「続いて、2回戦第2試合を始めます!まずは最年少、サザンカ選手です!対するは特大ルーキー、カンバー選手!!」
同時に武舞台へ上がったサザンカとカンバーは向かい合い、互いに睨んで威圧し合う。カンバーの暴力的な覇気にも押される事なく、サザンカも猛々しい闘気を露わにする。
「ほお…」
カンバーは少し感心したように声を漏らした。
「では見合って…」
太古の音が鳴り、どんどん間隔が短くなり、早くなってゆく。両者は冷静に戦うため、いったん体からわき出る覇気と闘気を引っ込めた。カンバーの深紅の目と、全く同じ色合いのサザンカの深紅の目が線を結ぶ。
「試合開始です!!」
大きな銅鑼の音が鳴り響き、試合が始まると同時にカンバーが先手を取ろうとグッと足を踏み込んで前へ飛び出す。
が…
バキッ!!
だが、後から攻撃を仕掛けたにも関わらず、サザンカのパンチの方が先にカンバーの顔面を殴りつけていたのだ。
「!?」
カンバーはサザンカの速攻に反応できず、殴られた方向に顔を傾けながら後ろへよろめく。その間にもサザンカは足を振り上げ、強烈な前蹴りを胸へ浴びせていた。そのままカンバーの巨体が浮き上がり、少し吹っ飛んで背中から倒れ込む。
「…カンバー選手、ダウンです!」
あまりの展開の速さに実況する暇すらなかった審判がカウントを始めようとすると、カンバーは何事もなかったようにスッと起き上がり、腕を振り上げながらサザンカのもとへ接近し殴りかかる。
ドゴォ!
しかし、サザンカは向かってくるカンバーに対し、その場から一歩も動くことなくパンチの一振りを命中させて吹っ飛ばしたのだ。この攻撃はカンバーの顎へ当たり、再び吹っ飛ばされ、倒れ込んだ。
「ナメんじゃねぇよ、デカブツ野郎が!」
「…ハハハ!」
カンバーは笑い、起き上がりながら鼻息を吹いて鼻血を出し切ると、ゆっくりと歩きながらサザンカに近寄り拳を振り下ろす。サザンカは腕を掲げてそれを防ぐが、同じ腕で続けて放たれた3発の超高速のパンチに反応できずにそれを喰らってしまう。
「ぎゃ!」
その体格に見合わない程機敏な速度で動くようになったカンバーはサザンカに反撃の暇を与えず、足を振り上げて真上からサザンカを踏みつける。
咄嗟にカンバーの足を両手で掴み、守りに入るサザンカだが、徐々に上からの重圧に耐えきれずにゆっくりと押されていく。
「ん?キサマ…サイヤ人だろう?尻尾はどうした?」
「あぁ?尻尾だ…?んなもん初めっから生えてねーよ!」
「何だと!?サイヤ人の誇りと強さの象徴たる尻尾がない…?そうか、だからキサマは…」
カンバーはサザンカを殴り、もう片方の腕で頭部をわしづかみにしてその身体を持ち上げた。
「う…離せッ…!」
「キサマの中に眠る、”オレと同じサイヤ人の本質”を呼び起こしてやろう」
その時、カンバーの体を覆うように赤黒く禍々しいオーラが立ち込め、それは彼の腕を通じてサザンカの頭に届き、そのまま全身を包み込んでしまった。
「な、んだこれ…!!」
全身に焼けつくような激痛が走り、手足が硬直して全く動かせなくなる。
「サザンカ選手、カンバー選手に締め上げられ全く抵抗できません!このまま決勝へと進むのはカンバー選手なのか!?」
が、やがてカンバーは手を離し、サザンカはタイルの上へ落ちてへたり込む。頭を抱え、息を切らしながらゆっくりと顔を上げた。
「テメエ…アタシに何しやがった!?」
その体からはカンバーのものと同じ赤黒いオーラが湧き出ており、全身のいたる箇所の血管が太く浮き出ている。全身に尋常ではない汗を浮かばせながら筋肉が震え、一目でサザンカは異常な状態へ陥っているとわかる。
「原始のサイヤ人の闘争本能を呼び起こした。さぁ、オレと戦え!!」
カンバーは自分を指差すと、先ほどまでとは比べ物にならない気を開放し、桁違いのスピードで一瞬でサザンカの目の前にやって来た。そして剛腕を振り上げ、隕石の如き拳の一撃を繰り出した。
サザンカは超サイヤ人にも変身しておらず、先ほどまでの大幅に手加減したカンバー相手に攻撃を加えることができたが、ある程度気を解き放ったカンバーの攻撃を避けきることは難しい…
が、サザンカは軽くそれを躱し、逆にカンバーの側頭部を思い切り蹴り抜いた。カンバーは回転しながらよろめき、項垂れる。
「なんだかわからねえが、悪くねぇ」
サザンカは未だに苦しみ息を乱しながらもカンバーから与えられた謎のパワーを何とか己の力として制御することに成功していた。
「その本能を律したか…それでこそサイヤ人だ」
カンバーは間一髪で蹴りとの間に腕を差し込んでガードしており、あまりの衝撃に煙が上がっている腕を軽く振って痛みを飛ばした。
サザンカとカンバーはゆっくりと姿勢を正して向かい合い、少しの笑みを浮かべたまま歩き出す。堂々たる所作で少しも身じろぎすることなく互いに接近し、サザンカは顔を上へ突き上げ、カンバーは重圧で上から押さえ込むかのように屈み、顔と顔が触れ合おうかという距離まで近づいた瞬間、視認できないほどに圧縮された予備動作を経て同時に拳を繰り出し、衝突した。
ドン!!
