「ウラウラウラウラウラ…!!」
一方その頃、別の場所で亡者たちと戦うシロナ。空から襲い掛かってくるドラゴンゾンビのようなクリーチャーを殴り飛ばし、拳の連打でさらに複数のクリーチャーを叩きのめしてゆく。眼下には、紫色の球体状の姿をしたロボットの破壊された残骸がいくつも散らばっており…
「そ、そんな馬鹿な…!私の作ったマシンミュータントたちが!」
地獄から蘇ったドクター・ミューは狼狽えながら後ずさる。足元にはシロナに破壊されたメガキャノンΣ部隊、ルードの残骸が転がっている。かつて惑星M2でブロリーと戦ったマシンミュータントたちもシロナの相手にはならなかったようだ。
「あら、そっちも終わったのね」
少し離れた場所で、レイムもミュータントのひとりであるムッチーを霊尾で貫いて破壊したところだった。沈黙したムッチーをその場へ投げ捨てる。
「こうなったら…来い!ハーレクインよ!」
「ハーレクインだって?」
ミューが叫んだのは、聞き覚えのある人造人間の名前。レイムも少し眉を顰め、遠くの方から近づいてくる気配へと目を向ける。
案の定、どこか遠くから高速でこの場へやってきたのは、見覚えのある姿。
「ハァーイ、これはこれは皆様ご愛敬~~!ってアララ!?見覚えのある薄らボケが揃ってるじゃねッスか!」
テンションの高いムカつく声色でシロナとレイムを挑発するのは、かつてウィローの配下として幻想郷を襲った人造人間・ハーレクインだった。白塗りの顔に白い全身タイツというサーカスの道化師のような出で立ちで、内に秘めた狂気が表情ににじみ出ている。
「このハーレクインはこの私が地獄で改造を加えた最強のマシンミュータントだ!さぁ、やってしまえェ!」
ハーレクインは背中を逸らしてストレッチをしながら、さらに背中を後ろへ丸め、股下から顔を覗かせてシロナとレイムを見ると、一言「御意」と呟き、その直後にバネのように体を戻して高速で駆け出した。
「ハロー感動の再会って感じ!」
一瞬で距離を詰めてシロナの目の前で子供を驚かすように顔の横で手を広げ、舌を出してふざけて見せる。シロナは殴り飛ばそうと素早いフックを繰り出すが、なんとハーレクインの体は液体となってその場の地面にベチャっと広がり、そのまま離れた場所へ流れていくと再びハーレクインの形を作る。
「ウチはマシンミュータントとして生まれ変わったんスよ。ねぇミュー様、コイツらに見せてやってもいいッスよねぇ!?」
「構わん!キサマならばあの出来損ないだったリルドよりも強大なパワーをものにできるはずだ!」
ハーレクインは気味悪く笑うと、周囲に転がっている他のマシンミュータントの残骸を見渡し、手招きした。すると残骸が彼女の体へと引き寄せられ、ガチャンガチャンと音を立てて集合していく。
「クックック…」
ハーレクインの流体化した体がそれらを呑み込み、体内へ吸収していく。先ほど粉砕されたメガキャノンΣ部隊のパーツや、破壊されてがらんどうになって転がっていたルードの体すら取り込み、体積的にあり得ないだろうと思う量のマシンミュータントをその体に収めた。
「クハアァッ!!」
ハーレクインの体は一瞬グニャリと変形し、カラフルな絵の具が混ざり合ってひとつの色となるように姿を変えた。
全身が曇ったような鈍い灰色のメタルボディになり、肩からはマシンミュータントの特徴でもある黄色いウイングのようなパーツがせり出し、目には黒目を中心にした十字の線が、額と顎にも線を引いたような模様が走る。
「メタルハーレクイン…とでも名付けるッスかねぇこれは」
ハーレクインは自信有り気にそう言った。が、レイムは下を向いて「くくく」と失笑し、シロナは「おー」と言いながら拍手する。その反応に腹を立てたハーレクインは見る見るうちに怒りを滾らせ、無表情のまま震え出す。
「レイム、シロナ…テメェら、壊れろよ…」
そのまま液状化し、蛇のように地面を這いながら接近すると上半身のみを元の形に構成し、至近距離からのエネルギー波を浴びせようと右手を近づける。レイムは反応が遅れてしまったが、すかさずシロナがその間に割り込み、エネルギーを溜めていたハーレクインの右手を殴りつけることでエネルギー波を防ぐ。ハーレクインは後ろへ飛び、上へ掲げた両手の間にエネルギーを充てんする。
「ぶっ壊れろォ!ゴミクズどもがアァ!!」
