摩多羅隠岐奈が開催した、第二回幻想郷一武道会。激闘の末、その優勝はカカロットが勝ち取り、見事賞品のドラゴンボールを手に入れた。
が、突如としてそこに乱入し、紅美鈴を殺害してドラゴンボールを奪った…覇乙女蛇斑を名乗る月の民。蛇斑は月の技術で作った道具を使いカカロットと勝負をするが、月の都へと撤退していく。三人はそれを追い、槐安通路へと足を踏み入れたのだった。
「ここが月の世界か?」
そして霊夢、カカロット、ウスターの三人は一時間ほどかけて槐安通路を通り、月の世界へとたどり着いていた。
「確かに月の世界だけど、ここは人が住んで無いところね。月の海があるから海岸線ね」
「海?これが海ってやつか?」
「貴様ら!いつさっきのようなヤツが現れて勝負を仕掛けて来るかわからんのだぞ」
ウスターがややあきれた様子でそう言った。
だがその時、急に何かの気配を感じて顔を上げる。その瞬間、三人の周囲の地面から何か尖った物が無数に飛び出した。三人は驚き、思わず固まる。
「何だこれは…!」
「それは祇園様の剣…。お前たちをひとまず拘束するためのものです」
近くの森の方から声が聞こえた。
「ようこそ地上からおいで下さった…霊夢とその仲間たちよ」
「アンタ…依姫!」
「ふっ…何年ぶりでしょうか…貴方とこうして顔を合わせるのは」
綿月依姫。月の使者のリーダーであり、以前にもロケットでこの場所にたどり着いた霊夢たちを圧倒的な力で迎撃した事もある。その実力は当時の霊夢たちをして全く隙が無く、力の差は歴然だと思わせるほどである。
「ふん、この程度の剣で動きを封じたつもりか?」
ウスターは剣を破壊しようとするが、それを霊夢が制止する。
「ちょっと待って…アンタに聞きたいことがあんのよね。覇乙女蛇斑って奴を知ってるわよね?私たちはソイツを追ってきたんだけど、何か知らないかしら?」
その名前を聞いた依姫の顔が少し変わる。
「蛇斑を追って…ですか。もちろん知っていますとも」
「奴が言ってた『王の目的』ってのも?」
「もちろん。ですが教えてほしければ…今ここで私と戦ってもらいます」
依姫は剣を構え、じっと霊夢たちを見据えると同時に体から気を発する。
「くっ…前は何とも思わなかったけど、気の概念を身に叩きこんで改めて分かるほど無茶苦茶な奴ね…!いいわ、私だって前の何倍も強くなったんだから。カカロットとウスターはそこで見てなさいよね」
霊夢の周囲のみ、地面から突き出ていた剣が引っ込んだ。霊夢は前へ進み出ると、全身から気を放出し、構えを取る。それを見た依姫は、少し不思議そうな顔をする。
「以前のような弾幕勝負ではないのですか?」
「私はもうそんな次元にはいないのよ…真剣勝負でもアンタとじゅうぶん戦えるわ」
「ではその実力…見せてもらいましょうか」
両者は睨み合い、戦いをスタートする。
お互いに接近し、依姫は剣による一撃を仕掛けた。が、霊夢はそれをいとも簡単にかわし、依姫の頭上へと移動する。そして足を突き出し、依姫の側頭部を蹴りつけた。
吹っ飛ぶ依姫だが、すぐに態勢を立て直して剣を地面に突き立てることでそれ以上吹っ飛ぶのを防ぐ。と同時に、地面に刺した剣は地中を通って霊夢の目の前へと飛び出す。
「あぶな!」
それをへし折り、粉々に砕く。
しかし、砕かれた剣の破片の一つ一つがいびつな形状の刃へと変わり、つぶての如く霊夢へ飛んでいく。
「ハッ!」
霊夢も全身から気を発し、それをはじき返して防ぐ。その隙に接近していた依姫は、もう一度鋭い斬撃を繰り出した。霊夢はそれが当たる寸前のところで両手で挟み込むようにして刃を止めた。
「なかなかやるようね」
