もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第4話 「不死身の少女藤原妹紅」

ある日のこと。幻想郷の南東辺りに位置する広大な竹林、「迷いの竹林」と呼ばれているが…その名の通り、竹の成長が速く緩やかな傾斜により方向感覚も狂ってしまうため、よほどの幸運が無ければ迷ってしまうらしい。

 

そんな場所の真っただ中に、カカロットはじっと立っていた。カカロットが博麗神社を出てから、実に五日が経過していた。あの日以来、この竹林の中に入り、彼は彼なりの特訓に明け暮れていたのだ。

 

「む~ん…」

 

周囲を見渡しながら構えた。そこには、カカロットを取り囲うように太い竹が何本も生えていた。どれも直径だけで10センチ以上はある、見るからに頑丈そうな竹だ。

 

「どりゃあああ!!」

 

そして一気に飛び出し、竹に向かって蹴りを入れる。すると一撃でその竹はへし折れる…というよりもスッパリと切断されてしまった。

続いて二本目の竹に手刀でチョップを叩きこむと、これまたスッパリと縦から裂けた。

 

「ふん…」

 

わずか2秒ほどの間に周囲の竹を全て切り裂いてしまったカカロット。

 

「こんなものか」

 

この竹林の竹は前述したとおり、竹の成長スピードが異常に速い。なので毎日切っても、次の日にはある程度まで伸びている。しかも…

 

「よっと!」

 

このように、起きてる間は一時間おきに竹をジャンプして越えることで足腰や跳躍力を鍛えることができるのだ。そして明らかに飛べない程長くなったりすれば、それはもう先ほどのように切る修行に使ってやってもいい。

カカロットはいつものようにスカウターを装備すると、測定する対象を自分に設定し、ボタンを押した。

 

「19…まだだ、こんなものではアイツには勝てん。せめて100を超えねば…」

 

しかし、五日も特訓をしてたった1しか上がっていなかった自分の戦闘力を見て、イライラとスカウターを外した。

 

「腹が減ったな…」

 

カカロットは切った竹を一か所にまとめると、朝飯を求めて歩き出した。

 

 

目の前に一匹の狼が通り過ぎた。

 

「…狼は昨日食ったな…。魚にするか」

 

カカロットは自分の知っている大きな池を目指した。

池にたどり着くと、自分の尻尾を釣り餌のように水面に垂らした。ここはどこかから流れる川と繋がっていて、時たま大きな魚が流れてくるようなのだ。

 

(ん!シメたぞ、猿か!犬か!)

 

ちょうど、ここを通り過ぎようとした一匹の魚が水面に垂れる尻尾を見てそう思った。そして一気に上へ向けて泳いで行き、勢いよく水から出て飛び跳ねた。

しかし、そうしてしまったのが運の尽き。3~4メートルはあろうかという巨大な怪魚はカカロットの肘打ちを顔面に喰らい、そのまま力尽き果ててしまった。

 

「こいつは美味そうだ」

 

獲れた魚を見て舌を出しながらそう言った。

しかし、その時…。

 

「はっはァ、おいお前!この俺のなわばりで何をしてやがる?」

 

「む…お前こそなんなんだ?」

 

魚を担いで戻ろうとしたカカロットの前に立ちふさがったのは、虎顔の大きな獣人だった。筋骨隆々で、身の丈も人間二人分ほどある。恐らく獣の妖怪であろう。

 

「俺のなわばりにあるものは全部俺の物だ!その魚は俺が喰うモンだ、置いてけ!」

 

カカロットはじりじりと後ろに下がりながら、そっとスカウターの計測ボタンを押した。

 

(戦闘力30…!流石に敵わん、ここはおとなしく従うか、逃げるか…)

 

「どうした!ビビっちまって声も出せないか?」

 

すると、虎妖怪の背後で葉っぱを踏む音が聞こえた。二人がそちらへ顔を向けた。

そこには、人が立っていた。白…いや、銀色の髪をした少女だった。赤いズボンのポケットに手を入れ、悠々とこちらへ歩いてくる。

 

「お前たち、ここで喧嘩はやめるんだな」

 

「何だとぉ~!?」

 

「そもそもここはお前のなわばりじゃないぜ。ずっとそこの猿の後ろを付けてただけじゃないか」

 

「なっ…!で、デタラメ言いやがって!」

 

何やら言い争っている虎妖怪と少女。そして、カカロットはその間にこの場から逃げる準備をしていたが、試しにあの少女の戦闘力を見てみることにした。人間みたいな格好をしながら、自分のようにこの竹林にいる。恐らく、タダ者ではないはずだ。

