もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第433話 「刈り倒してやるよ」

自らの渾身の拳の一撃が、相対していたブロリーの腹を貫く。臓腑と背骨を押し上げて腕が深く吞まれ、ブロリーの後方へと赤い塊が飛沫となって吹き出す。

衝撃と余波によって胸から首、そして額へと赤黒い一直線の亀裂が走り、ブロリーの顔面が縦半分でズレる。

 

「違う…」

 

その時、片目だけがぐりんと動いてカンバーと合う。カンバーは絞り出したようにそう呟くと、ブロリーの体から徐々に力が失われて行き、自身の腕からずるりと滑り落ちる。

 

ドサ…

 

既にブロリーの気は著しく小さくなり、黒髪の通常の状態へと戻ってしまっていた。悔しそうに口を動かそうとしているが、何か言う事すら敵わず、血だまりの中で一切の動きが無くなった。

 

「違う…」

 

その時、カンバーの脳内に溢れ出した、過去の記憶。忌まわしき生前のそれは一種のトラウマのように頭にこびり付いており、決して剥がれる事の無かったもの。

あの時も、互いに決着がつくというとき。望まぬ横槍によって望まぬ勝利を手にしてしまった。それが今再び、カンバーを押し潰すかの如く現実の出来事として目の前に突き付けられていた。

 

「いつまでも…何を遊んでいやがるんだ、カンバー…!ハァ…グ…」

 

ベジータは大猿から元の姿へと戻りながらそう言った。シロナにやられたダメージで全身はボロボロ、片目は傷で塞がり今そうしている間にも足元には血だまりが広がってゆく。シロナの注意がドミグラに逸れたところで逃走を余儀なくし、ここへやってきたようだ。

 

「ベジータ…キサマ…」

 

「ドラゴンボールはとっくに宇宙の彼方だ…宇宙船を探すより連中が戻ってくるのを待つぞ…オレはそれまでどこかで傷を癒さなければ…」

 

ガシッ!!

 

だがその瞬間、勢いよく飛んできた巨大な何かがベジータの体をガッシリと掴み、空中へ浮かび上がらせる。カンバーの悪の気を練り上げて生成した手が、ベジータを逃がさない。

 

「カンバー…!?何しやがる…!」

 

「キサマ…キサマァァアアア!!」

 

カンバーの怒りの慟哭が鳴り響く中、ブロリーは虚ろな表情を浮かべたまま血だまりの中で冷たくなっていった。

 

 

 

 

 

 

「…よし」

 

シロナは眼下に出来たクレーターを見下ろしながら呟いた。

レイムを吸収し、幻想郷そのものとも言える力を有し、変幻自在の肉体で闘う「ファントムシロナ」となりベジータとの戦闘を制した後、突然現れた魔神ドミグラと名乗る謎の男。ドミグラは巨大な竜人のような怪物へと変身し、膨大な魔力とパワーにものを言わせてシロナを追いこむが…

彼女の爆発力はドミグラの想像を超え、長い紫色の髪が巻き上がって逆立つと同時にそれまでを凌駕するパワーを発揮し、ドミグラを追い込み返したのだった。

 

「ベジータはもうどっか行ったか…じゃあこっちはちゃんとやっておかなきゃね」

 

シロナはクレーターの中心へ向けて右手をかざし、左手で支えるように構えると、黄色いエネルギーを込める。

一方、そのクレーターの地中で何とか意識を保っている状態のドミグラ。

 

「ガハッ…」

(頭が痛い…割れそうだ…!このままでは私は死ぬ…ヤツの攻撃は私の魂にまで届く。かくなる上は…)

 

ドミグラは何とか思考を巡らせ、何かを閃く。が、頭上を覆う岩石の隙間から既にシロナが放った攻撃による光が視界に入っていた。

 

「『マスタースパーク』!!」

 

放たれた極太の光線が、狙いを外すことなく真っすぐ一直線にドミグラが埋まっている場所目がけて突き抜ける。

 

ボゴッ バシュ!

 

「!?」

 

だがその時、地中の岩盤を砕いて弾き飛ばしながら何かが飛び出してきた。ドミグラ…であるのは間違いないであろうが、どこか違和感がある。先ほどまでとは何かが違う。

その影はマスタースパークの真正面からぶつかり、数秒の鍔迫り合いを繰り広げた後に、なんとそれを跳ね返したのだった。

 

「うっそー」

 

唖然とするシロナは、あらぬ方向へ飛んでいき、遥か彼方の地表へ着弾し爆発を起こすマスタースパークを見ると視線を戻す。

目の前で浮いているドミグラは、先ほどまでとはかなり様子が変わっていた。まずその体は人型に戻ると同時に小さくなり、巨大化する前よりも小柄になっている。が、黒く染まった眼、太く発達した腕、蹄のようなものが伸びた脚、腰から伸びる尻尾…など、巨大化していた時の特徴はハッキリと残っている。しかも、あれほど巨大だった魔力は肉体が縮んだことに伴って凝縮され、以前よりも凶悪なものとなってしまっていた。

 

「また変身!?デカい方がかっこよかったのに」

 

「ふはは…貴様のおかげだぞ。貴様という一段格上の魔法使いが存在したおかげで、俺はそれに対抗し踏み越える形でこの姿になれたのだからな」

 

「指導料取ってもいい?」

 

「取れるならな」

 

次の瞬間、シロナが殴りかかる。ドミグラは不敵な笑みを浮かべたまま尻尾を振るってそれを振り払う。そして、腕を振りかぶって渾身の力を乗せたパンチによるカウンターを浴びせた。

 

グニャア

 

