「殺ォす!!殺してやるぞ!!」
怒りに吠えるカンバーは、悪の気を練り上げて作った巨大な手でベジータを掴み上げ、自身の両手に強烈な気を迸らせる。
ようやく現れたヤモシ以来となる己の最大の敵を前にいよいよ決着がつくという瞬間、ベジータの横槍によってカンバーはブロリーを殺してしまった。カンバーは己の力で掴めなかった勝利などに興味はない。
「…!?カハッ…!!」
いよいよベジータを殺す一撃を繰り出そうとしていたカンバーであったが、突然ベジータは何もしていないというのにその場で白目を剥き、ガクリと気を失ったのだ。その様子を目撃したカンバーはハッと我に返り、頬に汗の筋を流す。
「そんなはずはない…」
あり得ない。いくらサイヤ人といえど、あれほどの傷を受けては生きられまい。
だがそんなカンバーの考えを裏切るかのように、背後に気配を感じる。何秒もかけてゆっくりと振り返り、彼の双眼が捉えたものは…
「蒼か」
思わずそう呟いてしまうほどに眩しく、そして圧倒的な存在感を放つ蒼い炎。
「そうか…フ、クハ…フハハハハハ!!…感謝する。さっきはこのバカが悪かったな、オレもあんな形の決着にはしたくなかった」
カンバーは既にベジータには興味がないらしく、気絶した彼を適当に投げ捨てるとブロリーに向き直る。
「気にするな」
ブロリーは静かにそう返答をすると、グッと伸びをし、ゆっくりと構えた。
【超サイヤ人ゴッド超サイヤ人】
超サイヤ人ゴッドは厳密にいえば超サイヤ人の系譜ではない。便宜上、その変化を超サイヤ人のようであると呼称しているだけに過ぎず、その本質はただ単に神の気を纏っただけのサイヤ人である。
その神の気を纏ったサイヤ人が超サイヤ人に至ることで解放されるのが、この形態、通称「超サイヤ人ブルー」だ。
濃く立ち昇る水色のオーラ、目と髪も青色に染まり、超サイヤ人と同じく天を衝くように逆立っている。まさに神々しいその姿は力強さを感じさせながらも荒々しさは一切無く、どこまでも晴天のような穏やかさを湛えている。
赤黒い悪の気、そして黄金の闘気を同時に纏うカンバーとは対照的だった。相容れぬ両者だったが、この場においては思想が一致していた。
──今度こそ、決着を付けようぜ
スーパーカンバー!!
勢いよく飛び出したカンバーの拳がブロリーの顔面へ突き刺さる。しかし、それよりも先にブロリーの蹴りがカンバーの鳩尾にめり込んでおり、その拳はあと数ミリのところで届いていなかった。
ブロリーブルー!!
だが、その直後に突然目を見開いて顔を歪ませる。カンバーの操る悪の気で作った腕がブロリーの背中を殴りつけていた。彼らは互いに不敵な笑みを浮かべ、同時に一瞬でその場から消えた。
空中で高速で捩じれるように飛び交い、そのすれ違いざまに互いのエネルギー弾を連射する。その間をすり抜けるように両者飛行し続け、痺れを切らしたカンバーが一斉にいくつもの気功波を発射した。
GO!カンバーGO! GO!カンバーGO! GO!カンバーGO!
ブロリーはそれに気付くとその場で静止し、その軌道を全て一目で見極めると体は動かさぬまま首を傾けるだけで全て躱す。だが気功波の陰に隠れて接近していたカンバーの拳を顔面へ喰らい、大きく吹っ飛ぶ。
ブロリー! ブロリー! ブロリー!
しかし、吹っ飛びながら態勢を整えてすぐさま高速で戻っていき、カンバーへ反撃の飛び蹴りを叩き込む。
「…むぐオオオオオオ!!」
それを受けつつも気合の咆哮を上げ、悪の気の腕を振るって猛攻撃を仕掛けるカンバー。ブロリーは自らの拳と蹴りでそれらをすべて打ち払い、再度カンバーへ接近する。が、カンバーに足を掴まれ、振り回されながらぶん投げられる。音速を超え、赤熱するほどの勢いでぶっ飛んでいき遠くにあった岩山を崩しながらさらに飛ばされ、ついには大気圏を超えて宇宙空間にまで到達する。
「ぐばああああアアッ!!」
それに追いついたカンバーが殴りかかるも、ブロリーは冷静にそれを掴んで受け止め、背負い投げの要領で下方へぶっ飛ばす。
ブロリー! ブロリー! ブロリー!
ブロリーは追い打ちの如く右手に作った青色のエネルギー弾を投げ、カンバーへ命中させる。生じたすさまじい爆発に巻き込まれるカンバーだが、上半身の衣服が破れ傷を負った状態だろうと闘志はますまず健在、ブロリーに悪の気を交えた四本の腕で肉弾戦を仕掛ける。
GO!カンバーGO! GO!カンバーGO! GO!カンバーGO!
