もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第397話 「武道家の矜持」

「ベジータ…ですって…!?」

 

観客席でサザンカたちを応援していたブルマは、突然現れたベジータという名前と、あの顔画像を見て戦慄した。

忘れもしない…ブルマは地球へ来襲したベジータ達サイヤ人と激闘を繰り広げたのだ。あの時はピッコロのおかげで命拾いし、ベジータもナメック星での戦いで死亡したと聞いていた。

 

「それがなんで…死んだはずのあの男がここにいるの!?」

 

 

緊張するブルマが見ている前で、ベジータと対戦相手であるカンバーが武舞台上へ現れ、向かい合う。だが、ブルマはベジータに対して違和感を抱く。

 

(なんか、雰囲気が違う…?)

 

もちろん現在のブルマであれば、あの時のベジータ程度には絶対に負けないだろう。だが今のベジータから感じる気は暴力的とも思えるほど巨大で刺々しく、その戦闘力は以前とは比較にならない。それだけではなく、違和感があるのは外見もだった。確かサイヤ人の頭髪の長さは変化しないと聞いたことがあるが、今のあのベジータの髪はなぜか背中の後ろまで靡くほど長くなっている。

一方、対戦相手のカンバーという男は…左頬に傷のある顔に赤いシャツと紺色の袴を纏い、髪型はベジータと同じで長い黒髪を逆立てて背中の後ろへ靡かせている。さらに目を引くのはその体格の大きさ。身長、拡幅ともに対戦相手のベジータの2倍以上はあるように見え、猛獣のような覇気を放っている。そして、腰からは茶色い毛に覆われた尻尾が伸びており…

 

(アイツもサイヤ人…?)

 

ブルマはカンバーという男もサイヤ人であると気付いた。

 

「では只今より第4試合を始めます!まずはベジータ選手ですが、この方は今回が…」

 

「おい、能書きはよせ…とっとと始めたらどうだ」

 

「え?」

 

ベジータに威圧された審判は思わず間抜けな声を上げ、後ろを向いた。そこではカンバーも審判を上から見下ろすように睨みつけていた。

 

「そ、そうですか?では…前置きは抜きにしまして…試合開始です!!」

 

まず、カンバーが上から拳を繰り出す。ベジータはそれを腕で受け止め、もう片腕でカンバーの襟をつかみ、足を掛けて投げ飛ばす。

カンバーは巨体と筋力を強引に駆使して着地し、ベジータの腹へ蹴りを叩きこむ。ベジータはすぐさま反撃の拳をカンバーの顔面へめり込ませ、そのままタックルを仕掛けて押し倒した。

起き上がろうとするカンバーはベジータが頭上からスレッジハンマーを振り下ろそうとしているのに気付き、後転して回避する。その一撃は外れるものの命中した武舞台のタイルにヒビを入れた。

 

「すげぇ!」

 

「あのふたり、なんて戦いをしてくれるんだ!」

 

両者の攻防に観客たちは湧いた。しかし、待合室から戦いを見ていたシロナとサザンカは怪訝な表情を浮かべていた。

 

「確かにまあまあ凄いが…あれほどのバカでかい気を持っててあの程度の戦いか?」

 

「うん…何のつもりか知らないけど、あのふたり大分適当にやってるね」

 

ベジータとカンバーの攻防は観客を熱狂させるほどだったが、それはシロナやサザンカなど分かる者が見ればふざけているようにしか見えない、かなり手加減したやり取りに過ぎなかった。

やがて、背後へ回ったベジータの肘打ちがカンバーの首筋を強く打ち、カンバーは前のめりになって倒れ込みそうになる…ふりをする。そして振り返ったカンバーは追撃しようと迫っていたベジータの顔面へ裏拳をヒットさせ、怯んだ隙に首を掴んで大きく振りかぶり、タイルの上へ叩きつけた。

 

「ベジータ選手!ダウンです!」

 

ベジータはまるで気を失ったかのようにタイルの上で一切動かない。

 

「1!2!3!…」

 

審判がカウントを行うのをじっとしながら聞き、カンバーも息を切らしている演技をしながらそれを見ている。

 

「9…10!!テンカウント!!よってこの試合、カンバー選手の勝ち!」

 

審判が勝敗を決すると一気に歓声が沸き上がる。が、当のベジータはすぐに起き上がって武舞台を降りていく。その様子に困惑している審判を尻目に、カンバーも武舞台を後にして選手の控室の方へスタスタと戻っていく。

 

「よぉ…アンタ、八百長でもしてたのかい?」

 

サザンカは、身を屈めながら控室へ入ってきたカンバーにそう尋ねた。

 

「オレに話しかけるな」

 

「いいだろ?2回戦はアタシとアンタの試合がある…あまりにもやる気のねぇ戦いに見えたんでな、八百長しなきゃ勝てねぇような野郎が相手になるのかと」

 

「ふん、キサマこそあの程度の遊戯でしかオレの実力を測れなかったわけではあるまいな?すべてを知りたければ…オレと戦え!」

 

