天界付近で繰り広げられる、シロナvsベジータの戦い。悪のサイヤ人と化したベジータに劣勢を強いられ、四肢を破壊され胸に大きな穴を開けながらも霊尾を使ってベジータに食らいつくシロナ。ベジータは思いきり飛んで逃れようとするが、シロナの霊尾は彼の足や腕に強固に巻き付いていて離れそうにない。
ならば、と思ったベジータは逆にシロナを引き寄せてから思いきり殴り、霊尾を千切って吹き飛ばすとさらに上空へと舞い上がる。
「はあああッ!今のキサマにコイツを受け止められるか!?」
全身に雷球の如き紫色のオーラを充填し、バチバチと音を立てながら膨れ上がる。ベジータは両手を重ね、片足を上げながらその手を背後まで振りかぶる。ベジータが力むと同時に、掌と手の甲の間にエネルギーの塊が生まれた。
「避けてもいいぞ?しかしあそこにいるお仲間と地球は無事では済まないかもしれんがな…」
「マジで言ってる!?それすっげぇワルが使ってくるやつじゃん!」
「『ギャリック砲』!!」
ベジータのギャリック砲が炸裂し、周囲の空が紫色に染まるほどの閃光と共に、シロナとその射線上の先にある神殿目がけて特大の光の柱が放出された。シロナは慌てて霊尾を正面で重ね合わせて太くし、それを掲げてギャリック砲を受け止めた!
「ゔあああっづ!!」
しかし、あまりの火力の前にはその程度意味をなさず、みるみるうちに霊尾の束が先端から消し炭となっていく。
「その程度でどうにかできるほどオレの技は甘くないぞ!」
「わかってるぜ!これは腕ェ生やすための時間稼ぎ!」
消えていく霊尾に対し、シロナの右腕は結晶となって再生していた。今までは胸…心臓を優先して回復させ、今ようやく右腕が元通りになったのだ。
「『マスタースパーク』!!」
霊尾が完全に焼失し、ギャリック砲がシロナ自身に直撃する寸前、前へ掲げた右手から極太の黄色い光の束が放出される。それはギャリック砲と衝突し、周囲に波紋のような衝撃を生むとともに少し押し返す!
「なに…!?貴様のどこにそんなパワーが!」
「言ったろ?エッチするまで死んでも死にきれないっての!」
ギャリック砲とマスタースパークは互いに押し合うが、それでもベジータの方が優勢なのは変わらない。このままではジリ貧となり、いずれはシロナが負けてしまうだろう。
「この程度では貴様が勝つ道理などないぞ!」
ベジータは額に血管が浮かぶほどに力み、ギャリック砲の威力を高めると、マスタースパークは完全に押されてぐんぐんシロナへと迫ってくる。
だが、シロナはその寸前で左腕も再生を完了させ、前へ掲げる。そして、手の平からマスタースパークとほとんど同じ威力の青い光線を撃ち出した。
「く…!ぐおおおお!?」
「『ダブルマスタースパーク』!!ウラァァ~~!!」
新たに放たれたマスタースパークがギャリック砲と衝突し、二本のマスタースパークが捻じれてうねりながらギャリック砲を押し返してゆく。ベジータは返ってくる自分のエネルギーとシロナのエネルギーから逃げられず、全身が光に飲み込まれた。
「ぐわああああ──!!」
マスタースパークの熱と光に包まれながら空を越え、宇宙空間に達しようかという地点まで吹っ飛ばされていくベジータ。だが、寸でのところで身を翻し、光線の軌道上から脱出する。
「はあ…はあ…!おのれ…味な真似を…!」
ベジータは口から血を流し、纏っていた青いボディスーツが破れて上半身が露わになっている。明らかにシロナの攻撃を受けてダメージを受け、多少は疲弊しているようだが、ベジータ自身の気はほとんど減っていない。
それに対して…シロナは今のダブルマスタースパークで魔力を大分使ってしまい、同じ威力の技は二度と撃てないだろう。
「やべー…胸と腕ェ戻して、今の撃ったら…もう何もできなくなっちゃった…」
何とか舞空術を使って飛んでいられるだけはできているが、これ以上は成す術がない。ベジータはそれを理解し、口の端から垂れる血を拭うと、嫌な笑みを浮かべながらゆっくりとシロナに近寄ってくる。
「おいおい、足はどうした?直さないのか?」
「うるせ!」
シロナはベジータに殴りかかるが、あっさりと受け止められる。もう片腕でもパンチを放つが、それが当たるよりも先にベジータの蹴りがシロナの腹へ命中し、血を吐き出す。
「ぐえっ!!」
「所詮、貴様如きがこのオレに戦いを挑んだのが間違いだったのだ」
「ペッ!」
シロナは口の中に残っていた血を唾と混ぜて吐き、ベジータの額に飛ばす。
べちゃ、と音を立ててそれが付着するもベジータは意に介さず、シロナの股下に手を添える。
「あ、変態!」
「最後に言うが…誰が手足もがれても死なずに背中から触手生やすような女と好んでしたいと思うんだ?」
今世紀最大のショックを受けた顔で叫ぶシロナ。
「え…噓でしょォォォォォ!!?」
「死ね」
次の瞬間、添えた掌からエネルギー波を放出するベジータ。一瞬の爆音と共に光線がシロナの下半身を粉々に爆散させ、股間から体内を駆け上がり、上半身を貫通して口から飛び出した。
「ッ…!!」
シロナは声を上げる事すらなく、その場で力なく項垂れる。今のシロナは胸から上だけが残された状態で、内部を縦に串刺しにするかのように貫かれた見るも無残な姿に変えられた。
「シロナの気が…消えた…」
余りに遠くで目視で様子が確認できなかったブルマも、シロナの気が消えていくのを感じ取っていた。
「ふははは…ざまぁないぜ」
ベジータはシロナの髪を掴んでその身体をぶら下げる。そして、手を離して落とし、死体すら残さないように狙いを定めて一発の気弾を放つ。
バシン!
