もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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おまたせしました。


第455話 「生日」

「おい、どっちも大丈夫か!?」

 

天界に戻って来たサザンカとシロナは、神殿の内部に駆け込みながらそう言った。一室の入り口の外に立ち、中を見守っていたピッコロがふたりに気付いて振り返るが、シロナの姿を見て驚いた。

 

「ええ!?シロナさん!?一体どうして…」

 

「まあまあ。それよりもブルマさんは…」

 

ふたりが中を覗くと、そこには簡易的な分娩台に寝かせられたブルマと、助産師としてそれにつく永琳の姿があった。

 

「まだいきんじゃダメよ。静かに息を吐いて…そう、ゆっくり、楽な格好で…」

 

陣痛の間隔も近くなり、間もなく出産が始まるだろう。ふたりはそっと彼女らに近寄った。

 

「なぁ…何か手伝えるか?」

 

「ああ、戻ってきてくれたの。じゃあ大事なことをお願いするわね…彼女のそばにいて言葉をかけ続けてあげて」

 

「…ああ!」

 

と、その時、そこへフッとウイスが姿を現した。

 

「人の分娩は大変そうですね。手伝って差し上げましょうか?」

 

永琳の後ろからそう提案するも、永琳は首を横に振る。

 

「さっきも言ったけど、この瞬間は人間にとってかけがえのない大切なものなの…いくら苦しくても、経験するだけの価値はあるわ」

 

突っぱねるのではなく、覚悟を持った眼差しと微笑みでそう返した永琳。それを見たウイスも小さく笑い、「ではご無事で」と言い残すとパッと姿を消した。

 

「さて…始めようかしら」

 

子供は2時間以上もかけて狭い産道を通って生まれてくる。子供はゆっくり向きや姿勢を変えて進み、母親はそれを助けるために腹圧を加えなければならない。

 

「息を止めないで。いきまずにいられない時だけいきんでね」

 

顔中に玉のような汗を浮かべ、いつもの豪胆な様子すらなく短く息を吐き続けるブルマ。

 

「が、頑張れ…!」

 

「ファイト!」

 

だが、サザンカとシロナにそう声を掛けられると、苦しいのに何故だか嬉しくなって、小さく笑い返す。

やがて、いよいよ赤ん坊が産道から外へ見えてきたが…

 

「これは…」

 

「なんだ?どうしたんだ!?」

 

「逆子よ」

 

通常、赤ん坊は回旋しながら頭から出産される。大きな頭さえ先に出てしまえばあとは安心だが、逆子のケースだと頭が最後に出るようになってしまうため、腹圧を加えてもなかなか出て来ず、赤ん坊と母体が疲労してしまう。

だが、ここにいるのは月の頭脳こと八意永琳。幻想郷に居た頃も何度か助産を頼まれ、このサザンカが生まれた時も霊夢を助けたものだが、逆子を目の当たりにしたのは初めてであった。しかし、瞬時にこの場合の的確な助産方法を導き出し、実行する。

 

「さ、お腹に力入れて…いち、に、さーん」

 

既に足とお尻は見えているが、これ以上は進んでこない。永琳は赤ん坊をそっと支えるように手を入れ、静かにその体に触れた…その瞬間。

 

「すまん!今起きた!」

 

ビルスとの戦いに敗れて気を失い、別室で寝かされていたブロリーがやって来た。

 

「ブロリー!」

 

「俺に何か手伝わせてくれ!一緒に頑張ろう!」

 

彼を見た永琳は、一瞬だけ何かを考えると立ち上がる。

 

「ブロリー、貴方が子供をゆっくり引き出しなさい」

 

「…ええ!?お、俺がやるのか!?」

 

「そうよ。父親でしょう、やってみる価値はあるわよ」

 

「そ、そうか…俺は父親だもんな…!よ~し」

 

「その意気よ!じゃあ子供の足を丁寧に持ってみて」

 

ブロリーは言われたとおりに、バスケットボールくらいなら簡単に掴めそうなほど大きな手で、小さくて柔らかそうな赤ん坊の足を優しく掴んだ。しかし、ブロリー自身の顔は集中のあまり今にも破裂しそうなほど力んでおり…

