もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第425話 「抱きしめてもいい?」

熱気によって周囲が歪み、蒸気が立ち込める。

その中央で、「超サイヤ人4」と化したサザンカはじっと腰を落としながら目の前の敵を見据えていた。カンバーがしきりに覚醒を臨んでいた、原始の闘争本能を力の源とする…

 

【超サイヤ人4】

 

確かに、2、3と続いてきた超サイヤ人の系譜の先であることは間違いないが、その内訳はやや異なる。特に2は超サイヤ人のレベルを高め、壁を越えれば自然と至れるが、3はそれまでの超サイヤパワーを凝縮するという技術が必要であり、その分エネルギーの消費が激しい。しかし、この4はいくら2や3からレベルを上げて到達しようと思っても普通は無理だ。4になるには、少なくとも3に覚醒できる地力が備わっていること、黄金の大猿の状態で理性を得る、つまり大猿というサイヤ人の力の根源を我が物とすることが必須である。

 

だがその手順を踏んだとしても、必ず4に至れるとは限らない。現に、この間のサザンカ自身も、カンバーでさえも黄金の大猿のまま理性を得て元に戻ったにも関わらず4にはなれなかった。

では他に何が必要なのか。それは「愛」…であるかもしれない。人でも、モノでもなんでもいい。とにかく、何があっても守りたいと強く願える程の愛があれば、超サイヤ人4になれるのかもしれない。

実際にこの間のサザンカはそれどころではなかったし、カンバーが何かを愛することなどできない。

対して今のサザンカは、とにかく戦いを終わらせて、一刻も早くカズラと再会することに執着している。10代特有の煮えたぎるような熱い情愛がそうさせているのだ。

 

 

「いや、アッツ」

 

自分から発せられる熱気によって、まるでサウナの中にいるかの如く汗をかくサザンカ。

 

「こっちのセリフだけど」

 

動けないまま近距離でそれに晒される霊夢も汗だくになっていた。

 

「まあでも…熱い方が動きやすくていいかもな」

 

そう言いながら、サザンカの黄色くなった瞳がジャネンバベビーを挑発的に睨んだ。ベビーの青いカバーグラスに覆われた目が細められ、怒りを覚えたベビーは再び額の前へ両手を掲げ、異次元の穴を広げてその中にエネルギーを溜めこむ。

 

「超サイヤ人4だと…?ナメるなよ野蛮な猿め!」

 

そして、先ほどよりも威力の高まった邪念の砲撃が発射された。

が、サザンカは不敵ににやりと笑うと、右手を前に出し、その掌で砲撃を受け止めた。

 

「なにィ!?」

 

障害物にぶち当たった砲撃はその箇所から分裂し、光の矢となって周囲の地面に降り注ぐ。サザンカはそのまま右手を握りしめ、邪念の砲撃を握りつぶして相殺して見せた。

 

「おもしれェケンカ、してやるよ」

 

凄まじい閃光と衝撃波が生まれ、ベビーは思わず腕で顔を覆って後ろへ下がる。その隙に接近したサザンカに気付いたベビーはそのスピードに体が反応せず、目の前で拳を振り下ろしてくるサザンカを眺める事しかできなかった。

 

バキッ!

 

刹那、一撃。ベビーの顔面へサザンカの拳が突き刺さり、黄色と赤色のスパークが弾ける。ドウンと空気を押しのける音を上げ、ベビーは盛大に吹っ飛ばされた。

 

「グ ア アアアアアアア!?」

 

叫び声すらも置き去りにし、停止しようにも勢いが強すぎて自分の力では止まることができない。背中にいくつもの結界玉が激突し、ようやく勢いが落ちたころには「針山地獄」に突っ込んでいた。

無数の針が折り重なった山に激突したところで、ジャネンバベビーの体に傷はつかなかったが、それよりもサザンカに殴られたダメージの方が深刻だった。ベビーはすぐにサザンカがこちらを追いかけてきているのに気付き、周囲の針を操作して特大の槍を何本も作り出し一斉に差し向けた。

 

「オラアアアア!!」

 

サザンカは高速で飛びながら薙ぎ払うように拳を大きく振るうと、拳圧が針の槍をへし折って破壊する。そのまま、通りがかりに目の前に浮かんでいた結界玉に手を当て、メキメキと指を食い込ませてそれを掴み、針山をものともせず崩しながらベビーに接近する。

そしてベビーの脳天に結界玉を思いきり振り下ろして叩きつけた!

 

「ガ…ぬううう!!」

 

脳天から全身に突き抜ける痛みに顔を歪めながらも、ベビーは粉々に砕け散った結界玉の破片を掴み、それを剣に変化させてサザンカに振りかざす。

避けるサザンカだが、腹に薄い切り傷が入り、一歩退く。ベビーはこちらへ踏み込み、さらに斬撃を加えようと刺突を繰り出した。

 

「串刺しにしてやるッ!」

 

しかし、剣先は空を突いた。呆気にとられたベビーがまさかと思い上を見上げた時、自身の頭上に跳び上がっていたサザンカの蹴りを顔面に受ける。

 

「ぬが…!」

 

サザンカは間髪入れずにもう一発蹴り、さらに何度も踏みつけるかのようにベビーの顔面を蹴り続ける。その反動でサザンカは宙に浮かび続け、ベビーは喰らいながらも拳を握り締め、怒りに吠える。

 

「薄汚い足でオレ様を蹴るんじゃなァァい!!」

 

全身から衝撃波を発してサザンカを引き離し、持っていた剣を振るう。それは虚空を切り裂くが、その軌道上を斬撃が飛び、サザンカを狙う。

が、サザンカは飛んで来る斬撃に向かって額を差し出し、それを受けた。ガキンと硬い音が鳴って斬撃が跳ね返され、あらぬ方向の先の地面を両断した。

 

