もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第416話 「よい旅を」

「ねえ聞いたー?天下一武道会の寺が大爆発したって」

 

「観客全員死んだらしいよ」

 

「マジかよー!?やっぱし例のテロ関係なんかな」

 

天下一武道会の騒動から二日が経った。幸いにも生き延びたレフェリーの男性はブルマたちの事情を考慮してか詳細については公表せず、世間の認識ではその後のパパイヤ島空港で起こった事故も含めて連日の事件に関連した大規模なテロとして扱われている。

とりあえず、本当の事情を知る者からも、サザンカは殺人者としては扱われていないようである。

しかし、サザンカ本人はどうだろうか。周りは誰もそんなことは露知らず、思ってすらいないとしても、何千人もの人間を一瞬で消し飛ばした罪悪感は心の隅から消すことはできず、常にサザンカの胸中を重く圧し潰していた。

 

(…地獄から帰れたとしても、帰れなかったとしても、アタシは…もうここには来ないでおこう)

 

サザンカが暴走した原因はカンバーに与えられた悪の気が過剰に作用したことであるのは間違いない。しかもその悪の気も今や完璧にコントロールし、これが原因で再び暴走することは99%あり得ない。だが、もう取り返しのつかないことをやってしまったという、やはり罪悪感が、自分がこの学び舎に混ざることを善しとしなかった。

もちろんそれを表には出さず、こうして学校に来たとしてもいつも通りムスッとした面で教室の角の席にふんぞり返って座るだけだ。

 

授業が始まり、昼休みになり、放課後になるまで…

 

「サザンカ」

 

夕焼けが教室の中を赤く染める中、部活動が終わった運動部たちの声が校庭から聞こえてくる。そんな中、カズラはまだ席に座っているサザンカに声をかけた。

 

「早く帰ろう。帰るまでにはブルマさんたちの宇宙船も完成してるって話だっただろ」

 

「…じゃあ帰ったら、出発ってことだよな?アタシは地獄へ…みんなはシリアル星ってとこへ」

 

「まあそうなるだろうな…晩飯くらいは食えるかも」

 

「はは…でもよ、なんか…少しだけ…怖いなァ…ってよ。周りのモノ全部が、アタシに行くな行くなって言ってる気さえしてきやがる」

 

カズラは、現実世界で初めてサザンカが弱音を吐いたところを見た。

 

「行きたく、ねぇなぁ…」

 

「…それ、本気で言ってるのか?」

 

カズラがサザンカのセーラー服を掴み、グイッと掴み上げる。サザンカはカズラがこんな強い力を自分へ向けて使ったことに驚き、その目を見つめる。

 

「みんな、こんなこと言ってるけどどう思う?」

 

その言葉と共に、教室のドアの向こうからぞろぞろと数人分の人影がやってくる。

 

「な、テメェら…!」

 

「随分しみったれた顔してんじゃねぇかサザンカ~…イデッ!?」

 

教室のドア枠に頭をぶつけながら入ってくるアザミ。

 

「…アッ」

 

「大丈夫!?あっ、どうもお邪魔します…」

 

同じくステンレスの枠に頭をぶつけるも気にせずにひん曲げながら入ってくるグラジアとコナギ。

 

「どうしたんだよ…なんで来やがった」

 

「バカ言えェ、地獄に行くだって?そんな面白そうなこと、この俺がお前ひとりにやらせるわけねぇだろが」

 

と、アザミ。

 

「うん、あたしたち、サザンカさんが心配だから一緒に地獄へ行って戦うって決めたの」

 

「ああ…俺もだ…」

 

「俺のバイクも持ってってやるぜ、何が追いかけてきたって俺が峠で鍛えたドラテク使えば」

 

「ダメだ!!!」

 

アザミたちがやいのやいのと話し始める中、サザンカは大声を張り上げた。あたりは静まり返り、外の校庭にいた生徒たちも「何今の声?」と不思議がっている。

 

