もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第421話 「ああ、気が向いたらな」

霊夢は素早く跳躍し、目の前のジャネンバベビーに殴りかかる。ベビーは薄い笑みを浮かべたまま微動だにせず、霊夢の攻撃を余裕有り気に待っている。

振りかざした拳がベビーの顔面へ当たる寸前、霊夢の姿が消えた。霊夢はベビーの周囲を高速で移動し一瞬だけ停止するのを繰り返し、気でかく乱させ、今度は背後から首筋目がけて飛び蹴りを繰り出す。

だがそれも当たる寸前に霊夢は距離を取り、さらにかく乱とフェイントを何発も繰り返す。

 

「どうした?ちょこまか動くだけじゃオレは倒れないぞ」

 

霊夢はベビーの意識が乱れた瞬間に本当の攻撃を仕掛ける気でいたが、考えを見透かしていたベビーは口を開いた以外一切反応しない。ならばしょうがない、とばかりに霊夢はかがんでベビーの向う脛を蹴り、太ももから顎へかけて満遍なく拳を叩き込んだ。

だが、やはりベビーには効いておらず、ゆっくりと振り返る。そして首をコキコキと鳴らし、右手をゆっくりと上げる。

 

「今度はオレから行くぞ」

 

次の瞬間、ベビーは透明な衝撃波を放つ。間一髪、霊夢はしゃがんでそれを避け、ベビーが追撃として繰り出した薙ぎ払うような蹴りをジャンプして躱し、真下を通過する足へ拳の乱打を浴びせる。少しバランスを崩したベビーだが、尻尾で霊夢の顔を叩いて吹っ飛ばす。

 

「く…!」

 

口の端から血を流しながら、霊夢は地面に手をついて止まり、反対の腕から気功波を撃つ。

ベビーは気合と共に腕を振るって突風のような衝撃波を発生させ、それをかき消した。その隙に迫っていた霊夢が懐へもぐりこみ、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。

 

「ふふははは…」

 

だが、ベビーはその全てを見切って躱し続ける。両者は攻防を繰り広げながら空中へ浮かび上がる。そして隙をついて霊夢の腹へ膝を叩き込み、背後へ回って背中を殴りつけた。

 

「ハアアッ!」

 

地面へ向けて吹っ飛んでいく霊夢へ狙いを定め、追撃のエネルギー弾を発射する。途中でそれに気付いた霊夢は空中で逆さまのまま態勢を整え、両手でエネルギー弾を止めて抑え込もうとする。

 

「く…う…!」

 

汗が滲むほどに力を込め、なんとかそれを跳ね返す。霊夢は息を切らしながらベビーを見上げるも、彼はやはりというべきか全く消耗していない。

 

「どうした?大口叩いてその程度か?」

 

勝てないということは分かり切っていたが、これほどまでに力を差を見せつけられては戦う気力すら失せそうになる。だが…霊夢にはまだ誰にも知らせていない奥の手があった。

 

「見てなさい…!フゥ──…」

 

深呼吸し、全身の力を抜いて天を仰ぐ。すると、霊夢の体から湧き出ていた赤色や青色の霊力のうち、青い霊力が強くなり全てが青色のオーラとなる。炎のように赤く揺らいでいた髪は濃い青へと変わり、境界が曖昧に見えるほどゆっくりと揺らぐ靄のようになった。

 

「『超夢想天生・壊』」

 

明らかに霊力の総量が爆発的に増えると同時に姿を変えた霊夢。周囲には紅白の陰陽玉が七つ出現して浮かび上がる。

霊夢は一度の瞬きの間にベビーの目の前へ接近し、その顔面へ拳を食らわせた。浮かんでいた周囲の陰陽玉のひとつが青く点燈する。急激にスピードもパワーも増した霊夢に対し、ベビーが対応してくる前に速攻を叩きこむ。腹へ一発、顎へサマーソルト、脳天へ踵落とし、胸へ肘打ち、肩へ回し蹴り。七つのうち、六つの陰陽玉が青く点燈している。

 

「カアッ!!」

 

ベビーは霊夢を払いのけ、反撃しようと殴りかかるが、振り下ろした拳をすり抜けるかのように霊夢の拳が顔面へ深くめり込んだ。

計七発の打撃が命中し、全ての陰陽玉が青く輝く。その瞬間、ベビーの周囲360度全方位全角度から、無数の細かな気弾が掃射される。刹那もの余裕も与えず、絶え間なく放たれては爆発する気弾によってとつてつもない規模の大爆発が発生した。

霊夢があの世で発展させ編み出した「超夢想天生・壊」は、戦闘力そのものの強化に加え攻守ともに優れた能力とバランスだった超夢想天生を再び攻撃に特化させた技だ。七発の打撃を敵に与えると無数の必殺の気弾が自動的に敵を襲う。

 

「カカロットにも言ってなかったんだけど…まあアイツだって超サイヤ人3のことなんて話さなかったしお互い様よね」

 