カンバーはそれだけサザンカに言い放つと、彼女の前を後にして消えていった。

 

 

 

「それでは只今より、第2回戦を進めていきたいと思います!」

 

1回戦は全ての試合を終え、審判が2回戦の開始を宣言する。

 

「一応おさらいしておきましょう。1回戦第1試合はミスター・サタン選手が勝利し、第2試合はシロナ選手が、第3試合はサザンカ選手が…そして第4試合はカンバー選手が勝ち抜きました!そして2回戦第1試合は…ミスター・サタン選手vsシロナ選手です!!」

 

武舞台上にサタンとシロナが同時に上がり、中央で互いに向かい合う。

 

「サタンさん!」

 

「久しぶりだな、シロナくん…記憶兵器は役目を終えた…だから私は諦めていた世界最強の武道家になるという夢を叶えることにした」

 

「いいね…私も夢を叶えたいんだ」

 

脇で鳴り響く太鼓の音の間隔が小さくなり、徐々に速度を上げる。

 

「では両者見合いまして…試合開始ィィ!!」

 

そして銅鑼の音が大きく響くと同時に試合が開始する。

 

「シロナ君、君の夢とは?」

 

「んー…私が優勝したらわかるよ」

 

「ははっ、聞けなくて残念だ!」

 

サタンは一蹴りでシロナの目の前に接近し、視界外からのアッパーを繰り出す。シロナはそれを腕でガードするが、巨大な鉄塊がぶち当たったかのような音と衝撃が響き、弾き飛ばされる。

 

「いっつ…!」

(この硬さ…明らかにサタンさんは記憶兵器の力を使っている!でも見た目に変化がないって事は…)

 

「気付いたかね?アリーズさんやブラックもたどり着かなかった領域…記憶兵器の“適応化”と私は称するが…そうだったな、君も既にこの領域に至っていたか」

 

記憶兵器の適応化とは。通常、記憶兵器は各々がその力を使うとき、体を変形させることによって戦闘に特化した能力を引き出している。それをさらに極限にまで高めた記憶兵器の極限化という状態もあるが、この適応化は肉体を変形させることなく生身のままで変形時に得られる特性を得ているのだ。

シロナも既にこの適応化を会得しており、シロナが自身の記憶兵器を使用したところで戦闘力に変化は出ない。サタンもまた、修行を重ねて鍛え上げた記憶兵器の圧倒的な能力を生身のままで振るうことができている。

 

「ウオオオオオオ!!」

 

続いて、サタンの回し蹴り、裏拳、肘打ち、手刀による打撃が次々とシロナへ襲い掛かる。今、サタンの手足は普段と変わらない見た目をしているが、その重さはサタンが記憶兵器の力を使う際に顕現させる巨大なペンチの腕と同じ重さ、強度を誇っており、それをサタンの格闘術によって振るわれるのだからシロナもたまらずにそれを弾く事しかできない。

シロナは徐々に武舞台の端の方へ押されて行き、ついに顎へサタンの正拳突きをもろに受けてしまった。

 

「うぐッ…!」

 

シロナは何とか端っこで踏み止まり、口の端から血が流れるのを気にせずに今度は自分から仕掛ける。向かってきていたサタンの腕を掴んで逸らし、腹へ膝蹴りを喰らわせる。サタンは苦し気に顔をしかめながらシロナの腕と肩を掴み、地面へ向かって押し付けながら投げ飛ばす。

 

「ぐは…ハア…!」

(たった一撃でこれほどまでか…!)

 

サタンは腹を押さえて息を荒くし、一度の攻撃でここまでのダメージを与えるシロナの恐るべき攻撃力に驚く。シロナは距離を取りつつ体勢を立て直し…

 

「今度はこっちからいくよ!」

 

そして、シロナは目にも止まらぬ超スピードを発揮し、武舞台上から消え失せる。あまりの速度に観客の誰もが目で追えていないのだ。

 

「ふっふっふ…なるほど」

 

だが、サタンも不敵に笑うと瞬時に消える。

 

「な、なんと!両者消えてしまいました!!」

 

審判がそう叫び、観客がざわめく。

しかし、耳を澄ますと何か異様な音が鳴っているのに、審判だけが気付いた。

 

「この音は何でしょうか…!?」

 

その言葉を聞いた観客も静まり、耳を澄ます。すると聞こえてきた。

小さいが、何かがカツンカツンと音を立ててぶつかっている音が。その音はだんだんと大きくなり、巨大な金属がぶつかり合うガキンという音に変わる。

 

「この武舞台上であることは確かですが、サタン選手たちはいったいどこで戦っているのでしょうか!?…いや、おそらく彼らは我々に認識できないスピードでこの武舞台上を駆けまわりながら戦っているのでしょう!以前の武道会で、同じような試合を見たことがありますッ!!」

 