 

「ねえサザンカ」

 

「え、アタシ?」

 

突然永琳に呼ばれたサザンカ。

 

「こっちに来て子供を引っ張ってくれない?ブロリーったら肩に力入り過ぎて目を回してしまったわ」

 

「何しに来たんだアンタ」

 

サザンカは気合を入れ、永琳とブロリーに代わって赤ん坊の足を持った。

 

「こ、これでいいのか?」

 

「怖がらないで…ゆっくり8の字を描くように回しながら引くのよ」

 

永琳に言われた通り、サザンカはじっくり時間をかけて赤ん坊を引っ張り出す。やがて足から腰までが完全に外に出て、サザンカは手で汗をぬぐった。

 

「いい調子よ、今度は手を入れて…できるだけ空間を作ってあげて」

 

サザンカは赤ん坊の胴体に沿って産道に手を入れた瞬間、違和感に気付く。

 

「手がない…!手がねぇぞこの子…!!」

 

「落ち着いて。ばんざいしてるのよ」

 

引っ張りながら探ってみると、言われた通り腕はしっかりついていた。

 

「あった!」

 

「当り前よ。ほら、貴方もいつまで寝てるのよ」

 

永琳は床に倒れ込んだままだったブロリーを起こす。むくりと目を覚ましたブロリーは数秒たってから今の状況を思い出し、慌てて立ち上がる。

 

「す、すまん!サザンカ、あとは俺が…!」

 

 

 

「…今、この先へは行ってはなりませんよビルス様」

 

部屋の前で、中で行われている尊い所業を守るかの如く立ち塞がっていたピッコロは、目の前にやって来たビルスに向かって臆することなくそう言った。この宇宙で最高の権限を持つビルスにとっては、たかがいち惑星の神など下っ端中の下っ端のようなものだが、それでも一切退こうとしないピッコロを見てビルスは感心したように顎に手を添えた。

 

「なに、仕事を遂行するだけだよ。暴走しがちなあのサイヤ人の子供だ、生まれながらにして宇宙を破滅させる力を秘めていてもおかしくはない。ボクが直接見て判断させてもらう」

 

 

 

「もう少しだ!」

 

「ん…?これは…首にへその緒が巻き付いている!」

 

やっと、残るは頭のみとなった赤ん坊の分娩だが、産道を通る間に何度も体を回転させた影響か、本来は最後に出てくるはずのへその緒が首に巻きついていた。

 

「ど、どうすればいいんだ!?」

 

「落ち着いて!引っ張らずに上の方に引き上げて!」

 

ブロリーは永琳に言われたとおりにそっとへその緒を退かしてやり、そしていよいよ…赤ん坊は完全に産道から引き出され、ブロリーの大きな両手でそっと抱えられた。

 

「お、おお…」

 

「すげぇ!」

 

「かわいい~」

 

ブロリー、サザンカ、シロナはひとまずの赤ん坊との対面に感動している中、永琳はまだ違和感を覚えていた。

 

(泣かない…赤ん坊は泣くという第一呼吸で肺に酸素を取り込める…泣かないなら…)

 

だがその時、彼らの背後にいつの間にか気配なく忍び寄っていた何者かが、生まれたばかりの赤ん坊の足を掴んで逆さに持ち上げ、その尻をペチンと叩いた。

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

 

「フン…生まれながらに邪悪という訳ではないようだ。いいだろう、返してやる」

 

ビルスは赤ん坊をブロリーの手の上に再び置き、背中を向けて立ち去ってゆく。

この日、ブルマとブロリーの子供がこの世に誕生した。放浪と破壊の運命を背負った者たちの手によって。

 

「ほら、ブルマ…見てみろ…元気な男の子だ」

 

ブロリーは早くも上体を起こしているブルマの腕の中に赤ん坊をそっと抱かせた。

 

「ああ…初めましてね…」

 

「ねえ、もう名前って決まってるの?」

 

「もちろんだ。なぁブルマ」

 

「ええ、この子の名前は『ジュバン』にしたのよ」

 

たった今、ジュバンと名付けられた赤ん坊は静かに眠っている。

 

