはとてもそう簡単に事が運ぶとは思えなかった。
そして、週末の休日がやってきた。
街のバス停で集合したカズラとシロナはスコッシュタウンのスコッシュランド行きのバスへ乗り、道中の景色を眺めていた。
「あ、街が見えてきたね、あれがスコッシュタウンかな?」
「たぶんそうっすね」
ふたりはやがてバスを降り、遊園地を回って遊び始める。カズラはまだ小さかったころにまだ仲の良かった家族と別の遊園地へ来た思い出があり、その時にあらかたのアトラクションは乗っていたため、遊園地とはどんなものかは知っていたが、シロナは実際にこういう場所へ来るのは本人が言っていた通り初めてだったようで、彼女がカズラよりも年上であることを忘れてしまうほどにはしゃいでいた。
「はー、遊園地って楽しいんだね」
「確かに…オレが子供の時も好きでしたよ」
「ほんとに?私も子供のころにこういうところで遊べればもっと楽しかっただろうなー」
カズラも楽しいと感じていた。でもひとりで遊んでいたってなにも楽しくない…それはきっと、シロナと一緒に──
──ドォン!!
「なに!?」
「きゃあ!」
そう思った瞬間、ここではない場所、しかしそう遠くない場所から大きな爆発音が聞こえた。同時にギィイと金属が曲がり、ガラガラと何かが地面に崩れる音も鳴り渡る。
「爆弾だ!」
「避難してください!」
従業員や警備員が現れ、避難を促された客たちがわっと雪崩のように移動する。カズラも驚いて人ごみにつられて走り出そうとするが、シロナはその場から動かなかった。カズラも立ち止まって、彼女が見ている先へ目を向けると、そこには騒ぎによって親とはぐれたと思われる小さな子供が泣いていた。
「子供が…!」
「…カズラくんは先に逃げてて」
シロナはカズラに言い残すと、素早く跳躍してこの場から消えていく。
「ちょ、ちょっとシロナさん!?」
しかし、カズラもシロナを放っておくことが出来ず、人の流れを遡って後を追いかけるのだった。
「ぎゃははははは!」
「もっとだ!もっと爆破させろ!」
人のいなくなった遊園地のどこかで、ふたり組の男がいくつもの爆弾の起爆装置を床にばらまいて笑っていた。
「こんな面白くもねぇトコが壊れるところが見てぇんだ!」
男たちは何故か正気を失ったような振る舞いでそう騒ぎ立て、次の起爆装置を作動させた。すると、またどこか違う場所で爆発音が響き、アトラクションが倒壊していく。
「おい!アンタらの仕業!?」
と、そこへシロナが現れ、空中から舞い降りながらそう叫ぶ。
「なんだテメェ!」
「邪魔すんならぶっ殺すぞ!」
ふたりはそれぞれ拳銃を取り出し、シロナへ向かって発砲する。が、シロナは素早く走りながら左右へ揺れて弾丸を全てかわし、驚いて手を止めた男ふたりを一蹴りで同時に吹き飛ばした。
「ぎゃあ!」
「うげ!」
盛大に吹き飛んで地面にぶつかった男ふたりは気を失い、そのまま動かなくなった。
「すげぇ…」
ちょうどその瞬間に追い付いてきたカズラは息を切らしながらそう呟いた。
…その後、すぐに駆け付けた警察によって犯人たちは取り押さえられ、その日の遊園地は閉場となった。目を覚ました犯人たちは、なぜこんな遊園地の爆破に及んだのか自分たちでさえわかっていない、不思議な様子だったという。
「いやー…なんか滅茶苦茶になっちゃったね」
「はい…せっかくオレなんかと一緒に来てくれたのに、申し訳ないっす…」
「そんなことないよ?それでも私は楽しかったもん」
「でも…」
警察に封鎖されたスコッシュランドの出口前で落ち込んでしまったカズラを見かねたシロナは、彼の腕をつかむ。
「え?シロナさん…!」
「ちょっと来て」
そのまま、シロナは高く跳躍し、園内で現場検証と安全確認を行っている警官たちに見つからないように、アトラクションの上へ着地する。そしてすぐさま次々と他のアトラクションの天辺へと渡っていく。
「うわああああ!」
どんな絶叫アトラクションに乗った時よりも大声で叫ぶカズラを連れたサザンカは、停止している観覧車の一番上のゴンドラに片手と片足でしがみつく。
「よいしょっと」
そして、ドアを無理やりこじ開け、その中にふたりで入った。
「シ、シロナさん、これは…」
「観覧車っていうんでしょ?」
「それはわかりますけど…!」
「私これに一番乗ってみたかったの」
シロナがそう言いながら座席に座ったため、カズラも反対側の座席に腰かけた。シロナは目いっぱいに広がる夕焼けに染まった街並みと山々を眺め、静かに呟く。
「きれいな夕焼け…」
シロナにとって夕焼けの景色は特別な思い入れがある。カズラは、そんなシロナが夕焼けの眺める姿と、その穏やかな表情を見つめる。
(…サザンカの事は諦めよう。アイツにはアイツの自由がある…誰と付き合おうがオレがとやかく言えることじゃない。シロナさんは、サザンカのお姉さんで、5歳くらい年上だけど…)
「ん?どうしたの?」
視線に気づいたシロナがカズラに声をかける。
(オレは…この人のことが…)
その時、カズラの心の中でまた何かが脈動する。やはりそれは前にもどこかで感じたことのあって…
「あの、シロナさん、オレ…」
(いやいや、まだやめておこう…ここで言っても困らせるだけかもしれない…)
「なに?」
「いや、なんでもないっす…」
「そう?あ、もう暗くなってきたね、今日は帰ろっか?」
その後、シロナとカズラは解散した。スコッシュランドは滅茶苦茶になってしまったが、それでも、シロナは途中で足を止め、赤く上気する顔を手で覆った。
「…デートしちゃった」
恋愛描写がとても恥ずかしく、悶え苦しみながら書いていたので投稿が長引いてしまいました。この先の展開に必要な要素ですので、キモがらずに暖かい目で見てください。