「これより月夜見王が謁見を賜ります。豊姫様たちが手引きした地上人について、尋ね給うそうです」
豊姫とサグメは両腕を拘束され、兵士に連れられていた。目の前には巨大な扉が有り、その扉の向こうに月夜見王がいるのだ。サグメは念のため、口を縄でしばられている。”口に出すと事態を逆転させる能力”を防ぐためである。
「稀神サグメ様、いくら賢者のお一人であるあなたも、厳罰は免れないでしょうがな」
「…」
サグメは黙って頷いた。
一方、カカロット、霊夢、ウスターら三人は豊姫が首から下げているペンダントの中に入り込んでいた。
「いてて、おい押すなって…!」
「黙れ、俺とて好きでこんな格好をしてるのでは…」
「なるほど、一種の封印術ね」
このペンダントの中からは、外が容易に見えるようだ。
そして、目の前の大きな扉が開き、中へと案内される。中は中華風の内装の広間で、部屋の奥は階段になっており、数名がその階段の真ん中で立っているのが見える。
「アイツは…!」
階段には、少なくとも三人の姿が確認できた。その中に、あの蛇斑と明嵐の姿があった。後の一人は、赤い鎧を着た目の細い大男だった。モヒカンのような髪をオールバックで後ろへ流しており、ものすごい威圧感を称えている。
「アイツが月夜見王か?」
「いや、違うわ…王様はたぶん、奥の…」
カカロットの言葉に、霊夢がそう答える。
霊夢が指を刺した方を見ると、確かにより王様らしい男がいた。かなり大柄な体格だが、もたれるように玉座に座り込み、しわくちゃな顔には白く長いあごひげを蓄えていて、髪は後ろ髪を残して全て禿げあがってしまっている。そのどこか虚ろにも見える目は、じっと見下すようにサグメや豊姫に向けられている。
「何だ、今にも死にそうなジジイじゃないか」
「見ろ、あれはドラゴンボールではないか?」
「お、本当だ」
月夜見王の玉座に立てかけてある杖。よく見ると、杖の持ち手の部分がまるで竜の手のような形状になっており、握るようにして隠岐奈の五つ星のドラゴンボールがはめ込まれていた。
「月夜見王、先ほどの地上人侵入の犯人を連行しました。綿月豊姫と、稀神サグメです。地上人は逃亡、ただ今捜索中でございます」
「うむ…ご苦労」
やはり、あの老人が月夜見王だった。そう言いながらよろよろと立ち上がると、杖を突きながらふらふら歩き始める。明嵐と蛇斑、そして赤い鎧の大男はそこを退き、さっと跪いた。
「綿月の姉の方と、サグメであるな。何故地上人は我が月の都へ参ったのだ…?そして、何故お前たちは奴らと接触した?」
豊姫は口を開く。
「月夜見王よ…彼らは、槐安通路を通って幻想郷からやってきました。何でも、仲間がそこにいる覇乙女蛇斑に殺害され、その理由を知るべく参ったと言っておりました」
それを聞いた月夜見王は、横に控えていた蛇斑に顔を向ける。
「蛇斑よ、それは真実か?」
「は…真実でございます。私がドラゴンボールを手に入れた際、抵抗した者がおりましたのでやむを得ず殺害いたしました」
「ふむ…そうであったか。わしはどんな手を使ってでもドラゴンボールを入手しろと命令した。よって、このたびの地上人殺害に関しては何も問題は無い」
「アイツ、勝手なことを…!」
カカロットは殺された美鈴の顔を思い出し、拳を固めた。
「そういうことだ、豊姫よ。して、二つ目の問いに答えてもらおう。何故お前たちは奴らと接触した?」
「…それは、八意様らに『絶対に帰ってくるな』との言伝を頼むためで御座います。昔、王と我々は蓬莱の薬を服用した輝夜を地上へ追放し、刑期を終えた輝夜を迎えに軍勢と共に地上へ行きました。しかし八意様は兵に反逆し地上へ残り、彼女もまた蓬莱の薬を服用したと言います。そうして1000年分の満月のエネルギーを溜めこんだ二人を今になって連れ戻し、あの『ツキノカク』に吸収させるおつもりですね?」
「許せ…我が月の都を救うには、それしかなかったのだ」
「ですが、惨い事です。あのふたりは今や不死身…ツキノカクに取り込まれてしまえば、永遠にその中で漂い生き続けるでしょう。それに、ツキノカクに蓬莱人を取り込ませれば、月そのものが17億ゼノを越えるブルーツ波を含む月光を放つといいます。それでは我が都は救われても、地上の世界は滅んでしまうでしょう」
「構うものか。わしらは遥か昔に地上は捨てた…今さら何の未練もないわい。…そうだ、それに関してだがな、今から四日後に地上から月へと続く槐安通路が完全に閉じてしまうことは知っておるか?」
「いえ、存じませんでしたが…」
「どうせ地上が滅ぶのなら、もうつなげておく必要はないだろうと思ってな、閉じてしまうことにしたのだ。それでな、考えたのだ…どうせならば、あのふたりを連れ帰りに地上に参るついでに、何かと我々に鬱陶しく絡み、穢れを蔓延させてきた幻想郷とかいう地を、綺麗さっぱり浄化してしまおうではないか!」
「それはどういう…!」
「幻想郷を綺麗さっぱり浄化だと?何を言ってやがる…」
「ま、まさか、アイツら!」
ペンダントの中で霊夢たちが口々にそう呟く。