「お前らが行って無事で済むほど生易しいトコじゃねぇんだぞ、地獄ってのは…!今までブロリーや姉貴が苦労して倒してきた、とんでもねぇ連中がわんさかいやがる…きっと、地獄の連中は現世へ戻れる大穴を塞ごうとするアタシを全力で追い返すかぶっ殺そうとしてくるだろ…お前らがそんなところにいたらどうなると思う?」

 

サザンカの顔は真剣そのものであり、カズラとアザミたちも少し下を向きながら聞いている。

 

「お前らなんか来なくていい!あんなトコ…ああそうだ…ご機嫌な亡者野郎ドモなんざ…アタシひとりで十分だ!全部ぶっ飛ばして地獄の穴なんざ塞いでやらぁ!!」

 

言い終えたサザンカはハァハァと息を切らし、カズラを睨むが、次の瞬間、ハッと気が付いたように目を見開いた。

 

「やっと出やがったな?お前の本音がよ」

 

アザミが笑いながら言った。後ろでグラジアとコナギも笑顔を向けている。

 

「あ…?」

 

「バーカ、俺たちも地獄へ行くって?そりゃ無謀だってのは俺たち自身が一番知ってることだ。こればっかりはお前にやってもらうしかねぇよ…悔しいけどな!」

 

「そういうことだから、みんなお前に頑張ってほしいと思ってんだよ。だからくよくよ難しく考えてねぇで、いつもみたいにボカーンと一発かましてこい!」

 

サザンカは気付いた。そうだ、何を難しく考える必要がある?アタシはただデカい喧嘩に行って、いつも街の不良共シメる時みたいに軽くちゃちゃっとぶん殴って帰ってくりゃいいだけの話じゃねぇか…ブルマやみんなも絶対にシリアル星へたどり着けるようにって頑張ってる…アタシがそれを信じねぇでどうする…

 

「あぁ、気が向いたらな!」

 

自分本位な発言を返すサザンカだが、その表情は暗く沈んだものではなく、以前までのような最強の不良として恐れられるサザンカそのものだった。

 

 

 

「ついに出発か」

 

ブロリーがそう言った。集まっているのはブロリーの他に豹牙天龍、ウスター、シロナ、サザンカ、ピッコロ。そして目の前には完成した宇宙船と、ブルマ、サタン、スカッシュ。

 

「これが宇宙船…?」

 

「そうよ、見なさい!」

 

ブルマが見せているのは完成した宇宙船に間違いない。

 

「え!?まさかアレ使ったの?」

 

シロナが驚いている。

その宇宙船は、存外にも飛行機のような形をしていた。大きさは10メートルくらいで、何よりも驚くのはまるで巨大な翼竜が翼をたたんでそこに座しているようにも見えるからだ。

 

「AA財団で保管していた人造人間ケツァルコアトル…以前、我々の命を救った人造人間だ」

 

あの時、光学兵器で焼き尽くされるパオズ山から脱出する際に使用した、移動飛行型人造人間ケツァルコアトル。黒いボディに翼竜の骨格をかぶせたような外見で、中には何十人もの人造人間を収容出来ていた。

当時の姿よりも半分ほどに小さくなっているが、それほどのスペースは必要ないはずだし、小型化することで性能を高めているのだろう。

 

「えーと…さらに人造人間特有のエネルギー炉、それから人工知能もさらに性能アップさせて、自分で考えて自分で速力も軌道も何もかも調整してくれるわ。その分のリソースを速度に割くことによって…なんと三日でシリアル星に着く計算よ」

 

「それって速い…のか?」

 

「速いも速い、これ以上ないってくらい速いわよ!限りなく光速に近い速度を出せるんだから。その場合の機体や周囲への衝撃や影響を人造人間の人工知能で無効化しながら目的地を目指すのよ。本来なら18日はかかるところ三日で行けるように仕上げたんだから」

 

ブルマはそう言いながら壁を背に座り込んだ。作りはじめてから、他の科学者たちと共に寝る間も惜しんでずっと工房に籠っていたのだ。その結晶がこの特製の宇宙船である。

 