「そっちもね!」
バキッ
霊夢はそのままグイと力を込め、依姫の使う剣を真っ二つにへし折ってしまった。
「剣が…」
依姫は後ろへ飛び、もはや使えなくなった剣をその場に捨てた。そして右腕を掲げ、そこに光を纏う。
「あれは…」
すると光は燃える炎に変わり、まるで腕そのものが炎と化しているかのようになった。凄まじい熱気を感じ、戦いを見ていたカカロットたちも思わず目を背けて顔を覆う。
「『愛宕様の火』…この圧倒的熱エネルギーを前に、燃え尽きるがいい!」
炎の腕を後ろへ引き、一気に前へ突き出した。龍の顔のような炎は火柱となり、猛烈な勢いで霊夢へ向かう。
「ふん、今さらその程度!」
霊夢は両腕に気を溜め、それを合わせて一気に放出する。特大の気功波と火柱がぶつかり合い、爆発を起こす。
その爆発に紛れて依姫の目の前にまで素早く移動した霊夢は、拳を振り上げる。
「『天宇受売命』よ、私に加護を…」
焦った依姫は神霊を呼び出して対処しようとするが…
「もう遅いわ」
依姫の腹に拳を叩きつけ、吹き飛ばす。林に突っ込んだ依姫はよろよろと起き上がる。
「ふふふ…なるほど…とてつもない強さ。以前は私に対して何もできなかった地上の者が、今は互角かそれ以上の戦闘力を身に着けている…」
「これで満足かしら?」
「ええ、満足ですね。ですが、王とその親衛隊には及ばないでしょう」
依姫はそう言いながら、カカロットとウスターを囲っていた剣を取り除いた。
「王と…親衛隊?」
「では地上から参った御方たちよ。我、月の使者のリーダーとして頼みたきこと、これ有りまする」
依姫は跪き、妙に改まった様子でそう言った。
「…何だか神妙ね」
「神妙も神妙すぎる要件で御座います。それは地上の存亡すらかかっていることで…」
「待て」
霊夢がそう呟いた時、背後から別の声が聞こえた。海岸の砂を踏む二人分の足音も聞こえる。
「お姉さまに、サグメ様!」
振り返ると、そこには依姫の姉である綿月豊姫と、月の都に住まう賢者の一人である稀神サグメがこちらへ歩いてきていた。
豊姫は少し微笑んでこちらを見ているが、サグメだけは何やら眉間にしわを寄せた神妙な顔で考え事をしているようにも見える。
「誰だコイツら?」
カカロットが霊夢に耳打ちする。
「依姫の姉と月の賢者よ」
「依姫、大事なお客様に乱暴しちゃだめよ。実はあなた方にどうしてもやってもらいたいことがあってね…こちらに向かっていると分かって歓迎することにしたのよ」
「歓迎する…?私はそんな事聞いてませんでしたが…!」
「だって依姫が侵入者だ、って飛び出して行った後に決めたんだもん。それで…地上に現れた蛇斑ら…そして王の目的について、知りたがってるようね」
「ええ…本当はアンタにも言ってやりたいわ…何故月の民が地上に?それに奴は私たちの知り合いを殺したわ」
「何ていう事でしょう、まさか赴いた地上で殺生まで行っていたとは…。これはいよいよ、王の暴走を止めなければいけないようね」
「サグメ様、この者らに真相をお話してもよろしいでしょうか?」
「…許す」
今まで何もしゃべらなかったサグメがただ一言だけそう呟いた。
「私たちの王とは、月夜見王の事よ」
「月夜見王…」
それから、豊姫と依姫は語る。
──私たち月の民は、元は地上に住む民族でした。ですが地上の生命が爆発的に増え、それにより発生した穢れを嫌う我々の民族は生き物の居ない月へと逃げ込みました。その中心となったのが、月夜見王です。
