第408話 「ジャネンバジャネンバ」
ここはあの世。この世で死んだ者たちが送られる黄泉の世界。上に天国、その下には地獄が広がっている。
そして、「界王界」と呼ばれる異世界があの世の果てには存在しており、そこでは銀河を見守る界王たちが暮らしている。
「お前とここで戦うのも何回目になるんだろうな?」
「さぁ?数えてないわね」
その界王界の最も高い場所に浮かぶのは大界王星と呼ばれる惑星。そこにはかつて宇宙で英雄として死んでいった者たちが招かれ、死後も己の体と技を鍛える日々を送っていた。
地球を救ったとされるカカロットと博麗霊夢も英雄に数えられ、大界王星に訪れては互いを高め合っていた。
「あのふたりは何度やっても飽きないのかな?」
「さぁ…」
頭の上には死者の特徴である天使の輪っかを浮かばせ、大界王星で修行と称して戦うふたりの様子はもはや風物詩のような扱いをされており、そのたびに他の英雄たちも観戦に来る。
「いくぜェ!」
「きなさい!」
同時に地面を蹴って飛び出したカカロットと霊夢がぶつかり合うその瞬間…
キィィィィン…
「…ん?」
周囲に得体のしれない不思議な力が漂い始める。ふたりは動きを止め、辺りを見渡す。まるで空中に透明な膜でも張られているかのように見え…
「やばいわ!上へ飛んで!」
次の瞬間、地面から半透明の丸っこい物体が飛び出し、今までカカロットが居た場所を突き上げた。飴細工のような宝石のようなその物体は周囲のいたる場所に出現し、運悪くその場所にいた者を閉じ込めてしまっていた。
「どわっ、なんじゃこりゃ!?」
「これは…結界?」
霊夢は赤い球体に触れながら分析する。
「一体だれが…しかもかなり強力だわ」
とその時、空から何者かの声が響く。
「おーい、カカロットに霊夢よー、大変なことが起こったようじゃ」
界王様の声だった。
「何があったんだ?」
「閻魔大王のところでトラブルがあったんじゃ。ふたりで行ってなんとか解決してくれんか?」
「霊夢…」
「…ええ、行きましょうか」
霊夢とカカロットは大界王星から飛び立ち、閻魔大王がいる閻魔宮殿を目指すのだった。
…道中で界王から聞いた話によると、最近は地球から送られてくる死者の数が非常に多く、天国の天人も地獄の鬼たちもその対応に間に合わず、死者たちの持つ邪念が溢れかえりそれが閻魔大王ひいては彼の住む閻魔宮殿のある閻魔界へ悪影響を与えているのだろうということだった。閻魔大王はあの世においては絶対的な権限を持ち、彼の存在の有無によってあの世のルールが成り立っていると言っても過言ではない。
閻魔と言えば、幻想郷にも四季映姫・ヤマザナドゥという者がいたが、彼女はあくまで幻想郷という隔絶された空間で発生した死者を裁く役目を負った者で、地球はおろか宇宙中の死者の裁きを統括する閻魔大王の部下に当たる。
そんな閻魔大王の身に何かが起き、あの世の法則が滅茶苦茶になってしまうのも時間の問題だというのだ。
「ついたわ」
ふたりはいよいよ閻魔界、その中の閻魔宮殿があるはずの場所までやって来た。本来なら地獄との境目となる黄色い雲の上に宮殿があるはずだがそれらしいものは見当たらず、代わりに大小さまざまな大きさのカラフルな丸い結界の塊が大量に浮かんでいた。
「なんだこりゃ…随分と目に悪いな」
「…あれ、もしかして」
霊夢は上の方にひと際大きなオレンジ色の結界があるのに気付いた。近寄ってみると、その結界の中で歪曲した閻魔宮殿が封じ込められていた。
「これが閻魔宮殿だな」
カカロットが中を覗き込むと、内側にヌッと巨大な人影が現れた。赤い肌に頭から角を生やし、黒い髭を蓄えてスーツを着た巨大な大男だ。
「お前がもしかして…」
「界王様がよこしてくれた、カカロットと博麗霊夢という者だな!?私が閻魔大王だ、この通りここに封じられてしまっておる…」
