もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第422話 「今度のアタシは」

「キッ!」

 

ベビーは立ち上がりながら、近くにあった岩石の破片に手を伸ばし、触れる。すると岩石は形を変え、尖った槍のようになってサザンカへと飛んでいく。

サザンカは容易くそれを殴って破壊する。だが、弾け飛んだ破片によって視界が狭まった一瞬で、ベビーはサザンカの後ろへ移動していた。

 

「おっと」

 

慌てて距離を取るサザンカだが、ベビーは何もしてこない。

 

「どうしたよ?さすがに今ので万策尽きたってわけじゃねぇだろ?」

 

「当り前だ。そろそろウォーミングアップは終わりにしようと思ったんだよ」

 

ベビーの体からじわじわと黒い煙のようなオーラが漏れ始め、一気に気が高まっていく。今まで優勢だったサザンカが一転して危機を感じるほどのパワーが解放され、思わず腕で顔をガードしてしまう。

気を開放し終えたベビーは一瞬にしてサザンカとの間合いを詰め、その顔面を殴りつけた。吹っ飛ばされるサザンカを追撃しようと、ベビーは宙へ飛びあがりエネルギー弾を何発も放つ。サザンカは顔の血を拭いながら攻撃を躱し、オーラを纏って高速でベビーのもとへ向かって反撃を仕掛ける。

 

「ハアッ!!」

 

サザンカのパンチを腕でガードし、その瞬間に周囲には強力な衝撃波が生まれる。浮かんでいる結界玉がそれに晒されて移動していき、小さなものは砕けて消える。

ふたりは移動と攻撃を何度も繰り返し、そのたびにぶつかり合った衝撃だけが発生する。

 

「どうした?サイヤ人の力はそこまでか?」

 

ベビーは反撃の拳をサザンカの顔面へお見舞いし、腹を蹴りつける。そして至近距離からの気功波を浴びせ、巨大な結界玉目がけて押し込むように吹き飛ばす。

 

「ぐああああ──!?」

 

サザンカは気功波と共に結界玉に激突し、爆発に包まれる。結界玉は跡形も無く砕け散り、爆炎が吹き荒んだ。ベビーは注意深く爆発の跡を目で探り、その中からサザンカがゆっくりとこちらへ向かってきているを発見すると再び不気味な笑みを浮かべる。

 

「さすがだな…とりあえず褒めてやろう」

 

だが、サザンカは傷だらけで、一張羅の黒いセーラー服も右肩から先が破れてしまっており、ボロボロだった。

その直後、ベビーは何の前触れもなくサザンカに接近しスレッジハンマーを喰らわせて吹っ飛ばし、地面へ叩きつけた。

 

「サザンカ!?」

 

霊夢が心配そうに叫び、砕けた岩盤の下から飛び出したサザンカが再びベビーへ殴りかかる。ベビーはすぐさまそれを殴って迎撃し、さらに何発もの打撃を命中させる。一発一発がサザンカの体の芯へとダメージを与え、まともに反撃する事すら難しくなる。

だが、サザンカは何とか繰り出された拳を見切り、滑らせるように自分の頬で受けると、その拳に思い切り噛みついた。

 

「うッ!?」

 

「うががが…!」

 

振り払おうとするが、サザンカはそのまま離さない。

ベビーはサザンカの腹へ手をかざし、そこで気を炸裂させ至近距離からサザンカへ強烈な一撃をお見舞いする。内臓へモロに衝撃が届き、血を吐きながら口を離し、悶絶するサザンカ。さらにそれをベビーが蹴り飛ばし、サザンカはせり立った巨大な岩盤へ激突した。

 

「ゴホ…うぐ…!ま、まだまだ…このサザンカはやられねぇぞ!」

 

首元や胸を吐いた血で染め、目を充血させながらも起き上がろうとするサザンカ。それを見たベビーは地面へ降り立ち、尚も闘志を失わないサザンカを見て青筋を立てる。

 

「死ねェ!!」

 

そして手の平から衝撃波を撃ち、サザンカへ命中させる。

 

「ぐああ!!」

 

「死ね!死ね!!」

 

続けて連続して発射し続ける。そのたびにサザンカはダメージを追い、ついには背後に聳えた岩盤すらも崩壊し、その下敷きとなる。

 

「…くたばったか」

 

崩れた岩石の隙間から、力ないサザンカの腕が飛び出しているのを確認したベビー。

 

ガラ…

 

しかし、指先がピクリと動いたかと思うと、岩石の下からサザンカが顔を出した。だがもう既にサザンカの気は大きく下がっており、目を開けてこちらを睨むのが精いっぱいのようだ。まさに風前の灯のような状態であることに気付くと、ベビーは更なる怒りを表情に込める。

 

「つくづくサイヤ人は害虫のようにしぶとい!…だが、決めた…絶対に二度と立ち上がれないよう、徹底的に潰してやることにしたよ」

 

ベビーはその場で両腕を広げる。

 

「地獄中にある邪念の力よ…このオレの体へ集中するのだ…!」

 

すると、地獄中の至る所に浮かんでいた結界玉に深い亀裂が走り、その隙間から煙のような赤紫色の邪念のオーラが漏れ出し、ベビーの元へと集まってくる。

煙はベビーの体を球状に取り囲い、ゆっくりと吸収されていく。地獄の空が真っ赤な雲に覆われ、大気全体に死を予感させる不吉さが充満する。

 

「カアアアアアアァァ…!!」

 

ベビーは背中を丸めながら身体を硬直させ、邪念を取り込んでよりパワーアップする肉体の変化に耐える。ジャネンバの肉体とベビー自身の寄生がより深くなり、まるで融合するかのように互いの特徴を持った姿へと変貌する。