月夜見王は長い間月の都をおさめてきました。ですが、4~5年ほど前、月に純狐たちが攻め込んできた事件が有りました。それ以降です…どうやっても浄化しきれなかった穢れの力で、月の都が蝕まれ始めたのは。下々の民は気付いてはいませんが、確実に我が月の都は滅びへの道をたどっているのです。我々はこれを月の都の寿命でありいずれ訪れる消滅と認識しました。
それに気付いた王はあの手この手で都を持ちなおそうとしました。だけどそれも上手くはいかず…。
そしてその頃、王はある噂を耳にします。
「それが、幻想郷にあるという7つのドラゴンボールなのよ」
「恐らく王はドラゴンボールで月の都を救うおつもりだと私たちは考えました。アレを目の当たりにしてしまうまでは…」
「アレ?」
「これは実際に見てもらった方が早いでしょう。これこそが、地上すらも滅ぼしかねないとんでもない物なのです…」
三人は息を呑んだ。
「地上すら…だと?それは幻想郷ってことか?」
「いや、幻想郷が無くなるならまだかわいいものよ。私が言う地上というのは、地球そのものの事なのよ」
「なっ、地球そのものだと?信じられないぞ」
「それを今から見に行くのです。ついてきてください、恐ろしい物をお見せします」
三人は、依姫、豊姫、サグメに連れられて月の都へとたどり着いた。桃の木が街路樹として植えられた大通りを歩いて行く。
「それで、あの蛇斑と明嵐は何者なの?同じ月の民なんでしょ?」
「覇乙女姉妹は月夜見王が統治する”月の客”に属する親衛隊の一員。私たち綿月姉妹は”月の使者”のリーダー。同じ月の民でもあちらとこちらはあまり関わる事はないの。二人は王の命令でドラゴンボールを手に入れに地上に遣わされたと聞いたわ」
「親衛隊はとても強い…私たちでは歯が立たないくらいに」
「ふん、あんな奴ら、魔人である俺が本気でかかれば一瞬だぞ」
「見えました、王の城です」
遠くに見えるのは、一見するとただの岩山のようにも見える建物だった。形状的に、月に出来ている巨大なクレーターを模したかあるいはクレーターそのものを建物に改造したのだろうか。
「さて、私の能力で一気に中へ移動するわ」
豊姫は目を閉じ、何かを探る。そして目を開けると、一行は見知らぬ場所へ一瞬で移動していた。
「ここが城の中です」
「さぁ、目的の場所へ急ぎましょう」
そう言いながら案内される。
「霊夢、幻想郷での八意様たちは元気か?」
「え、ええ…最近は会っていないけど」
「ならよかった…以前までは八意様を月の都へ連れ帰る事が出来ればと思い悩んでいましたが、今ではつくづく思う。あの方たちにはどうかこれからも地上で暮らし、二度とここには帰ってきてほしくない。何故ならば、この先にある物が」
ドギュ
その時だった。壁や天井が一瞬光ったかと思うと、目にもとまらぬ速さで無数の棘が伸びた。その棘が真っすぐに依姫へと向かい…その身体を無数に貫いたのだ。
「お、恐ろしく…あ…!!」
「依姫!!?」
一瞬の出来事であり、誰も反応することができなかった。冷静で無表情だったサグメですら、驚きの表情を浮かべている。
「侵入者、侵入者。属性不明の者たちが王城内へ侵入。上級兵士たちは直ちに現場へ急行せよ」
「お姉さまたち、先に行ってください」
「そんな…妹を置いて…」
「いいのです、先へは行かせませんので…どうか」
「…分かったわ。サグメ様」
依姫と豊姫の会話を聞いて、サグメはしずかに頷いた。
「おい、何がどうなってんだ!俺たちが狙われるならともかく、何で依姫が…!」
困惑するカカロット。
「たぶん貴方たちの穢れのパワーの影響で、我々も侵入者と間違えられた!」
サグメが初めてまともなことをしゃべった。
「とにかく行きましょう!」
彼らに待ち受けている、とんでもない物とは一体…!?