「分かった!といってもどうやってこれを破ればいいんだ?」
カカロットがそういうと、閻魔大王は上を指差す。
「この上にいる奴を倒すのだ!この結界は全て奴が作り出したものだ!」
「上だな?そうか…霊夢はこの結界を何とかしてみてくれるか?俺は上を見てくる」
「分かったわ…気を付けて」
「ああ」
カカロットは上へ飛んでいき、霊夢は結界の構成を探ろうと手を触れて精神を研ぎ澄ませる。
閻魔宮殿を覆う結界の真上へ向かったカカロットは、そこで驚くべきものを見た。
「ジャネンバ?」
「うおッ!?」
浮いていた結界が動き、その奥に隠れていた超巨大な化け物が姿を現した。ボールのように丸く太った黄色い身体に、頭には一対の角、肩や背中からはうねるような形状の外殻が形成されている。とぼけたような丸い目と、薄ら笑みを浮かべたような無邪気な顔がカカロットに近づけられる。
「ジャネンバジャネンバ!」
「お前ジャネンバっていうのか?頼むよ…この結界をどうにかしてくれよ」
カカロットがそう頼んでみるも、ジャネンバはそっぽを向いて見せた。カチンときたカカロットは小さく拳を振りかぶる。
「いいのか?言うこと聞かねぇと痛い目見るかもしれねぇぜ?」
それを見たジャネンバは無邪気な顔のまま、目にも止まらぬ速度でカカロットをビンタして吹っ飛ばした。予期していない攻撃に晒されたカカロットは驚きながら背後にあった結界の塊に激突する。動いた結界がビリヤードの玉のようにまた後ろの結界に当たり、それが連鎖していく。
「いっててて…ははは、お前なかなかやるじゃないか」
「ジャネンバァ!」
ジャネンバは続けて両手を広げ、気を高めて波動を放つ。突風のようなそれをカカロットは凌ぎ、ジャネンバの目の前へ近寄る。そして両手を思いきりパンと叩き、大きな音を立てると、驚いたジャネンバがバランスを崩す。
「ジャネ…」
「おーい、こっちゃこーい」
カカロットはジャネンバに手を振りながら下へ降りていく。それを眺めていたジャネンバも無邪気に笑いながら結界の上から飛び降り、カカロットを追う。
「悪く思うなよ…?」
カカロットは一足先に地の底、地獄まで降り立ち、上から降ってくるであろうジャネンバの気配を捕捉する。そして少し足を開いて構え、拳を握る。
「フゥー…はっ!!」
全身の気が黄金に輝き、髪も金色に変色して逆立ち、瞳の色が緑色になる。超サイヤ人に変身したカカロットは一気に地面から真上へ飛び立ち、拳を構えながらジャネンバへぐんぐんと迫る。
「ジャネンバ!?」
「ハアアアアッ!!」
落下してくるジャネンバの顔面へ拳を叩きつけ、そのまま殴り抜いて通り過ぎたところでブレーキをかけて止まる。そして、殴られた衝撃で空中で動きが止まっているジャネンバの背中を蹴りつけ、地面へ向けて墜落させた。
落下する際に途中に浮いていたカラフルな結界を巻き込んでいき、それらごと地上にばら撒かれ、その中にジャネンバの巨体が埋まる。
「へへ…」
にやりと笑うカカロット。ジャネンバはしばらくのたうった後、結界を跳ねのけて起き上がる。
「ジャネンバジャネンバ!」
そして手を叩いて大笑いする。
「ほとんど無傷か…」
ジャネンバは足元に纏まっていたガラス片の塊を発見すると、それに手をかざして魔力を送り込む。すると、そのガラス片の一枚一枚が人間サイズの小さなジャネンバに変化した。
「いっ!?」
何度も手をかざして計50体以上の小さな太っちょジャネンバが一斉にカカロットに襲いかかる。
驚くカカロットに何匹もジャネンバが群がり、てんやわんやのもみくちゃになる。ジャネンバは物量で圧し潰そうとしているのだろうが、しかし超サイヤ人カカロットはものともせずに全身からのオーラの放出で小型ジャネンバを容易く吹き飛ばし、消滅させる。