だが、シロナの体はスライムのように柔らかくなってそれを包み込み、無効化する。そのまま腕を掴み、背負い投げの要領でドミグラを地面へ叩きつけた。

シロナの魔法による能力、「肉体を硬質化させる」能力。繊細な魔力操作さえも可能となったファントムシロナであれば、それは硬度を操るという事であり、硬度を操るという事は逆に柔らかくさせることも容易く、体をゴムやスライムのように軟体化させることさえ可能になっていた。

ドミグラはすぐに起き上がり、一瞬にして何十発もの高速のパンチを繰り出してシロナを狙う。が、やはりシロナの体は自在に変形してそれを受け付けない。そして、逆にシロナの拳を顔面へ受けて後ずさった。

シロナの腕が棘の生えた鞭のように変化し、振るうとしなりながらドミグラへ襲い掛かり、思い切りドミグラを吹き飛ばした。

が、ドミグラはシロナの攻撃によって一切のダメージを受けていなかった。

 

「ええ!?」

 

素早く接近したドミグラは拳を振り上げ、シロナに殴りかかる。シロナは再び体を柔らかくして衝撃を和らげようとするが、なんと今度はドミグラの一撃を無効化することができず、重いダメージがその体へと響いたのだった。

続けて殴打の連撃を喰らい、その全てをまともに受けてしまい吹っ飛ばされる。

 

「ぐええええ!!なんでやん!」

 

今まで効かなかった攻撃が、的確にシロナの芯を捉えてくる。ファントムシロナはダメージを受けないように体を変形、あるいは喰らったダメージを無効化するために誤魔化しのイメージを具現化させていたが、今の攻撃に対してはそれが出来なかった。

 

「シュッポ───!!」

 

シロナは激しい黒煙を噴き出し暴走する機関車へと変身し、ドミグラへ迫る。しかし、ドミグラは冷静にそのスピードと破壊力を見極めると、拳を振るって受け止めた。

 

ゴシャア!!

 

真正面から機関車が空き缶のように潰れ、シロナは耐えきれずに元の姿に戻る。だが、シロナは顔面から血を流して息を切らしていた。

 

「ハァ…おかしいな…」

 

本来、この場合は破壊されたのはあくまで変身していた機関車であり、シロナ本体にはダメージは入らないはずである。だが結果はこの有様であった。

 

(何をした…なんでアイツの攻撃が、急に的確になった…!?)

 

続けて放たれるドミグラのエネルギー波。シロナは咄嗟に両腕をクロスさせて防ごうとするが、着弾した瞬間に起こった爆発によって両腕が消し飛ばされる。

 

「くっ…!」

 

すぐに再生できない。その間にもドミグラの拳を顔に受け、腹に膝蹴りを喰らい、エネルギー弾をぶつけられて吹っ飛ぶ。

 

「…そっちがその気ならわかったよ…アンタが私を踏み越えたっていうなら私はさらにそれを乗り越えてやるわ」

 

シロナは再生が終わった両腕を振り上げ、ドミグラへ猛ラッシュを仕掛ける。

とは言うものの、やはりシロナの攻撃はドミグラに当たりはするが、全く効いている素振りが無い。悉くこちらの攻撃は無効化され、逆にドミグラの攻撃はシロナに対して的確に響いてきている。まるで、瓶を殴って中身だけを砕くような…

 

(そうか)

 

その時、シロナの脳裏にある時の記憶がよぎる。

 

 

 

─────

 

「シロナ、魂の質量って知ってる?」

 

シロナがまだ幻想郷にいたころ、紅魔館の大図書館にて。そこに住まうパチュリー・ノーレッジは、片眼鏡を掛け直しながらシロナに問いかけた。

 

「いいや…」

 

「人は死ぬと21グラム軽くなるそうよ。これこそが人の魂の質量なのではないかと言われている。そして魂は、基本的に肉体と同じ形をしているわ。例えば腕が斬られた時、痛いと感じたり気が滅入ったりするのはその部分の魂も損失しているから…と考えるわ。生きている限りは魂と肉体は常に器と中身のような関係で、器が壊れれば中身は流れ出して消えてしまう…肉体が傷つけば魂も傷つくし、魂が傷めば体も傷つく」

 

シロナがポカンとしながら話を聞いているのに気付いたパチュリーは小さく笑った。

 

「難しいわよね。でも覚えておいて…どんな物質もそうなのよ。必ず魂というものは存在している。それを知覚することが出来れば…できることの幅っていうのは無限なのかもね」

 

 

 

 

(今なら…分かった気がする…)

 

ドミグラが縮んでからの打ち合いでの違和感を整理する。

まず、こちらの攻撃が効かなくなった。そして流動・変形するシロナの体を貫通して的確にダメージを与えてくるようになった。

シロナはドミグラの側頭部を蹴りつけ、反対の足で顎を蹴り上げる。だが、ギロリとこちらを睨んだドミグラにはやはり全く効いていない。

 

(おっけ。そしてコイツの私への攻撃は…)

 

バキィ!!

 

カウンターとして放たれたドミグラのパンチがシロナの顔面へめり込み、血が噴き出す。

 

(効く!いって~)

 

シロナはすぐに距離を取り、体の形は変えることなく守りの体勢になる。それを見たドミグラは薄く笑い、小さく呟く。

 

「小娘、何か気付いたな?」

 

「え~なんのこと~?シロナわっかんなーい」

 

「だとて、無駄なことだ。種が分かったところで貴様では咲かすことも枯らすこともできんぞ」

 

「じゃあ刈り倒してやるよ」

 

 

その煽り、勝算あり!

ヒートアップする魔術対戦を制するのは──

 

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