両目は青いカバーグラスが覆い、両肩からは赤い模様の走った黄色いウイング状のパーツがせり出し、両腕両足も黄色い甲殻が覆う。さらに、上腕部や腹などジャネンバの赤い表皮が露出していた部分は、ベビー自身の青い体色へと変化してゆく。

 

「ククク…これが悠久の年月、地獄を満たしてきた邪念の力か…今、オレはそれを支配した…!」

 

ベビーは拳を握り締め、地獄の邪念の支配者となった己のパワーを確かめる。

 

「この力で、オレは全てのサイヤ人を皆殺しにし…そうだな…例えその後サイヤ人どもの魂が地獄へ送られたとしても、オレの力で魂もろとも抹消させてやる…!」

 

そして、岩場に倒れるサザンカを見下ろすベビー。

 

「クソ…こんなはずじゃあなかったんだが…なぁ…!」

 

1000年にひとり生まれる、伝説の悪のサイヤ人として覚醒したサザンカ。黄金大猿となったカンバーには敵わなかったが、流石に地獄にいるジャネンバとやらはそのカンバーほど強くないだろうと高を括っていた。だが、どうやらあのジャネンバには只ならぬ異常が起こっているようで、界王神らの想定よりも事態は深刻なものとなっていたようだ。

 

(見積もりが甘かったか…)

 

そう思った瞬間、何故か頭の中にはカンバーの言葉がよみがえる。

 

──サイヤ人の究極の領域をオレに見せてみろ!

 

──キサマも…たどり着けなかったか…

 

(ん…?そう言えばアイツのあの言い方…もしかして、アタシやアイツにも成れなかったまだ先の力があるってことか…?)

 

確かに、カンバーはしきりにサザンカが何かに目覚めることを期待していた。まだ、自分には何かがあると気付く。

 

「サザンカ!ああ、大丈夫!?」

 

駆け寄ってきた霊夢がサザンカを起き上がらせ、肩を貸す。

 

「ハァ…ぐ…!」

 

「アイツ…まだ強くなるっていうの!?」

 

霊夢も進化したジャネンバベビーを見上げて苦い顔をしながらそう言った。

 

「そろそろ死ぬか?」

 

ベビーは両手を額の前で掲げ、そこに空間の歪が発生し、穴が空く。その奥で緑色のエネルギーが集まり始め、今にも爆発しそうなほど脈動しているようだ。

 

「閻魔大王ももういらん!キサマはここで死んで終わりだ!『地獄門』!!」

 

別の空間から発射されたエネルギー波が、ベビーの作った歪を通って発射される。ほんの少しの間喰らっただけのカカロットを何日も昏睡させるほどの邪気が籠った波動…霊夢はサザンカを連れて避難しようとするも、すでに視界いっぱいに波動が迫っており間に合わない。

万事休す。しかし、サザンカはまだ何か手はないかと考えを巡らせていた。そして一番に思い起こされたのは、カンバーの言っていた究極の領域のヒントというには到底、関係がないと思われることだった。

 

──その、つまり…俺と付き合って…ずっと一緒にいてほしい!せめて店やるまでは…

 

カズラのセリフが脳裏に木霊する。

 

(ああ…嬉しかったな…やっと、恥ずかしがらずにアイツの傍にいられるようになって…)

 

そして湧き上がるのは、怒りだ。

 

(待てよ…?付き合ったはいいけど、まだ何も恋人らしいことってしてなくないか!?…そうじゃねぇか、アタシはこんな場所でくたばるわけにはいかねぇだろが…!アイツぶっ飛ばして、全部終わらせて…もう一度、カズラの顔見るまでは…)

 

「絶対に死ねねぇだろ!!」

 

 

 

 

かつて、超サイヤ人に目覚めた者がいた。きっかけは穏やかな心か、激しい怒りか、それとも深い悲しみか。その壁を越えたきっかけは、更なる高みを目指す気持ちか、それとも降って湧いた未知なるパワーか。

だが、その誰もがその時持ち得なかったもの。それは「愛」…ではなかろうか。これまで、人でも故郷でも何でもいいが…とにかく、何かを深く愛したサイヤ人はいただろうか。子供、妻、妹、地球…それらを愛したサイヤ人もいたにはいたが、彼らには絶対になかったはずだ。

 

例えば…10代半ばを過ぎる頃、少年少女が胸に秘める燃え滾るような、止め処ない激しい情愛が。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

「何が…起こった…?」

 

ベビーは困惑した。完璧に消し去るつもりで放った閃光と波動が、更なる黄金色の強い気の波によって相殺された。霊夢も思わず腰を抜かして見上げている。

 

「サザンカ…?」

 

その姿は、まるで大猿へと変身するサイヤ人の凶暴性を濃縮したかのよう。黒髪は伸びて肩にかかり、瞳は黄色く、赤い隈取模様が浮かんでいる。自身の気の炸裂によって消し飛んでしまったセーラー服の下にあった黒いスポーツ系の下着が露わになったが、それよりも大きな変化だと感じられるのは、上半身の大部分を覆う深紅の体毛だろう。

一見何事かというような変化がサザンカに訪れたかに思えるが、その全身から湧き上がる闘気は黄金色に煌めいており、正しく超サイヤ人の系譜であることを示している。

 

「超サイヤ人3…じゃあないわね…それなら、もしかして…『超サイヤ人4』とか?」

 

霊夢がおっかなびっくりで呟いたその名前が、なぜかしっくりくるとサザンカは感じた。

 

「今度のアタシは、ちっと熱ィぞ…」

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