「ゴホ…ぶはっ!」
目を覚ましたカズラは口の中に入っていた砂を吐き出した。横では瓦礫の上に腰かけたブルマがおり、彼女もボロボロの姿のままたばこを吸っていた。
「おはよう」
「おはようございま…って、これは一体…!?」
周囲の荒れ様を見たカズラは驚いた。武道会の武舞台らしきものは残っているが、その周囲の観客席や寺院そのものがさっぱり無くなり、代わりに砂と瓦礫のみがそこにあった。
「まさか…」
「サザンカ。気を爆発させてここを吹き飛ばした…」
「そんな…アイツがこんなことを…」
カズラはそこまで言うと、その場で黙って考え込む。
「…ブルマさん、俺…さっき強く思ったことがあるんです。それをどうしてもサザンカへ伝えなくちゃけない!俺をアイツがいる場所まで連れて行ってくれませんか!?」
シロナが放ったマスタースパークは一直線に伸び、サタンに拘束されて少しの間動きを止められたサザンカを呑み込んだ。軌道上は地面がめくれ上がり、焦げたような匂いが充満し着弾地点は激しく燃え盛っていた。
「ふう…サタンさんごめーん、大丈夫だった?」
シロナは煙の中から現れたサタンに声をかける。サタンの両腕は肘から先が消し飛んでいるが、本人は大したことはなさそうな様子。
「問題ない」
記憶兵器にとっては命にかかわる怪我でなければ短時間で治癒するので特に気にするほどのことではなかったようだ。が、その様子を見た天龍は無言でドン引いていた。
「私も、確かにサザンカ君に直撃するのを確認した」
「…手ごたえはあった…本当に殺しちゃわないか心配だったけど…」
シロナ達が見守る中、炎は内側からの圧力によって吹き飛ばされ、その中心には全身から煙が上がっているものの服以外ほとんど無傷のサザンカが立っていた。
「おーおー、熱ィ熱ィ!」
「…まあそうだろうとは思ってたけど…そこまで平然とされるとムカつくわね…」
「ザコ共が…テメェらに用はねぇ!消えてろ!」
サザンカは腕を振るい、気の衝撃波で前方を薙ぎ払う。
「ぐあああ!」
それによって、天龍、ウスター、サタンは吹き飛ばされ、遠くの岩盤へ激突した。シロナは踏ん張りながら耐えていたが、接近してきたサザンカに反応できず、顔面を掴まれ、天龍たちがぶつかった岩盤へ叩き付けられた。
「もう終わりか?」
ダメージを受け、超サイヤ人2から通常の状態へ戻ってしまうシロナ。手足に力が入らなくなり、サザンカへ対し抵抗する力も弱くなる。しかし、サザンカはそんなシロナの鳩尾へ膝蹴りを食らわせ、顔面を殴打し、さらに容赦のない猛撃を叩き込む。
「死ね!死ね!死ね!!」
「あぐッ…!」
「ハァ…ハァ…全部、テメェが悪いんだ…アタシの方が…先だったのに…」
「…?」
「トドメだァア───!!」
サザンカはシロナの顔面の目の前へ掌を掲げ、超至近距離からの気功波で跡形もなく消し飛ばそうと一撃を繰り出す。
「やめろサザンカ!!」
だがその直前、聞き覚えのある呼び声を聞いて動きが狂い、気功波はシロナの顔の横スレスレを通過していく。
サザンカが振り返った先には、空を飛ぶブルマに両腕を掴まれて宙に浮いているカズラがいた。
「…黙れ」
「落ち着けサザンカ!俺と話をしよう!シロナさんを放してここへこい!」
「黙れ!もうアタシに話しかけるな!」
「なんでだ!?」
「…だって…お前は…」
その時のサザンカの表情を見て、ようやく全てを確信したシロナはカッターナイフへ変形させた腕の切っ先をサザンカの胸へ突き刺した!
「…!?テメェ、何を…!」
そのままシロナはナイフでサザンカの胸を切り裂く。鮮血が飛び、破けた服の下に小さな切り傷が出来ていた。
「カズラくん!!この傷からサザンカの体ん中に入って!!」
「……えぇええ!!?」
滅茶苦茶な難題を投げられて大口を開け目玉が飛び出るほど驚くカズラ。そんな傷口からどうやって体の中に入るんだ?そもそも入れたところでどうすればいいんだ?
だが、シロナの言葉を聞いたブルマは彼女を信じることにした。カズラの襟を掴んだまま大きく振りかぶり…
「え!?ちょちょちょちょ!」
「いくわよ~…サザンカァ!!」
そのままサザンカ目がけてカズラを高速で投げ飛ばした!