だが攻撃の手は止まず、今度は掌を下へ向けてクイッと下げると、宙に浮いていた結界の塊がカカロットを狙って落下する。どんどんと山のようにカカロットに覆いかぶさり、今度はギュッと拳を握ると結界たちが固まっていき中心にいるカカロットを潰しにかかる。
「ジャネンバァア~…!!」
そしてジャネンバは助走をつけ、ポインポインと跳ねるように走り出す。だがそのスピードは時間が経つにつれて見た目からは想像もつかないほど上がり、すさまじい衝撃でもって結界の塊ごとカカロットに体当たりして跳ね飛ばした。
結界と共に宙へ散らされ、吹っ飛ぶカカロットだが当然ガードは取っており、飛ばされつつも冷静だった。
(戦い方はバカバカしいが…あんな強い気を持った奴は初めてだ)
ジャネンバはこれまでカカロットが出会ってきた敵…フリーザですら天秤にかけるには軽すぎる。あの世で出会った戦士たちでもここまでの者はいなかった。
(こりゃ早めにケリつけねぇと後がなくなるな…)
カカロットは思考しながら気功波を放つ。が、ジャネンバはそれを見切ったように逆立ちし、身を翻して避けるとともにカカロットを蹴り飛ばす。そして気功波が進む先の空間とカカロットの背後の空間を連結させた穴を作り、そこへ気功波を通してカカロットへと命中させた。
「ジャネンバジャネンバ!」
「…お前…魔法使いか何かか?」
自分が放った気功波を自分で食らう形になったカカロットは口から煙を吐きながら唖然とした。ジャネンバは単純なパワーに加えて魔術じみた不可思議な戦法を取ってくる。
が、これはいよいよ早期決着を臨まなければならないと強く思ったカカロットは気を整えて冷静になり、キッとジャネンバを睨む。
周囲が静まり返り、緩やかな風が吹く。ジャネンバがきょとんとして首を傾げ、カカロットは目を見開くと全身の気を爆発させる。
「カアアアアアアアアアア…!!」
「ジャネ…!?」
同時にジャネンバの巨体が飛ばされそうになるほどの突風と衝撃波が吹き荒れ、カカロットの獣のような雄叫びと共に激しい黄金のオーラが旋風となって吹き荒ぶ。
「オオオオオオオオオオオオ!!」
金髪が徐々に伸びて長くなり、次の瞬間に金色のオーラが弾ける。黄金の気が大きく鋭く燃え盛り、バチバチと激しいスパークを身に纏う。背中まで届く金色の髪に、その荒々しい戦闘力を表現するかのように眉毛の消えた強面な表情が浮かび、緑色の目の中に黒い瞳孔が宿る。
「これが俺のあの世での修行の成果…超サイヤ人3だ…」
ジャネンバは驚いたまま口を開けており、対してカカロットはふわりと浮かび、一瞬で敵へと接近しその腹へパンチをめり込ませる。
「ジャネンッ…!」
ジャネンバは口から体液を吐き出し、顔を歪める。カカロットは間髪入れずに何度もパンチを叩き付け、ジャネンバの巨体が徐々に浮かび上がっていく。そして最後に強力な蹴りを食らわせ、ジャネンバが空高く打ち上げられる。
「『気功突き』…!」
そして自らもオーラの推進力を利用して高速で飛び上がり、全身の気を集中させた拳を振り上げ、命中させる。その一撃はジャネンバの腹を突き破ってさらに上空へと舞い上がり、ジャネンバは反撃しようと上を向く。
「『華光玉』!」
だが、その時には既にカカロットが放つ渾身の華光玉が目前に迫っていた。七色に輝き、捩じれる光の柱が真上からジャネンバの脳天に突き刺さり、そのまま串刺しにするかのように貫いた。潰れた果物のようになったジャネンバの巨体が地面へめり込んだ。
「ジャネ…ンバ…」
ジャネンバは苦し気に鳴きながら腕を伸ばすが、やがてガクリと力を失い、沈黙した。
「よし…」
気がどんどん小さくなっていくのを確認したカカロットは地面に降り立ち、オーラを落ち着ける。
