「…クソっ」
カカロットは頭を押さえながら起き上がった。ここはあの世とこの世の狭間、五行山。
ジャネンバの攻撃に籠った邪念に中てられて昏睡していたカカロットだが、何故かジャネンバの力が弱まった影響で目を覚ましたようだ。
「あ、起きた」
それに気付いたアンニン、ヘカーティア、そして豫母都日狭美がスパゲティを食べながら振り返った。
「今どうなってる?」
カカロットは受けたダメージに関してはほとんど回復しておらず、足元をフラつかせながら彼女らが囲んでいる机に近寄ると、ヘカーティアが食べていたスパゲティの皿をぶんどり、ずるずると一気に食べ始める。
「あ、私の納豆スパ…」
「どうやら地上から来た子らが戦ってるようだね。確か…」
「わかった」
カカロットはアンニンの言葉を遮るようにそう言うと、最後の麵をちゅるんと飲み込んだ。
「まさかそんな状態で行くつもりかい?」
「俺が心配なのは地球と繋がってるあの大穴だ…今まで永久的なもんだと思って呑気してた死人どもが、ジャネンバが消えるとなったら焦って一斉に現世へ向けて大挙してくるかもしれねぇからな」
「私の納豆スパゲティ…」
ドゴォ!!
サザンカの放った渾身の拳がベビーに炸裂する。いくら液状化していたとはいえ、真正面から的確に現在の形状の芯を捉えてきた打撃を喰らい、その体を弾けさせていた。
「グアアアアァァアア!!おのれえぇええ!!」
ベビーは半壊した体で叫び、崩れかけた腕を伸ばす。元よりネオマシンミュータントとして流体金属化も可能であるベビーも、シロナのように体の欠片を集めて復活したり破片だけになっても活動が可能である。しかし、サザンカの拳に込められていた彼女の気によって内部からダメージを受け、上手く再生や流動化ができなくなっていた。
「ハァ、ハァ…サザンカ!!」
全気力をサザンカの治療とマスタースパークで撃ち尽くして疲弊したシロナはサザンカに呼びかける。
「分かってるっつーの。んじゃいよいよ覚悟しやがれ…ベビー野郎」
サザンカは、何とか元の形になろうとするも不完全な状態のまま上手く立ち上がれずもがいているベビーににじり寄り、最後のトドメを刺そうとする。ベビーは歯を噛み締めながら後ろへ下がる。
(クソ、クソ…!このオレがこんなところで…!ツフルの王としてこの宇宙を支配するはずだったベビー様が…!)
何か手はないかと周囲を見渡しながら思考を巡らせるベビー。
すると、発見した。身体機能が鈍ったが故に回収しきれなかった己の肉体の破片。それがシロナの背後で蠢いていた。
(これしかない!)
たった今、ちょうど破片を動かせるまでに力が自然回復した。その破片をゆっくりと操作し、ひたひたと忍ぶように慎重に近付けていく。
「オレは…我がツフル星を乗っ取った貴様らサイヤ人を許さん…!死んでも呪ってやるぞ!」
「そうかよ」
サザンカはいよいよ気を込めた手を振り上げ、迸る電流のような闘気をぶつけようと構えた。
(今だ!)