腕で一撃を受け止めたブロリーは気合と共に放った闘気でカンバーの動きを一瞬だけ固定し、腹へ肘打ちを、怯んだ隙にさらに回し蹴りを命中させた。続けて顔面へパンチ、脳天へ踵落としと強烈な猛撃を与え、流石のカンバーもこれには堪えたようでぐったりとしながら吹っ飛んでいく。
Oh yeah oh,Oh yeah oh,Oh yeah oh yeao oh yeah!
危うく意識を手放しかけたカンバーだが間一髪目を覚まし、上体を起こしてこちらに接近しているブロリーを見据えると、両手から悪の気を放射し前方を広く薙ぎ払った。
「ハァ…!」
僅かに息を切らすカンバー。しかし、自らの展開した赤黒い悪の気の向こう側に青色が見えた時、再度その顔には好戦的な笑みが浮かぶ。
カンバーは既に限界が近い。サイヤ人は並みならぬタフネスを有するが、その極致ともいえるカンバーでさえ疲弊してしまうほど、超サイヤ人ブルーとなったブロリーは強敵だった。
しかしその闘争本能は格上の敵を前にしても衰えることを知らず、ますます燃え上がって喰らい付いてくる。だがそれはブロリーにとっても同じだった。相手が格上か下かなど関係ない。今目の前にいる最強の好敵手に対し、全身全霊で全てをぶつける!!
アルティメットパワー!!
「カンバー、出し切ろうぜ」
「無論だ」
ブロリーは己の気を凝縮した濃紺色のエネルギーを握り締め、まるで周囲の宇宙空間がそれに釣られて歪み取り込まれているかのような様相を呈する。
対するカンバーは四本の腕それぞれに赤黒い悪の気を込めた気弾を作り出し、それを体の前で合体させて巨大なエネルギー球を作り出す。
両者は清々しい笑みを湛えたまま、最高の一撃を繰り出した。
すごいパワー!!
ドッ…
カンバーは得も言えぬ幸福感に包まれていた。一切の邪魔もなく、一切の妥協をも排除した己の全てを懸けた戦いの中に身を置いているという感覚。
生きていた頃に積み上げてきた戦闘の感覚、地獄でイメージし続けてきた強者とのやり取り。そしてこの激闘の最中に編み出した場当たりの技の応酬。それら全部を出し切ったのにも関わらず、尚も己に立ち向かってくる最強の相手。
「そうか、これが…お前が最期に見た世界か」
邪魔が入った所為で敗北し死んだにも拘わらず、その最期には笑みさえ浮かべていたヤモシ。それ以来カンバーはずっと考え続けていた…ヤモシのような「満足のゆく死」とは一体何なのだ、何故死ぬ時に満足そうにするのだ。
今、理解した。
「ヤモシ…」
「カンバー。長年の疑問に、答えが出たようだな」
何もない荒野に、ふたりは佇んでいた。真っ黒な空には無数の銀河や瞬く星々が浮かんでおり、ここはサイヤ人の始祖が棲み、サイヤ人がたどり着く“永遠の地”に違いない。
「お前が何よりも戦うことを優先するように、きっと人それぞれに何に替えても優先したい大切なことがあるのだ。私にもある…私は自分の生き死によりも、サイヤ人の未来の方が大事だった。私はお前に敗けこそしたが、その時に悟ったのだ…きっと私がここで死んだからこそ未来は大きく変わるのだと。だから私はあの時笑ったのだ」
「…そうか。オレがお前を殺した事に意味はあったのか」
「それは分からない。だが言えることは、お前が私に勝ったからこそ、現代に彼らのような素晴らしい精神を持ったサイヤ人が存在しているということだ」
カンバーは険しい顔のまま下を向きその言葉を聞いていた。
「なぁカンバーよ、我々サイヤ人は、どこからやって来てどこへ向かってゆくと思う?」
「…知らん」
「ここで私と見届けようじゃないか。脈々と継がれてきたこの闘争の波はどこにたどり着くのか。我々の存在意義とは何なのか」
天の窓から彼らの事を見続けるんだ。彼らの運命を決めるのは神でも悪魔でもない…彼ら自身なのだから…
全てが過ぎ去った後、静けさに包まれた宇宙空間で、僅かな光と炎の筋の他にブロリーだけがその場に佇んでいた。生き返らず、死んでいる状態で現世にやって来ていたカンバーはもう一度死んだ場合、その存在は完全に消滅してしまう。
青い闘気は未だ健在で、ブロリーは先ほどまでカンバーがいた場所を見下ろしながら、その表情にはどこか何とも言えない悲哀が込められていた。
──悪の超サイヤ人カンバーvs伝説の超サイヤ人ブロリー
勝者 ブロリー
カンバーvsブロリー決着。サイヤの日、いかがでしたでしょうか。
次回からサザンカのパートを畳んでいきます。