大気を揺るがす衝撃が生まれ、観客が前を向いていられない程の突風が吹き荒れる。さらによく見ると両者の拳は接触してはおらず、まるでふたりの持つ赤黒い炎のようなオーラがあまりに高密度過ぎて触れるまでもなく衝撃が生まれているかのようだった。
「はははは…!流石はオレと同じ特別のサイヤ人だ!やりおる!!」
両者はやがて反発し、同時に後ろへ飛んで武舞台の上に足を付ける。そして再び同時に飛びかかり合い、凄まじい速度の攻防戦を繰り広げる。
「りょ…両者、激しい戦いを繰り広げております!まさに実力と実力、気合と気合のぶつかり合いです!わっぷ!」
何とか実況をする審判であるが、戦闘の余波が絶え間なく吹き荒れるせいで観客席の壁際にへばりつくような体勢になってしまった。
「はははっ、おもしれぇケンカじゃねーか!」
サザンカが真上へ向けて放った蹴りがカンバーの顎にヒットし、上体を逸らす。すかさず腹へパンチをめり込ませ、今度は前のめりになったカンバーの顔面を思い切り殴りつける。
「グハハハ!」
カンバーは鼻と口から血を垂らしながら興奮したように笑い、続けて放たれたサザンカの蹴りを足を掴んで止めるとそのまま彼女の体を振り上げ、直後に振り下ろした勢いを乗せて胸へ膝蹴りを叩きこんだ。
「うごッ!?」
あまりの威力にそのまま意識を失いかけ、武舞台のタイルの上に突っ伏すサザンカだが、手をついて上体を起こすと同時に指をタイルの中に突っ込み、そのまま下の石材ごとタイルを引き抜き、それをカンバーの脳天へ叩きつけた。
タイルは空気中に舞うほど小さく粉々に砕け散るもカンバーは全くそれを意に介しておらず、サザンカの頭を掴んで床に押し付けた。
「キサマの力はまだまだこんなもんじゃない筈だろ?今ここで示して見せろ、オレがたどり着けなかった先の領域を…!」
「何抜かしてやがんだ…テメェ!」
「オレは強い同胞を集めるためにわざわざこんな大会へ出向いたのだ…!オレの気は特別だ、同胞の遺伝子に眠る原始の闘争本能を引き出す。だが、オレの気でオレ自身の原始の力は呼び起こせない…!そこでわざわざこの時代に蘇り、キサマを見つけた!キサマはオレと同じ、”悪のサイヤ人”なのだ!!」
「あぁ…!?」
カンバーの赤い瞳と、サザンカの赤い瞳が重なる。
「この戦いで確認できた…オレの気はオレに影響はないが、キサマには効果がある!だからキサマがオレの力によってオレを越えろ!そうすればキサマの力によってオレはもっと高みへ昇れるし…その他の誇りを忘れた同胞たちも強くなる!」
「なんでそんなことをしようとするんだ!?サイヤ人達を集めてどうするつもりだよ!?」
「…近々、神々との戦争が始まる!そのための兵力が欲しい!サイヤ人こそがこの宇宙で最も優れた戦闘種族だからな」
カンバーは小声でそう呟くと、拳を振り下ろしてサザンカの顔面へ叩き下ろした。ぐりぐりと力を込め、抵抗するサザンカを封殺しようとする。
「この戦いを通じてキサマが完全なる悪のサイヤ人へと進化したのなら、オレと共に戦うしかなくなるだろう」
「ぶ…悪のサイヤ人だの…戦争だの大層な夢持ってるなら、わざわざこんなところでそんな話をすんじゃねぇよ!!」
サザンカはカンバーの拳を押し上げ、そのまま頭突きを顎へ喰らわせる。カンバーは後ろへ上体を逸らすもすぐに体勢を戻し、再び拳を構えた。が、それを振り下ろす前にサザンカの素早いパンチを4発受け、動きが止まる。
「アタシはアタシのためにこの大会で優勝しなきゃいけねぇんだ!テメェの話も立派だが…ぶっちゃけどうでもいい!!」
「ほざけェェェ!!!」
カンバーは逆上し叫びながら空へ飛び上がり、上空から赤黒い気の波動を放つ。明らかに加減をしていない攻撃で、この会場もろとも吹っ飛ばしてサザンカを屈服させるつもりのようだ。
しかし、こちらも空へ向かって高速で跳んだサザンカの放つ特大威力のパンチが赤黒い波動を跳ね返して消し飛ばしながらカンバーの顔面へめり込む。
「…ははははは」
カンバーは力なく落下していき、ドスンと音を立てながら武舞台の上に倒れ込む。サザンカがそれを追って降り立つと、カンバーはむくりと起き上がり、両手を上げて言った。
「『まいった』」
「は…!?」
「た、たった今!カンバー選手の口から『まいった』が宣言されました!よってこの勝負に勝利し決勝戦へと勝ち進むのはサザンカ選手です!!」
観客はポカンとするが、すぐに盛り上がって歓声を上げる。
「なんのつもりだ?おい」
サザンカはカンバーを睨みながらそう言った。全身を覆っていた赤黒いオーラは薄くなってい消えていき、サザンカ自身の気もカンバーとの試合前と同じに戻っていく。
カンバーは武舞台を降りようと歩き出し、サザンカとすれ違いざまに囁く。
「出直してこよう。ここでは互いに本気で戦えないだろう?次こそはキサマを立派な悪のサイヤ人へ仕立ててやる」
そう言い残したカンバーの背中を見送りながら、サザンカはため息をついて拳を握る。
「上等だこの野郎、何度でも来やがれ…」