その通り、サタンとシロナは互いの記憶兵器を開放し、観客が認識できない速度で激しい攻防を繰り広げていた。

 

「ははははは!楽しいなシロナ君!あれから鍛錬してきた力を全て見せるのは!」

 

「…私も!久々に記憶兵器使ったわ!」

 

シロナは左足の脛から飛び出た斧を叩き付けるように逆さまのまま蹴りを繰り出し、さらに右足の足首から先が変化した錐で突くように蹴る。

が、それらはサタン自身の体と同じくらいに巨大化し、指の一本一本がペンチのように嚙み合わさる形状となったサタンの両腕に弾かれてしまう。さらに、サタンはそんな両手を振り回してシロナを殴って吹っ飛ばす。

シロナも空中で回転しながら体勢を立て直し、武舞台の角を蹴って再びサタンへ向かう。シロナの両腕は鋸とカッターナイフに変化しており、それを交差させるように振り上げていた。

サタンは思った。このシロナの一撃を捌けるかどうかでこの試合の勝敗が決まる、と。圧縮された時間の中で、交差する刃が迫ってくる。当然サタンはペンチの巨大な腕を体の前面へかざして防御を取る。シロナの一閃を防いだ後、すぐに反撃に転じれるように体を捩じり、右腕を若干引いておく。

 

(さぁ来い!!)

 

ギュン…

 

しかし、サタンは視界に映る自身の腕の隙間からこちらを見据えるシロナの瞳と目が合った。次の瞬間、もうひとつの隙間から何かが飛び出してきてサタンの顔面へ命中した。

サタンはそこで動きを止めてしまい、後ろへ大きく吹っ飛ばされる。

 

「え!?サタン選手!?」

 

その時、ようやく観客たちはサタンの姿を見ることができた。サタンはすぐに両腕の記憶兵器を解除し、片膝をついて顔を上げる。

 

「今、一瞬サタン選手の腕が機械のように大きくなって見えましたが…我々の気のせいでしょうか!?」

 

「シロナくぅん…やはり決着は武道家ならば拳でやろうという事か…今見えた君の目にそう書いてあった」

 

サタンは再び拳を構え、気配を乱しながら高速移動しているシロナを迎え撃つ構えを取る。サタンは武道家として“制空権”を保持している。これは何があっても確実に反応し、対応できる領域のことで、例えば人は肌に何かが触れて初めて冷たいや熱いという感覚を覚えるが、この制空権が広いほど様々な感覚を離れた位置からまるで実際に触れたかのように感じることができる。

 

「…そこか!」

 

サタンを中心とした半径2メートルの円にシロナが触れた瞬間、サタンは素早く正拳突きを繰り出す。空気を揺るがす拳圧を発しながら放たれた拳は爆発のような大きな音を轟かせ、観客は思わず耳を塞ぐ。

 

メリィ…

 

それはシロナの顔面へめり込み、衝撃波が風となって会場全体へ吹き抜ける。攻撃がクリーンヒットした確かな手ごたえを感じ、にやりと笑みを浮かべるサタン。が、拳の向こうから覗くシロナの目を見たサタンは嫌な予感を覚える。

 

ゴゴゴ… ドォン!!

 

その瞬間、武舞台の白いタイルの上で肌色の何かが膨らんだかと思えばそれが一気に巨大化し、大きな尖った塔のようになって空へ向かって伸びる。あえなくそれに押し上げられたサタンは勢いよく空中を舞っていた。

 

「な、ななな…何なのでしょうかこれは…!?」

 

審判も観客も目玉が飛び出るほどの勢いで驚いている。

シロナは武舞台を踏む足を通じて伝達させた鋸の記憶兵器の力を使って産み出した“鋸の塔”を自分で破壊しながら駆け上り、空中に居るサタンのもとへ接近する。そして大きく拳を振りかぶり、サタンの腹へ思いきり叩きつけた。

 

(…この試合、完全にシロナ君のペースに乗せられていたという訳か…武道家ではない彼女にとって、武道家の矜持など気にする必要もないか)

 

サタンはすさまじい速度で落下し、破壊された鋸の塔の残骸を突き破って武舞台上に背中から激突した。

 

「サ、サタン選手ダウンです!1…2…3…」

 

観客が固唾を飲んで見守る中、審判はカウントを取る。サタンは仰向けのまま気を失っているようだ。

 

「8…9…10!!ミスター・サタン選手、テンカウントが経過しましたので…この2回戦第1試合を制し、決勝へと駒を進めたのはシロナ選手です!!」

 

「ミスターサターン!!」

 

「相手の女の子すごいな!サタンを倒すなんて…」

 

「サタンも凄かったぞー!!」

 

いつの間にか鋸の塔の残骸は溶けて蒸発して消えてしまっており、観客たちは先ほど見た不思議な光景を錯覚か演出として捉えているようだ。

動けないサタンが担架で運ばれていき、シロナの真横を通る。シロナは歓声を浴びながら、そっとサタンの右手を握るのだった。

 

 

 

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