夜空に巨大な惑星が出現する少し前の事…
「ぐ…っ!?」
自室で眠っていたブロリーは、突然頭痛に襲われて目を覚ました。嫌な汗が流れ、我慢できずにベッドから飛び起きて頭を抱える。
「…ッ…!」
だが、隣の部屋で寝ているブルマに負担をかけるわけにはいかないと思い、物音を立てることも声を上げることもなく、静かに苦しむ。
自分に何らかの異変が訪れていると確信しまずいと思ったブロリーはそっと窓を開け、こっそりと外へ出るとなるべく遠く離れた場所へと飛んでゆく。文字通り、頭の中で何かが蠢いているかのような気色の悪い不快感を何とかしようと、静かな夜空を飛行しながら自分の頭を何度も殴るが、それも意味はなく、やがてブロリーはその場で静止し、強張った腕をゆっくりと下ろした。
「…ベビー様の御意思の通りに」
(そうだ、オレは一度寄生した生物には必ず卵を産み付ける。やがてそれが孵り脳にまで達した時…ソイツはオレに忠実な新生ツフル人として生まれ変わるのだ)
ブロリーの脳内で、かつて倒されたはずのベビーの声が木霊する。惑星M2でベビーはブロリーの体を寄生し乗っ取ることに失敗していたが、その時に卵だけは残していた。ベビー本体が死んでも卵は消えない。卵は主が死んでからしばらく経過したこのタイミングで孵り、こうしてブロリーの自我は変えられてしまった。
ブロリーはベビーが生前に行おうとしていた野望を実行する。地球のドラゴンボールを使い、昔にフリーザによって消し去られたサイヤ人の星・惑星ベジータ…いや、元はプラントと呼ばれていた惑星を蘇らせ、ツフル星として己の野望の始発点とすることだ。
ベビーは半年前地球に訪れた際、いくらかの人間へ寄生し同様に卵を産んでいた。それも時を同じくして孵化している頃だろう。
こうして地球の夜空には未知の巨大惑星が浮かび上がるに至ったのだ。
こうなることを見越して、ベビーは生きている間にブロリーの卵を孵化させなかったわけだが、知る由もない誤算があった。
そう、破壊神ビルスの存在である。
「界王神も甘かったね。でもボクが来たからには…全てを破壊して終わらせちゃおうか」
紫肌の猫の頭をした獣人といった風な姿で、古代の神のような袴を穿き、首には飾りを巻き、細長い尻尾が腰の後ろで揺れている。細く鋭い黄色い目がブロリーを見据えていた。
「なんだお前は…邪魔をするなら、消えろ」
ブロリーは負けじとビルスを睨み返し、右手に小さなエネルギー弾を生成する。そして、それを投げ飛ばそうと構えるが、腕を振り上げたところで目の前にビルスが突如現れ、動きを止めた。両者の間にはかなりの距離があったはずなのに、全くブロリーが認識できないうちにビルスはすぐ目の前ギリギリにまで接近していた。
「破壊」
そして、反応が追い付かないブロリーの額に爪の先をコツンと当て、何らかの小さな衝撃を流し込む。すると、ブロリーは白目を剥きながら後ろへ仰け反り、口から煙を吐き出した。
「ゴホッ、あ…!?」
むせると同時に目を覚ましたブロリーは、目の前に佇むビルスの姿を見て驚いた。どうやら表情や目つきからして正気に戻れたようだ。
「気が付いたかい?」
「お前は…」
「ボクは破壊神ビルス。初めましてだね、サイヤ人」
ビルスは猫のように手の甲で顔をこすりながらそう言った。
「今、君の中に巣食っていたツフル人は消滅させた。感謝すると良い」
「あ、ありがとうございます…?」
いまいち状況が飲み込めないブロリーはぎこちなく返事をする。
「さて、それじゃあテストを始めようかな。君、ボクに本気でかかって来なさい。この地球とかいう星の命運は君にかけられた」
「は…?」
「何ですって…!?」
ビルスとブロリーの会話を離れた場所から聞いていたピッコロは思わず声を漏らして動揺する。破壊神ビルスのその言葉の意味を理解したからだ。
つまり、この星は…
「現在、地球を破壊すべきか否か、それを決断すべき瞬間に立たされています」
ピッコロの背後から誰かがゆっくりと歩み寄り、彼の横に立ってビルスたちを見上げた。