シロナはハーレクインのあの技を知っている。あの充填されたエネルギーを全方位へ雨のように降らせる、周囲へ甚大な被害が及んでしまうものだ。
だからシロナは瞬時に超サイヤ人2へ移行し、一気に突撃する。ハーレクインが攻撃を放つ前に拳を繰り出し、それを彼女の腹へ鋭く突き刺す。
「ゴ…ハアア…!?」
バチバチと電気が迸り、ハーレクインが異常をきたす。シロナの強力な気を拳から叩き込まれ、体内から破壊されているのだ。
ハーレクインは大口を開け、口の端を首から胸へとグワッと裂いて牙だらけの顎でシロナを噛み砕こうと背後から襲い掛かる。しかし、上へ飛んでいたレイムが霊尾を真下へ突き降ろし、脳天から股下までハーレクインを串刺しにする。
「おバカなハーレクイン…あの時は来なかったくせに今更来ても遅いわよ」
「オ、ガガ…チクショオオオオ…!」
レイムは突き刺さったままの霊尾を渦を巻くように無茶苦茶に回転させ、ハーレクインの体をバラバラに破壊する。破片は液状になることなく、焦げるように消えてしまった。
「…あれ、アイツは!?」
ハーレクインを倒したはいいものの、気が付いた時にはさっきまでそこにいたはずのミューの姿が消えていた。
「逃げたわね」
「…うーん、まあいいか」
「次はお前だな」
だが次の瞬間、シロナの脇腹をレイムの霊尾が掠めた。
「アンタ…」
レイムは不気味に笑いながら、臨戦態勢へ入ったシロナへ顔を近付ける。
「私には全部わかっているわ…お前の心も」
「はぁ…?」
「お前にとっての幸せとは何だ?自由に世界を巡ることか?家族が楽しく過ごせることか?幾多もの戦いに塗れた人生を送り、やっと自由になった…そしてついに見つけたのだろう?お前が愛したいと思う男を」
レイムは続ける。
「だがやっと結ばれた矢先、妹に取られたな?わかるわよ、理解者を見つけたと思ったらそうではなかったとき…探し物を掴んだと思ったら滑り落ちてしまう時…。でも今のお前は自由よ、自由という名の大空の下にいる。我慢する必要などない…惜しいのなら奪ってしまえばいい」
耳元で囁き、九本の霊尾でやさしくシロナの全身を包み、撫でる。
「前にも言ったでしょう?私は実質お前と同じなのよ。博麗霊夢とカカロットから生まれた…。だから今のお前の気持ちもわかる。辛いでしょう?だから奪いなさい。あの妹だって少しの負い目を感じてる…お前が本気であの男を奪おうとすれば身を引くでしょう…あとはあの程度の男、お前なら無理やり好きにできる。私はお前とあの男がどこまでも堕ちていく様が見たいわァ」
レイムの霊尾から放たれる甘い波動がシロナの体に浸透し、黒い瞳がピンク色に点滅する。シロナはレイムの誘いに応じるかのように、その顔に手を添える。
「ちょっ、近い近い」
が、シロナはそのままぐいっとレイムを押しのけ、するりと霊尾の隙間を抜けて背後に移動する。レイムは黙って振り返り、静かにシロナと目を合わせる。
「あのねぇ、私にそういうのは絶対効かないし、大きなお世話だから!それにアンタが私の事わかるってんなら私だってアナタの事わかるし!レイムは友達が欲しいんでしょ~?」
レイムはつまらなさそうに眉にしわを寄せる。
「やっぱり図星だった?私が友達になってあげよっか?ん?」
一転して畳みかけるようにシロナが挑発し返し、レイムは背中の霊尾を仕舞って背を向ける。
「つまらないわね」
その後、帰還したブロリーとシロナ、ついでにレイムは合流する。
「シロナ、何か違和感を覚えないか?」
「え?どういうこと?」
ブロリーは腕を組んで少し考えながら言った。
「カンバーとベジータだ。アイツらは…天下一武道会の時、つまり地獄の大穴が開く前からこちらの世界へ来ていたよな」
「うん…」
「ならば大穴を開けたジャネンバのほかに、あのふたりを蘇らせた何者かの存在を感じるんだ。カンバーたちには頭の上に光の輪っかがあったが、大穴から蘇った亡者にはそれがない。奴らと亡者は別口で地獄から蘇っているんじゃないかと思うんだ…」
地獄から湧いてくる敵を倒しつつ、微かな存在感だけをチラつかせるこの異変の裏のまた裏に潜む謎の敵の影。一体本当の敵は誰でどれだけいるのか…それすらわからない。だが彼らは、刻一刻と迫るサザンカの地獄突入とシリアル星出発を待つしかなかった。