「出発は明日にしよう。サザンカも俺たちも、ブルマたちも今日は休んだほうがいい」

 

「そうね…そうしましょうか…寝ずに作業してたのよ、一晩だけ休ませて…今のところ、大穴から亡者は出てきていないようだし…」

 

 

 

一度その場が解散された後、シロナはひとり、完成した宇宙船を見上げていた。

あの時、焼失するパオズ山から自分たちを乗せて脱出するのに使った人造人間、ケツァルコアトル。それがこうして再び、自分たちの命運を分ける役目を負っている。

 

「あら、こんなところで何してらっしゃるのかしら?」

 

その時、背後から聞こえた声を聴いてシロナはビクッと肩を震わせた。

 

「…やっぱ来てたんだ。ミル」

 

「ええ、久しぶりねシロナ」

 

そこにいたのは、かつてシロナと共に人造人間との戦いを勝ち抜いた、「ドリル」の記憶兵器をその身に宿す女性、ミル・フィーネであった。あの頃から見た目はほとんど変わっておらず、緑銀色の髪をドリルのような縦巻きのツインテールにし、緑色のドレスのようなワンピースの上に白いコートを羽織っている。

 

「なんか懐かしいなって思って見てただけ。いやあ…我ながらえらい冒険してたなってさ」

 

「ふふふ…確かに」

 

「アリーズもいいお姉さんだったし、ヒロイシさんも今思えばお父さんみたいだった。ビーデルとは喧嘩しちゃったけど仲良くなれたし、バルバルスさんもいい人だった…ブラックだって…」

 

「…そうですわね。あれで最後だったと思ったのに、今もこうして貴女のような暴力イノシシと付き合わなければいけないだなんて…」

 

「なんですってェ!?」

 

「いっそ、ヴァンパイア王国で助けなければよかったかしら…あっ」

 

ミルがそう言いかけた時、シロナはその首にかかっているペンダントをこっそり奪い取った。すると、ミルは急に弱々しい表情と仕草になり、シロナの腕に縋りつく。

 

「うぅ…ダーリンを返して…」

 

「…はいはい」

 

いたたまれなくなったシロナはペンダントを返し、ミルはそれを着けなおした。その瞬間にミルは再び尊大な態度になり、シロナを見下ろしてくどくどと文句を言いだす。

 

「全く、私からダーリンを奪うだなんて…どうかしてますわ。まぁでも、私も貴女に救われている身ですし…強くも言いませんけど」

 

「え?」

 

ミルは小さく笑みを浮かべてから、ズイっとシロナに近寄って口を開く。

 

「貴女、今悩んでいますわよね?」

 

「…え、どうして?」

 

「ふ…やはり貴女は分かりやすい…その顔を見ればわかりますわ。それはもしかして…男の事だったりして…?」

 

「いや、そんなことないけど…」

 

「嘘をおっしゃい、顔を見ればわかると言ったでしょう。大方、あの妹に取られた…とかかしら?」

 

「…しょうがないよ、だって先に好きになったのはサザンカだもん」

 

「そうですか…」

 

「そういえば、その中に入ってる写真、見た事ないんだけど…見せてよ」

 

シロナがそういうと、ミルはどこか遠い目になり、羽織っている大きな白いコートを握りしめた。それを見て察したシロナは何も言わず、ミルの反応を待つ。

 

「貴女ももちろん宇宙へ行くのでしょう?でしたら、無事に帰って来なさい…そうしたら見せてあげますわ。私の愛したダーリンとの惚気話付きでね」

 

「あはは、そん時はあんまりしつこかったらぶん殴るわよ」

 

「ふふ…やはり無粋ですわね、シロナ。そういう時は気をきかせてこう言うものですわ。Von Voyage(ボン ボワイヤジュ)、よい旅を」

 

 

…そして夜が明け、いよいよ地獄突入とシリアル星へ出発する時がやって来た。

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