ベビーはシロナの背後から膨張させた自身の体の破片を差し向けた。サザンカの一撃が再びさく裂し、ベビーに直撃すると、今度こそその肉体を焼き焦がすように消滅させた。
「ぎゃああ!?」
だが、ベビーの残した破片は生きている。それはいつの間にかシロナの上半身を覆い尽くすように纏わりつき、徐々にその体に侵入していた。それに気付いたサザンカは振り返ったまま絶句している。
そしてベビーの破片全てがシロナの体内に入り終え、ゆっくりと目を開けた。その目つきはこれまでとは違う残虐で凶暴性を秘めたものへと変わり、一目でシロナではない何者かに入れ替わってしまったのだとわかる。
「とうとう手に入れたぞ…宇宙最強の肉体を!!」
ベビーはそう叫び、両手を真上へかざす。
「すべてはオレの思うがまま…頂点に立つ者はこのベビー様だ!そんなわけないでしょ」
しかし、しゃべり始めたベビーの声を遮るようにシロナの声が発せられる。ベビーはシロナの顔で驚いた表情を浮かべ、その直後に顔つきが元のシロナに戻る。
「なんだ…どういうことだ!オレの支配は既に脳にまで達しているはず…なぜコントロールができない!?それに、これは…オレがコイツの体から締め出されて一カ所に囚われている!?」
シロナの右頬がぷっくりと膨らみ、そこにベビーの顔が出現する。が、その顔は苦しむように汗をかき、苦悶していた。再び肉体の主導権を失ったベビーは何が何だかわからないままシロナの口内まで追いやられている。
「あははは、私そういうの効かない体質なんだよね~」
その言葉に偽りはない。シロナには洗脳や支配、その他精神攻撃の類は
シロナはジャネンバベビーを一目見てその本質を見抜いた時点で作戦を立てていた。
「それに、出られん…抜け出せない…!!」
さらに、ベビーはシロナへの寄生に失敗した挙句その体から脱出できなかった。シロナの体は完全にベビーを閉じ込める檻と化しており、シロナの頬から動くことも出ることも許されなかった。
「姉貴はアタシを吸収したように見せかけて体ン中に隠してそっこり話したんだよ」
『あの中身を誘い出して私の中に閉じ込める。でもそうするにはかなり弱らせておきたいの…だからサザンカ、手伝ってくれる?』
「私の体の方が有用だってことをアピールして寄生先を私へ誘導、本体が飛び出たところをサザンカに奇襲してもらって弱らせ、私の中へわざと入らせて捕まえる…」
それを聞いたベビーは悔し気に顔を歪ませる。
「すべて計算通りってわけ。おとなしく観念しなさい」
「…観念?クククッ、観念だと?何をどう観念するというのだ、貴様ら野蛮なサイヤ人こそ己たちの罪を自覚しろ」
「いや、私はそんなこと知らないし。だから決めたのよ、全ての禍根を断絶するには、破壊し尽くすしかないってね」
シロナはそう言いながら口の中からベビーを吐き出す。銀色の球体状に折りたたまれたベビーはすぐさま逃げ出そうと試みるが、見る見るうちにさらに圧縮されていく。
「ぐ、ぐえ…!!」
ベビーを挟み込むように両手をかざし、触れることなく魔力と気でベビーの球体を小さく小さくする。
「ナメるなよサイヤ人…いつかオレの…ォオオオ…!!」
やがてベビーの断末魔の叫びも聞き取れないほど小さくなり、銀色は黒く焦げ、消えて無くなった。
「へへっ、ざまーみやがれ…はは…」
「うん、やったねサザンカ…あへぇ」
遂にベビーを倒すことができたふたりであったが、とっくに訪れていた限界にようやく気付き、その場にドッと座り込んだ。サザンカももはや悪の気を纏うことすら出来ず、シロナもファントムシロナから通常の状態へ戻ってしまった。
ふたりとももう起き上がる気力すら残っていない。だが…
ドドドドドド…
「おいおい…」
「え~マジ~?」
どこからともなく湧いてきた地獄中に潜んでいた大量の亡者たちが一斉に彼女らの横を通過していった。
「ゴホッゴホッ、今の何だったんだ…?」
「もしかして…アレが関係してるのかも」
シロナは向こうの方で仰向けに倒れ込んだまま動かないジャネンバを見つけ、指差した。
「地獄の大穴はアイツの所為で空いてたから…アイツが力を吸い取られてヤバい状況になった今、亡者たちが追い込みで現世に戻ろうとしてるのかも…」
「じゃあヤバいじゃねぇかよ、地球が」
シロナは黙ってそれを肯定する。そして数秒何かを考え、閃く。
「流石に今の私たちじゃ戦えそうにないけど、アレやったらどうかな?」
「アレって?…おい、まさか」
「決まってるじゃない?合体よ!」
「あれ?」