手応えはあった。今もなお撃ち出し続けている気弾は確かにベビーに当たっている。自動掃射が発動してから15秒が経過し、攻撃が止む。

しかし…炎と煙の中では、何食わぬ顔をしたベビーがゆっくりと歩いていた。

 

「少しだけやるようだな…かなりの戦闘力と技だ。だが、今のオレの強さの前には何も響かない」

 

体に煤や汚れが付着しているが、目立った傷はほとんどない。霊夢の最高の力と技を使っても到底ベビーには太刀打ちできない、という事実が重くのしかかる。

ベビーはゆっくりと霊夢に迫り、霊夢はさらに気弾をベビーに浴びせながら後ろへ下がる。しかし、やはりそれもほとんど効いておらず、ベビーはジャネンバの能力を使用して腕を一気にゴムのように伸ばし、霊夢の首を掴み上げた。

 

「ご…あう…!!」

 

そのまま引き寄せ、強張らせた手を見せつけながら後ろへ振りかぶる。このまま霊夢の腹を貫いてやるつもりだ。

 

「終わりだ、少しだけ楽しめたぞ」

 

(こっちがね)

 

軋む首の骨と、火花の散る視界の中、霊夢は心の中で勝ち誇っていた。

一瞬、その様子に対して不思議そうに顔をしかめるベビー。次の瞬間、その顔面へ霊夢ではない何者かの拳が高速でぶち当たってきた。

 

「な、なにィ…!?」

 

ベビーは勢いよく弾丸のように弾き飛ばされ、遠くに浮かんでいた結界玉に激突した。霊夢は自分の勘が当たったことを確信し、咳込みながらも笑った。

 

「ゴホッ、ハァ…あはは…やっぱり来てくれたのね。サザンカ!」

 

霊夢には理由はなくともすべてが分かっていた。今現れたこの少女が、赤ん坊の時以降会ってもいない実の娘であるサザンカであるということ、そしてサザンカがどのような理由で地獄へやってきたのか、も。

 

「ははっ、なんだよ…なんでわかってたんだ?母さん」

 

振り向いたサザンカはニカッと笑顔でそう応えた。サザンカは暗黒ドラゴンボールを集める旅の中で、別の時空の霊夢とは面識がある。だが、正真正銘本物の母親であるこの博麗霊夢と顔を合わせるのは初めてだ。だが、そこには既に親子の信頼があった。まるで最初から、あの世とこの世の境目など存在していなかったかのように。

 

「大きくなったわねぇ!前はこれくらいしかなかったのに…」

 

「前って赤ん坊の時だろ!アタシは今16だぞ!」

 

「そっか…もう16か。もしかしていい男もいたりして?」

 

「ばっ、いい男って…!それは今どうでもいいだろ!?」

 

「分かりやすっ。それよりサザンカ…お願いしてもいいかしら」

 

「なんだよ?」

 

「アイツ、ぶっ倒せる?」

 

霊夢が指差す先では、復帰したベビーが口の端から流れる血を拭いながらゆっくりとこちらへ歩いてきていた。その目には今まで見られなかった若干の怒りがこもっている。

 

「ああ、気が向いたらな!」

 

サザンカはベビーを迎え撃つかのように正面に立つ。

 

「お前のその尻尾は…サイヤ人だな」

 

「サザンカってんだ、覚えとけよ」

 

「サザンカ…?そうか、キサマが…か。サイヤ人にはオレが死をくれてやる!生きて地獄から出られると思うなよ!キヤアアアアアッ!!」

 

甲高い奇声と共に、全身から黒い邪悪な気を噴き出させ、サザンカに殴りかかるベビー。

 

「そりゃこっちのセリフだぜ!」

 

サザンカも拳を繰り出し、両者のパンチが互いにぶつかり合う。気と気が反発して起こるスパークがバリバリと周囲にまき散らされ、地面に降って土煙が舞い上がる。

両者はしばらく押し合った後、同時に後ろへ下がる。ベビーは口を開け、中に溜めていた緑銀色のエネルギー波を放つ。サザンカは正面からそれを片手で受け止め、握り潰すようにして打ち消して見せる。

その時に炸裂した光に紛れ、ベビーの目の前まで急接近したサザンカは、反応できなかった彼の腹目がけて強烈な膝蹴りを叩き込む。だがベビーも負けじとサザンカの背中を肘で打ち、尻尾で殴り飛ばす。

 

「なあ…ッ!?」

 

だが、吹っ飛ばされるサザンカはベビーの尻尾の先端を掴んでおり、サザンカと一緒にベビー自身も吹き飛んでいく。サザンカは空中で渾身のパワーでベビーの体をフルスイングし、遠くにあった岩山に叩き付けた!

 

「へっ…どうだ?面白い喧嘩になりそうだろ?」

 

好戦的な笑みを浮かべながらそう言ったサザンカに対し、ベビーは額に青筋を浮かべながら立ち上がろうと岩の破片に手を置いた。

 

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