…が、何か不吉な予感を感じ、再び全身が緊張する。体中の皮膚がピリピリと痺れ、体毛が逆撫でされるような気味の悪い感覚が襲う。それは的中し、潰れて沈黙したはずのジャネンバの体が波打つように蠢き始めた。同時に小さくなっていた気が再び膨らみ始め、先ほどまでの状態よりもさらに大きくなる。
「な…!」
カカロットの攻撃によって空いた脳天の穴に、全身の肉がジュルジュルと液体のように吸収されていく。体積はどんどんと小さくなっていくが、肉の色が黄色から血のような赤色に代わっていき、まるで体とエネルギーが両方とも凝縮してしまったかのようだった。
やがて、最後の肉片が頭部の中へ吸収され、変化したジャネンバが立ち上がる。赤い体に、頭部や手足には紫色の鎧のような甲殻が形成され、こめかみから頭の後ろへ向けて長い一対の角が伸びている。人間大サイズになって筋肉質になった体は縮んだというよりもあらゆるものが引き締まり濃縮されたかのような威圧感と覇気を誇っており、超サイヤ人3となったカカロットが冷や汗を流している。
「シャッ…」
ジャネンバはカカロットを睨み、尻尾で地面を叩くと気を解放する。
「ガギャギャギャギャギャ…!!」
恐ろしい叫び声が轟き、ジャネンバの立つ周辺の地面がボコンとクレーター状に凹んだ。そして再びカカロットを見据え、さらに巨大なクレーターを作るほどの力で地面を蹴り、攻撃を仕掛ける。
「うお…ッ!?」
あまりの迫力にカカロットの足がすくみ、飛び掛かってくるジャネンバをつい見上げてしまう。ジャネンバは片目を見開き、口が裂けるような不気味な笑みを浮かべながら腕を振り下ろす。
だがカカロットも腹をくくり、ジャネンバを迎え撃とうと構える。
ヒュン…!
その時だった。遠くから何かが高速で空中を移動してくる風切り音が聞こえた。カカロットもそれに気付いたが振り向ける暇もなく、とりあえずジャネンバに意識を集中させる。
だが、当のジャネンバ自身は何故か驚いてカカロットの背後を見ていた。トリッキーな戦い方をするジャネンバの事だ、自分を油断させようとしているのかと思ったが、直後に違うと気付いた。
背後から迫ってきた銀色の何かがカカロットの顔を横を通過し、ジャネンバへ襲い掛かった。ジャネンバは殴りかかってその物体を粉砕するが、それはその状態になっても勢いを殺さずにジャネンバへ向かっていき、その体へくっついた。
「アギャ!?」
「なに…!?」
カカロットは目の前のおぞましい光景をただ見つめていることしかできなかった。銀色の液状の物体はジャネンバの体に纏わりつき、いくらジャネンバが振り払おうとしても無駄だった。そして、銀色の液体は一気に体積を拡大し、全身を覆い尽くした。その中で激しく動いて抵抗するジャネンバであったが、やがて静かになり、銀色の液体はジャネンバの体内へ入り込んでいき…
「…これこそがオレの求めていた肉体だ」
「お前は…誰だ…!?」
ジャネンバの額と顎に赤い線が模様のように走り、両目にも黒目を中心とした十字の線が見える。その中には先ほどのジャネンバとは全く違う何者かの存在が感じられる。それからの数秒間、カカロットは頭の中で状況を判断する。何者かが戦いに乱入し、ジャネンバの体内に入り込んだ。ジャネンバはその何者かに体を乗っ取られ、外見に若干の差異をもたらすとともに明らかに戦闘力は上昇しており…
(まずい───)
危険を感じたカカロットは反射的に、ジャネンバへ向けて気功波を放った。
「消えろサイヤ人」
ジャネンバの額の前で空間が小さな穴を作り、その中から緑色のエネルギーが放射される。それはカカロットの気功波を容易く打ち消し、地獄の辺り一帯を巻き込み、吹き飛ばす。カカロットはその光の中で目の前が真っ暗になった。
ブロリーと戦って以降放置されていたあのお方が地獄へやって来てしまいました。