もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第434話 「見事というしかあるまい」

ドミグラは残像が残るほどの速度で飛び出し、空中をジグザグの軌道に移動しながらシロナへ接近すると拳を振り抜く。それはシロナの顔面へ直撃し、ふたりは勢いそのままに凄まじいスピードで岩山を貫通しながら何十キロもかっ飛ぶ。

 

「ベロバァア!」

 

亜音速を越える速度の中、ひしゃげたシロナの顔が歪み、まるで脱皮するかのように口の中からもうひとりのシロナが這い出してきた。面食らうドミグラの顔面を殴り、亜音速同士が衝突することですさまじい波紋状の衝撃波が生まれる。

 

──────

 

『やあ、ドミグラ。久しぶりだな、元気だったか?』

 

地獄の底の底、吹雪が荒ぶ極寒の地にて…氷の上に座り込むハーツの前にドミグラが現れる。だがドミグラの姿は影のように黒く揺らいでおり、幻のように実体を持ってはいなかった。

 

『もうじきに元気になるさ。いよいよ復活の時が近づいてきたんでな…』

 

ドミグラは実に7500万年前という遥か昔に存在した魔導士である。当時、ドミグラは時の界王神の座に就くべく真面目に修行を重ねていたが、クロノア…現在の時の界王神との争いに敗れ、不服に思ったが故に暴れまわり、時の狭間という閉ざされた空間へ封印されてしまったのだ。長い年月、復活するべく策を練り魔力を蓄えていたが、近年図らずもトワ一派やサラガドラが歴史を乱したことでドミグラはより一層力を増大させ、いよいよ復活に乗り出そうとしていた。

 

『それで俺の手を借りたくなったのか?生憎、見ての通りいつ終わるかもわからない地獄の刑罰の真っ最中でね、悪いが遠慮しておくよ』

 

『私がすぐにここから連れ出してやると言ってもか?』

 

『ふふ…こっちはこっちで考えがあるのさ。代わりと言っては何だか…いい情報を教えてやろうか?』

 

『何?』

 

ハーツは頭の上に積もった雪を落としながら話し始める。

 

『少し前にここへサラガドラという男が堕ちてきた。彼の心を読んだとき、面白いものが見えてな。根本から捻じ曲がったような歴史だ…この宇宙の存在そのものが完全なるイレギュラー。君はそこへ行ってみるといい。君が力の源とするキリ…だっけか?それに満ちているだろうさ』

 

 

 

(ハーツ、貴様の言う通りだったよ。俺はこの歴史で更なる力を手に入れた!ここまで成れば全時空の掌握など容易いだろう。…しかし)

 

メキメキ…

 

(何故、易々と俺の思う通りにならないのだ!?)

 

シロナの拳はドミグラの顔面ど真ん中に深くめり込んでいた。上体が後方へ反れ、紫色の鼻血を噴きながら空中で滅茶苦茶に回転しながら勢いよくぶっ飛ぶ。

ドミグラはこの時空へ姿を現すことによって、膨大な量のキリを得た。キリとは歴史が歪んだ際に生じる不可視のエネルギーであり、ドミグラのような魔導士はそれを自らの魔力へと変換する術を持つ。それに加え、シロナという自分を越える魔法使いに追いつめられたという経験が、ドミグラを現在の姿と力へと導いていた。

魔強化形態へと変身したドミグラは肉体を縮め魔力も圧縮してより高めると同時に、魂を知覚し操作する能力を身に着けていた。つまり、現在のドミグラは、本来ならば肉体と同じ形をしていることが原則である魂を限りなく小さくし、体内に隠している。だからシロナの攻撃は魂を捉えることが出来ず一切効かなくなった上に、いくら肉体の形を変えようともシロナの魂を正確に観測できているため、シロナへの攻撃はどんな魔法で防がれようが確実に届く。

が、今のシロナの拳はドミグラの魂を狙い澄ましていたのだった。

 

「何だ…貴様!!」

 

ドミグラは吹っ飛ばされながらもがき、シロナを睨む。

 

(よっしゃ、当たった!効いた!今の感覚を忘れないでよシロナ!)

「んじゃあまだまだァ!」

 

シロナは追撃の拳を二発繰り出し、両方とも身構えたドミグラの顔面と腹へ直撃させる。だが…

今度のその攻撃はドミグラには効いていなかった。

 

「あれぇ!?なんでぇ!?」

 

「…デヤアア!!」

 

「ぶべらっ」

 

ドミグラはほんの一瞬だけ困惑するも、すぐにシロナを蹴り飛ばす。そして気功波を放って浴びせると、シロナは黒焦げになって煙を吐きながら落ちてゆく。

 

「けほっ」

(さっきのはまぐれ…?いや、違う…あの時は確かに、一瞬だけ掴めた…でも何を掴めたのかがわからない!何が違う?アイツと私…一体何が違うんだ!)