しかし、それが命中する直前、どこかから飛んできた青い炎の塊がベジータの気弾を弾き飛ばした。ベジータは驚き、シロナの周囲に目を凝らす。
「ベジータ…私に当たったらどうするつもり?」
何もない虚空から、空を裂いて現れたのはレイムだった。九本の霊尾を背中で揺らし、ベジータを睨みつける。
「おっと、そこにいやがったのか。貴様にドラゴンボールの在り処を知らせてもらったが、取り逃がしちまったんじゃどうしようもねぇ…カンバーと合流してゴミどもを全員片付けてから宇宙船を調達するぞ」
「ええ」
レイムは気が消え、全く動かなくなったシロナを横目で見る。すると、その身体は傷口部分からだんだんと赤茶けた塊へと変わっていた。ピシピシと音を立て、錆を溢しながら身体が石とも金属ともわからない物体へ変化している。
「…あなたもこれで最期かしら?そうなったら、あとは砕けて消えるだけですものねぇ」
記憶兵器の最期に発現する現象のことだ。記憶兵器は死ぬ際に体が錆びた赤茶色の金属へ変わり、粉々に砕けて消滅する。そこには記憶兵器の本体である「破壊屋の七つ道具」がダウンロードされたチップのみが残されるのだ。
「…フッ、一応目障りなゴミは掃除しておくとするか」
だが、ベジータは確実なるとどめを刺そうと、シロナの骸を粉々に消滅させようとしている。掌を向け、そこからエネルギー波を放とうと気を集中させる。
ただそれを眺めるレイムだったが、何故か足を揺すって落ち着かない。
「待ってベジータ!」
「なんだ?」
「私はその娘に用があるのよ。だから殺さずに、私がもらうわ」
ベジータとレイムは探り合うような鋭い視線を交わした後、ベジータは薄く笑う。
「そうはいかんな…こんなくだらねぇ意味の分からん力に染まったサイヤ人などサイヤ人ではない…視界に入るだけでオレはイライラするんだ。だからオレがここで殺す」
「そう…」
レイムはそう言って身を引き、シロナの骸を破壊しようとするベジータを見つめる。だが、やはり落ち着かないように霊尾を揺らし、口の端から牙をのぞかせる。
「貴様はそこで見ていろ」
そしてベジータが手の平からエネルギー波を放…とうとした瞬間だった。突然レイムがベジータに飛びかかり、その肩に噛みついたのだ。
「貴様…何のつもりだ!?」
「バァ~~~カ!コイツは私のものだァ!!」
レイムは舌を出しながらそう叫ぶと、その全身に亀裂を走らせ、内側から真の姿を現す。白い毛並みを持つ、大猿以上に巨大な獣の姿となったレイムは、大口を開けてバクンと金属化の進むシロナの体を口の中に入れ、ゴオッと風を切る音を上げながら一気にベジータから距離を取る。
一瞬だけ唖然とするベジータだが、すぐに笑みを浮かべ、レイムを追う。
「何をするのかと思えば馬鹿な真似を…!ならばそんなゴミはどうなろうが知ったこっちゃないが、このオレに歯向かった事は許しちゃおけんな…」
ベジータはレイムを追いながら背後目がけて気功波を放つ。レイムは目だけで後ろを見てそれに気付くと、九本の霊尾の内、一本を稲妻を纏う尾へ、一本を青く煌めく結晶に覆われた尾に変化させ、それを差し向けてエネルギー波をかき消し、ベジータへ振り下ろす。
「その程度じゃオレに傷ひとつ付けることさえできんぞ!」
荒れ狂う二本の尾の動きを見切り、ベジータはまず結晶の尾を全力で殴り、そのまま貫く。そして向きを90度転換し、今度は稲妻の尾を貫通する。切断された尾はその場で塵となって消滅し、レイムの霊尾の中で最も高い破壊力を持つ二本が破られた。
(そんなことは分かっている…!コイツにドラゴンボールの在り処を教えて、死ぬ寸前のシロナを手駒として支配する予定だったのに…!シロナさえ支配できれば、この私こそが誰よりも強い存在へと進化できるはずだったのに…!!)