「いい名前だね」

 

「ありがとう。あの、ところでシロナ、なんでアンタは…そんなに小さくなってるわけ?」

 

「いやぁ、さっきビルスって人に体を『破壊』されちゃって…半分くらい細胞が消えたから子供の体になって事なきを得たんだ」

 

軽い調子でそう説明するシロナに、ブルマは何か言いたげに口を開くも、「そう」と呟くだけに終わった。

その後、永琳はブルマと生まれた子供を連れて一足先に自宅へと戻り、神殿にはピッコロとポポの他にシロナとサザンカ、ブロリー、そしてビルスとウイスが残った。といっても、ビルスは天界の縁のあたりで寝転んでいるだけだが。

 

「…さて、落ち着いたところで現状を整理しましょう」

 

ピッコロは彼らの前でそう言った。

 

「さっき使用したドラゴンボールは、まだ先代の神と大魔王が分離する前に作った代物なんです。本来は心の清らかなナメック星人しか作れないものを、悪の心が混じっていた神が造った…だから黒い星の究極ドラゴンボールは破滅をもたらすのです…使用した星を消滅させてしまう、と…」

 

「ベビーの野郎、とんだ置き土産残してきやがって」

 

「…何か回避できる手立てはあるのか?」

 

「あります。けど…これは大変な事なんですが…」

 

「何だよ、言ってみろよ」

 

「消滅を回避するには、宇宙中へ飛び散った究極ドラゴンボールを1年以内に回収し、この神殿へ納める必要があります…」

 

それを聞いた全員が思わず唖然とする。

 

「1年以内…」

 

「この宇宙全体ってことだよな…?」

 

「どんくらい広いんだろうね」

 

「その通り…この広大な宇宙からたった7個の、手の平サイズの球を見つけ出さねばならないのです」

 

「まあなんでそんな代物が、封印されてたとはいえあるんだよってのは置いといて…行くしかねーな」

 

「俺が行く」

 

ブロリーがサザンカの言葉を遮るようにそう言った。

 

「ブロリー…」

 

「元は俺の責任だ。俺が1年以内に集めてここへ戻す…必ずだ」

 

ブロリーは自身がベビーの残した卵によって思考を操られ究極ドラゴンボールを使ってしまった事に責任を感じていた。が、それを聞いたシロナは首を横に振った。

 

「大丈夫だよ、ブロリーさん。さっきの破壊神さんも言ってたんでしょ?『責任能力は無かった』って。宇宙一偉い人が言うんだったらいいんじゃない?だから、今回は私が行ってくるよ」

 

「ならアタシも行く!ブロリーは、ほら…生まれたばっかの子供とブルマの傍にいてやるべきだろ」

 

そう言葉を続けたサザンカ。ブロリーは、その言葉はサザンカが言うからこその重みがあると感じた。サザンカは生まれてすぐに両親であるカカロットと霊夢が戦いに赴いたまま二度と帰ってこなかったし、唯一の肉親であるシロナとも長い間会うことが無かった。今となっては、サザンカ自身はそのことは全く気にしてもいないが、それでもついさっき生まれたばかりのジュバンには自分のような寂しい思いをしてほしくないのだろう。

 

「シロナ…サザンカ…ありがとう」

 

ブロリーはあまりの感動に思わず目頭に涙の雫を溜めながらそう呟いた。

 

「そういう訳だ神様、究極ドラゴンボールはアタシと姉貴が1年以内に集めてやる!いいな!」

 

「私、宇宙行くのは初めてだから緊張するよ~」

 

「…分かりました、すぐに銀河パトロールに連絡をして宇宙船の援助をいただけないか打診します」

 

強力が故に破滅をもたらす究極ドラゴンボール。それを集めて宇宙を巡る旅が幕を開けようとしていた。

…しかし、誰もがこの時予想だにしていなかった。この旅がどれほど大きく、偉大なものになるのかを…。




ブロリーとブルマの子…ジュバンですが、かなり初期の段階で登場させることは決まっていました。後にあるキャラクターの心理にとって重大な働きをします。
ちなみに、名前の由来は和服の下着「襦袢」です。
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