「貴方は…まさか…!!」
「天使のウイス、と申します。以後お見知りおきを…」
白い髪を真上へ一直線に逆立てた、不思議な雰囲気をしたその男性はピッコロにそう名乗った。赤と黒のローブを身に纏い、その首周りには青白い光の輪が浮かんでいる。
その姿を見たピッコロは何か言おうとするもすぐに下を向き、歯を噛み締めた。
「そうですか…この地球が、まさか破壊される対象として見られる時が来たとは…」
「いいえ、まだ分かりませんよ。破壊するか決定するのはビルス様です。あの方には、何か考えがあるようですよ」
「この星を破壊…?どういうことだ、何の権限があって…」
「破壊神の権限だ」
ビルスは今までとは違う低い声色でピシャリとブロリーに言い放った。
「ボクは破壊神だ…この宇宙のバランスを整えるために破壊を行う役目を負った者。この星の人間の行動と影響力は目に余る…ドラゴンボールとやらを使って勝手に惑星を造ったな?それはボクらとしちゃ困るわけだ…わかるな?」
「ああ…」
「だが君はさっきまで自己責任能力が無かったという事は知っている。だからボクは眠い頭で考えた…君がボクと戦って、ボクが満足することができれば地球を破壊しないでおいてあげよう」
「何だと!?」
「どうする?」
ブロリーは、このビルスという者が嘘をついていないという事も、それに見合う桁外れの実力を備えていることも分かっていた。だが、その気に成り得る覚悟が足りなかった。
一方、ビルスもブロリーはこの程度の脅しでは戦いに応じないであろうことも気付いていた。破壊神は対象を見定めるための読心術にも長けているからだ。
(仕方ないか)
ビルスは指先にポウッと小さな気弾を作り出し、それを地表へ向けて投げ落とそうとした。
その瞬間──
バギィ!!
ブロリーの拳がビルスの顔面を殴りつけていた。
「…!?」
否、ビルスは拳と自信の顔との間に手を差し込み、攻撃を防いでいた。
「やる気になったかい?」
ブロリーはつい体が動いてしまったことに舌打ちをし、いよいよ腹をくくってビルスとの戦闘を開始する。乗ってこられたビルスは微かな笑みを浮かべながら後ろ手を組んでスーッとスライドするように距離を取る。
「デヤアァ!!」
バシュッ!
黄金の闘気と共に超サイヤ人へ変身したブロリーはビルスを追いかけ、素早く拳の連打を叩き込む。ビルスはリラックスするように体を揺らしてその全てを躱した。
「へぇ、それが噂に聞いた超サイヤ人ってやつか。でもそれが本気じゃないよね?もっとボクに魅せてみなよ」
「くっ…!」
ブロリーは全く歯が立たないと実感しながらも全身の気を高め、緑色の眩い閃光と共に大柄な伝説の超サイヤ人へと変貌する。
それを見たビルスは僅かに目を見張り、口角を上げる。
(爆発してるかのような荒々しい闘気!しかしボクが見たいのはそれじゃない…)
巨体に見合わぬ速度で迫り、拳を繰り出すブロリー。ビルスはまたものらりくらりとそれを躱し続ける。
(この筋肉量でいて全くスピードが殺されていない。肉体の効率が極限レベルに良いのか)
本来、超サイヤ人のまま闇雲に筋肉を乗せてパワーのみを高めると、その筋肉によって可動域が狭まりスピードが低下すると同時に気の消耗も激しくなる。だがブロリーの伝説の超サイヤ人にその欠点はない。
(いや、気や筋肉の増大に伴って肉体の構造を都度変更している。普通、生物が何万年とかけて行う変化を一個体で、しかも数秒で…そんな芸当が可能なのか?)
ブロリーの気がさらに鋭く噴き出し始め、髪が細かく逆立つ。伝説の超サイヤ人2へと変身し、更なる猛攻を仕掛けるブロリーだが、ビルスは軽いデコピン一発でブロリーを吹っ飛ばした。
(そりゃできるか…だってコイツは)
一瞬、意識を失いかけ自由落下するブロリーだが、纏っていた黄金の闘気が燃える炎のように変質し、真っ赤な閃光に包まれる。
(神の領域に到達しているんだから)
超サイヤ人ゴッドとなったブロリーは、冷静にビルスと対峙した。