カズラはサザンカの胸に顔面から激突したかと思えば、その身体が煙のように揺らいで細くなり、なんと傷口からヒュルルと体内へ入っていってしまった。
「ぐあああああああああああ!!」
────
──
「…あれ…」
気が付けば、カズラは先ほどまでとは違う場所に立っていた。ここは西の都で、サザンカの家がある見慣れた通りだった。カズラは道端の電柱の陰にいる。
「何がどうなってるやら…」
目の前にはサザンカの家、そして周囲には自分以外に全く人の気配がしない…どころか、野良猫や鳥、虫といった生物が全く見当たらなかった。
カズラはとりあえず歩き出し、サザンカの家の前に立つ。
「おーい、サザンカ…いるのか…?」
裏の玄関まで近寄り、呼びかけるも特に反応はない。
「おーい…」
そのまま待っていると、廊下を歩く音が聞こえてきて…玄関が開けられ、その奥からサザンカが顔を出した。
「あ、サザンカ…!」
サザンカは暗い表情でじっとカズラの顔を見ると、家の中を指さして言った。
「…まあ、上がれよ」
(ここがサザンカの部屋…初めて入った)
部屋まで通されたカズラは、「ジュースを持ってくる」と言って出ていったサザンカを待っていた。見渡すと、特に特別な印象は受けない普通の部屋だった。よくあるようなピンク色中心の女の子っぽい部屋というわけでもなく、ただベッドと机とテレビと漫画本が詰まった本棚とクローゼットがあるだけで、部屋の隅の方に慌ててまとめたであろう衣服とタオルが積み重ねてある、自分とさほど変わらない似たような部屋の印象を受けた。
(外には誰もいないのにサザンカだけここにいるのか…?)
「…おい、コーラでいいよな?」
「ん、ああ…ありがとう」
部屋に入ってきたサザンカはカズラにコーラを渡すと、座椅子に胡坐をかいて座り、リモコンでテレビをつける。画面にはスケバン風の少女が凶悪な宇宙人と戦うアニメが流れている。サザンカは無言でひたすらそれを見ていた。
カズラは気まずそうにサザンカの横顔を見ていたが、意を決して口を開く。
「なぁ、ここってもしかしてお前の心の中の世界…的なヤツか?」
「…多分な」
「マジか!なんか、もっとこう…暗い空間でお前が雁字搦めになってたり、水の中に沈んでる…みたいな感じだと思ってた」
「…なんだそれ」
そこで会話が途切れ、また沈黙する。
「なぁサザンカ、俺は…お前にどうしても伝えなきゃいけないことがあってここへ来たんだ」
「…うん、こんなことやめろってか?」
「それもそうだけど…!」
「…悪いがやめられねぇよ。姉貴をぶっ殺すまでアタシは止まらない…と思う」
「そうか…っていや、そうじゃなくて」
「…いやいいんだ。ぶっちゃけるけどよ…アタシ、カズラの事が好きだったんだ…」
「…え?」
「中三ン時のクリスマス…お前をシメた高校生と女ぶちのめして…その時は本当にムカついてたヤツを殴れたいい口実程度にしか思ってなかった。でも次の日からお前…アタシに話しかけるようになっただろ。今までちゃんとアタシと話してくれるヤツなんかいなくて…アザミは会えば喧嘩だから少し違うし…だから何度も話しかけてきてくれるお前が、もしかしてアタシの事が好きなんじゃないかって意識しちゃって…アタシも好きになってた。でも…お前と話すのがだんだん当たり前になって来て、お前がアタシの事を好きっていうのも当たり前のように思っちゃって…調子に乗って、お前から一歩進んでくるのを待ってた。バカだよな…そしたらお前は姉貴の事が好きだった…」
「…で、でもサザンカだって…この間誰か男の人と家に入ってっただろ…!あれ彼氏じゃなかったのか!?」
「…ああ、確かそんな事も言ったっけ。あれは嘘だ…お前を焦らせたくて嘘ついた…あの男はトランクスだよ、忘れ物を取りに来たんだ」
その話を聞き終えたカズラは、今になってようやく理解することができた。何故シロナと一緒にいた時に感じた胸の高鳴りを、前にもどこかで感じたことがあると思ったのか…サザンカに彼氏ができたと聞いて何故あんなに落胆したのか…すべてが繋がった。
(だったら猶更、俺はお前に言わなくちゃいけない)
「おいサザンカ、聞いてくれ!」
カズラはサザンカの前に座り、両肩に手を置いて目を覗きこむ。
「お前が今さっき話したすべてを無かったことにして聞いてくれ。俺はお前が好きだ!」
「…は!?いや…だってカズラは姉貴の事が…」
「他の誰よりもだ!シロナさんのことも好きだったけど、やっと自分の本当の気持ちに気付けたんだ。最初はお前のことがカッコいいと思って話しかけてたけど、いつしかそうじゃなくなってた…でも俺はそれに気付けていなかったんだよ。今ならハッキリと言える…俺はサザンカが好きだ」
「…で、でも…アタシは大勢殺した…いやそれよりも、姉貴をこれから殺すんだぞ…そうなって、お前に嫌われたら…。みんなに好かれなくてもお前にだけは好かれていたかったんだ…他の人よりも…」
「よーし!そんなこと言うんだったら、俺と外で遊びまくろう!やりたい事全部やって、行きたい所行って食べたいもの食べて、それでも気が変わらなかったらもっと遊ぶぞ!そうすりゃ、俺はお前を嫌いになんてなりゃしないから!」
カズラはサザンカの手を取り、部屋の外へ引っ張り出す。
「こんな暗い部屋でテレビばっか見てないで!行くぞ!」
「ちょ…えぇえ~~!?」