「四日後は、ちょうど大満月の日だったな。その夜に地上とこちらを結んでいた槐安通路は目いっぱい開き、夜明けとともに永遠に閉じる運びとなった。我々は月の客として地上を訪問しふたりを連れ帰ると同時に、幻想郷を焼き払って滅す。ほっほっほ…通路は閉じ、ここで厄介な能力を持つ豊姫…お前を捕らえれば二度と地上との接触は無くなるという訳だ。つまり…これこそが文化水準の低い地上人がやっとで考え付いたことわざ、『立つ鳥跡を濁さず』の精神ではないか」
月夜見王が笑うのに応じて、控えていた親衛隊の三人も一緒に笑いだす。
「お前の妹も既に死んだようだぞ。ま…最もお前たち月の使者側の者どもはひとり残さず抹殺するつもりだった…その手間が省けたようだな」
「では…王は最初から私たち姉妹を始末するつもりだったのですね…」
「ふははは、当然だ!お前の妹はずいぶんとしぶとかったのでな、存分に痛めつけて惨たらしい最期としてやったわ!あの無様な姿を今からでもお前に見せてやりたいくらいだよ、綿月豊姫!!」
蛇斑が邪悪な笑みを浮かべながら豊姫に対してそう言った。豊姫はじっと下を向き、サグメはその様子を横目見ている。
月夜見が玉座に腰を掛けようと杖を椅子に立てかけ、こちらに背を向けた瞬間、豊姫は立ち上がった。怒りに眉をひそめ、一気に手かせを破壊する。
「月夜見王よ、お覚悟を!!」
豊姫の被っていた帽子が着物の帯のように伸び、先端を尖らせる。それを振りかざし、豊姫は月夜見王に飛びかかった。
振り返る月夜見だが、その表情は少しも変わらない。
ザク
月夜見王に豊姫の刃が当たる寸前、咄嗟に接近した月夜見王親衛隊の三人が、手から剣のように発生させた気の刃で豊姫の体を貫いていた。
力を失った豊姫はずるりと倒れ込み、何も言わずにゆっくりと顔だけを上げた。
「無数の串刺しか、妹と同じ最期となったな」
蛇斑は足を振り上げ、何か言おうとした豊姫の頭をグリグリと踏みつける。地面に血がしみ出し、豊姫の手の力が抜ける。
「その辺にしておいて、姉さん」
明嵐がそう言うと、しばらくして蛇斑は足を退ける。
「…死んだか。依姫の死体と共にしばらく晒しておくか?」
「月夜見共ォ、全部聞いたぞ!!ぶっ殺してやらァ~!!」
次の瞬間だった。千切れて床に落ちたペンダントの中から、カカロットたちが一斉に飛び出す。その現象には流石の親衛隊と月夜見王も反応することができずに、行動が一瞬遅れてしまう。
三人は宙へ飛び上がると同時に気を込め、かつてのガーリック戦で見せたような合体させた強力なエネルギー波を放った。
「…ぬう…ッ!」
しかし、月夜見は間一髪、体をひねることによってその攻撃をかわした。外れたエネルギー波は後ろの壁に当たり、爆発を起こした。
「チイッ、外したか!」
「もう一度だ!!」
ウスターがそう叫ぶと、三人は再び狙いを絞って気を集中させる。そして、腰を抜かしている月夜見目がけてもう一度エネルギー波を放つ。
「そうはさせるか!!」
その時、月夜見と三人の間に巨大な壁のような物が立ちふさがった。…いや、それは壁ではない。赤い鎧を着た、親衛隊の大男だ。
大男は両腕を胸の前でクロスさせて構え、飛んでくるエネルギー波を迎え撃つ。
「ドラァ!!」
一発の掛け声とともにその身でエネルギー波を受ける。そして、見事それをはじき返した。
「己の名は不動紡馬!唯一の勝機を逃したお前たちには、即刻死をくれてやるわ!!」
恐ろしい威圧感でそう宣言する大男。三人は思わず身をすくませてしまう。
不動紡馬は、猛烈な気を放ちながら三人に襲い掛かった。
その時、ただ見ていただけだったサグメが立ち上がり、手枷を破壊する。そして口を縛っている縄を強引に千切り、衝撃波を放って紡馬に命中させた。
「稀神サグメ…!」
攻撃を肩に受けた紡馬は驚いた様子で呟く。
「地上から来た三人よ、たった数言しか言葉を交わしていないのに言うのはおかしいかもしれんが…『さらばだ』」
サグメはそう言うと、全身からレーザーのような気の光線を撃ち放った。光線はそれぞれが別に動き、この部屋の壁を崩すように破壊していく。
頭上から瓦礫が降り注ぎ、親衛隊は慌てて月夜見の周囲を取り囲う。
「サグメ!私たちの邪魔をするか!?」
蛇斑が怒りの声を上げる。
「お前たちになど未来はないわ。私は滅んでいく月の都で暮らすなどまっぴらなので…ここでお暇させてもらおうか」
「今のうちだ、ドラゴンボールを…!」
カカロットは素早く瓦礫の間を潜り抜け、月夜見が取り落とした杖にはまっているドラゴンボールを外して奪い返した。
「お前、わしのボールを…!」
「くっ、おのれぇ!」
蛇斑は表情を怒りにゆがめ、手から光線を放つ。その光線はサグメの喉元を綺麗に貫いた。
…が、サグメは部屋どころかこの建物そのものを破壊するかのような攻撃を止めはしなかった。
「ドイツもコイツも…!」
「サグメ!」
霊夢がサグメだけでも助け出そうと手を差し伸べる。が、サグメはそれを見ると、顔を逸らす。
「さらばだ、と言ったろう。では、八意様達への言伝、頼んだぞ」