 

その間に接近していたドミグラがシロナの足を掴み、振り回しながら高速で飛び、岩場に叩きつける。最後に地面へ投げ飛ばすも、シロナは岩を蹴ってドミグラへ反撃しようと突っ込んだ。

が、ドミグラも超高速でシロナへと向かい、そのすれ違いざまに側頭部を殴って通り抜けた。

 

カコォォン…

 

小気味の良い音が鳴り、殴られた箇所から血が噴き出す。

 

(ヤバイかな)

 

ドミグラのスピードはシロナを越えている。加えて、シロナは肉体を変形させるにも魔力を少なからず消費しており、ここまでの戦いで負ったダメージも再生しきれずに残っている。これ以上の長期戦が不利と判断したシロナは賭けに出た。

右腕を巨大化させ、それを紫色の亀裂が走った無骨な鉄塊の如きハンマーへと変形する。それは、シロナの記憶にある、かつての記憶兵器の戦士ブラックの扱うハンマーを模したものだった。それを振り上げ、一直線にドミグラへ飛びかかる。

 

「いいだろう!最期の刻だ!!」

 

音速を超え、巨大なソニックブームを発生させながら魔力を込めた拳を前に突き出すドミグラ。もちろんその向かう先にはシロナ。

ものの数秒先、両者は激突するだろう。その際、どちらが打ち勝つかは自明だった。

極限まで圧縮された時の中で、シロナは思考を巡らせる。どうにかしてこの短い時間の内にドミグラの魂を正確に知覚し、それを砕く術を考え付かなければならない。

目の前にはソニックブームと魔力の波動で巨大な隕石の如き様相となったドミグラの拳が迫り、脳裏にはこれまでに出会いそして別れてきた数々の仲間たちの姿が浮かぶ──…

 

 

 

「あ、そっか、これってそういうことか」

 

魔理沙、パチュリー、ゴルゴン、ブラック、アリーズ、ビーデル、バルバルス、ヒロイシ、スカー、レイム。皆がシロナの前に並んで立ち、微笑みながらこちらを見ている。

 

「ごめんみんな…私ってば…惜しかったね」

 

走馬燈のようなものだろうか。今までに感じた事、見たもの、その全てが頭に流れ込んでくる。

全て。光を嗅ぎ、音を見るように、自分のことも、周りのあらゆる要素を全て感じられる。

 

「いや、違うね。そういうことなんだね。これが…“自由”か」

 

 

 

地獄から叫ぶ。「私は自由だ」。

自らが願うように唱えたその声はシロナにインスピレーションを与え、魂を知覚するための()を作り出した。両目の上、額にもう一対の目が開き、計4個となった目は上下左右別の方向を忙しなく捉える。

 

(目が増えた…?しかしそれだけで今の俺の魂を観測できるものか)

 

依然、シロナの魂を完璧に認識し、それ故に的確に魂を狙い澄まして攻撃を当てられるドミグラの方が有利である状況は変わらない。シロナは鉄塊の如き鎚を振りかざし、ドミグラの拳と真っ向から激突する。

その瞬間に発生した衝撃と空気の振動が莫大な熱を生み、空が真っ赤に染められる。その中心で、シロナの巨大な鎚が粉々に砕け散った。

勝ち誇った表情を浮かべるドミグラ。今、シロナの魂が籠った鎚を完璧に破壊できた。

 

「今だ!!」

 

「!?」

 

しかし、シロナは止まらなかった。右腕が破壊されようとも、何事もなかったかのように再生し、再度変形。今度はその腕は高速回転するドリルとなり、攻撃を放った後の隙が生まれたドミグラに迫り…

 

ギュラァア!!

 

その胸を貫き、大きな穴を空け、背後へと通過するシロナ。ドミグラは信じられないと言った様子で目を見開き、歯を噛み締める。

…シロナが増やした目は、魂を発見し形を認識するための目ではない。それが捉えたものは、()()()()()()()()()()()()()()である。

 

(やっとドミグラの魂が見えた。いや、周りのもの全てが教えてくれた)

 

ドミグラの魂以外の全てを認識することによって、必然的にドミグラの魂を知覚できた。やはりドミグラは自身の魂を限界まで小さくして体内の一番深い場所へ隠していた。だからシロナの攻撃はその魂まで届くことはなかった。

今、シロナは自らの魂すらも知覚している。本来なら肉体の形状に引っ張られてしまう魂すらも、それに関係なく変幻自在。それは正しく()()。宇宙の根幹を成す神にすら匹敵する異能。

 

「お、おのれ…俺の7500万年が…!…しかし、クックック…見事というしかあるまい。口惜しいがな…」

 

ドミグラは大穴の開いた自らの胸を眺め、血反吐を吐く。最強となった肉体に埋め込んで隠していた魂は今の一撃によって既に破壊されている。

魂を撃ち抜かれただけではない。今の一撃が当たる瞬間のみ、シロナの魔力がさらに上昇した。本当に刹那の間だけだったが、ドミグラは見逃さなかった。そしてそれが、恐らくシロナですらまだ理解できていない力の一部であるだろうと思った。

 

「ハーツ、恨むぞ…」

 

そう思ったところでもう意味はない。

次の瞬間、ドミグラの肉体は派手に爆発四散し、跡形も無く消滅したのだった。

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