レイムとベジータの戦闘力差は歴然。それはレイム自身も重々分かっていたが、何故か自分の体が意志に逆らって動いたような気さえしていた。
「行け!ハクレイども!」
レイムはさらに一本の霊尾を使う。尾がボコボコと不気味に波打ったかと思うと、それは無数の小さな白い狐のような妖獣に変化し、ベジータに襲い掛かる。その隙にレイムは全速力で逃走を図る。
ベジータが見えなくなるほどに纏わりつき、圧死させようとするハクレイたちだが、ベジータの気合一発で全てが消し炭になり、ベジータは手の平から連続して絶え間なくエネルギー弾を乱射する。
「ぐう…!」
それを背中に何発も喰らったレイムはその箇所が抉れ、夥しい量の血液が流れる。
通常、少しでも怒りや憎しみと言った負の感情が込められた攻撃はレイムには効かない。しかし、今のベジータにあるのはただ一つの感情、「楽しみ」だった。今のベジータはただ敵と戦い、痛めつけることを楽しんでいる。だからベジータの攻撃はレイムの背中を抉り、尾を消し飛ばし、刻一刻とその生命を削り取っている。
「キエエエヤアアアアアア!!」
慟哭のような雄叫びを上げ、体の感覚がどんどん消えてゆくのも構わずにレイムは一直線で進む。
その先には神殿があり、その巨体が白いタイルを捲り上げながら無理やり神殿内部へ突っ込んでくる。
「きゃああああ!」
「な、一体何!?」
コナギやブルマが驚くのも無視し、神殿の壁と天井を破壊しながらとある一室にあるひとつの水瓶を発見する。紫色の輝く水が入ったその瓶に突進し、鼻先を突っ込むと、なんとレイムの巨体がヒュルルルと中へ吸い込まれていった。
「…何だったんだ、あの女は」
ベジータはすっかり興を削がれ、気と共にさっぱり消えてしまったレイムを追うことはせず、カンバーの元へと向かうのだった。
…命なんて軽いものだ。
数多もの並行世界を渡り、数え切れないほどの幻想郷を蹂躙し、破壊してきた。ああそうさ…私は殺す事と無理やり支配することでしか他者との繋がりを作れない。いつからか、そういう性なんだ。
シロナ、スカー…お前らに言われた通り、私は全ての命が憎い。なぜなら、他者と繋がることができるからだ。理由は何でもいい…人間も動物も妖怪も、死ぬまでにずっとひとりということはない。どうしようもなく憎くて、羨ましいのだ、ただ生きるだけで繋がる事の出来るお前たちが。
命なんて軽いものだ。へその緒で通じて産道から出てくる命も、卵を破って出てくる命も、試験管の中で造られた命も平等に。
何を成そうが、何を考えようが、短かろうが長かろうが行着く場所は同じなのだから、悲しむことはない。
「でも…お前は…死んだらダメ…なのよ…」
水瓶を通ってレイムがやって来たのは、かつて幻想郷が有った場所。山の中腹に寂れた神社がひとつ、そこからはコンクリートジャングルと海を見下ろすことができる。
レイムは地面に落ちた衝撃で既にズタズタだった下半身があらぬ方向へ千切れ飛んでいき、うつ伏せに横たわる。が、前脚だけを使ってゆっくりと這うように進み、血と臓物がこぼれて取り残されいくのも構わずに寂れた神社へと向かう。
「初めてできた、友達だから…」
御扉を爪の先で開き、その中に顔を突っ込んで口の中に隠していたシロナを吐き出す。レイムはそこで力尽き、ゆっくりと頭を地に臥せる。
しかし、シロナの体は完全に錆びた金属へと変わってしまっており、バキバキと音を立てて粉々に砕けてしまった。破片が流れ続けるレイムの血に浸かってゆく。
さわやかな風の吹く、かつて幻が溢れていたのどかな山の中で、ふたつの命が眠りについた。