 

「…戦闘力70…だと…!?」

 

「デタラメじゃないさ。でもお前、こんなとこまで来て自分のなわばりとやらに一人で帰れるのか?」

 

「く…舐めやがって、殺してやる!!」

 

虎妖怪は怒りに身を任せ、両腕を広げて牙を剥き出しながら少女へ襲い掛かった。だが、少女はポケットに手を入れたまま宙高くへ一気に飛び跳ねた。

 

「ど、どこだ?」

 

当たりをキョロキョロと見渡している虎妖怪。その背後に回った少女はふふっと笑うと、その後頭部を蹴りつけた。その反動で再び浮かび上がり、空中に留まる間に何発も虎妖怪に蹴りを浴びせた。

 

「むぐあ~!」

 

虎妖怪はズシンと音を立てながらその場に倒れ込んだ。少女はその場に着地し、靴を地面にトントンと叩いて鳴らした。

 

「すげぇ…」

 

カカロットは思わずそう声を漏らした。これだけの強さが有れば…もしかしたら!

 

「アンタもこんなとこに居ないでとっとと出ていった方がいいよ。出口までは案内してやるから」

 

「いや…俺はお前に用が出来た。俺に稽古をつけて、俺を強くしてくれ!」

 

「はぁ!?」

 

突然のカカロットの申し出に、少女は思わずそう素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「頼む、俺の師となってくれ!」

 

「…よくわからないけど、とにかくここじゃなんだ…私のウチに来なよ」

 

 

 

「んで、さっきのはどういう事なんだ?」

 

案内された竹林の何処かにある妹紅の小さな家。

 

「俺の名はカカロットという。俺には絶対に超えて倒したい相手がいるんだ。そのために俺はここで特訓をしていたのだが、お前の強さを見て俺は思った!お前なら俺を強くできるとな!」

 

「う~ん、そう言われてもな。私は多少は妖術や格闘術を齧ってはいるが、人に教えられるほど極めたわけじゃない」

 

「そこを何とか…」

 

「まぁ、それでもいいなら構わんさね。こっちも最近は暇してたんだ、退屈しのぎにはなりそうだ」

 

「おお!感謝する!」

 

「あ、言い忘れてた。私は藤原妹紅、こう見えても人間よ。かれこれ千年以上は生きてるがね」

 

「せ、千年!?」

 

「長く生きてるからその分他より強いだけ、だから教えられることは少ないよ」

 

それから、藤原妹紅と名乗った不老不死の少女との修行の日々が始まった。

といっても、修行は基礎的なものばかりであった。朝の筋力トレーニング、重しを背負ってのランニング、妹紅との簡単な組手…。それでも、自分の力だけで生きてきて、他人から手ほどきを受ける事など初めてだったカカロットにとって、これらの特訓は厳しい物であった。

 

「とりあえず…腕立て伏せと腹筋を300回ずつ?明日から100回ずつ増やせばいいのか…?」

 

妹紅も人に修行を付けることなど初めてであったため、探り探りメニューを考えている。

 

「おう!」

 

「えっと…この岩背負って走ってもらおうかな」

 

「お、おう!」

 

「ちなみに切った竹があるから、それをジャンプして越えながらね」

 

「…あまり適当なこと言うんじゃねえぞ」

 

「うるっさいな、私だってこんなのは初めてなんだよ!あ、速く走らないとどんどん伸びちまうからな」

 

「え?…うおおおおお!!」

 

カカロットも苦しそうな弱音や態度を見せたりするが、結局はそれを次々とこなして見せた。

そして、その日の夕方。一日の修行の締めとなる組み手がやって来た。

 

「よし、最後は組み手をやってみる訳だが…お前さんは基礎は十分鍛え込んであるらしい。ではそれ以外で何を高めるのかというと…ずばり、攻撃力だ!」

 

「はぁ…はぁ…こ、攻撃力…?」

 

「そうだ、筋力や持久力も思ったより十分、完成されている。ならばそれを活かさなければならない…そう、敵を倒すには攻撃力が無ければならない。よし…遠慮せずに殺す気で打ってきてもいいよ」

 

妹紅はそう言うと、両手を広げてスキだらけの構えを取った。カカロットは思わず困惑し、キョトンと口を開けた。

 

「どうした?倒したい奴がいるんだろ?だったらどこをどう攻撃すればいかに効率よく倒せるのかを実際にやってみて模索するんだ。私の体を好きに打っていいから、やってみなよ」

 

「あ、ああ…」

 

カカロットは思った。きっと、妹紅は自分の攻撃を全て躱しきるか、受けきるかするに違いない。組み手なんだ…そういう修行に違いない!