霊夢はジャネンバベビーの放った斬撃によってかなり離れた場所まで飛ばされた挙句、刃が檻のようになって閉じ込められていたが、やっとの思いでそれを解除し戦場へと戻ってきた。
だがそこにはサザンカの姿は無く、仰向けのジャネンバしかいなかった。
「ベビーはもう消えたか。でもやっぱり残ってるわよね…」
「ギギ…ギガアアア…!」
ジャネンバはゆっくりと起き上がり、血走った眼を見開きながら霊夢へ威嚇をした。力のほとんどをベビーに吸い取られてしまったが、まだ目の前の敵と戦う闘志は残っている。対する霊夢も霊力の大半を消耗していた状態ではあったが、邪念に囚われた日白残無を救うために最後の戦いへ臨む。
「来なさい。私がアンタを浄化してやるわ」
「ギギャギャギャ!!」
霊夢はおぼろげながらもジャネンバを倒す方法を思いついていた。それは…
一方その頃、カカロットは地球へと通じている地獄の大穴付近にて、地響きと共にこちらへ接近してくる亡者たちの一団を迎え撃とうとしていた。自身も満足に戦えるほど回復したわけではないが、それでも亡者をこれ以上地球へと送るわけにはいかない。カカロットは大穴の向こうに広がる地球の街並みを横目で見た。
「まーた大勢で来やがってよ…」
思い出すのは、月の客との決戦の事。あの時も無数の軍勢を相手に戦ったが、あの時は霊夢やウスターという信頼できる仲間もいた。だが今回はカカロットひとりのみ。
「しゃあねぇ、出来るところまでやってやるよ」
カカロットはなけなしの気をかき集めて超サイヤ人へと変身すると、津波のように押し寄せる亡者たちとぶつかり合う。
「無茶よ、カカロット!」
その様子を五行山から遠隔で見ていたヘカーティアやアンニン、日狭美ら。
「あまりに敵の数が多すぎる…!いずれは潰されてしまうわ…」
カカロットの繰り出す拳が亡者を纏めて薙ぎ払う。だが倒れていった亡者を踏み越えてまた亡者が押し寄せる。気弾を撃って爆発させるも、一瞬でそれをかき消すほどの軍隊が迫ってくる。
「くそ…ッ」
確かに始めは亡者を寄せ付けなかったカカロットだが、やはり全てを払いきることはできず、漏れた亡者がぞくぞくと近づいてくる。
「ぐあ…!」
背後からしがみつかれ、殴りながら振り払うも、また亡者は肩に噛みついたり足を掴んだりして動きを止めようとしてくる。
「テメェらなんざにやられてたまるかよ!」
もう超サイヤ人化も解けかかり、髪の毛も度々黒色に戻り点滅している。しかし、カカロットはプライドを杖にして震える体を叩き起こした。
「負けるかアアァァ!!」
フ…
ふと、そこで違和感に気付く。
(なんだ…?何か、変わったな…)
目の前に迫る亡者を殴り倒しながら思考する。
(敵が、俺の前に集まってきてる…?いや違う…後ろから攻撃が来なくなったんだ)
今まで全方位から迫ってきていた亡者たちが、何故か自分の背後から攻撃を仕掛けてこなくなっている。一体何故、と少し戸惑うカカロットだが、その耳は異音を捉える。
ドゴ…バキ…
(亡者どもを殴ってる音か…!ということは、誰かが俺の後ろを守ってやがるのか!?)
そう思い確認しようにも、前方の敵に手一杯で振り向けない。気を探ろうにも集中力を他へ向ける暇もない。誰かがいることは確実だ、その誰かによって自分は前方の敵のみを潰していけばよい状況を用意されている。
(一体誰が、俺の背後で戦ってやがる!?)
サザロナ。
いや、正確にはサザンカとシロナ。
フュージョンを行い合体したふたりは多勢に無勢なカカロットの元へと駆け付け、彼を…父親を守るため拳を振るっている。
(やっと会えた!)
父ちゃん
父ちゃん
お父さん
親父
父ちゃん
父ちゃん
今度は父ちゃん
(今度はアタシの番だからね!!)
サザロナは潤んだ瞳を輝かせながら笑みを浮かべ、ひたすらに亡者を蹴散らし続ける。シロナにとっては16年前死に別れた実の父、サザンカにとってはどんなに会いたいと願っても叶わないと思っていた父親がすぐ後ろにいる。
サザロナ自身も前の敵で精いっぱいで父親がどんな顔をしているのか、どんな戦い方をしているのか見る事さえできない。
(女か…?でも、なんだかな…後ろにいるヤツ、頼もしいぜ!)
全力とは程遠くとも、絶好調。ふたりは順調に亡者たちを殲滅し、ついに最後の一体を撃破した。
「コイツで最後か…。よう、助かったぜ…」
そう言いながら振り返ったカカロット。サザロナもまたその場に立ち尽くし、ようやく会う事が出来た父親の顔を見つめ返す。
「…くくくっ、そういう事かよ。おい、デカくなりやがったなぁ、お前ら!」
「うん!」