「このまま喰らってみろよ、アタシの石頭」

 

急降下しながら放ったサザンカの頭突きがベビーの胸へ直撃し、ズムンと重い音が響く。ベビーは口から血を吐きながら目を見開き、声も出せずに悶絶する。だが、負けじとサザンカの首を両手でつかみ、締め上げながら尻尾を使って殴打を叩き込む。これでもかと殴り続け、最後に気功波で吹き飛ばす。

 

「ハァ…ハァ…どうだ…!」

 

空中で静止し、うなだれるサザンカだが、微かに口の端に血が付いただけで大したダメージを受けた様子はなく、にやりと笑みを浮かべる。

 

「どうした?その程度じゃこのアタシには勝てないぜ」

 

「く…!死ね!!」

 

ベビーは空間に異次元の穴を開け、そこから無数のエネルギー光線の柱を発射した。正しく光のように周囲に乱反射しながら全方位に広がり、その後集約するように襲い掛かるそれを前に、サザンカは余裕を崩さず走り出した。

軽やかな動きとスピードで身を翻し、しゃがんだりして全てを躱しながらベビーへ接近し、目の前へ躍り出る。

 

「キッ…この!」

 

ベビーは近寄ってきたサザンカに向けて拳を振り抜くが、こちらの方が先に攻撃を放ったにもかかわらず、後から放たれたサザンカのパンチがヒットする。

続けて、サザンカの膝蹴りが脇腹へ叩き込まれ、追撃のアッパーが顎に突き刺さり、ベビーの体が宙へ吹っ飛ばされる。

 

(バカな…速すぎる…!!)

 

超サイヤ人4の本質は、大猿化した際に発揮される圧倒的な破壊力を人の姿のまま扱えるようになる点にある。例えば、大猿の拳という巨大な面積で与えられる衝撃が、人の拳ほどの小ささで敵に向けられるのだ。さらに、戦闘力そのものも黄金の大猿より遥かに上昇しており、パワー・スピード・打たれ強さ共に飛躍的に強化され、その力はまさに冠前絶後、一騎当千!

 

「これで決めてやる!」

 

飛び上がったサザンカがベビーの眼前へ迫り、大きく振りかぶった拳に黄金と深紅の気が混じり合ったオーラを纏わせる。

 

「ま…待て…!!」

 

「やだね!」

 

そして、渾身の拳の一撃がベビーの腹へと炸裂した。拳がめり込んだのと同時に黄金と深紅の波動が溢れ出し、周囲を染め上げるほどの気の爆発となってベビーを呑み込んだ。

 

「う…グアアアアアア!?そんな…このベビー様が…!!ぬおおおお…」

 

ベビーの体が気に押し上げられてゆっくりと上昇し、爆発は周囲一帯を巨大なクレーターにするほどに強く、それに晒されたベビーは全身を細かく刻まれるかのように分裂させながら消滅してゆく。

巻き上がった石の破片や、粉々になった針山地獄の針がパラパラと落ちてくる。拳による一撃と爆発の軌道は深く抉れており、そこにはジャネンバベビーの姿は無かった。

 

「ふう…」

 

一息ついたサザンカの元へ霊夢が飛んでやってくる。

 

「もしかして倒しちゃった!?」

 

霊夢は抉れた地面を指差しながら言った。

 

「え?まあ…なんかまずかったか?」

 

「…いや、しょうがないわね、私が何とかするわ。それよりもサザンカ、お腹怪我してるじゃない!」

 

「これくらい平気だって…ちょ、くすぐってぇ」

 

サザンカの腹の切傷から血が垂れているのに気付いた霊夢は、慌てて屈んでから傷口を拭く。超サイヤ人4となったことでややマッシブになった体に触れ、サザンカはくすぐったくて身をよじった。

 

「ちょっと我慢して」

 

霊夢がやさしくそう言うと、サザンカは大人しくなって身をゆだねる。不思議と辺りは静まり返り、ついさっきまで戦いがあったことすら忘れてしまえるほど穏やかな時間が過ぎる。

 

「深くなくてよかったわ。跡が残ったら大変だもんね」

 

「…ありがとう、母さん」

 

サザンカが素直に礼を言うと、霊夢の緊張が解ける。

 

「ほら、おいで」

 

「え?」

 

「ほんとに大きくなったわねぇ、サザンカ…。こうやって再会できたのも奇跡みたいなものよ、だから抱きしめてもいい?」

 

「あ、ああ…いいけどさ…」

 

サザンカにとっては、親代わりのブルマがいたし、別の時空ではあるが既に霊夢とは会っている。しかし、霊夢にとっては16年ぶりに直接再会できた娘なのだ。こうして地獄の脅威を取り除いた今、我が子をもう一度抱きしめたいと思うのは人としてなから間違っていない。

サザンカは気恥ずかしがりながら、両腕を広げる霊夢に体を預けようと近寄ってくる。

 

 

が、あと少し、ほんの数センチで体同士が触れ合おうという時だった。サザンカの脳裏に電流が走る。

目的のジャネンバは倒したが、そういえば大穴は塞がったのか?閻魔大王の働きを阻害している影響は消えたのか?何か変化はあったか?

否、何もない。ジャネンバを倒したにもかかわらず、その影響は一切無くなっていないのだ。

 

「あぶねぇ!!」

 

サザンカがそう叫んだ瞬間、霊夢も遅れて理解する。サザンカは霊夢の手を引いて自身の背後へ投げ飛ばし、尻もちをついた霊夢はサザンカの背中を見上げる。

 

ザンッ

 

どこからともなく飛んできた巨大な斬撃が、サザンカの肩から胸へを深く大きく切り裂いた。

 

 

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