 

「いくぜ!!」

 

カカロットは飛び出すと、妹紅に向けてパンチを放った。今日のトレーニングにより引き締められた筋肉から繰り出される一撃は、昨日よりもはるかにパワーを増していた。しかし、妹紅の戦闘力はやはりカカロットを更に凌駕していた。

全ての攻撃を、避けるどころか防御の構えも取らずにすべて自ら直撃しにいったのだ。だが妹紅は痛がる様子一つなく、平然と服に付いたほこりをはらった。

 

「まだまだ全然だな。もっと殺す気でやった方がいいと思うよ。倒したい奴の顔を頭に思い浮かべて…今日こそ殺してやる!って気概でやるんだ」

 

「顔を頭に思い浮かべて…」

 

そう言われたカカロットは、すぐに霊夢の顔を思い浮かべた。許さん、弱い人間の癖に俺に大きく差を付けてやがる…それに俺を倒しておきながら情けをかけただと…?

 

「ぐぬぬ…うおおおおおおお!!」

 

その瞬間、胸中に怒りが込み上げ、やがて爆発した。その大声と気迫は妹紅をすくませた。まるで、巨大な獣を前にしているかのような威圧感だった。

妹紅の体の緊張が解けた。次の瞬間、カカロットが怒りに歯をむき出しながら妹紅に飛びかかった。蹴りを繰り出し、続いてパンチを加える。

それはひたすらに攻撃を受けようと考えていた妹紅が咄嗟に手で止めてしまうほどの気迫と威力だった。しかし、逆にカカロットはその手を掴み返すと強引にガードを取り払い、そしてその首に渾身の拳による一撃を叩き込んだ。

 

「あが…」

 

「え!?」

 

カカロットの一撃は妹紅の首から顎にかけてを抉り取っていた。血が噴き出し、妹紅は小さなうめき声を漏らしながら後ろへどっと倒れた。

 

「ど…どうしよう、本当に殺してしまった!」

 

倒れた妹紅の周りを右往左往しながら慌てるカカロット。

 

「そんなに慌てるなって」

 

再び聞こえた妹紅の声に、今度は驚いて飛び上がった。恐らく死んでいるであろうはずの妹紅へ目を向けると、何と妹紅は何もなかったかのようにその場に座っていた。

抉られた首からは蒸気のような煙が上がっており、なんとカカロットが見ている前で元通りに再生したではないか。

 

「ど、どうなってるんだ!」

 

「不老不死って言う有難迷惑な能力さ。これがあるから、私は死ぬことも老いることもない。言い忘れてたが理解できたか?これを使ってお前さんは私を存分に痛めつけて相手の倒し方を覚えるんだ」

 

「そ、そんなことが…」

 

「さ、もう一度来い!今のは凄かったぞ、そんなパワーがあったんだな!この私を殺せるなんて」

 

「ひ、ひ~~!!」

 

 

そんなこんなで不死身の少女、藤原妹紅との特訓の日々が始まった。はてさて、この先…カカロットは霊夢を超えることができるのだろうか…?

 

 

 

☆キャラクター戦闘力紹介☆

参考

一般成人男性 5

一般成人女性 4

子供(10歳) 2

ミスター・サタン 6.66

一般的に超人と呼ばれるレベル 7~8以上

 

 

カカロット 19

 

約5日間の特訓によりややアップ。

 

 

藤原妹紅 70~140(通常~気で攻防力増)

 

老いることも死ぬこともない少女。成り行きからカカロットに修行を付けてやることになった。

戦闘力70。しかし、原作のラディッツ戦で悟空やピッコロが見せたような「気の一点集中」を長い人生のうちにマスターしており、炎を纏った体の部位はそこだけが2倍の140となる。




次回はあの尼さんが登場…!?

そういえば、何故自分が幼少期の悟空(カカロット)と東方を合わせようと思ったのか話しておきます。
最初はフリーザやブロリー、超サイヤ人の悟空などを出してもいいかなと考えていましたが、それはちょっと違うんじゃないかなと。初登場時のベジータでさえ惑星を破壊できる力を持っているのに、それよりもはるかに強い連中とたかが幻想郷の住民をそんなレベルの敵と戦わせたりするのはさすがに違うんじゃないかなと。
なので比較的レベルが近い初期悟空と幻想郷を合わせようと思ったわけです。まぁ順々にそれくらいには強くなっていきますけどね!

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